世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
92 / 639

掘削作業

しおりを挟む
「はい、これ」


 バヨネッタさんに渡されたのはメダルだった。


「これは? ベフメ家の紋章が彫られてますけど?」


 しかしバヨネッタさんはこれには答えてくれず、顎で吸血神殿の方を指示する。


「それを持って今から二人で吸血神殿に入ってきなさい」


「はあ?」


「二人って、私もですか?」


 ジェイリスくんも聞いていなかったようで、俺の隣りで驚いている。なんでだよ。ジェイリスくんは打ち合わせに参加していただろう。


「ベフメ家から水路建設の御達しが下ったって言うのに、未だに吸血神殿に籠もっている馬鹿がいるのよ。そいつらに首輪でも付けて引き摺ってでも吸血神殿から外に出すのが、二人の仕事よ」


「…………マジですか? それって何人くらいいるんですか?」


「さあ?」


 さあ? って! どのくらいなのか分からなければ、難易度が分からない。


「ベフメルの吸血神殿には、常時五、六人のパーティで二十組程が潜って活動しています」


 教えてくれたのはバヨネッタさんではなくドイさんだ。ベフメ伯爵と視察に来ていたようだ。


「そのメダルを見せれば、皆さんお二人に従ってくれると思います。吸血神殿に入る際、そのような契約がなされていますから」


 とベフメ伯爵が教えてくれた。成程。吸血神殿に潜っている冒険者たちにこのメダルを見せれば、彼らは従わざるを得ない訳だ。絶対従わない気がする。


「え? 従わなかったらどうするんですか?」


「冒険者名やパーティ名を控えておいてください。今後その冒険者やパーティは吸血神殿出入り禁止になりますから」


 いや、出入り禁止も何も、ここで神殿から出てこなかったら死ぬよね? だがこの事にビビっているのは俺だけだった。周りの皆は平然としている。どうやらそれも織り込み済みらしい。


 人の死に携わる仕事とか、嫌過ぎる。だからバヨネッタさんは俺を選んだんだろう。俺なら意地でも全員地上に生還させようとするだろうからだ。はあ。


「なんだ? そっちの方が面白そうだな?」


 話に加わってきたのはリットーさんだった。


「リットーさん一緒に来てくれるんですか? 来てくれるんなら助かるんですけど?」


 リットーさんが来てくれるなら百人力、いや、千人力だ。だがリットーさんも仕事があって堤防に来ているはずだ。俺はバヨネッタさんの方を見遣る。


「良いわよ。仕事が終わってからだけど」


 おお! まさかお許しが出ようとは! これは幸先良いかも知れない。


「その仕事ってどれくらいで終わるんですか?」


「さあ?」


 またそれか! これが一日仕事だとしたら、待っていられない。俺には今日明日の二日しか時間がないし、雨季は待っていてくれないからだ。一人でも多くの冒険者を地上に帰還させる為にも、出来るだけ早く出発したい。


「さあ? ってリットーさんに何をやらせようとしているんですか?」


「掘削作業よ」


「掘削作業?」


 俺のオウム返しにバヨネッタさんが首肯する。


「堤防の上部に穴を開けて貰うのよ」


 と堤防を指差すバヨネッタさん。


「なんで?」


 俺は普通に聞き返していた。


「そこと水路を連結して、川の水を水路に引き入れるからに決まっているでしょう?」


 決まっているんだ。


「え? 堤防の上から引き入れるのでは、駄目なんですか?」


「そんな事したら、堤防の他の場所から街に水がなだれ込むわよ?」


 あ! 確かにその通りだ。はは。自分の浅はかさに逆に笑えてくるな。


「分かりました。穴掘りですね。手伝いますよ」


 穴掘りは得意だ。なにせ半年もヌーサンス島で穴掘り生活していたからな。


「かーっはっはっはっ!! ハルアキよ! 気持ちは嬉しいがここは私に任せて貰おう!」


 つなぎの腕まくりをする俺に対して、リットーさんはドンッと自身の胸を叩いてみせた。余程自信があるらしい。一人より二人の方が早いと思うんだけどなあ。


「…………分かりました。でも人手が必要なら言ってください。手伝いますから」


 笑われた。リットーさん以外の全員に。この笑われ方からして、リットーさん、もしやかなりの穴掘り名人だな?


「ああ! 大変なようなら、ハルアキに手伝って貰おう!」


 そう言ってリットーさんはゼストルスに跨がり、空に飛び立った。



「魔女殿! ここら辺かな?」


 堤防近くまできてホバリングするゼストルスの上で、リットーさんが堤防をランスでつついて尋ねる。飛竜ってホバリングも出来るんだな。翼と後ろ足の火袋を巧く使っている。


「そうね、もうちょっと右かしら? ああ、それだと行き過ぎね。ちょっと戻って、そう、そこ」


 こんな具合にバヨネッタさんの指示の下、微調整がなされて、堤防に開ける穴の場所が決まった。


「良し! では行くぞ!」


 場所が決まるとリットーさんとゼストルスは堤防から少し離れた。行くんじゃないのかよ? と思っていると、リットーさんのランスが高速で回転し始めた。え? あのランス、本当にドリルだったの?


「まさかこのような所でリットー様の螺旋槍が拝めようとはッ」


 と俺の横でジェイリスくんが興奮している。しかし『螺旋槍』って、まんまな名前だなあ。


「ゼストルス!!」


 気合い充分とリットーさんはゼストルスに指示を出し、ゼストルスがそれに応えて堤防に突っ込んでいく。


 それは俺には無謀な特攻にしか見れなかった。巨大な壁に向かって突っ込んでいく愚かな騎士。まるでロシナンテに跨がったドン・キホーテだ。


 が、崩れ去ったのは堤防の方だった。リットーさんの螺旋槍が堤防にぶつかるやいなや、堤防がその螺旋運動に巻き込まれて円形に崩壊していく。


 それは一瞬の出来事だった。堤防に丸い穴が空き、そこをゼストルスに跨がったリットーさんが通り抜けていった。残されたのは直径十メートル以上はある綺麗な空洞。


「すげえ……」


 俺が思わず声を漏らしている間に、バヨネッタさんが最後の仕上げをしていく。堤防まで運び込まれた石材を魔法で宙空に浮かせると、その石材で持ってリットーさんが開けた穴を綺麗に整えていったのだ。後に残ったのは、まるで昔からそこに空いていたかのようなまん丸のトンネルだ。


「すげえ……」


 本日二度目の感嘆である。


 堤防に穴を空けると言う大仕事を一瞬で終わらせたリットーさんは、そのままゼストルスに乗って空を翔け回った後、堤防の上に降り立ち、高々とその手に握られた螺旋槍を天に掲げたのだった。


 堤防に集まった人夫や野次馬たちからの割れんばかりの歓声。それに応えるリットーさん。様になるなあ。などと思っていると、ゼストルスでひとっ飛びして俺たちの元に戻ってきた。


「すまなかったなあ! ハルアキの出る幕はなかったようだ!」


「え、ええ。そのようですね」


 いらん注目を浴びて恥ずかしかったのは、言うまでもない。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...