世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
288 / 639

何をやっているんだか(前編)

しおりを挟む
「俺はランディ・ランドロックだ! よろしくな小僧!」


 挨拶がてらに交錯する大剣で俺は吹き飛ばされた。なんて膂力だ。地球人に吹き飛ばされるなんて変な気分だ。俺は片手を地面について体勢を立て直し、やり直しだとばかりにランドロックの方を見て動きを止めた。ひらひらと揺れるものが視界を遮ったからだ。


(蝶? いや、蛾か?)


 ここは室内とは言え、街と言っても差し支えない場所だ。昆虫が飛んでいようと不思議はない。それがゆらゆらと揺らめく、青く燃える蛾でなければ。


 ハッとして周囲に注意を向ければ、いつの間にか俺の周りを燃える蛾がゆらゆら飛んでいる。


『ハルアキ』


(ああ。ただの蛾じゃないよねえ。スキルかな? 魔法かな?)


『魔法だな。奴の剣を見てみろ』


 アニンにそう促され、ランドロックの大剣を見遣れば、そこには燃える蛾と同じ、青い紋様が浮かび上がっていた。


「ボンバーモスって言うんだ! 良い剣だぜ!」


 そう言ってランドロックが片手で大剣を振り回す程に、蛾が周囲に散らばって埋め尽くされていく。しかしボンバーモスとは物騒な名前だ。大方、この蛾に触れると爆発でもするのだろうが、そんな単純な小細工に、俺が引っ掛かるとでも思っているのだろうか? 確かに、大量に蛾を出されると身動き出来なくなるが、まだそれ程ではない。今なら……、


 ボンッ! ドガガガガガガッンンンンッ!!!!


 大爆発が起きた。ランドロックがピストルで蛾を撃ち抜いたからだ。そんな事もしてくるのかよ!? その瞬間にアニンを黒い膜にして身体を覆ってダメージを軽減させたが、それでもかなりの衝撃が身体に響いた。


「…………っ痛えええ」


 爆発の中、アニンの黒い翼で爆煙を払う俺の方を向いて、ランドロックは不敵に笑った。


「はは! 凄えな小僧! これを食らえば、普通の人間なら百回は死んでいるぞ!」


「そうかも知れないな」


 対して俺は自嘲気味に嘆息していた。もう普通の人間として普通に生きるのは無理だと、諦観しているからなあ。


「こいつは、他に向かった連中も難儀していそうだな」


 へえ。バヨネッタさんたちのところにも刺客が差し向けられていたのか。それはご愁傷さまだな。


「もう良いかな? こんな時間、無駄でしかない」


「はは! ニヒルを気取るなんざ、この新時代には似合わないぜ!」


 言いながらランドロックは猛スピードで俺に迫り、大上段から大剣を振り下ろしてきた。それを俺は黒剣で受け止める。


 ドンッ!


 今度は斬撃とともに爆発が起こった。だがまあ、予想の範囲内だ。単発であれば、それ程脅威とは言えない。


「やるなあ!」


 次いで二撃、三撃と軽々と大剣を振り回し、攻撃を仕掛けてくるランドロック。そして攻撃回数が増える程に、俺は大剣ボンバーモスの厄介さに苦しめられていく事になった。


 攻撃を受け止めれば、同時に爆撃が襲い来る事となり、躱せば燃える蛾が周囲に飛び散り、爆撃の濃度が増すのだ。そしてランドロックはその蛾を、もう片方の手に持つピストルで任意のタイミングで爆発させられる。どうにも後手に回ってしまっていた。


 ピストルの弾倉交換マガジンチェンジのタイミングで攻勢に出ようとするも、そこは軍人と言う事だろう。隙のない、素早いマガジンチェンジで、逆にピストルの弾丸を一発食らう事になる。


「常人より頑丈だからって、痛いものは痛いんだぞ!」


 俺が声を荒らげて黒剣を横薙ぎに振るえば、ランドロックも距離を空けた。


「ほう、そうなのか?」


 その不敵な笑顔がムカつくな。


「他者の犠牲の上でふんぞり返っている、お前たちには分からないだろうけどな」


 ランドロックの笑顔が一瞬だけ真顔になった。奴にも思うところがあったようだ。


「はは! 新たな世界を築く為には、多少の犠牲は仕方がない。とでも言って欲しそうな顔だな?」


 チッ、余計にムカつく事を言ってきやがった。


「違うとでも?」


「ドミニク様が治める新世界となれば、何もかもが違ってくる」


「そんな訳ないだろう」


「そんな訳あるのさ」


 そう言ってまたもランドロックは不敵に笑った。


「そうか。今の会話で、お前らとは議論も交渉も出来ない事だけは理解出来たよ。俺たちは、これでしか語り合えない仲なのだろう」


 そう言って俺は、黒剣の切っ先をランドロックに向けた。


「ああ、そうだな。小僧の死は無駄にはしない」


 そうして俺たちは幾度となく剣を結び合った。黒剣の黒い軌跡と大剣の青い軌跡は何度も重なり、その度に爆発が起こる。俺は『時間操作』で徐々に速度を上げていったが、それにもこの男はついてきた。


「『加速』か」


「流石は向こうの世界で旅をしているだけはある。分かるか」


「友達が同じスキルなんでな」


「確かにレア度はそれ程高くないスキルだからな」


 しかしだからと言って勇者と同等のスキルを持つ相手と戦う事になるとはな。それよりも、


「どうやってそこまでレベルを上げた」


 俺が気になるのはそっちの方だ。俺と同等に戦えると言う事は、レベル四十以上あると言う事になる。アンゲルスタが前々から異世界の存在を認知していたなら、俺がジョンポチ帝らを連れて、東京でバスツアーをした時、もっとレベルの高い奴が襲ってきていてもおかしくなかったはずだ。それがアンナマリー・エスパソと言う、レベル一のスキル持ちだった。あの時点でアンゲルスタに高レベル者がいなかった事が窺える。


 だと言うのに、それから数ヶ月で、アンゲルスタは俺よりレベルの高い実力者を用意してきた。何かからくりがあるはずだ。


「勘が鋭いな、小僧」


 言ってランドロックは強引に大剣を振るって俺を吹き飛ばした。


「……それもドミニク様のスキルってやつか?」


「ああ。『分配』と言う、自身の経験値を他者に配分するスキルさ」


 成程、レベル五十に既に達しているであろうドミニクが、何の為に『信仰』で経験値を集めていたのか疑問だったのだが、これで合点がいったな。配下の経験値を集めていたのか。優しい王様ですねえ。民には厳しいけど。


「しかし、そんな重大な秘密、俺にしゃべってしまって良かったのか?」


「しゃべったところで、お前らの敗北は変わらないだろう」


「何だと?」


「お前らは愚行を冒したのだ」


 愚行とは大きく出たな。


「だってそうだろう? 高レベル者となった我々にとって脅威となるのは、地球の現行の軍隊ではない。お前らだ。つまりお前らさえ倒してしまえば、我々の勝利なのだよ。だから我々はお前らを草の根分けても探し出し、一人残らずこの地球から排除し、異世界との繋がりを完全に断ち、地球のみで完成した世界とする予定だったのだ。だと言うのに、お前らの方からのこのこ現れるとはな。これが笑わずにいられるかよ」


 はっはっはっ。笑わずにはいられないのはこちらの台詞だ。随分と俺たちは低く見られているようだな。良いだろう。それがお前たちアンゲルスタの叶えられない夢想でしかない事を教えてやる。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...