325 / 635
やっぱり
しおりを挟む
「うわっちゃー! マジかよ! そんなのスパイ失格じゃねえか!」
言いながらバンジョーさんは天を仰ぎ見る。耳が赤くなっているのがちょっと面白い。
バンジョーさんは本人が口にした通り、スパイだと俺は思って接していた。モーハルドのスパイだ。これは焼き物の街ラガーでバンジョーさんと出会った時から、直感的に何かあると思っていた。そうかもと思ったのは、バンジョーさんが西から来たと言っていたからだ。
オルドランドを北から南に流れるビール川。その支流であるラガー川は、ベフメ伯爵領のある東へ分かれるピルスナー川とは反対に、西に流れるのだ。ではその行き着く先の先、オルドランドの西にはどんな国があるのかと言えば、エルルランド公国や、小国家群のビチューレ、そしてモーハルドがある。
エルルランドやビチューレ、またはオルドランドが何か仕掛けてきていた可能性はあったが、やはり可能性が高かったのがモーハルドだったので、俺はバンジョーさんはモーハルドのスパイだろうと思ってここまで接してきた。どうやら間違いじゃあなかったようだ。
「やっぱりハイポーションの作製って、そんなにヤバい事案だったんですねえ」
「まあな。今までモーハルドが独占してきた事業だ。それがいきなり、一人の学者が製造に成功しました。なんて情報が飛び込んできたかと思ったら、あのオルバーニュ財団が絡んできたんだ。事情を探ろうとするのも当然だろう?」
まあ確かに。それはそうなんだよなあ。
「俺って、実は何回か殺されかけてますよね?」
「ああ。ハイポーションの件に神の子の件と、何回かハルアキ殺害に関して上司とやり取りしたよ。実行命令までは下らなかったけど、寸前までは行っていたとか。ボクの上司は胃痛が治まらなかったらしい」
「はは、ハイポーション贈りましょうか?」
「今なら泣いて喜ぶかもな」
「今なら、ですか?」
少し前なら違っていたと言う事か。
「教皇様がこちらでセクシーマン様とお会いになられただろう?」
「? はい」
「あれで国内の世情がガラッと変わってな。今は教皇様の求心力がかなり強くなっているんだ。強硬派のデーイッシュ派も強く出られなくなっている」
「と言う事は、バンジョーさんはデーイッシュ派だったんですか?」
だがそれには首を横に振るバンジョーさん。
「コニン派だよ。まあ、コニン派にも色々いるのさ。ボクがデーイッシュ派だったら、ハルアキは出会った初日に殺しているよ」
それは怖い。良かったバンジョーさんがコニン派で。
「ハルアキくん、もうそろそろ君の番だけど、大丈夫かな?」
そこにオルさんが話し掛けてきた。
「はい。…………オルさんもやっぱり暗殺対象だったりしたんですか?」
そんなオルさんを振り返りながら、俺はバンジョーに耳打ちする。
「あの人は俺のところだけでなく、世界中から命を狙われている」
「そうなんですか!? 実行犯となんて出会った事ないんですけど?」
驚愕の事実だ。それが本当なら、あの異世界での日々はもっと殺伐とした旅になっていたはずである。
「ハルアキはオルバーニュ財団の力を舐め過ぎだよ。あそこのトップが旅をするとなると、それだけで敵対組織だけでなく、財団自体も相当に気を配って、各所に命令を下して、敵対組織が何かする前に、泡沫組織なんかは潰されているよ」
そうだったんだ。俺たちがのほほんと旅をしていた裏側では、闇の組織同士が、暗躍を繰り広げていたんだ。いや、のほほんとしていたのは俺だけか。バヨネッタさんやアンリさんは知っていただろうから。
「ハルアキくん、聞いている?」
「あ、はい。俺の方はいつでも大丈夫ですよ」
「…………」
「…………どうかしましたか? オルさん?」
何かオルさんが俺を上から下までじっくり見てくるのだが?
「うん、いや、良いなあと改めて思ってね。やっぱりその新しいスキル、僕に譲ってくれないかなあ?」
「また言っているんですか? 浅野からこれだけの技術提供がなされたんですから、もう十分じゃないですか?」
「されたからだよ。君のそのスキルがあれば、この提供された技術を更に有効利用出来ると思うんだ」
う~ん、確かに。俺が天賦の塔で取得してきたこのスキル、俺が持っていてもあまり有効利用出来そうにないスキルなんだよなあ。でも、
「すみません、俺の勘が、このスキルは外すな。って訴えているので」
俺が断りを入れると、オルさんは物凄く残念そうに項垂れて、
「分かったよ」
と研究員たちの方を振り返る。
そこには日本人だけでなく、オルバーニュ財団から来ている者や、魔女島から来ている者の姿もあった。そして彼ら彼女らがサンドボックス内を映し出しているモニターを確認して、オルさんに頷き返す。
「モニタリングの準備オーケーです」
「ではハルアキくん、良いかな?」
「分かりました」
言って俺は立ち上がり、サンドボックスの中へと侵入した。
「待っていたわよ、ハルアキ」
サンドボックスの中は茫洋と広がる白い空間で、その中央では、トゥインクルステッキに横座りしたバヨネッタさんが、不敵な笑みを浮かべていた。
言いながらバンジョーさんは天を仰ぎ見る。耳が赤くなっているのがちょっと面白い。
バンジョーさんは本人が口にした通り、スパイだと俺は思って接していた。モーハルドのスパイだ。これは焼き物の街ラガーでバンジョーさんと出会った時から、直感的に何かあると思っていた。そうかもと思ったのは、バンジョーさんが西から来たと言っていたからだ。
オルドランドを北から南に流れるビール川。その支流であるラガー川は、ベフメ伯爵領のある東へ分かれるピルスナー川とは反対に、西に流れるのだ。ではその行き着く先の先、オルドランドの西にはどんな国があるのかと言えば、エルルランド公国や、小国家群のビチューレ、そしてモーハルドがある。
エルルランドやビチューレ、またはオルドランドが何か仕掛けてきていた可能性はあったが、やはり可能性が高かったのがモーハルドだったので、俺はバンジョーさんはモーハルドのスパイだろうと思ってここまで接してきた。どうやら間違いじゃあなかったようだ。
「やっぱりハイポーションの作製って、そんなにヤバい事案だったんですねえ」
「まあな。今までモーハルドが独占してきた事業だ。それがいきなり、一人の学者が製造に成功しました。なんて情報が飛び込んできたかと思ったら、あのオルバーニュ財団が絡んできたんだ。事情を探ろうとするのも当然だろう?」
まあ確かに。それはそうなんだよなあ。
「俺って、実は何回か殺されかけてますよね?」
「ああ。ハイポーションの件に神の子の件と、何回かハルアキ殺害に関して上司とやり取りしたよ。実行命令までは下らなかったけど、寸前までは行っていたとか。ボクの上司は胃痛が治まらなかったらしい」
「はは、ハイポーション贈りましょうか?」
「今なら泣いて喜ぶかもな」
「今なら、ですか?」
少し前なら違っていたと言う事か。
「教皇様がこちらでセクシーマン様とお会いになられただろう?」
「? はい」
「あれで国内の世情がガラッと変わってな。今は教皇様の求心力がかなり強くなっているんだ。強硬派のデーイッシュ派も強く出られなくなっている」
「と言う事は、バンジョーさんはデーイッシュ派だったんですか?」
だがそれには首を横に振るバンジョーさん。
「コニン派だよ。まあ、コニン派にも色々いるのさ。ボクがデーイッシュ派だったら、ハルアキは出会った初日に殺しているよ」
それは怖い。良かったバンジョーさんがコニン派で。
「ハルアキくん、もうそろそろ君の番だけど、大丈夫かな?」
そこにオルさんが話し掛けてきた。
「はい。…………オルさんもやっぱり暗殺対象だったりしたんですか?」
そんなオルさんを振り返りながら、俺はバンジョーに耳打ちする。
「あの人は俺のところだけでなく、世界中から命を狙われている」
「そうなんですか!? 実行犯となんて出会った事ないんですけど?」
驚愕の事実だ。それが本当なら、あの異世界での日々はもっと殺伐とした旅になっていたはずである。
「ハルアキはオルバーニュ財団の力を舐め過ぎだよ。あそこのトップが旅をするとなると、それだけで敵対組織だけでなく、財団自体も相当に気を配って、各所に命令を下して、敵対組織が何かする前に、泡沫組織なんかは潰されているよ」
そうだったんだ。俺たちがのほほんと旅をしていた裏側では、闇の組織同士が、暗躍を繰り広げていたんだ。いや、のほほんとしていたのは俺だけか。バヨネッタさんやアンリさんは知っていただろうから。
「ハルアキくん、聞いている?」
「あ、はい。俺の方はいつでも大丈夫ですよ」
「…………」
「…………どうかしましたか? オルさん?」
何かオルさんが俺を上から下までじっくり見てくるのだが?
「うん、いや、良いなあと改めて思ってね。やっぱりその新しいスキル、僕に譲ってくれないかなあ?」
「また言っているんですか? 浅野からこれだけの技術提供がなされたんですから、もう十分じゃないですか?」
「されたからだよ。君のそのスキルがあれば、この提供された技術を更に有効利用出来ると思うんだ」
う~ん、確かに。俺が天賦の塔で取得してきたこのスキル、俺が持っていてもあまり有効利用出来そうにないスキルなんだよなあ。でも、
「すみません、俺の勘が、このスキルは外すな。って訴えているので」
俺が断りを入れると、オルさんは物凄く残念そうに項垂れて、
「分かったよ」
と研究員たちの方を振り返る。
そこには日本人だけでなく、オルバーニュ財団から来ている者や、魔女島から来ている者の姿もあった。そして彼ら彼女らがサンドボックス内を映し出しているモニターを確認して、オルさんに頷き返す。
「モニタリングの準備オーケーです」
「ではハルアキくん、良いかな?」
「分かりました」
言って俺は立ち上がり、サンドボックスの中へと侵入した。
「待っていたわよ、ハルアキ」
サンドボックスの中は茫洋と広がる白い空間で、その中央では、トゥインクルステッキに横座りしたバヨネッタさんが、不敵な笑みを浮かべていた。
1
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる