世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
193 / 639

暗号解読

しおりを挟む
 ヤバい。現代を生きる異世界人さえ凌駕する文明を築いた古代人の遺した暗号。RSA暗号みたいな解読が難解な暗号だったらどうしよう。いや、もしかしたら更に先を行って、量子の重ね合わせを使った現代地球人でも理解不能な理論で作られた暗号かも知れない。


『そんな訳ないだろう』


 俺の気を軽くする為か、アニンがツッコミを入れてくる。


(そんな事分からないだろう?)


『分かるわ。眼前にあるのはたかが十桁の暗号だぞ。それも数字と言う限定付き。三公たちはこの門を開くのに、パソコンも復号用の何か機械の類いも使用していなかった。つまりこのデレダ迷宮の門は、それ程難しい暗号で閉ざされている訳ではない。と言う事だ』


 アニンの言葉がストンと心に納まる。納得の理論展開だ。古代人が何を思ってこの迷宮を作り出したのかは分からないが、いざと言う時、復号機やそれに代わる物がなければ開けられなかったら、恐らくかなりの損失になる代物だろう。古代人もそう言った事態は避けたいはずだ。


(オルドランドの帝城の御聖殿みたいな可能性は?)


『なくはないか。あれはたまたまオルドランドの初代帝が御聖殿にたどり着けるルートを見付け出した訳だが、このデレダ迷宮も違うとは言い切れないな』


(運良く門を開けられる何かを見付け出せ。って訳ね)


『そう言う事だな』


 とは言え三公も俺たちに諦めさせる為にあんな一芝居打った訳ではないだろう。ならこの場にあるもので謎を解けば、暗号錠で閉ざされた門を開けられるだろう。


「何をじーっとしているんだ!? そんな事をしている間にリットー様が死んでしまったらどうする!?」


 祭壇の前でアニンと会話していたら、バンジョーさんに「どけ!」とばかりに身体を押しのけられた。


「こんなもの、適当に図柄を合わせれば開くものだ!」


 そう言ってバンジョーさんは祭壇のダイヤルの目盛りをイジっていく。


「これでどうだ!」


 十桁とも同じ図柄に合わされた目盛りだったが、どうやらハズレだったらしく、「ピー!」とか言う音を鳴らして、ダイヤルの目盛りが不連続なものに変わる。成程。ハズレであれ正解であれ、十桁揃えたら、その後の人が分からないように、目盛りが不連続にされるのか。


(ちなみに今の数字って何だったの?)


『2だな』


 2は違うのか。


「くっ、もう一度だ!」


「何度やったって、それで正解にたどり着ける訳ありません」


 俺がそうバンジョーさんに投げ掛けると、まるで親の仇でも見るような目で睨まれた。


「ハルアキはリットー様やバヨネッタさんが心配じゃないのか!!」


「ふざけるな!!」


 気付けば俺はバンジョーさんの胸ぐらを掴んでいた。俺の怒気にあてられたのだろう、バンジョーさんの顔が引きつっていた。その顔にこちらの方が冷静になる。


「……すみません」


「いや、ボクの方こそ悪かったよ」


 気不味い空気が辺りに流れる。が、今はそんな事を気にしている場合でもない。暗号さえ解ければ、この空気も一変するはずだ。



 三十分が無為に過ぎた。何か古代人が遺したメッセージがないか? と俺たちはデレダ迷宮の門をくまなく調べまくったが、何ら成果と呼べるものはなかった。


「もう、壊して良いんじゃないか?」


 強硬策に出ようとするバンジョーさん。


「リットーさんたちを助けられたとしても、後でエルルランドに捕まりますよ」


 俺の言葉に頭を掻きむしって苛立ちを表すバンジョーさん。かと思えばオルガンをデルートに変化させて曲を奏で始めた。


「何やっているんですか?」


「ボクはイライラした時には、こうやって気持ちを落ち着けるようにしているんだよ」


 他にやり方なかったのかよ? 今、曲なんて聴いていてもこっちがイライラするだけだ。などとバンジョーさんに向かって言える訳もなく、この場は手掛かりを探す俺、オルさん、アンリさんと、曲を奏でるバンジョーさん。ただ事態を静観しているゼストルスが混在する異様な空間になっていた。



「大丈夫かい? 気疲れしているんじゃないかい?」


 オルさんさんにそう言われてハッとした。デルートの弦を爪弾くバンジョーさんをじっと眺めていたからだ。


「少し休んだらどうだい?」


「そう言う訳にもいきませんよ」


 そう応えながらも、俺の視線はデルートを弾くバンジョーさんの姿に釘付けになっていた。何かが脳の奥で引っ掛かっている気がする。


「あ、ピタゴラスだ」


 思わず口に出ていた。


「ピタゴラス? 何だいそれは?」


 俺の発言は結構大きかったらしく、バンジョーさんの爪弾く手が止まり、アンリさんも向こうで俺を見ている。


「あー、えっとー、人名です。音階の数比を発見した人で、弦楽器のどこを押さえればこんな音が出る。って見付けた人です」


「へえ、音階って数比から導き出されるものなんだねえ。ハルアキくんの世界では、著名な吟遊詩人だったのかな?」


 俺が疲れているのだろうと思ったのか、オルさんが話に乗ってきてくれた。


「いえ、数学者です」


「数学者っ?」


 そりゃあ驚くか。


「有名なのはピタゴラスの定理って言って、三平方の定理って言った方が伝わりますかね?」


「ああ。三平方の定理を見付けた人物なんだね?」


 伝わった。


「三平方の定理か。懐かしいなあ。幾何学の初歩だね。…………三平方。平方根か」


「どうかしたんですか?」


 今度はオルさんが何事か考え始めてしまった。


「いやね? このデレダ迷宮の門、正方形に斜線が入っているじゃないか? どこかで見た図形だなあ。と思っていたのだけど、平方根みたいだなあ。と思ってね。はは。僕も何を言っているのやら」


「平方根……? ルート……? それだ!!」


 俺の大声に、オルさんだけじゃなくアンリさん、バンジョーさん、ゼストルスまでビクッと驚いていた。


「え? 何? それ?」


「それですよ! 根号ルートですよ! この門の暗号、ルートに対応しているんですよ!」


 喜ぶ俺は、未だに頭にハテナマークを浮かべる周囲を置き去りにして、祭壇の十桁の目盛り全てを0に合わせる。ルート0は0だからだ。


 が、祭壇は「ピー!」と言う音を鳴らして、目盛りをまた不連続に並べ替えてしまった。


「違ったのか?」


 期待して近寄ってきたバンジョーさんだったが、ハズレと分かって肩を落としていた。


「いえ、合っているはずなんだけどなあ。それともルート1なのかなあ?」


 ルート1は1だ。目盛りを1.000000000に合わせる。が、「ピー!」と言う音が鳴るだけだった。


「違うのか?」


 残念そうなバンジョーさんの声。残念なのはこっちも同じだよ。くっ、絶対合っている俺の『野生の勘』が言っているのに。もしかして何か見落としがあるのか?


 何か? 何か? 俺はもう一度周囲に視線を巡らせる。


「あれ?」


『どうかしたのか?』


「いや、門の四隅に建っている柱、光の位置が変わっていないかなって?」


『そう言われれば……』


 皆は記憶が曖昧そうだが、俺は覚えている。確かにここに来た時は、上から四つ目のブロックが光っていたはずだ。なのに今は、十あるブロックの上から七つ目、下から四つ目が光っている。


「シーザー暗号かよ!」


「シーザー暗号?」


 祭壇までやって来たオルさんが首を傾げている。


換字かえじ式暗号ですよ。暗号がルートだと分かったからって、それだけじゃ門を開けられないように、柱の光に対応して、数字の位置をずらしているんですよ。くっ、誰だよ、RSA暗号だとか、量子の重ね合わせだとか言っていたやつ」


『ハルアキだろう』


 そうなんだけどさあ。こんな超初歩的な暗号だとは思わないじゃん。


「とりあえず、換字式暗号だとして、最初の門はルート0だと思うんだけど、上から七つ目の666……にするべきか、下から四つ目の333……にするべきか、どっちだと思う?」


「どっちも試せば良いだろう」


 バンジョーさんにそう言われ、それもそうだ。と思った。バンジョーさんがいじっても特にペナルティーはなかったからなあ。もしかしたら下に降りていけばペナルティーもあるかも知れないが。


 俺は、祭壇の目盛りを6666666666に合わせた。それと同期して、デレダ迷宮の門が正方形の斜線から開かれていくのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...