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昨日の今日でこれをやる馬鹿
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「おおお!!」
感嘆の声を上げるとともに、目を輝かせるベフメ伯爵。執務室のテーブルには、俺が『空間庫』から取り出したガラス食器セットが置かれている。
「これを何セット用意出来ましたの?」
「六十五セットです。申し訳ありません。流石に百セットは無理でした」
と俺は頭を下げる。何故百セット入手したのに、六十五セットと嘘を吐くのかって? わざとだよ。ここで百セット耳を揃えて用意したら、相手に、もっと用意出来るんじゃないかな? と思われて、更に無茶振りされるのが目に見えている。
「そう。十分よ。五十セット以上は予備だから」
俺は心の底からホッとした。
「手に取ってみてもよろしいかしら?」
俺はその言葉に首を縦に振って返す。
ベフメ伯爵が最初に手に取ったのはワイングラスだった。カップの下に細い柄が付いている、お馴染みの形だが、こちらの世界では一般的ではないらしく、不思議そうにそれを見詰めていた。
「これは、学生さんの国独自のものなのかしら?」
「どうですかねえ。うちの国、と言うより、その周辺国も含めた、地方全体で使われているものですね」
「そうなのですか?」
「カップも色々種類がありまして。それはぶどう酒を注ぐ一般的なやつです。それ以外にも麦酒を注ぐ、横に取っ手の付いているやつとか、蒸留酒を注ぐ、柄も取っ手も付いてないやつなんかもありますね」
「へえ。欲しいわね」
「うげっ」
思わず本音が口からまろび出て、慌てて口を塞ぐ。が、当然遅過ぎてベフメ伯爵にくすりと笑われてしまった。
「無理みたいね」
「流石に今回は先方に無理言いましたから、個人で楽しむように、一個か二個でしたらどうにかなりますけど」
と口にして俺は、失敗したな。と心の中で嘆息した。
「では何種類か二個ずつ、用意して貰えるかしら?」
ですよねえ、そうなりますよねえ。
「分かりました」
俺は頭を下げて執務室を退出したのだった。
「ハルアキ、私はこの世界でハルアキに、ずいぶん良くしてあげていると思っていたのだけど」
心機一転リットーさんの訓練に向かおうと思っていると、廊下をミデンが駆け寄ってきた。
「どうしたミデン?」
とついて行った先がバヨネッタさんの部屋だったのだ。そして外の雨を見ながら憂いを帯びた声で話しだした。
「そりゃあバヨネッタさんには、いつもいつも助けられていますよ。窮地を救われ、物を教えられ、この世界でやって行けているのは、バヨネッタさんのお陰です」
バヨネッタさんの真意が分からず、俺は慌てて取り繕った。
「ベフメ伯爵に、ガラスの食器を贈ったそうね」
「え? 贈ったと言うより、商談ですよ。売ったんです」
「私、ハルアキに何か物を贈って貰った事ないんだけど?」
ああ、言われてみればそうかも知れない。初めて出逢った時に、ダマスカス鋼のナイフを贈ったくらいだ。そりゃあバヨネッタさんが拗ねるのも分かる。手塩にかけてやっているのだ。見返りだって欲しくなるだろう。
しかしバヨネッタさんに贈り物かあ。俺から見てバヨネッタさんは金銀財宝に囲まれている人だ。どんな物を贈れば喜んでくれるのか分からない。
「何が欲しいんですか?」
「そうねえ、宝が欲しい。と言ったところで、ハルアキに用意出来ないだろう事は分かっているわ」
何かすみません。
「ガラス食器が用意出来ると言う事は、他の食器類も用意出来るのかしら?」
「他の食器と言うと、陶磁器ですか? 銀食器ですか? 流石に金食器は無理ありますけど」
あれ程憂いた顔をしていたのに、ニコニコ満面の笑みになるバヨネッタさん。
「色々あるみたいね?」
はあ、どうしたものかな。
そして翌日。バヨネッタさんは件の食器業務店にいた。
「おおおお!! 凄いわね! 見た事もない食器がこんなに並んでいるわ!」
いつになくバヨネッタさんのテンションが高い。それだけ連日の雨でストレスが溜まっていたのだろう。転移門で店に着くなり、アンリさんとミデンを連れて店中を物色しまくっている。
「子供みたいですね」
俺が横のオルさんに話し掛けると、オルさんもそわそわしていた。
「ああ。俺の事は気にせず、オルさんも店内色々見てきてください」
「そうかい? 悪いねハルアキくん。じゃあちょっと行ってくるよ!」
とオルさんもバヨネッタさんの後に続いて行ってしまった。はあ。
「すみません。ご迷惑をお掛けして」
俺は七町さんと店主さんに頭を下げる。
「いえいえ、このくらいお安いご用ですよ。こちらも渡りに船でしたので、そのように頭を下げないでください」
七町さんと、その後ろにいる同じく政府関係者なのだろうスーツの男女が、俺の方へ頭を下げていた。
「そう言って貰えるとこちらも気が楽です」
それから店主に向き直る。
「ご店主も、わざわざこの為に臨時休業にして貰って、すみませんでした」
店主にこの食器業務店を臨時休業にして貰った事で、転移門を店内に開く事が可能となり、今回、バヨネッタさんたちをこちらへ呼ぶ事が出来たのだ。
「いやいや、相応の金は貰っているので、気にしないでください」
と店主からも頭を下げられてしまった。日本人、頭低過ぎじゃない?
「あのう、それで工藤くん。そちらの要求を叶えましたので、こちらの要求も……」
と下手に出てくる七町さんに、俺は「そうでした」と応えて、『空間庫』から二本の小瓶を取り出す。すると政府関係者から「おお!」と声が上がった。
「ご入用なのはポーションで良かったんですよね」
「はい」
「まあ、俺から言うのもあれですが、何に使うのか、詮索するつもりはありませんけど、これが悪い事に使われたのなら、今後、こう言った取引がなくなると思っといてください」
俺はそう釘を刺して二本の小瓶を七町さんに手渡した。
「はい」
と七町さんも政府関係者たちも、真剣な眼差しをこちらへ返してくれたので、悪い使い方でないと信じておこう。
「ハルアキ! 私ここの商品全部欲しいわ!」
テンション上がりまくりのバヨネッタさんが、とんでもない事を口走る。
「全部はやめてください!」
俺は急いでバヨネッタさんの所へ駆け寄っていった。
感嘆の声を上げるとともに、目を輝かせるベフメ伯爵。執務室のテーブルには、俺が『空間庫』から取り出したガラス食器セットが置かれている。
「これを何セット用意出来ましたの?」
「六十五セットです。申し訳ありません。流石に百セットは無理でした」
と俺は頭を下げる。何故百セット入手したのに、六十五セットと嘘を吐くのかって? わざとだよ。ここで百セット耳を揃えて用意したら、相手に、もっと用意出来るんじゃないかな? と思われて、更に無茶振りされるのが目に見えている。
「そう。十分よ。五十セット以上は予備だから」
俺は心の底からホッとした。
「手に取ってみてもよろしいかしら?」
俺はその言葉に首を縦に振って返す。
ベフメ伯爵が最初に手に取ったのはワイングラスだった。カップの下に細い柄が付いている、お馴染みの形だが、こちらの世界では一般的ではないらしく、不思議そうにそれを見詰めていた。
「これは、学生さんの国独自のものなのかしら?」
「どうですかねえ。うちの国、と言うより、その周辺国も含めた、地方全体で使われているものですね」
「そうなのですか?」
「カップも色々種類がありまして。それはぶどう酒を注ぐ一般的なやつです。それ以外にも麦酒を注ぐ、横に取っ手の付いているやつとか、蒸留酒を注ぐ、柄も取っ手も付いてないやつなんかもありますね」
「へえ。欲しいわね」
「うげっ」
思わず本音が口からまろび出て、慌てて口を塞ぐ。が、当然遅過ぎてベフメ伯爵にくすりと笑われてしまった。
「無理みたいね」
「流石に今回は先方に無理言いましたから、個人で楽しむように、一個か二個でしたらどうにかなりますけど」
と口にして俺は、失敗したな。と心の中で嘆息した。
「では何種類か二個ずつ、用意して貰えるかしら?」
ですよねえ、そうなりますよねえ。
「分かりました」
俺は頭を下げて執務室を退出したのだった。
「ハルアキ、私はこの世界でハルアキに、ずいぶん良くしてあげていると思っていたのだけど」
心機一転リットーさんの訓練に向かおうと思っていると、廊下をミデンが駆け寄ってきた。
「どうしたミデン?」
とついて行った先がバヨネッタさんの部屋だったのだ。そして外の雨を見ながら憂いを帯びた声で話しだした。
「そりゃあバヨネッタさんには、いつもいつも助けられていますよ。窮地を救われ、物を教えられ、この世界でやって行けているのは、バヨネッタさんのお陰です」
バヨネッタさんの真意が分からず、俺は慌てて取り繕った。
「ベフメ伯爵に、ガラスの食器を贈ったそうね」
「え? 贈ったと言うより、商談ですよ。売ったんです」
「私、ハルアキに何か物を贈って貰った事ないんだけど?」
ああ、言われてみればそうかも知れない。初めて出逢った時に、ダマスカス鋼のナイフを贈ったくらいだ。そりゃあバヨネッタさんが拗ねるのも分かる。手塩にかけてやっているのだ。見返りだって欲しくなるだろう。
しかしバヨネッタさんに贈り物かあ。俺から見てバヨネッタさんは金銀財宝に囲まれている人だ。どんな物を贈れば喜んでくれるのか分からない。
「何が欲しいんですか?」
「そうねえ、宝が欲しい。と言ったところで、ハルアキに用意出来ないだろう事は分かっているわ」
何かすみません。
「ガラス食器が用意出来ると言う事は、他の食器類も用意出来るのかしら?」
「他の食器と言うと、陶磁器ですか? 銀食器ですか? 流石に金食器は無理ありますけど」
あれ程憂いた顔をしていたのに、ニコニコ満面の笑みになるバヨネッタさん。
「色々あるみたいね?」
はあ、どうしたものかな。
そして翌日。バヨネッタさんは件の食器業務店にいた。
「おおおお!! 凄いわね! 見た事もない食器がこんなに並んでいるわ!」
いつになくバヨネッタさんのテンションが高い。それだけ連日の雨でストレスが溜まっていたのだろう。転移門で店に着くなり、アンリさんとミデンを連れて店中を物色しまくっている。
「子供みたいですね」
俺が横のオルさんに話し掛けると、オルさんもそわそわしていた。
「ああ。俺の事は気にせず、オルさんも店内色々見てきてください」
「そうかい? 悪いねハルアキくん。じゃあちょっと行ってくるよ!」
とオルさんもバヨネッタさんの後に続いて行ってしまった。はあ。
「すみません。ご迷惑をお掛けして」
俺は七町さんと店主さんに頭を下げる。
「いえいえ、このくらいお安いご用ですよ。こちらも渡りに船でしたので、そのように頭を下げないでください」
七町さんと、その後ろにいる同じく政府関係者なのだろうスーツの男女が、俺の方へ頭を下げていた。
「そう言って貰えるとこちらも気が楽です」
それから店主に向き直る。
「ご店主も、わざわざこの為に臨時休業にして貰って、すみませんでした」
店主にこの食器業務店を臨時休業にして貰った事で、転移門を店内に開く事が可能となり、今回、バヨネッタさんたちをこちらへ呼ぶ事が出来たのだ。
「いやいや、相応の金は貰っているので、気にしないでください」
と店主からも頭を下げられてしまった。日本人、頭低過ぎじゃない?
「あのう、それで工藤くん。そちらの要求を叶えましたので、こちらの要求も……」
と下手に出てくる七町さんに、俺は「そうでした」と応えて、『空間庫』から二本の小瓶を取り出す。すると政府関係者から「おお!」と声が上がった。
「ご入用なのはポーションで良かったんですよね」
「はい」
「まあ、俺から言うのもあれですが、何に使うのか、詮索するつもりはありませんけど、これが悪い事に使われたのなら、今後、こう言った取引がなくなると思っといてください」
俺はそう釘を刺して二本の小瓶を七町さんに手渡した。
「はい」
と七町さんも政府関係者たちも、真剣な眼差しをこちらへ返してくれたので、悪い使い方でないと信じておこう。
「ハルアキ! 私ここの商品全部欲しいわ!」
テンション上がりまくりのバヨネッタさんが、とんでもない事を口走る。
「全部はやめてください!」
俺は急いでバヨネッタさんの所へ駆け寄っていった。
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