世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
279 / 642

宇宙通信所

しおりを挟む
「……アキ、ハルアキ」


 誰かが俺に呼び掛けている。しかし暗闇に沈む俺の意識は混濁していて、重たい身体は指一本動かない。


「ハルアキ、アンゲルスタが『狂乱』を使用したわ」


 それを言われた途端に、俺の意識が覚醒し、布団から起き上がろうとして、ガツンッとおでこが何かにぶつかった。


「痛って~~ッ!?」


 何にぶつかったのかと周囲を見回すと、俺の横でバヨネッタさんが額を押さえて倒れていた。


「痛いわ」


 はあ。


「何をしているんですか?」


「時間になっても起きて来ないから、起こしに来てあげたのよ」


 額をさすりながら状況説明をしてくれたバヨネッタさんに、俺はハッとなってスマホを確認する。その時刻は出発時間を三分過ぎていた。どうやら寝ぼけて目覚ましを止めていたらしい。その事にブアッと冷や汗が出る。


「す、すみません! 俺、寝坊して!」


「大丈夫よ、落ち着きなさい。数分なんて誤差でしょう」


 バヨネッタさんはそう言って笑うが、就寝前に観た臨時ニュースを信じるならば、アンゲルスタによる『狂乱』テロまで時間がない。俺は布団から飛び起きて、直ぐ様外に向かおうとするが、バヨネッタさんに腕を掴まれ止められた。


「落ち着きなさい。と言ったでしょう。まずは自分の調子を確認しなさい。今回の作戦はあなたの『聖結界』が鍵なのよ? いくら時間が間に合っても、あなたが不調で『聖結界』が不完全だったら、全てが水泡に帰すわ」


 バヨネッタさんの言葉に、俺は一つ深い溜息を吐いて気分を落ち着ける。それからストレッチするように身体を解し、布団をたたみながら部屋の隅に片す。


「バヨネッタさんの方はどうですか? 俺の『聖結界』もそうですけど、今回はバヨネッタさんの魔力も鍵になってきますから」


「問題ないわ。私は完全充填状態よ」


「そうですか。こちらも完全です」


 俺の発言に満足したのだろう、バヨネッタさんが鷹揚に頷いてみせる。


「そう。なら行きましょうか」


 俺はその発言に頷き返し、二人で部屋を出る。


 宿の外に待たせていたバスに乗り込み、待機していた運転手に詫びを入れて席に座ると、俺たちは増田宇宙通信所へと出発した。



 種子島は緑の多い土地だ。道すがらも観える景色は木々が立ち並び、変わり映えと言えば、今にも日が暮れそうな夕空くらいであった。


 森林に囲まれた道を抜けると、開けた道へと出た。そこを進んでいるとパラボラアンテナが何基も天に向かって突き出している増田宇宙通信所が見えてくる。


「何かありましたかね?」


 増田宇宙通信所の方の気配を探ると、何やら騒がしい。争っているような気配があった。


「問題ないわよ」


 対してバヨネッタさんは気にしてもいないようだった。それが間違っていなかった事を証明するように、争いの気配はすぐに沈静化した。


「ほらね。あの人たちが負ける訳ないわ」


 勝手知ったると言う事だろう。争いを収めた人たちに心当たりのあるバヨネッタさんは、落ち着いた様子で車窓から増田宇宙通信所を眺めている。


 今回、バヨネッタさん級の魔力持ちを十人、この島にお呼びしたのだが、全員バヨネッタさんの知り合いで揃えられた。当初俺はリットーさんやゼラン仙者なども呼ぼうと思っていたのだが、バヨネッタさんが、人選は自分に任せろ。と言われたので、このような人選になったのだ。


 バスが入口から入ると、増田宇宙通信所の敷地内は、魔石インクで描かれた魔法陣で埋め尽くされていた。その中をバスが慎重に速度を落として通り、ゆっくり駐車場に停車する。


「まあまあ、二人して遅れてくるなんて、母として色々考えてしまうわ」


 バスを降りた俺たちにあいさつしてきたのは、バヨネッタさんの母親、幽玄の魔女サルサルさんだ。


「変な事言わないでよ」


 横のバヨネッタさんが少し頬を赤らめているが、どう言う意味だろうか? まあ、それよりも気になる事を聞いてしまおう。


「サルサルさん、どうやら侵入者が現れたようですけど、どうなりました?」


 俺の質問にサルサルさんは笑顔を返してくれる。


「懲らしめて使わない部屋に押し込んであるわ」


「そうですか。やっぱりアンゲルスタでしたか?」


「ええ。殺してしまいたかったところだけど、この国の法律ではそれは駄目なのでしょう?」


「そうですね。それに下手に殺すと自爆する可能性があったので、無力化して貰えたのはありがたかったです」


「あら、そんな事してくるのね? なら良かったわ。折角描いた魔法陣が駄目になってしまうところだったもの」


 確かに。自爆されてこの魔法陣が潰されれば、アンゲルスタの勝ちが確定していたところだ。


「それで、母さん、私たちはどこへ行けば良いのかしら?」


 バヨネッタさんの問いに、


「こっちよ」


 とサルサルさんが道案内してくれた。



「来たわね、家出娘」


 年老いた一人の魔女が、バヨネッタさんに話し掛けてきた。一基のパラボラアンテナの下で待っていたのは、オルさんや研究員たちに警備の自衛隊員、そして八人の魔女たちだった。魔女の中にオラコラさんもいる。今回バヨネッタさんに頼まれて魔女集めに奔走してくれたのだ。そしてここにアネカネの姿はなかった。青森で大変だろうから当然か。


「お久しぶりです、ジンジン婆様」


 バヨネッタさんはその老婆に近付くと跪いて一礼した。バヨネッタさんがここまで礼を尽くすのは珍しいな。


「島を飛び出した未熟者である私の招集に、こうして島の序列上位者の皆様にお越し頂き、恐悦至極にございます」


「まあ、面白そうな話だったからねえ。私らで異世界を救うだなんて、刺激的じゃないか」


 言って老婆がニカッと笑うと、周りの魔女たちがバヨネッタさんを取り囲み、わちゃわちゃと話し始める。なんだか楽しそうだな。と俺は魔女の輪を一歩離れたところから眺めていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果

yuraaaaaaa
ファンタジー
 国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……  知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。    街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...