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山水画
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「うぎゃああああああ!! 死ーぬー!! 死ーぬー!! 死ーぬー!!」
俺の手からアニンを伸ばして籠にして、中にゴウマオさんを入れて一路南西のトホウ山へと飛行しているのだが、そのゴウマオさんがとても煩い。バヨネッタさんがトゥインクルステッキの人工坩堝をブン回して、超高速で飛んでいるのだ。こっちもそれに付いていくのに『時間操作』タイプBを使う必要があり、結構神経使うので黙っていて欲しい。
「無ー理ー!! マージー無ー理ーだーからー!!」
このまま放り出してしまおうか?
「つ、着いた……。嘘だろ? 馬車で十日以上掛かる道のりを、一日掛からずにやって来るとか、デタラメ過ぎるだろ」
「本当に。バヨネッタさんってデタラメですよねえ。付き合わされるこっちはたまったもんじゃないですよ」
「いや、これに付き合えるお前も大概だろ?」
俺がゴウマオさんの理解者たらんとしたら、逆にツッコミを入れられた。何故に? そんな、この世の者じゃない何かを見るような目を向けられたら、傷付くじゃないですか。まあ、この話はこれでスルーして、トホウ山である。
正に山水画のような絶景の中、一際高くそびえ立つ山があった。雲を軽く突き抜けて、天に突き刺さるかのように鋭く切り立った山。これがトホウ山らしい。そんなトホウ山をバヨネッタさんと俺は宙に浮きながら見上げていた。
「進まないんですか?」
尋ねたら眉間にシワを寄せられた。
「進まないんじゃなくて、進めないのよ。山全体に結界が張ってあるわね」
成程。
「トホウ山は聖域だからな。害ある者の侵入を防ぐ結界が張られているんだ。それこそ魔王軍だって入り込めねえよ」
へえ。きっと凄い結界なのだろう。見えないから良く分からないけど。
「どうします」
「ブッ壊すに決まっているでしょう」
ですよねえ。まあ、バヨネッタさんならそうするだろうと思いました。
「ちょっ、ちょっと待てよ! トホウ山は正式な手順を踏めば、誰にだって通行可能なんだ! 手荒な真似はやめろ!」
トゥインクルステッキの引き金を半引きにして、人工坩堝の回転を上げていくバヨネッタさんに、明らかに狼狽えるゴウマオさんが叫ぶ。確かに、ゴウマオさん的には、ここでゼラン仙者の不興を買って、敵に回したくはないだろうなあ。
「ちなみにお聞きしますけど、正式な手順ってなんですか?」
俺の質問に、ゴウマオさんは深く頷いてから口を開いた。
「まず、山の入り口に門があるのが見えるか?」
ゴウマオさんがトホウ山の下方を指差すので、そちらを見遣ると、確かに門がある。ここからでも門と認識出来ると言う事は、あの門、かなり大きいな。人間サイズの門じゃない。
「トホウ山の入り口はあそこだけだ」
「そうなんですか?」
「俺たちはな。この山の主であるゼラン仙者は、結界を自由に行き来出来るみたいだけど。んでだ。トホウ山には入り口から山頂までに全部で十二の門があり、その各門に門番がいる」
「門番、ですか?」
首を傾げる俺に、首肯するゴウマオさん。
「そうだ。簡単な話が、その門番を全て倒せば、ゼラン仙者のいる、トホウ山山頂にたどり着けると言う訳さ」
へえ。流石は仙者の住まう場所だけあって、試練的なものなんてのをやっているのか。きっとシンヤたち勇者パーティも、その試練を乗り越えて、ゼラン仙者に面会したんだろう。しかしペッグ回廊と言い、このトホウ山と言い、東の大陸は中ボス的なのを設置するのが好きなのか?
「どうします、バヨネッタさん?」
「話にならないわ」
そうきますよねえ。分かってました。聞いてみただけです。
「なんで私が、外道仙者の敷いたルールに合わせて、奴と面会しなきゃならないのよ。そんな事にいちいち従う義理はないわ」
ですよねえ。そんな感じで更にトゥインクルステッキの引き金を引き絞るバヨネッタさん。でもこのままだと、件のゼラン仙者と激突必至なんだよなあ。ゴウマオさんじゃないけど、俺としてもここは穏便に事を進ませたい。
「バヨネッタさん」
「なに?」
こちらを振り返るバヨネッタさんが、ちょっと凶悪に笑って見えるのですが、それはこの際無視するとして、
「バヨネッタさんは先程のヤマタノオロチ退治で疲れているじゃないですか、ここは一つ、俺が突破口を開きたいと思うのですが」
生意気かな? と思いながら具申すると、バヨネッタさんはスッと気が抜けたようにトゥインクルステッキの引き金から力を抜いた。
「それもそうね。ハルアキがここを突破出来ると言うのなら、私は楽させて貰おうかしら」
ふむ。やはり疲れを残していたのか。それでもここまで一直線に飛んできたとは、恐るべしバヨネッタさんのお宝愛。
「じゃあ、ハルアキが門番と戦うんだな? 先に言っておくが、門番は強いぞ。ハルアキの強さはデレダ迷宮で理解しているが、それでも苦戦すると思うぞ」
とゴウマオさんからありがたい忠告を頂いた。だが、
「いえ、俺、別に試練とか興味ないんで、門は通りません」
「!?」
いや、そんな絶句されても困るのですが。バヨネッタさんの方を見ると、当然よね。って顔をしてくれているので、なんか安心した。それとも俺も、バヨネッタさんのデタラメさに影響されてきているのだろうか。
結果から先に述べれば、俺たちは難なく結界を通り抜ける事に成功した。ゴウマオさんは自身が苦労したのであろう試練の門を通過せずに、俺たちが山頂までやってきた事にかなり驚いていたが、俺にはある程度の勝算があった。まあ、それでも一か八かだったけど。
やった事は簡単だ。俺たちの周囲を『聖結界』で覆っただけだ。それだけで俺たちはトホウ山の結界をスルー出来た。
俺の勝算と言うのは、この結界が害ある者の侵入を防ぐと聞いたからだ。あれ? それってなんか俺の『聖結界』と似ているなあ。と思ったのだ。もしも俺の『聖結界』とトホウ山の結界が同系統の結界であるなら、俺の『聖結界』はトホウ山の結界から弾かれる事はないのではないだろうかと。
そしてトホウ山の結界対俺の『聖結界』の対決は、無事に俺に軍配が上がった。山頂にあった白金の宮殿では、二人の男がこちらを見上げていた。
一人は壮年、四十代くらいの碧髪の精悍な肉体に漢服をまとった男で、女官を数名引き連れて、こちらを見上げて大笑いをしている。
もう一人は子供だ。金髪の癖毛で西洋の絵画に出てくるような美少年だが、道士服を着ているので違和感があった。その男の子は今、苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見上げていた。
俺の手からアニンを伸ばして籠にして、中にゴウマオさんを入れて一路南西のトホウ山へと飛行しているのだが、そのゴウマオさんがとても煩い。バヨネッタさんがトゥインクルステッキの人工坩堝をブン回して、超高速で飛んでいるのだ。こっちもそれに付いていくのに『時間操作』タイプBを使う必要があり、結構神経使うので黙っていて欲しい。
「無ー理ー!! マージー無ー理ーだーからー!!」
このまま放り出してしまおうか?
「つ、着いた……。嘘だろ? 馬車で十日以上掛かる道のりを、一日掛からずにやって来るとか、デタラメ過ぎるだろ」
「本当に。バヨネッタさんってデタラメですよねえ。付き合わされるこっちはたまったもんじゃないですよ」
「いや、これに付き合えるお前も大概だろ?」
俺がゴウマオさんの理解者たらんとしたら、逆にツッコミを入れられた。何故に? そんな、この世の者じゃない何かを見るような目を向けられたら、傷付くじゃないですか。まあ、この話はこれでスルーして、トホウ山である。
正に山水画のような絶景の中、一際高くそびえ立つ山があった。雲を軽く突き抜けて、天に突き刺さるかのように鋭く切り立った山。これがトホウ山らしい。そんなトホウ山をバヨネッタさんと俺は宙に浮きながら見上げていた。
「進まないんですか?」
尋ねたら眉間にシワを寄せられた。
「進まないんじゃなくて、進めないのよ。山全体に結界が張ってあるわね」
成程。
「トホウ山は聖域だからな。害ある者の侵入を防ぐ結界が張られているんだ。それこそ魔王軍だって入り込めねえよ」
へえ。きっと凄い結界なのだろう。見えないから良く分からないけど。
「どうします」
「ブッ壊すに決まっているでしょう」
ですよねえ。まあ、バヨネッタさんならそうするだろうと思いました。
「ちょっ、ちょっと待てよ! トホウ山は正式な手順を踏めば、誰にだって通行可能なんだ! 手荒な真似はやめろ!」
トゥインクルステッキの引き金を半引きにして、人工坩堝の回転を上げていくバヨネッタさんに、明らかに狼狽えるゴウマオさんが叫ぶ。確かに、ゴウマオさん的には、ここでゼラン仙者の不興を買って、敵に回したくはないだろうなあ。
「ちなみにお聞きしますけど、正式な手順ってなんですか?」
俺の質問に、ゴウマオさんは深く頷いてから口を開いた。
「まず、山の入り口に門があるのが見えるか?」
ゴウマオさんがトホウ山の下方を指差すので、そちらを見遣ると、確かに門がある。ここからでも門と認識出来ると言う事は、あの門、かなり大きいな。人間サイズの門じゃない。
「トホウ山の入り口はあそこだけだ」
「そうなんですか?」
「俺たちはな。この山の主であるゼラン仙者は、結界を自由に行き来出来るみたいだけど。んでだ。トホウ山には入り口から山頂までに全部で十二の門があり、その各門に門番がいる」
「門番、ですか?」
首を傾げる俺に、首肯するゴウマオさん。
「そうだ。簡単な話が、その門番を全て倒せば、ゼラン仙者のいる、トホウ山山頂にたどり着けると言う訳さ」
へえ。流石は仙者の住まう場所だけあって、試練的なものなんてのをやっているのか。きっとシンヤたち勇者パーティも、その試練を乗り越えて、ゼラン仙者に面会したんだろう。しかしペッグ回廊と言い、このトホウ山と言い、東の大陸は中ボス的なのを設置するのが好きなのか?
「どうします、バヨネッタさん?」
「話にならないわ」
そうきますよねえ。分かってました。聞いてみただけです。
「なんで私が、外道仙者の敷いたルールに合わせて、奴と面会しなきゃならないのよ。そんな事にいちいち従う義理はないわ」
ですよねえ。そんな感じで更にトゥインクルステッキの引き金を引き絞るバヨネッタさん。でもこのままだと、件のゼラン仙者と激突必至なんだよなあ。ゴウマオさんじゃないけど、俺としてもここは穏便に事を進ませたい。
「バヨネッタさん」
「なに?」
こちらを振り返るバヨネッタさんが、ちょっと凶悪に笑って見えるのですが、それはこの際無視するとして、
「バヨネッタさんは先程のヤマタノオロチ退治で疲れているじゃないですか、ここは一つ、俺が突破口を開きたいと思うのですが」
生意気かな? と思いながら具申すると、バヨネッタさんはスッと気が抜けたようにトゥインクルステッキの引き金から力を抜いた。
「それもそうね。ハルアキがここを突破出来ると言うのなら、私は楽させて貰おうかしら」
ふむ。やはり疲れを残していたのか。それでもここまで一直線に飛んできたとは、恐るべしバヨネッタさんのお宝愛。
「じゃあ、ハルアキが門番と戦うんだな? 先に言っておくが、門番は強いぞ。ハルアキの強さはデレダ迷宮で理解しているが、それでも苦戦すると思うぞ」
とゴウマオさんからありがたい忠告を頂いた。だが、
「いえ、俺、別に試練とか興味ないんで、門は通りません」
「!?」
いや、そんな絶句されても困るのですが。バヨネッタさんの方を見ると、当然よね。って顔をしてくれているので、なんか安心した。それとも俺も、バヨネッタさんのデタラメさに影響されてきているのだろうか。
結果から先に述べれば、俺たちは難なく結界を通り抜ける事に成功した。ゴウマオさんは自身が苦労したのであろう試練の門を通過せずに、俺たちが山頂までやってきた事にかなり驚いていたが、俺にはある程度の勝算があった。まあ、それでも一か八かだったけど。
やった事は簡単だ。俺たちの周囲を『聖結界』で覆っただけだ。それだけで俺たちはトホウ山の結界をスルー出来た。
俺の勝算と言うのは、この結界が害ある者の侵入を防ぐと聞いたからだ。あれ? それってなんか俺の『聖結界』と似ているなあ。と思ったのだ。もしも俺の『聖結界』とトホウ山の結界が同系統の結界であるなら、俺の『聖結界』はトホウ山の結界から弾かれる事はないのではないだろうかと。
そしてトホウ山の結界対俺の『聖結界』の対決は、無事に俺に軍配が上がった。山頂にあった白金の宮殿では、二人の男がこちらを見上げていた。
一人は壮年、四十代くらいの碧髪の精悍な肉体に漢服をまとった男で、女官を数名引き連れて、こちらを見上げて大笑いをしている。
もう一人は子供だ。金髪の癖毛で西洋の絵画に出てくるような美少年だが、道士服を着ているので違和感があった。その男の子は今、苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見上げていた。
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