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デジャヴかな?

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「かーっはっはっはっ!!」


 デジャヴかな?


 決闘翌日、学校から帰ってきてからベフメ伯爵邸に出向くと、リットーさんが客室で大笑いしていた。あまりに普通にいるから、ちょっとビビる。


「おお! 昨日の少年じゃないか! こんな時間まで何をしていたんだ?」


「はあ、まあ。勉強ですね」


「成程! 勤勉だな君は!」


「お褒め頂きありがとうございます」


 と一礼してから、同じように客室に集まっていたオルさんの耳元で尋ねた。


「どうしてここにいるんですか?」


「ベフメ家が正式にリットー殿を客人として迎え入れたからだよ」


「はあ、それで話し相手としてオルさんが選ばれたと?」


 オルさんは一度リットーさんに視線を戻してから、また俺に耳打ちしてくれた。


「まあね。ベフメ伯爵とバヨネッタ様は水路建設で手が離せないからね」


 確かに。二人はリットーさんに構っている場合ではないな。今日も雨が降っている。いつまでも降り続けると言う事はないだろうが、水路建設の進捗が滞るのはまずい。効率的な水路建設が求められる。


 ジェイリスくんはこっちに来ていてもおかしくないが、プライドの高い男である。仕事として水路建設が決まった以上、そちらを放り出してこっちに来る事はないか。


「いやあ、すまないねえ、オル殿! せめて雨が降っていなければ、外で武術の修練でもして暇を潰していたのだが!」


 とリットーさん。


「はは。気にしなくて良いですよ、リットー殿。あなたの旅話は実に面白い。僕の知見を広げるものだ」


「ふむ。そう言って頂けると心が軽くなるな!」


 などと案外話に花を咲かせていた。オルさんも流石貴族だな。リットーさんと普通に大人の対応をしている。


「少年!」


「はい?」


「少年もそんな所に立っていないで、座ったらどうだ?」


 とリットーさんに勧められたので、俺はオルさんの横に座った。


「いやあ、昨日の決闘は中々見応えがあったよ!」


「はあ、ありがとうございます」


「が、避けるのは巧かったが、攻めるのは下手だったな」


 ははは。武道の経験もない、ただの学生ですから。


「どうだ? 私が君の指導してみると言うのは?」


「ええええ?」


 あ、露骨に嫌そうな反応になってしまった。


「いや、これは、あの、違うって言うか……」


「かーっはっはっはっ!! 素直だな少年!」


 うう。顔から火が出る程恥ずかしい。


「いや、まあ、あれです。そう言うのはジェイリスくんに申し出てはどうですか? 彼、リットーさんに憧れているみたいですから。あ!」


 思わず「リットーさん」と言ってしまった!


「かーっはっはっはっ!! 素直正直結構結構! そう気張らず、「リットーさん」で構わんさ!」


「あ、ありがとうございます」


 はあ。穴があったら入りたいとはこの事か。気後れしているのか何なのか、どうにも会話にボロが出る。そんな俺の事をリットーさんは面白そうにじいっと眺めていた。


「君は、シンヤイチジョーを知っているかい?」


 といきなり何かの名前を出された。? シンヤイチジョー? 何だそれ? 魔物の名前かな?


「本人は、シンヤと呼んでくれ。と言っていたな」


 ふむ。人の名前だったのか。シンヤ・イチジョー。こっちの世界で姓を名乗るのは珍しい事だ。と言う事は俺のような異世界転移者か? …………シンヤ・イチジョーって、イチジョー・シンヤ? え? 一条辰哉? シンヤの事? は? え? 頭の中が大混乱を起こしているですけど? なんでリットーさんの口からシンヤの名前が!?


「…………そいつは、俺のような黒髪黒眼で、左の目元にホクロのある、俺くらいの年齢の男ですか?」


「おお! やはり知り合いであったか! うむ、まとっている雰囲気が似ておったからな! もしや同郷の知り合いかと思ってな!」


 同郷の知り合いどころか、あの多重事故で行方不明になった俺の友人の一人ですけど。なんで? なんでリットーさんがシンヤと知り合いなの?


「ええと、リットーさんはいつどこでシンヤと知り合ったんですか?」


「うむ。パジャンでな」


「パジャン?」


 どこそこ? と思っていると、オルさんが教えてくれた。


「フーダオの花形箱の発掘される国だよ」


 と言う事は、海を越えた東の大陸にシンヤがいるのか。シンヤが、シンヤが生きているのか……。実感湧かない。もう一年近く会っていないしなあ。


「シンヤは、そこで元気にやっているんですか?」


「ああ! 勇者として精力的に活動していたぞ!」


 …………え?


「ゆ、勇者? あいつ勇者やってるんですか!?」


「なんだ、知らなかっのか?」


 恥ずかしい! 今日の会話の中で一番恥ずかしい出来事だよ! 友人が異世界で勇者名乗っているとか、どんな拷問だよ!


「どうした? 感極まったような顔だな? 会いたくなったか?」


「いえ。会いません。会いませんとも! もし今度リットーさんがシンヤに会う機会があったなら、モーハルドに桂木翔真と言う同郷の人間がいますので、そいつに頼めば国に帰る事も可能だろうと教えておいてください」


「ふむ。相分かった! シンヤにはそのように伝えておこう! して少年よ! 君の名前は何かな?」


 ああ、俺、まだ名乗っていなかったのか。


「ハルアキと言います。よろしくお願いします」


 と俺はリットーさんに深々と頭を下げた。はあああ。十分と交わしていない会話なのに、どっと疲れたなあ。


「かーっはっはっはっ!! お疲れのようだな? 私たちとの雑談は、ハルアキには辛いものだったかな?」


「いえ、そんな。ただ、この一年、厄介な事案に巻き込まれる事が多くって、そこにきて友人の生存を知ったので、もう、何が何やら」


 とこれを聞いたリットーさんは何か思い当たるのか、「ふむ」と自分の手をジッと見て、また俺の方に向き合う。


「厄介事に巻き込まれるか! それは、ハルアキが英雄運を持っているからかも知れないぞ?」


「英雄運、ですか?」


「ああ! そう言うギフトがあってな! やたらと厄介事に好まれる体質なんだ! かく言う私も、その英雄運の持ち主だ!」


 へえ、英雄運ねえ。なんか凄そう。でもなあ。


「俺、一般人なんですけど?」


「私だってそうさ! 英雄運と言う名前だから特別に感じてしまうかも知れないが、大体百人に一人は持っているギフトであるらしい!」


 百人に一人なら、それほど珍しくないな。大体一学年に一人はいる計算になる。


「らしい、って事は、リットーさんも人伝てに聞いた話なんですか?」


「ああ! オルドランドの首都に占いをやっているばあさんがいてな! そのばあさんに教えて貰ったんだ! 良ければばあさんの居所を教えよう! 首都に行ったら訪ねてみると良い! さすれば自分の事がもっと分かるだろう!」


 ありがたい。そんな訳で俺はリットーさんから占い師のおばあさんの居所を教えて貰った。ふむ。首都に行ってやる事が出来たな。

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