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「勘弁してください」


 勇者パーティ全員で土下座してきた。平身低頭するのはパジャンの慣習なのだろうか?


「はあ。良いわよ別に。ハルアキが補填してくれるみたいだし」


 おおい! いや、確かに言いましたけど、思った以上の出費なんですけど!? いやいや、勇者パーティよ、そんなキラキラした瞳で俺を見るな。俺はシンヤの賠償金を立て替えるだけであって、肩代わりする訳ではないのだが。そうは言っても払ってくれなそうだ。これは何かしら手立てを考えないと。


「勇者も大変なのねえ。ええっと、シンヤと言ったかしら?」


「はい!」


 正座で背筋をピシッと伸ばして元気良く答えるシンヤ。やっている事は正しいのに、残念感が凄い。


「あなた、私たちと旅をするつもりはない?」


「な!? ちょっ、何言っているのですか!?」


 慌ててシンヤとバヨネッタさんの間に割って入るラズゥさん。


「あら? 私は結構本気よ。魔王を打倒するなんて偉業を成そうと言うのに、安賃金で使い潰されるなんて、可哀想じゃない。私たちと一緒に魔王打倒の旅をしましょう。同行するなら、年一億エラン出すわよ」


「一億エラン!? ええっと、つまり、五、じゃなくて、十億円!?」


 シンヤ、めっちゃ動揺してるなあ。挙動不審過ぎる。


「ハルアキがね」


「ちょっとバヨネッタさん! 俺が友達の年俸払うんですか!?」


「あら? タカシの給金はあなたが払っているんでしょう?」


 そう言われれば、タカシは俺の会社で働いているんだから、ウチの会社が給料払っているのか。俺が手渡ししている訳じゃないから、そんな感覚ないなあ。


「タカシ……懐かしい」


 シンヤの目が、一時遠くを見詰めたと思ったら、すぐに俺の方へと戻ってきた。


「って言うかハルアキ、そんなに稼いでいるのか!?」


 友人より金かシンヤよ?


「せめて半額に負からないかなあ?」


「はい! 俺はそれでも構いません!」


 手を上げたのはシンヤではなく、武闘家風の格好をしたゴウマオさんだ。成程、五億円でも勇者パーティには高額なんだ。


「五億……、五億かあ……」


 シンヤのやつ、めっちゃ気持ちが揺らいでいるなあ。ラズゥさんが祈るようにシンヤを見詰めている。他のパーティメンバーは微妙な顔である。この金額では仕方ない。って感じかなあ?


「俺じゃなくて、俺たちと同行しているオルさんなら、この三倍は出せると思うけど」


「三倍!? って十五億!?」


「いや、三十億」


 シンヤだけでなく、勇者パーティ全員がその場に突っ伏した。え? 全員泣いている?


「うう……、何故? 何故お金って、あるところにはあるのかしら?」


 ラズゥさん、お金には苦労しているんだろうなあ。


「…………………………いや、僕はパジャンで勇者を続けるよ」


 散々悩んだ結果、シンヤが出した答えは、パジャンでの活動継続だった。


「良いのかシンヤ?」


「ああ。なんだかんだ言っても、これまで僕たちを支援してきてくれたのは、パジャンだからね」


「そう」


 バヨネッタさんは、特にシンヤの答えに感慨もなさそうである。とりあえず言ってみただけだったようだ。


「ゴルコス商会って、パジャンにも支店ありますか?」


 俺の突然の質問に、意味が分からない。と勇者パーティが全員首を傾げた。ゴルコス商会とは、オルバーニュ財団が運営している商会だ。


「え、ええ。パジャンでも周辺国でも、魔石の売買は基本的にゴルコス商会が担っていますから」


 とラズゥさんが困惑顔で答えてくれた。


「なら五千万エラン、そっちだと一億ギンですかね? ゴルコス商会を通じて、勇者パーティで使えるように頼んでおきますよ」


 固まる勇者パーティ。うん。そしてそのキラキラした瞳はやめて欲しい。


「ハルアキ、良いのか?」


「まあ、これから魔王を倒そうって言う勇者パーティが、金に困窮して魔王の首を逃した。なんて事になったら、目も当てられないからな」


 恥じ入る勇者パーティ。なんでこのパーティにはこんなにも残念感が漂うのだろう?


「あなたの金だから、私は構わないけれど、良いのハルアキ?」


 心配してくれているのか、興味があるのか、バヨネッタさんが尋ねてきた。


「ええまあ。それと言っては何ですが、ちょっとお手伝いをして頂きたいんですけど」


「何なりとお申し付けください」


 勇者パーティ全員で平身低頭しなくて良いから。これだと俺が勇者パーティを率いているみたいだから。


「バヨネッタさん」


「何かしら?」


「バヨネッタさんがデレダ迷宮に来た目的って、ウルドゥラじゃなかったですよね?」


「! そうだわ! ウルドゥラに続いてこいつらまでやって来たから、忘れて帰るところだった!」


 そう言ってニヤリと笑うバヨネッタさん。どうやら俺の意図は伝わったらしい。


「ええ、勇者パーティの皆さん。実はここにいるバヨネッタさんは、財宝の魔女と呼ばれる、古代のお宝大好きな魔女さんでして、このデレダ迷宮に足を踏み入れたのも、お宝探しの面が強いのです」


「はあ」


 どうやら勇者パーティの面々も、自分たちがこれから何をやらされるのか理解出来たらしい。


「これから、皆さんにはバヨネッタさんのお宝探索のお手伝いをして貰います」


 はいそこ! 露骨に嫌そうな顔をしない。


「馬車馬の如く働きなさい!」


 ふう。これでシンヤたちにお宝探索して貰えれば、賠償金の立て替えはしなくて良くなるだろう。それと、


「バヨネッタさん、馬車馬の如くだなんて、失礼ですよ」


「そうよそうよ」


 とラズゥさん筆頭に賛同する勇者パーティ。


「テヤンとジールはもっと役に立ってくれています」


「……ハルアキ、テヤンとジールって?」


「俺たちの馬車を牽いてくれているラバだけど?」


 自分たちの地位に絶望する勇者パーティだった。仕方ないだろう。愛着の差だよ。今さっき遭ったばかりの勇者パーティと、この九ヶ月ともに旅をしてきた二頭とでは、二頭の方が愛着がある。シンヤは……、


「シンヤ」


「何だ?」


「パジャンに恩や義理を感じているなら、尚更親御さんには会っておくべきだ。国に義理を通しておいて、これまで育ててくれた親御さんに不義理をして良い道理がない」


「……分かったよ」


 こうして、俺は何とかシンヤに家族と会う約束を取り付けたのだった。

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