世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
317 / 639

中学最後

しおりを挟む
「トモノリのやつ、本当にそう言ったのか?」


 百香によってテーブルに供された大ぶりなシュークリームに手をつける事もなく、タカシは間違いであって欲しいと念を込めるように俺に尋ねてきた。


「ああ」


 しかしその願いは、俺の返事によって無惨に打ち砕かれる。一度天を仰ぎ見てから、項垂れるタカシ。


 タカシがここまで落ち込むのも、俺とシンヤがカロエルの塔でトモノリから聞いた話を思えば仕方がない事だろう。


『俺のやっている事に巻き込んじまったみたいで』


 カロエルの塔でトモノリがそう口にしたのを、俺は鮮明に覚えている。


「と言う事は、あの橋の事件は、天使の失敗によって偶発的に起こった事ではなく、天使ネオトロンが、トモノリを狙って引き起こした事案だったって訳か?」


 タカシとの会話を静観して見ていた小太郎くんが、口を挟んできた。俺はそれに首肯で返す。


「カロエルの塔での話を精査すると、どうやら天使はこの世界の真実を知り、それを変えようとする者は転生させるらしい。天使カロエル自身がそう口にしていたよ」


「じゃあそのトモノリは、何らかの形で世界の真実を知り、その境遇を改変する行動に出た為に、天使によって転生させられた訳か」


 俺は首肯する。


「それによってあんな凄惨な事故が引き起こされたなんて、巻き込まれた人たちの怨念が聞こえてきそうだわ」


 同情らしい言葉を口にしながらも、百香はいちごのミルフィーユを食べる手を止めない。


「そんなに凄惨な事故だったんですか?」


 尋ねるミウラ嬢が食べているのは、抹茶と和栗のショートケーキだ。


「そうですね、死者行方不明者だけで二十人を超えますからね」


「へえ」


 そこにあまり関心がないのか、空返事のアネカネはせっせと濃厚なガトーショコラを口に運んでいた。


「まあ、その人たち皆、転生や転移したらしいから、家族じゃない俺たちが、今更とやかく言う問題じゃないと思うけどねえ」


「そうなのか!?」


 それに対して酷く動揺してみせる小太郎くんに百香。


「あれ? 言ってなかったっけ?」


「聞いてないよ! 俺たち異世界調査隊は、元をたどればあの事故から始まった訳だからな。事故の関係者、とりわけ死者行方不明者の周りは結構調べていたんだよ。まあ、何も出てこなかったけど」


 そう言えば二人と出会ったのも、下校中に尾行されたからだったっけ。


「そのソースはどこなんだ? 証拠はあるのか?」


 余程気になる事案らしく、小太郎くんはしつこく聞いてくる。まあ、ここで答えないのも変な感じか。別に隠していた訳でもないし。


「証拠はない。まあ、シンヤやトモノリの存在が証拠と言えば証拠になるかも知れないけど。ソースは天使本人だよ」


「ネオトロンが?」


「ああ。あの事故を調べていたなら知っているだろうけど、あの事故に遭遇した人間は、被害者加害者問わず、全員が夢枕で天使ネオトロンに会っているんだ」


 それは知っていたのだろう。小太郎くんも百香も首肯する。これにはタカシも頷いていた。


「で、俺って実は、軽傷だった事もあって、ネオトロンが夢枕に立った最後の人間だったんだ」


「そうだったのか?」


 これはタカシも知らなかったらしく、驚いていた。


「ああ。で俺は聞いた訳さ。他の人はどうなったのか? って。どうやらほとんどの人が、剣と魔法の世界に、転移なり転生なりしたらしい」


「マジかよ」


 そんな呆気に取られたような顔をされてもな。


「まあ、嘘つきな天使の話だから、どこまで本当かは今となっては分からないけどね」


 俺の発言は、小太郎くんと百香としては、色々思うところがあるらしく、小太郎くんの方は、「ちょっと席外すわ」とリビングから廊下に退席していった程だ。きっと桂木に報告しているのだろう。


「百香は一緒に報告しなくて良いのか?」


「ん?」


 俺がそう尋ねると、百香はスプーンをくわえて小首を傾げるのだ。そしてケーキの供されていた皿は既に空だった。


「はあ、いや、良いんだけどな」


 俺はそこでようやく自分の前にあるフルーツタルトを見遣る。が、やはり腹一杯で食べる気がしない。俺は立ち上がってそれを冷凍庫に持っていった。


「え~、食べないなら頂戴よ」


 うるさいな。俺は百香を無視して具だくさんフルーツタルトを冷蔵庫に仕舞った。


「でもさ、ほとんどが剣と魔法の異世界に行ったって事は、行かなかった人間もいるんだよなあ」


 俺が冷蔵庫にフルーツタルトを仕舞っていると、タカシがあぐりと大口でシュークリームを一口かじって、そんな事を口にした。


「それはまあ、そうだろうなあ」


 何を今更そんな事を口にしたのか、俺は真意が測れず曖昧な返事をした。


「いやさ、もしも浅野やリョウちゃんが、同じく剣と魔法の世界に行ってたとしたら、既に頭角を現していてもおかしくないだろ?」


「ああ、そう言う事ね。確かにあの二人なら、俺よりは確実に有名人になっていただろうな」


「へえ、そんなに凄い二人なんですか?」


「どちらも文武両道で、片や全国模試のトップ常連、片やジュニアオリンピックで金メダルだからねえ。一般人の俺たちとは、住む世界が違うと言うか、なんで俺たちあの二人と友達出来てたんだろ?」


 ミウラ嬢、アネカネ、百香が感心している側で、一人ニヤニヤしているタカシ。


「なんだよ?」


「いやあ、そんな天才少女浅野に告白して、見事に玉砕したハルアキが、まるで昔の事のように語っているのが面白い」


「それ今言うか!?」


 一気に頭に血が上る。友達だからって、時と場合を考えて発言しろよ!


「へえ! どう言う方なのですか? その浅野さんって?」


「やっぱりハルアキは頭の良い女性が好き、と」


「あ、私はその話知ってた」


 と女性陣は三者三様の反応を示す。って言うか、百香、俺が浅野に告白したの知っていたのかよ!


「どうかしたのか?」


 そこに俺たちの騒ぎを耳にした小太郎くんが戻ってくる。


「…………なんでもない」


 恐らく俺は相当渋い顔をしていたのだろう。俺を見た小太郎くんは、同じように渋い顔になっていた。


 ピンポーン。


 とそこで玄関のチャイムが鳴り、会話が断ち切られた。だがおかしい。『玄関』のチャイムが鳴ったのだ。エントランスホールではない。この部屋の玄関のチャイムが鳴らされたのだ。うるさくし過ぎて、隣りの部屋の住人が怒鳴り込んできたのだろうか?


 俺はモニター付きのインターホンで外を確認する。するとそこでは、眼を見張るような美少女がモニターを覗き込んでいた。知らない人だ。だが、どこかで見た事がある気がする。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

異世界で作ろう!夢の快適空間in亜空間ワールド

風と空
ファンタジー
並行して存在する異世界と地球が衝突した!創造神の計らいで一瞬の揺らぎで収まった筈なのに、運悪く巻き込まれた男が一人存在した。 「俺何でここに……?」「え?身体小さくなってるし、なんだコレ……?[亜空間ワールド]って……?」 身体が若返った男が異世界を冒険しつつ、亜空間ワールドを育てるほのぼのストーリー。時折戦闘描写あり。亜空間ホテルに続き、亜空間シリーズとして書かせて頂いています。採取や冒険、旅行に成長物がお好きな方は是非お寄りになってみてください。 毎日更新(予定)の為、感想欄の返信はかなり遅いか無いかもしれない事をご了承下さい。 また更新時間は不定期です。 カクヨム、小説家になろうにも同時更新中

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...