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天使、簡単に説明する

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「何て事してくれたんだ!」


 思わずカロエルを怒鳴ってしまった俺だったが、対するカロエルの方はキョトンとしている。


『何をそんなに怒っているのですか?』


「何をだって!? あんたがしてくれた事のお陰で、地球が大混乱に陥るかも知れないんだぞ!」


『今まで使えずにいたスキルが使えるようになるのですよ? 喜ばしい事ではありませんか』


 その言葉にカッとして、目の前の天使を殴りそうになった俺だったが、武田さんに肩を掴まれて止められた。


「くっ! ドミニクを止めたって言うのに、これじゃあ止めた意味がない! 塔の取り合いで戦争だよ! 下手したらドミニクの蛮行よりも死者が多く出るぞ!」


 キョトンとしている天使カロエルの横で俺は地団駄を踏んで、この怒りを発散させていた。人間とは天使が考えるよりもよこしまで貪欲だ。エサを得る術があるとなれば、他人より先んじてそれを専有しようとする生き物だ。そんな生き物たちの前に、大量のエサを放り込むなんて、戦争が起こっても不思議じゃない。


「工藤、これは俺たちだけでどうにか出来る問題じゃない。魔王の事もある。一旦地上に戻って、国連と話し合わなきゃ駄目だ」


 武田さんがまともな事を言っている。異常事態だ。何か逆に冷静になれるな。


「分かりました。とりあえずカロエル……さん? 様?」


『カロエルと呼び捨てでも良いですよ?』


 流石に武田さんを前にして、天使にそんな不敬は働けない。


「カロエル様、上位世界に戻られる前に、少々手間ですが、ご自分の為された事の説明責任を果たして貰いますよ」


『説明責任、ですか?』 


 美人がキョトンと小首を傾げる姿は可愛らしいが、今はそれどころではない。


「失礼します!」


 俺は天使の手を掴むと、引っ張るようにカロエルを連れて、礼拝堂を後にしたのだった。



「はあああああああああああ…………」


 ここはアンゲルスタ国の前に設置された国連平和維持軍の前線基地。そこに簡易的に作られたコンテナの作戦司令部だ。壁にはいくつものモニターが取り付けられ、その画面の向こうでは、国連議長に国連理事国各国の政府の長、そして日本の高橋首相が頭を抱えていた。


「それではつまり、ドミニクは倒しはしたが、事態は余計にややこしい方向に進んだ。と言う認識で良いのかな?」


 国連議長の質問に俺は首肯で返す。俺の横では説明の終わった天使カロエルが呑気にも、椅子に座って軍人さんから出されたお茶をすすっていた。


「スキルに魔王か。異世界と言う地球人類がかつて遭遇した事のない事態に直面している今、更に問題を増やして欲しくなかったのだかな」


 そう言われてもな。高校生には無理な話だ。


「それよりも、早く全世界に向かってこの事を説明された方がよろしいかと」


「下手に説明すれば、大混乱が起こるだろう?」


「説明しなければ、暴動が起こりますよ?」


 国連議長が苦虫を噛み潰したような顔になった。


『でしたら、その説明は私からいたしましょう』


「は?」


 俺が思わず横を見遣ると、カロエルは既に何やら呪文を唱え始めていた。マジか? これ以上事態をややこしくしないでくれ! そんな俺の願いが聞き届けられる訳もなく、呪文が終わると、天空に天使カロエルのホログラムが浮かび上がった。司令部のモニターで観察するに、どうやらそれは世界中で見られるようになっているらしく、世界中の空に大きな天使カロエルの姿が映し出されている。


『地球の皆様、初めまして。私の名はカロエル。とある塔に封じられていた者です。この度、地球の皆様方のご尽力により、その塔から解放して頂けた事、この場にてお礼申し上げます』


 そう言ってカロエルは、その大きなホログラムでカーテシーのように服の裾をつまみ膝を曲げて礼をした。


『今回長きに渡り塔に封じられていた私から、解放してくださった地球の皆様にお礼の品を用意いたしました。皆様も既にお気付きとお思いですが、私が封じられていた塔と同様の塔です』


 カロエルが両手を前にかざすと、両手の中に地球が浮かび上がり、その地球にはいくつもの光る点が、マーカーのように世界中に点を付けていた。こう見ると結構な多さだな。


『この1080ある塔は、天賦の塔と言い、この塔の最上階にある礼拝堂で祈りを捧げた者に、ランダムでスキルを授けるものになっております。この塔によって、皆様の生活は一段上へと押し上げられる事でしょう』


 へえ。1080もあるのか。それは多いはずだ。これなら奪い合いの戦争にはならないかも知れないが、スキルが貰えるのはランダムなのか。まあ、『天賦』自体がそう言うスキルだしな。


『ご自分の意にそぐわないスキルを獲得する方もおられる事でしょう。ですがそう気を落とす事はございません。一つの塔では最大二回、スキルを獲得出来ます』


 となると、全部の塔を回ったら、最大2160もスキルを獲得出来る事になるのだが?


『それだと沢山のスキルを獲得出来て便利だとお思いでしょう。ですが申し訳ございません。この塔は、一度目は順当に最上階までたどり着く事が出来ますが、二度目以降は魔物や罠が出現するようになっております。つまり、一度目のスキル獲得より、二度目のスキル獲得、二度目のスキル獲得より三度目のスキル獲得の方が、魔物や罠が凶悪なものとなるようになっているのです』


 まあ、それはそうなるよな。最初のスキル獲得のチャンスは誰にでも平等に与えるが、そこから先は個々人の努力次第と言う訳か。


『この塔が、皆様の生活を次なるステージに押し上げる事を信じて、私のお礼の言葉を締めさせて頂きます。では地球の皆様、新たなる世界を存分に謳歌してください』


 そう言葉を締めたカロエルのホログラムが大空から消えた。


『これでよろしかったかしら?』


 俺の横のカロエルが、小首を傾げながらこちらを見上げてきた。


「もう、お帰りくださって結構です」


 嘆息とともに俺がお帰り願うと、


『そうですか。それでは私はこれで』


 と天使カロエルは、地上からその姿を消したのだった。


 その後国連議長から正式に天賦の塔が本物である事が公表され、地球は新たなステージへと突入した。

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