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無間迷宮(前編)
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ドームが放つ穴を塞ぐ程に大きな火炎球。俺一人であれば、このままアニンを大盾に変化させて防ぐ事も出来たが、今はジョンポチ陛下やディアンチュー嬢などがいる。大盾を選択すれば陛下たちは一直線に落下する。俺はアニンを腕輪に戻し、『聖結界』を球形に展開した。それによって火炎球は防ぐ事が出来たが、全員がそのまま一直線に穴を落下していく事になったのだった。
「ここは?」
落下した先は、夜明け寸前のような明るさの、何もない場所だった。その何もないがどこまでも続いている。
「ここは、無間迷宮じゃ」
俺の疑問に答えてくれたのはソダル翁であった。ソダル翁は『聖結界』によって落下の衝撃から免れたジョンポチ陛下を起き上がらせていた。
「無間迷宮、ですか?」
何とも物騒な名前だが、迷宮と言う割には壁も仕切りもない。あるのは広漠な空間だけだ。
「この無間迷宮を内包しているが為に、『無窮の逆さ亀サリィ』は無窮の名を冠しているのじゃ」
成程。カヌスの嫌らしい仕掛けがこれなのか。それだけで気を引き締めて掛からなければならない事が分かる。
「しかし酷い男だったのう。いきなり余たちを穴に落とすとは」
と何とものんびりしたジョンポチ陛下。
「全くですわ。これは帰ったらおしりペンペンでも許されない事案ですわ」
侍女に起こされ、ホコリを払われているディアンチュー嬢も、どこかのんびりしていた。
恐らくドームはここから俺たちを出すつもりなどなくて、と言うよりそもそも出口がなくて、ここで野垂れ死にさせるのが目的なのだろう。ドームは我々を見失ったなり、俺が反抗的態度を取ったなり、様々な嘘で上を撹乱し、駐屯地が上を下への大騒ぎとなっている隙に駐屯地を逃げ出すつもりってところか。少なくとも俺たちがここにいる事は伝えないだろう。
「救援がくる可能性は?」
俺はソダル翁に尋ねるが、翁は首を横に振るう。
「絶対にありえんな」
「絶対に、ですか?」
「うむ。無間迷宮は脱出不可能な迷宮であり、そこに部隊を投入すると言う事は、部隊に「死ね」と宣告するのと同義だ。いくら陛下の為とはいえ、ジーグスがそこまでの結論を下すとは思えん」
そうかあ。脱出不可能な迷宮なのかあ。まあ、いざとなったら転移門で日本に脱出出来るとして、そうなると桂木の世話にならないと、こっちの世界には戻ってこられそうにないな。と俺の中の気力がぐんぐん下がっていく中、
「な!? ここから出られんのか!?」
どうやらジョンポチ陛下も、今の状況の異常さに気付いてしまったらしい。
「そんなの余は嫌だぞ? どうにか出来んのかソダルよ?」
駄々をこねるジョンポチ陛下に、しかし無情にもソダル翁は首を横に振るった。
「い、嫌だぞ。そんなの、余は嫌だぞ」
泣きそうになりながらも、ジョンポチ陛下は自身のズボンをグッと握って、泣くのを堪えていたが、それを見ていたディアンチュー嬢が先に泣き出してしまったが為に、それにつられてジョンポチ陛下も泣き出してしまった。
「泣き疲れて眠っちゃいましたね」
いっぱい泣いたからだろう、泣き疲れた二人はソダル翁と侍女さんの懐で眠っていた。
「はあ。しかし、あのドームって奴、なんでこんな事をしたんだろう?」
思い起こされるのは、ドームが俺たちを穴に落とす前に言っていた言葉。「『神の子』などと。神はおひとりだけだ」だろう。
「目的は俺一人だったんだろうなあ。それに陛下たちまで巻き込んで、申し訳ありません」
俺がソダル翁や侍女さんに頭を下げるも、二人は首を横に振るう。
「気にするでない。恐らく奴は教会派の人間だったのだろう。遅かれ早かれ、これと同じ事をしていたはずじゃ」
「教会派、ですか?」
「うむ。デウサリウス教を神聖視する一派でな、デウサリウスこそ唯一神だ。デウサリウス教を国教にせよ。と煩い奴らなのじゃ。陛下が宗教の自由を認めておいでなのを、常々疎ましく思っていただろうから、いつか強行策に出ると思っていたが、ここで仕掛けてくるとはのう」
完全に対応が後手に回ったって感じか。陛下暗殺。バレればその教会派は一気に瓦解しそうだな。
「あんなのデウサリウス教徒じゃない」
そこに口を挟んできたのは、今まで静かだったバンジョーさんだった。そう言えばこの人もデウサリウス様の信者だったな。
「デウサリウス教徒を、誰も彼も、あんな奴と一緒にして貰っては困る。あんなのは極一部の過激派だ」
バンジョーさん、何と言うか、いつもの歌とは違う圧があるな。
「そう言うがな、奴らがこの国で他の宗教者に危害を加えているとの報告は多数上がっているのじゃぞ?」
「デウサリウス様は悪くない。ここのデウサリウス教徒がおかしいんだ。暴力に訴えるのはデウサリウス様を信奉する者としておかしい。デウサリウス様は全ての人間を救済してくださるお方だ」
と一気呵成にまくし立てるバンジョーさん。
「その全ての人間の中に、我々魔人や他宗教の者も含まれておるのか? 確か、最初に魔人狩りを始めたのは、デウサリウス教を国教とするモーハルドだったはずだ」
これは痛いところを突かれたのか、反論出来ず、しばし黙り込むバンジョーさんだったが、
「それは昔の事だ。今のモーハルドは違う」
とだけ返してみせた。
「今は違うと言えば許されるとでも? 許すのはモーハルドでもデウサリウス教徒でもない。迫害を受けた魔人たちであり、多神教の教徒たちだ」
ソダル翁もドワヴと言う魔人だ。本人に何かなかったとしても、一族には色々あったのだろう。対してこの場の居心地が悪くなったのか、バンジョーさんは俺たちに背を向けてツカツカと無間迷宮の奥の方へと歩き出した。
とどうだろう。バンジョーさんが歩き出した先、二百メートル程の場所に、扉が浮かび上がったではないか。
「バンジョーさん止まって!」
それに気付かないバンジョーさんに、俺が止まるように大声を掛けると、驚いて足を止め、こちらを振り返るバンジョーさん。すると扉もスッと消えてしまったのだった。
う~ん。もしかしてあれが迷宮の出口なのだろうか?
「ここは?」
落下した先は、夜明け寸前のような明るさの、何もない場所だった。その何もないがどこまでも続いている。
「ここは、無間迷宮じゃ」
俺の疑問に答えてくれたのはソダル翁であった。ソダル翁は『聖結界』によって落下の衝撃から免れたジョンポチ陛下を起き上がらせていた。
「無間迷宮、ですか?」
何とも物騒な名前だが、迷宮と言う割には壁も仕切りもない。あるのは広漠な空間だけだ。
「この無間迷宮を内包しているが為に、『無窮の逆さ亀サリィ』は無窮の名を冠しているのじゃ」
成程。カヌスの嫌らしい仕掛けがこれなのか。それだけで気を引き締めて掛からなければならない事が分かる。
「しかし酷い男だったのう。いきなり余たちを穴に落とすとは」
と何とものんびりしたジョンポチ陛下。
「全くですわ。これは帰ったらおしりペンペンでも許されない事案ですわ」
侍女に起こされ、ホコリを払われているディアンチュー嬢も、どこかのんびりしていた。
恐らくドームはここから俺たちを出すつもりなどなくて、と言うよりそもそも出口がなくて、ここで野垂れ死にさせるのが目的なのだろう。ドームは我々を見失ったなり、俺が反抗的態度を取ったなり、様々な嘘で上を撹乱し、駐屯地が上を下への大騒ぎとなっている隙に駐屯地を逃げ出すつもりってところか。少なくとも俺たちがここにいる事は伝えないだろう。
「救援がくる可能性は?」
俺はソダル翁に尋ねるが、翁は首を横に振るう。
「絶対にありえんな」
「絶対に、ですか?」
「うむ。無間迷宮は脱出不可能な迷宮であり、そこに部隊を投入すると言う事は、部隊に「死ね」と宣告するのと同義だ。いくら陛下の為とはいえ、ジーグスがそこまでの結論を下すとは思えん」
そうかあ。脱出不可能な迷宮なのかあ。まあ、いざとなったら転移門で日本に脱出出来るとして、そうなると桂木の世話にならないと、こっちの世界には戻ってこられそうにないな。と俺の中の気力がぐんぐん下がっていく中、
「な!? ここから出られんのか!?」
どうやらジョンポチ陛下も、今の状況の異常さに気付いてしまったらしい。
「そんなの余は嫌だぞ? どうにか出来んのかソダルよ?」
駄々をこねるジョンポチ陛下に、しかし無情にもソダル翁は首を横に振るった。
「い、嫌だぞ。そんなの、余は嫌だぞ」
泣きそうになりながらも、ジョンポチ陛下は自身のズボンをグッと握って、泣くのを堪えていたが、それを見ていたディアンチュー嬢が先に泣き出してしまったが為に、それにつられてジョンポチ陛下も泣き出してしまった。
「泣き疲れて眠っちゃいましたね」
いっぱい泣いたからだろう、泣き疲れた二人はソダル翁と侍女さんの懐で眠っていた。
「はあ。しかし、あのドームって奴、なんでこんな事をしたんだろう?」
思い起こされるのは、ドームが俺たちを穴に落とす前に言っていた言葉。「『神の子』などと。神はおひとりだけだ」だろう。
「目的は俺一人だったんだろうなあ。それに陛下たちまで巻き込んで、申し訳ありません」
俺がソダル翁や侍女さんに頭を下げるも、二人は首を横に振るう。
「気にするでない。恐らく奴は教会派の人間だったのだろう。遅かれ早かれ、これと同じ事をしていたはずじゃ」
「教会派、ですか?」
「うむ。デウサリウス教を神聖視する一派でな、デウサリウスこそ唯一神だ。デウサリウス教を国教にせよ。と煩い奴らなのじゃ。陛下が宗教の自由を認めておいでなのを、常々疎ましく思っていただろうから、いつか強行策に出ると思っていたが、ここで仕掛けてくるとはのう」
完全に対応が後手に回ったって感じか。陛下暗殺。バレればその教会派は一気に瓦解しそうだな。
「あんなのデウサリウス教徒じゃない」
そこに口を挟んできたのは、今まで静かだったバンジョーさんだった。そう言えばこの人もデウサリウス様の信者だったな。
「デウサリウス教徒を、誰も彼も、あんな奴と一緒にして貰っては困る。あんなのは極一部の過激派だ」
バンジョーさん、何と言うか、いつもの歌とは違う圧があるな。
「そう言うがな、奴らがこの国で他の宗教者に危害を加えているとの報告は多数上がっているのじゃぞ?」
「デウサリウス様は悪くない。ここのデウサリウス教徒がおかしいんだ。暴力に訴えるのはデウサリウス様を信奉する者としておかしい。デウサリウス様は全ての人間を救済してくださるお方だ」
と一気呵成にまくし立てるバンジョーさん。
「その全ての人間の中に、我々魔人や他宗教の者も含まれておるのか? 確か、最初に魔人狩りを始めたのは、デウサリウス教を国教とするモーハルドだったはずだ」
これは痛いところを突かれたのか、反論出来ず、しばし黙り込むバンジョーさんだったが、
「それは昔の事だ。今のモーハルドは違う」
とだけ返してみせた。
「今は違うと言えば許されるとでも? 許すのはモーハルドでもデウサリウス教徒でもない。迫害を受けた魔人たちであり、多神教の教徒たちだ」
ソダル翁もドワヴと言う魔人だ。本人に何かなかったとしても、一族には色々あったのだろう。対してこの場の居心地が悪くなったのか、バンジョーさんは俺たちに背を向けてツカツカと無間迷宮の奥の方へと歩き出した。
とどうだろう。バンジョーさんが歩き出した先、二百メートル程の場所に、扉が浮かび上がったではないか。
「バンジョーさん止まって!」
それに気付かないバンジョーさんに、俺が止まるように大声を掛けると、驚いて足を止め、こちらを振り返るバンジョーさん。すると扉もスッと消えてしまったのだった。
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