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魔女の相手の条件
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驚く俺に対して、年に似合わず艶笑を浮かべるアネカネ。
「そんなに驚かなくても。お姉ちゃんの従僕と言う事は、私たちは家族も同然でしょう? なら、本当の家族になっても良いと思うのよ」
理屈に無理があり過ぎじゃなかろうか?
「従僕って、主人より一段下なんじゃないんですか?」
俺はそう思ってバヨネッタさんに接してきた。少なくとも公的な場ではバヨネッタさんを立てるように振る舞ってきたつもりだ。
「まあ、その心持ちは大事よ。でも魔女は貴族でもないしね。従僕との婚姻は否定されていないわよ」
それはそうなのかも知れないけど……。
「それとも私じゃ駄目かしら?」
可愛く小首を傾げるアネカネに対して、
「駄目じゃありません!」
と返したのはタカシだった。
「ああそう。私、力のない男に興味ないから」
その口撃にバッサリ斬られたタカシは、「やられた~」とでも言いそうなオーバーリアクションで円卓に突っ伏した。何やっているんだか。それにしても、力のある男、ねえ。
「魔女の性とでも言うべきかしら。魔女は自身のつがいとして、力のある男を求める傾向にあるのよ。力と言っても武力だけじゃないわよ」
「そうなの?」
「ええ。力と言っても色々あるもの。もちろん武力や知力も魅力的だけど、権力や財力なんかも良いわよねえ」
アネカネは手を組んでうっとりと語る。確かに、オラコラさんは権力者であるマリジール公と恋人関係だしなあ。バヨネッタさんは財団トップのオルさんといる。いや、バヨネッタさんとオルさんはそんな関係っぽくはないなあ。
「はい! 魅力と言うなら俺でも良いと思います!」
手を挙げるタカシ。それに対して冷ややかな視線を送るアネカネ。それだけでタカシは再び円卓に突っ伏したのだった。
「まあ、タカシじゃないけど、武力で言うなら、シンヤでも良いんじゃないか? 何せ勇者だからな」
俺にいきなり指名されて驚くシンヤ。アネカネはちらりとシンヤを見遣るが、すぐに俺の方に視線を戻した。
「駄目ね。貧乏臭い匂いがするわ」
鋭いな。シンヤ、肩を落とすなよ。十七歳にしては普通より稼いでいるって。
「それで、どうなの? 私って魅力的だと思わない?」
確かにアネカネは魅力的だと思う。美人であるバヨネッタさんを幼くしたようなその容貌は、美人さの中に可愛らしさが窺えた。こんな子と付き合えたなら。とも思わなくはないが、いきなり結婚ときては手が出ないのも当然だろう。
「迷う事なんてないでしょう? 私と結婚出来れば、幸せな結婚生活が待っているのよ?」
「幸せな結婚生活?」
疑問に思う俺に対して、口角を上げるアネカネ。
「男女のソレよ」
うわあ、清々しいくらい直球だなあこの子。ここまで直球で来られると、逆に興味が湧いてくる。
「お姉ちゃんは魔女修行の途中で家出したからアレだけど、私は違うわ。私は一通り魔女の修行を終えているの。その中には、男を虜にする技法もあるのよ」
へえ。そんなものも修行するのか。…………修行風景を想像すると、なんか悶々としてしまう。
「気になる?」
目を細めてアネカネが尋ねてきた。俺はその妖しい視線に耐え切れず目を逸らす。
「仕方ないわねえ。ちょっとだけ見せてあげるわ」
俺は何も言っていないのだが、アネカネは何を察したのか、自身の『空間庫』からココロの実と言う、さくらんぼに似た細い茎のある果実を取り出した。そしてそれを茎ごと口の中に含むアネカネ。
そして口の中でしばらくモゴモゴしていると、ペイと吐き出されるココロの実。するとその茎が見事に一つ結びに結ばれて出てきた。
「どう? 凄いでしょう? ……ってあれ?」
俺たち三人はその場で脱力していた。
「あれ? これ凄い事なのよ? さてはこの凄さが分からないのね?」
ともう一度ココロの実を取り出したアネカネから、その実を取り上げると、俺たち三人はそれを口に入れ、モゴモゴした後に吐き出した。そして三つとも茎が一つ結びにされている事に、驚くアネカネ。
「嘘でしょ!? 何で出来るの!?」
「中学の頃、ええっと学校で流行ったんだよ。これが出来るとキスが上手くなるって。だから俺たち口ん中血だらけにしながらこれ覚えたんだ。まあ、使う機会はなかったけど」
「俺はあるぞ」
と反論するタカシは置いておいて、俺の眼前でズシンと落ち込んでいるアネカネはどうしたものか。きっとアネカネ的には、男を落とす必殺の一撃だったのだろうけど、俺には通じなかったようだ。
「ふ、ふふふふふふふふふ……」
?
「やるわね! この技をカウンターで返してきたのはハルアキが初めてよ!」
頬を染めている事から、相当恥ずかしいようだ。
「益々欲しくなってきたわ! ハルアキ! 私と結婚しなさい!」
「駄目よ」
そこに声を掛けてきたのは、バヨネッタさんだった。部屋の扉に寄りかかりながら、腕を組んでアネカネを睨んでいた。
「お姉ちゃん!?」
「バヨネッタさん。会議はもう良いんですか?」
俺の言葉は無視してズンズンと室内に入ってきたバヨネッタさんは、俺の横で怯えるアネカネの耳を引っ張ると、
「私がいない間に、何を馬鹿な事をしているのよ?」
その耳に言い聞かせるように叱りつけた。
「別に、馬鹿な事じゃないし。本気だし」
目を逸らすアネカネに、嘆息しながら睨みつけるバヨネッタさん。バヨネッタさんの視線に耐え兼ねたアネカネは、スススと音もなく扉の方へと逃げていく。
「今日はこのくらいにしておいてあげるけれど、私は諦めないからね!」
そんな捨て台詞を残して、アネカネは部屋を後にするのだった。
「妹さんに意地悪ですね」
「あれくらいで懲りるあの子じゃないわ」
確かに。また現れそうな気はする。
「それで、どうかしたんですか?」
バヨネッタさんはリットーさんや三公、シンヤ以外の勇者パーティと会議をしていたと思ったが。
「私たちは、一度パジャンに行くわよ」
まあ、予想は出来ていたけどね。
「性急ですね」
「行って帰ってくるだけよ。エルルランドの使者を、パジャンの首都まで送り届けるの」
成程。これを機にパジャンと友好関係を結びたいエルルランドだけど、デレダ迷宮を踏破出来る有力な実力者は、ウルドゥラに殺されてしまったからなあ。となると次善の策としてバヨネッタさんやリットーさんに同行を頼むのは当然か。
「どんなお宝を要求したんですか?」
俺の問いに、バヨネッタさんは笑みを見せるのみだった。
「そんなに驚かなくても。お姉ちゃんの従僕と言う事は、私たちは家族も同然でしょう? なら、本当の家族になっても良いと思うのよ」
理屈に無理があり過ぎじゃなかろうか?
「従僕って、主人より一段下なんじゃないんですか?」
俺はそう思ってバヨネッタさんに接してきた。少なくとも公的な場ではバヨネッタさんを立てるように振る舞ってきたつもりだ。
「まあ、その心持ちは大事よ。でも魔女は貴族でもないしね。従僕との婚姻は否定されていないわよ」
それはそうなのかも知れないけど……。
「それとも私じゃ駄目かしら?」
可愛く小首を傾げるアネカネに対して、
「駄目じゃありません!」
と返したのはタカシだった。
「ああそう。私、力のない男に興味ないから」
その口撃にバッサリ斬られたタカシは、「やられた~」とでも言いそうなオーバーリアクションで円卓に突っ伏した。何やっているんだか。それにしても、力のある男、ねえ。
「魔女の性とでも言うべきかしら。魔女は自身のつがいとして、力のある男を求める傾向にあるのよ。力と言っても武力だけじゃないわよ」
「そうなの?」
「ええ。力と言っても色々あるもの。もちろん武力や知力も魅力的だけど、権力や財力なんかも良いわよねえ」
アネカネは手を組んでうっとりと語る。確かに、オラコラさんは権力者であるマリジール公と恋人関係だしなあ。バヨネッタさんは財団トップのオルさんといる。いや、バヨネッタさんとオルさんはそんな関係っぽくはないなあ。
「はい! 魅力と言うなら俺でも良いと思います!」
手を挙げるタカシ。それに対して冷ややかな視線を送るアネカネ。それだけでタカシは再び円卓に突っ伏したのだった。
「まあ、タカシじゃないけど、武力で言うなら、シンヤでも良いんじゃないか? 何せ勇者だからな」
俺にいきなり指名されて驚くシンヤ。アネカネはちらりとシンヤを見遣るが、すぐに俺の方に視線を戻した。
「駄目ね。貧乏臭い匂いがするわ」
鋭いな。シンヤ、肩を落とすなよ。十七歳にしては普通より稼いでいるって。
「それで、どうなの? 私って魅力的だと思わない?」
確かにアネカネは魅力的だと思う。美人であるバヨネッタさんを幼くしたようなその容貌は、美人さの中に可愛らしさが窺えた。こんな子と付き合えたなら。とも思わなくはないが、いきなり結婚ときては手が出ないのも当然だろう。
「迷う事なんてないでしょう? 私と結婚出来れば、幸せな結婚生活が待っているのよ?」
「幸せな結婚生活?」
疑問に思う俺に対して、口角を上げるアネカネ。
「男女のソレよ」
うわあ、清々しいくらい直球だなあこの子。ここまで直球で来られると、逆に興味が湧いてくる。
「お姉ちゃんは魔女修行の途中で家出したからアレだけど、私は違うわ。私は一通り魔女の修行を終えているの。その中には、男を虜にする技法もあるのよ」
へえ。そんなものも修行するのか。…………修行風景を想像すると、なんか悶々としてしまう。
「気になる?」
目を細めてアネカネが尋ねてきた。俺はその妖しい視線に耐え切れず目を逸らす。
「仕方ないわねえ。ちょっとだけ見せてあげるわ」
俺は何も言っていないのだが、アネカネは何を察したのか、自身の『空間庫』からココロの実と言う、さくらんぼに似た細い茎のある果実を取り出した。そしてそれを茎ごと口の中に含むアネカネ。
そして口の中でしばらくモゴモゴしていると、ペイと吐き出されるココロの実。するとその茎が見事に一つ結びに結ばれて出てきた。
「どう? 凄いでしょう? ……ってあれ?」
俺たち三人はその場で脱力していた。
「あれ? これ凄い事なのよ? さてはこの凄さが分からないのね?」
ともう一度ココロの実を取り出したアネカネから、その実を取り上げると、俺たち三人はそれを口に入れ、モゴモゴした後に吐き出した。そして三つとも茎が一つ結びにされている事に、驚くアネカネ。
「嘘でしょ!? 何で出来るの!?」
「中学の頃、ええっと学校で流行ったんだよ。これが出来るとキスが上手くなるって。だから俺たち口ん中血だらけにしながらこれ覚えたんだ。まあ、使う機会はなかったけど」
「俺はあるぞ」
と反論するタカシは置いておいて、俺の眼前でズシンと落ち込んでいるアネカネはどうしたものか。きっとアネカネ的には、男を落とす必殺の一撃だったのだろうけど、俺には通じなかったようだ。
「ふ、ふふふふふふふふふ……」
?
「やるわね! この技をカウンターで返してきたのはハルアキが初めてよ!」
頬を染めている事から、相当恥ずかしいようだ。
「益々欲しくなってきたわ! ハルアキ! 私と結婚しなさい!」
「駄目よ」
そこに声を掛けてきたのは、バヨネッタさんだった。部屋の扉に寄りかかりながら、腕を組んでアネカネを睨んでいた。
「お姉ちゃん!?」
「バヨネッタさん。会議はもう良いんですか?」
俺の言葉は無視してズンズンと室内に入ってきたバヨネッタさんは、俺の横で怯えるアネカネの耳を引っ張ると、
「私がいない間に、何を馬鹿な事をしているのよ?」
その耳に言い聞かせるように叱りつけた。
「別に、馬鹿な事じゃないし。本気だし」
目を逸らすアネカネに、嘆息しながら睨みつけるバヨネッタさん。バヨネッタさんの視線に耐え兼ねたアネカネは、スススと音もなく扉の方へと逃げていく。
「今日はこのくらいにしておいてあげるけれど、私は諦めないからね!」
そんな捨て台詞を残して、アネカネは部屋を後にするのだった。
「妹さんに意地悪ですね」
「あれくらいで懲りるあの子じゃないわ」
確かに。また現れそうな気はする。
「それで、どうかしたんですか?」
バヨネッタさんはリットーさんや三公、シンヤ以外の勇者パーティと会議をしていたと思ったが。
「私たちは、一度パジャンに行くわよ」
まあ、予想は出来ていたけどね。
「性急ですね」
「行って帰ってくるだけよ。エルルランドの使者を、パジャンの首都まで送り届けるの」
成程。これを機にパジャンと友好関係を結びたいエルルランドだけど、デレダ迷宮を踏破出来る有力な実力者は、ウルドゥラに殺されてしまったからなあ。となると次善の策としてバヨネッタさんやリットーさんに同行を頼むのは当然か。
「どんなお宝を要求したんですか?」
俺の問いに、バヨネッタさんは笑みを見せるのみだった。
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