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暗号解読
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ヤバい。現代を生きる異世界人さえ凌駕する文明を築いた古代人の遺した暗号。RSA暗号みたいな解読が難解な暗号だったらどうしよう。いや、もしかしたら更に先を行って、量子の重ね合わせを使った現代地球人でも理解不能な理論で作られた暗号かも知れない。
『そんな訳ないだろう』
俺の気を軽くする為か、アニンがツッコミを入れてくる。
(そんな事分からないだろう?)
『分かるわ。眼前にあるのはたかが十桁の暗号だぞ。それも数字と言う限定付き。三公たちはこの門を開くのに、パソコンも復号用の何か機械の類いも使用していなかった。つまりこのデレダ迷宮の門は、それ程難しい暗号で閉ざされている訳ではない。と言う事だ』
アニンの言葉がストンと心に納まる。納得の理論展開だ。古代人が何を思ってこの迷宮を作り出したのかは分からないが、いざと言う時、復号機やそれに代わる物がなければ開けられなかったら、恐らくかなりの損失になる代物だろう。古代人もそう言った事態は避けたいはずだ。
(オルドランドの帝城の御聖殿みたいな可能性は?)
『なくはないか。あれはたまたまオルドランドの初代帝が御聖殿にたどり着けるルートを見付け出した訳だが、このデレダ迷宮も違うとは言い切れないな』
(運良く門を開けられる何かを見付け出せ。って訳ね)
『そう言う事だな』
とは言え三公も俺たちに諦めさせる為にあんな一芝居打った訳ではないだろう。ならこの場にあるもので謎を解けば、暗号錠で閉ざされた門を開けられるだろう。
「何をじーっとしているんだ!? そんな事をしている間にリットー様が死んでしまったらどうする!?」
祭壇の前でアニンと会話していたら、バンジョーさんに「どけ!」とばかりに身体を押しのけられた。
「こんなもの、適当に図柄を合わせれば開くものだ!」
そう言ってバンジョーさんは祭壇のダイヤルの目盛りをイジっていく。
「これでどうだ!」
十桁とも同じ図柄に合わされた目盛りだったが、どうやらハズレだったらしく、「ピー!」とか言う音を鳴らして、ダイヤルの目盛りが不連続なものに変わる。成程。ハズレであれ正解であれ、十桁揃えたら、その後の人が分からないように、目盛りが不連続にされるのか。
(ちなみに今の数字って何だったの?)
『2だな』
2は違うのか。
「くっ、もう一度だ!」
「何度やったって、それで正解にたどり着ける訳ありません」
俺がそうバンジョーさんに投げ掛けると、まるで親の仇でも見るような目で睨まれた。
「ハルアキはリットー様やバヨネッタさんが心配じゃないのか!!」
「ふざけるな!!」
気付けば俺はバンジョーさんの胸ぐらを掴んでいた。俺の怒気にあてられたのだろう、バンジョーさんの顔が引きつっていた。その顔にこちらの方が冷静になる。
「……すみません」
「いや、ボクの方こそ悪かったよ」
気不味い空気が辺りに流れる。が、今はそんな事を気にしている場合でもない。暗号さえ解ければ、この空気も一変するはずだ。
三十分が無為に過ぎた。何か古代人が遺したメッセージがないか? と俺たちはデレダ迷宮の門をくまなく調べまくったが、何ら成果と呼べるものはなかった。
「もう、壊して良いんじゃないか?」
強硬策に出ようとするバンジョーさん。
「リットーさんたちを助けられたとしても、後でエルルランドに捕まりますよ」
俺の言葉に頭を掻きむしって苛立ちを表すバンジョーさん。かと思えばオルガンをデルートに変化させて曲を奏で始めた。
「何やっているんですか?」
「ボクはイライラした時には、こうやって気持ちを落ち着けるようにしているんだよ」
他にやり方なかったのかよ? 今、曲なんて聴いていてもこっちがイライラするだけだ。などとバンジョーさんに向かって言える訳もなく、この場は手掛かりを探す俺、オルさん、アンリさんと、曲を奏でるバンジョーさん。ただ事態を静観しているゼストルスが混在する異様な空間になっていた。
「大丈夫かい? 気疲れしているんじゃないかい?」
オルさんさんにそう言われてハッとした。デルートの弦を爪弾くバンジョーさんをじっと眺めていたからだ。
「少し休んだらどうだい?」
「そう言う訳にもいきませんよ」
そう応えながらも、俺の視線はデルートを弾くバンジョーさんの姿に釘付けになっていた。何かが脳の奥で引っ掛かっている気がする。
「あ、ピタゴラスだ」
思わず口に出ていた。
「ピタゴラス? 何だいそれは?」
俺の発言は結構大きかったらしく、バンジョーさんの爪弾く手が止まり、アンリさんも向こうで俺を見ている。
「あー、えっとー、人名です。音階の数比を発見した人で、弦楽器のどこを押さえればこんな音が出る。って見付けた人です」
「へえ、音階って数比から導き出されるものなんだねえ。ハルアキくんの世界では、著名な吟遊詩人だったのかな?」
俺が疲れているのだろうと思ったのか、オルさんが話に乗ってきてくれた。
「いえ、数学者です」
「数学者っ?」
そりゃあ驚くか。
「有名なのはピタゴラスの定理って言って、三平方の定理って言った方が伝わりますかね?」
「ああ。三平方の定理を見付けた人物なんだね?」
伝わった。
「三平方の定理か。懐かしいなあ。幾何学の初歩だね。…………三平方。平方根か」
「どうかしたんですか?」
今度はオルさんが何事か考え始めてしまった。
「いやね? このデレダ迷宮の門、正方形に斜線が入っているじゃないか? どこかで見た図形だなあ。と思っていたのだけど、平方根みたいだなあ。と思ってね。はは。僕も何を言っているのやら」
「平方根……? ルート……? それだ!!」
俺の大声に、オルさんだけじゃなくアンリさん、バンジョーさん、ゼストルスまでビクッと驚いていた。
「え? 何? それ?」
「それですよ! 根号ですよ! この門の暗号、ルートに対応しているんですよ!」
喜ぶ俺は、未だに頭にハテナマークを浮かべる周囲を置き去りにして、祭壇の十桁の目盛り全てを0に合わせる。ルート0は0だからだ。
が、祭壇は「ピー!」と言う音を鳴らして、目盛りをまた不連続に並べ替えてしまった。
「違ったのか?」
期待して近寄ってきたバンジョーさんだったが、ハズレと分かって肩を落としていた。
「いえ、合っているはずなんだけどなあ。それともルート1なのかなあ?」
ルート1は1だ。目盛りを1.000000000に合わせる。が、「ピー!」と言う音が鳴るだけだった。
「違うのか?」
残念そうなバンジョーさんの声。残念なのはこっちも同じだよ。くっ、絶対合っている俺の『野生の勘』が言っているのに。もしかして何か見落としがあるのか?
何か? 何か? 俺はもう一度周囲に視線を巡らせる。
「あれ?」
『どうかしたのか?』
「いや、門の四隅に建っている柱、光の位置が変わっていないかなって?」
『そう言われれば……』
皆は記憶が曖昧そうだが、俺は覚えている。確かにここに来た時は、上から四つ目のブロックが光っていたはずだ。なのに今は、十あるブロックの上から七つ目、下から四つ目が光っている。
「シーザー暗号かよ!」
「シーザー暗号?」
祭壇までやって来たオルさんが首を傾げている。
「換字式暗号ですよ。暗号がルートだと分かったからって、それだけじゃ門を開けられないように、柱の光に対応して、数字の位置をずらしているんですよ。くっ、誰だよ、RSA暗号だとか、量子の重ね合わせだとか言っていたやつ」
『ハルアキだろう』
そうなんだけどさあ。こんな超初歩的な暗号だとは思わないじゃん。
「とりあえず、換字式暗号だとして、最初の門はルート0だと思うんだけど、上から七つ目の666……にするべきか、下から四つ目の333……にするべきか、どっちだと思う?」
「どっちも試せば良いだろう」
バンジョーさんにそう言われ、それもそうだ。と思った。バンジョーさんがいじっても特にペナルティーはなかったからなあ。もしかしたら下に降りていけばペナルティーもあるかも知れないが。
俺は、祭壇の目盛りを6666666666に合わせた。それと同期して、デレダ迷宮の門が正方形の斜線から開かれていくのだった。
『そんな訳ないだろう』
俺の気を軽くする為か、アニンがツッコミを入れてくる。
(そんな事分からないだろう?)
『分かるわ。眼前にあるのはたかが十桁の暗号だぞ。それも数字と言う限定付き。三公たちはこの門を開くのに、パソコンも復号用の何か機械の類いも使用していなかった。つまりこのデレダ迷宮の門は、それ程難しい暗号で閉ざされている訳ではない。と言う事だ』
アニンの言葉がストンと心に納まる。納得の理論展開だ。古代人が何を思ってこの迷宮を作り出したのかは分からないが、いざと言う時、復号機やそれに代わる物がなければ開けられなかったら、恐らくかなりの損失になる代物だろう。古代人もそう言った事態は避けたいはずだ。
(オルドランドの帝城の御聖殿みたいな可能性は?)
『なくはないか。あれはたまたまオルドランドの初代帝が御聖殿にたどり着けるルートを見付け出した訳だが、このデレダ迷宮も違うとは言い切れないな』
(運良く門を開けられる何かを見付け出せ。って訳ね)
『そう言う事だな』
とは言え三公も俺たちに諦めさせる為にあんな一芝居打った訳ではないだろう。ならこの場にあるもので謎を解けば、暗号錠で閉ざされた門を開けられるだろう。
「何をじーっとしているんだ!? そんな事をしている間にリットー様が死んでしまったらどうする!?」
祭壇の前でアニンと会話していたら、バンジョーさんに「どけ!」とばかりに身体を押しのけられた。
「こんなもの、適当に図柄を合わせれば開くものだ!」
そう言ってバンジョーさんは祭壇のダイヤルの目盛りをイジっていく。
「これでどうだ!」
十桁とも同じ図柄に合わされた目盛りだったが、どうやらハズレだったらしく、「ピー!」とか言う音を鳴らして、ダイヤルの目盛りが不連続なものに変わる。成程。ハズレであれ正解であれ、十桁揃えたら、その後の人が分からないように、目盛りが不連続にされるのか。
(ちなみに今の数字って何だったの?)
『2だな』
2は違うのか。
「くっ、もう一度だ!」
「何度やったって、それで正解にたどり着ける訳ありません」
俺がそうバンジョーさんに投げ掛けると、まるで親の仇でも見るような目で睨まれた。
「ハルアキはリットー様やバヨネッタさんが心配じゃないのか!!」
「ふざけるな!!」
気付けば俺はバンジョーさんの胸ぐらを掴んでいた。俺の怒気にあてられたのだろう、バンジョーさんの顔が引きつっていた。その顔にこちらの方が冷静になる。
「……すみません」
「いや、ボクの方こそ悪かったよ」
気不味い空気が辺りに流れる。が、今はそんな事を気にしている場合でもない。暗号さえ解ければ、この空気も一変するはずだ。
三十分が無為に過ぎた。何か古代人が遺したメッセージがないか? と俺たちはデレダ迷宮の門をくまなく調べまくったが、何ら成果と呼べるものはなかった。
「もう、壊して良いんじゃないか?」
強硬策に出ようとするバンジョーさん。
「リットーさんたちを助けられたとしても、後でエルルランドに捕まりますよ」
俺の言葉に頭を掻きむしって苛立ちを表すバンジョーさん。かと思えばオルガンをデルートに変化させて曲を奏で始めた。
「何やっているんですか?」
「ボクはイライラした時には、こうやって気持ちを落ち着けるようにしているんだよ」
他にやり方なかったのかよ? 今、曲なんて聴いていてもこっちがイライラするだけだ。などとバンジョーさんに向かって言える訳もなく、この場は手掛かりを探す俺、オルさん、アンリさんと、曲を奏でるバンジョーさん。ただ事態を静観しているゼストルスが混在する異様な空間になっていた。
「大丈夫かい? 気疲れしているんじゃないかい?」
オルさんさんにそう言われてハッとした。デルートの弦を爪弾くバンジョーさんをじっと眺めていたからだ。
「少し休んだらどうだい?」
「そう言う訳にもいきませんよ」
そう応えながらも、俺の視線はデルートを弾くバンジョーさんの姿に釘付けになっていた。何かが脳の奥で引っ掛かっている気がする。
「あ、ピタゴラスだ」
思わず口に出ていた。
「ピタゴラス? 何だいそれは?」
俺の発言は結構大きかったらしく、バンジョーさんの爪弾く手が止まり、アンリさんも向こうで俺を見ている。
「あー、えっとー、人名です。音階の数比を発見した人で、弦楽器のどこを押さえればこんな音が出る。って見付けた人です」
「へえ、音階って数比から導き出されるものなんだねえ。ハルアキくんの世界では、著名な吟遊詩人だったのかな?」
俺が疲れているのだろうと思ったのか、オルさんが話に乗ってきてくれた。
「いえ、数学者です」
「数学者っ?」
そりゃあ驚くか。
「有名なのはピタゴラスの定理って言って、三平方の定理って言った方が伝わりますかね?」
「ああ。三平方の定理を見付けた人物なんだね?」
伝わった。
「三平方の定理か。懐かしいなあ。幾何学の初歩だね。…………三平方。平方根か」
「どうかしたんですか?」
今度はオルさんが何事か考え始めてしまった。
「いやね? このデレダ迷宮の門、正方形に斜線が入っているじゃないか? どこかで見た図形だなあ。と思っていたのだけど、平方根みたいだなあ。と思ってね。はは。僕も何を言っているのやら」
「平方根……? ルート……? それだ!!」
俺の大声に、オルさんだけじゃなくアンリさん、バンジョーさん、ゼストルスまでビクッと驚いていた。
「え? 何? それ?」
「それですよ! 根号ですよ! この門の暗号、ルートに対応しているんですよ!」
喜ぶ俺は、未だに頭にハテナマークを浮かべる周囲を置き去りにして、祭壇の十桁の目盛り全てを0に合わせる。ルート0は0だからだ。
が、祭壇は「ピー!」と言う音を鳴らして、目盛りをまた不連続に並べ替えてしまった。
「違ったのか?」
期待して近寄ってきたバンジョーさんだったが、ハズレと分かって肩を落としていた。
「いえ、合っているはずなんだけどなあ。それともルート1なのかなあ?」
ルート1は1だ。目盛りを1.000000000に合わせる。が、「ピー!」と言う音が鳴るだけだった。
「違うのか?」
残念そうなバンジョーさんの声。残念なのはこっちも同じだよ。くっ、絶対合っている俺の『野生の勘』が言っているのに。もしかして何か見落としがあるのか?
何か? 何か? 俺はもう一度周囲に視線を巡らせる。
「あれ?」
『どうかしたのか?』
「いや、門の四隅に建っている柱、光の位置が変わっていないかなって?」
『そう言われれば……』
皆は記憶が曖昧そうだが、俺は覚えている。確かにここに来た時は、上から四つ目のブロックが光っていたはずだ。なのに今は、十あるブロックの上から七つ目、下から四つ目が光っている。
「シーザー暗号かよ!」
「シーザー暗号?」
祭壇までやって来たオルさんが首を傾げている。
「換字式暗号ですよ。暗号がルートだと分かったからって、それだけじゃ門を開けられないように、柱の光に対応して、数字の位置をずらしているんですよ。くっ、誰だよ、RSA暗号だとか、量子の重ね合わせだとか言っていたやつ」
『ハルアキだろう』
そうなんだけどさあ。こんな超初歩的な暗号だとは思わないじゃん。
「とりあえず、換字式暗号だとして、最初の門はルート0だと思うんだけど、上から七つ目の666……にするべきか、下から四つ目の333……にするべきか、どっちだと思う?」
「どっちも試せば良いだろう」
バンジョーさんにそう言われ、それもそうだ。と思った。バンジョーさんがいじっても特にペナルティーはなかったからなあ。もしかしたら下に降りていけばペナルティーもあるかも知れないが。
俺は、祭壇の目盛りを6666666666に合わせた。それと同期して、デレダ迷宮の門が正方形の斜線から開かれていくのだった。
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