世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
151 / 642

国の思惑

しおりを挟む
 今日は闘技場に来ている。マスタック邸を出るのは珍しい事だが、ジョンポチ陛下のお誘いでは、断る事は出来ない。


 今日の闘技場は少し趣きが違う。観客たちが闘技場に熱視線を送っているのはいつもの事だが、今日の主役は闘技場で戦う闘士たちではなく、闘技場を駆ける馬たちだ。今日、闘技場では競馬が行われていた。


 闘技場で競馬と言うと、古代ローマの戦車チャリオットでの競馬をイメージしていたが、やっていたのは現代的な乗馬での競走だった。


「すまんなハルアキ。こちらばかり熱くなってしまって」


 いくつかのレースが終わり、長めの休憩になったところで、俺の横で競馬を観覧していたジョンポチ陛下から、お声が掛かった。貴賓席で競馬を観覧しているのだが、一国の帝と席を並べて観覧とか、話をするには良いけど、庶民からしたら結構な罰ゲームな気がする。


「いえいえ。陛下は本当に馬がお好きですよね」


「うむ。やはり馬は良いな。あの鍛え抜かれた雄姿が走る様には、人を感動させる何かがある」


 そう言うものだろうか。だが競馬は初めて見たが、確かにワクワクドキドキさせられた。賭けをしなくてもこれだけの高揚感が得られるのだ。お金を賭けた時の気持ちの盛り上がりは、計り知れないものがありそうだ。


「しかし、ハルアキが英雄界の人間だったとはな」


 どうやら本題に入ったようだ。


「黙っていて申し訳ありません」


「そう気にしなくても良い。確かにこの話を聞いた時には驚きはしたが、同時に得心もいった。それぐらいでなければお主の破天荒さに理由付けが出来ん」


 俺って破天荒だったのか。自分じゃあ地味な人生送っているつもりだったのだが。破天荒とはバヨネッタさんとかリットーさんのような人を言う気がする。


「それで、ハルアキが英雄界の人間であると打ち明けたのは、そちらの都合で風向きが変わったから。と言う認識で良いのか?」


「ええまあ。今、モーハルドにもこちらの世界から人が送り込まれているのですが、向こうもきな臭いですからねえ。こちらはこちらで、何があっても良いように動いておいた方が良いとの、国の方針です」


「そうか」


 俺からそれを聞いたジョンポチ陛下は、沈黙し、次のレースへ向けて整備がなされている闘技場を見詰めていた。


「お主らの目的は、国交を結びたいとの事で良いのかな?」


 沈黙の後、ジョンポチ陛下がそう口を開いた。


「どうなんでしょうねえ。恐らく目的はスキルとレベルだと思います。それが手に入るなら、国交を結ぶ国は、オルドランドでもモーハルドでもカッツェルでもジャガラガでもサリューンでも、どこでも良いのだと思います」


「…………そうか」


 また沈黙が場を包む。


「ハルアキよ。余としては恩のあるハルアキの頼みだ。出来るだけ応えてやりたいのだがな。事は国と国との話だからな。余がゴリ押しする訳にもいかぬのだ。そんな事をしては国が乱れるからな」


 それはそうだろうな。辺境伯の息子の不祥事で戦争になりそうなんだから、国の長が率先して勝手をする訳にはいかないだろう。


「国として新たな取引相手と言うのは、魅力的ではある。が、無策でお主らを迎え入れる事も出来ぬ。特にハルアキ、お主のような『超空間転移』なるスキル持ちを増やす事態は看過出来ぬのだ」


 成程。『超空間転移』のスキル持ちが、オルドランド国内で散らばれば、各地で戦端を開く事も可能になる訳で、戦争になった時に圧倒的に不利になる。それは確かに見過ごせない。モーハルドにいる異世界調査隊が、一ヶ所に集められて自由に動けないのも、スキル獲得に制限が掛けられているのも、そこら辺が理由なのだろう。こちらの世界の人間は、地球人に『超空間転移』を手に入れられる事を恐れているのだ。


「と言う事は……」


「うむ。こちらにも『超空間転移』のスキル持ちが揃うのを待って欲しいのだ」


 そうなるか。当然だな。


「つまり、両国で『超空間転移』持ちを一定数確保し、その上で相手国にいられる『超空間転移』持ちに制限を掛ける必要がある訳ですね?」


「うむ。条約を結ぶ上で、相手国にいられる『超空間転移』持ちは、同数でなければならない。と言う一文が盛り込まれるだろう」


 そうなるよな。


「それはそうでしょうね。逆に同数にしてくださるあたりに、ありがたさを感じる程です」


「はっはっはっ。英雄界と国交を結ぶのだ。対等の関係を築けるなら、こちらとしても願ったりだ」


「分かりました。では今日の話を、国の方に持ち帰らせて貰います」


「うむ。そうしてくれ」


 ジョンポチ陛下との話は終わり、後は競馬を楽しむだけとなった。



 闘技場からマスタック邸に戻った俺は、一旦日本に戻ろうと転移門を開いていた。そこで部屋の扉をノックされる。


「はい」


 扉を開けて入ってきたのはバンジョーさんだった。真っ黒な転移門を見て固まっている。


「一緒に行きますか?」


 俺の誘いに、逡巡したバンジョーさんだったが、諦めたように首を左右に振るった。


「ボクにその先は遠過ぎるな」


 そんな事もないと思うけど。俺は一旦転移門を閉じた。


「なんでしょう? 何かご用ですか?」


「ああ。聞きたい事があってね」


 ふむ。俺はとりあえず立ち話もなんだろうと、バンジョーさんにソファに座って貰い、お茶を淹れて持っていく。


「聞きたい事、ですか?」


 お茶をテーブルに置いて、俺もバンジョーさんの向かいに座る。


「ああ。…………ハルアキは、いや、英雄界は、この世界をどうするつもりなんだ?」


 聞きたかった事とはそれなのか? まあ、こっちの世界で生きている人間の一人としては、気になるところか。俺は魔王や勇者がやって来た世界から来た人間なのだ。何か崇高な目的があってオルドランドに、この世界に接触してきたと思っても仕方ない。そんなものはないのだけど。


 始まりは俺のちょっとした冒険心だったのだから。それがこちらの世界や日本で、色々な人々と出会い、なんだか物語が膨れ上がった気がする。俺はもっと細々とした、個人的な冒険で良いのだ。などとバンジョーさんに話したところで、信じて貰えるだろうか?


「俺は向こうでも一介の庶民ですよ。バンジョーさんと同じです」


「ボクと同じ……」


 含むところがありそうだ。が、ここで追及するのはやめておこう。


「向こうにも、序列と言うのか、カーストと言うのか、ヒエラルキーと言うのか、身分にランク分けがあるんですけど、俺のいるランクは、高くなければ低くもありません。俺はたまたまこの世界に転移出来るスキルが手に入った庶民なんです。国の上層部の意向とか、ましてや世界の総意のようなものは、俺には答えられません。街を歩く平民に、国の意向や真意を問い質したところで、正鵠を射る答えは返ってこないでしょ?」


「…………確かに」


 どうやら納得して貰えたようだ。


「今回の俺の役割は伝令係。言ってしまえば手紙と一緒です。手紙に国の真意なんて分かりません。分かるのは手紙を書いた人物だけ。その人物がどんな意図でオルドランドに接触しようとしてきているのか、俺には分かりません」


「だが、その人物にハルアキは会っているのだろう? ハルアキはどう見る?」


 ふむ。難しい質問をしてくるなあ。


「良くも悪くも、国家を人の形にしたような人物ですかねえ」


「良くも悪くも、か」


「ええ。マスタック侯爵とは気が合うんじゃないですかねえ」


「成程」


 これでどんな人物像か伝わったようだ。


「悪かったな。帰ろうとしていたのを呼び止めてしまって」


 そう言ってバンジョーさんは部屋から出ていった。さて、日本に戻るか。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果

yuraaaaaaa
ファンタジー
 国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……  知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。    街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...