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想定外
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「かーっはっはっはっ!!」
呵々大笑するその男の印象は、豪放磊落だった。
曇天でも夜でも、その禿頭がピカリと光るその男。足から火を吹き空を飛ぶ、暗緑色の飛竜に乗って現れたその男。銀の全身鎧に銀の大盾、銀の突撃槍を身に着けたその男。一体何者なのか誰も知らない。
「リットー様」
とぽつり呟くジェイリスくん。
「リットーだ!」
「リットー様だわ!」
「遍歴竜騎士のリットーだ!」
前言撤回。闘技場にいる俺以外の全員が彼を知っていた。どうやら相当な有名人であるらしい。リットー? そう言えばダプニカ夫人との会話で、その名前が出てきていた気がする。
「有名人なんですか?」
「知らないのか!?」
ジェイリスくんに凄え驚かれた。
「愛竜のゼストルスとともに数々の戦場を飛び回った歴戦の傭兵であり、彼を迎え入れられれば、その戦に勝利すると言われている程だ。あの方こそまさに一騎当千の戦士。今は傭兵業から足を洗い、世界を旅しながら、各地で人助けなどをしていると聞き及んでいる」
へえ、そうなのか。凄いおっさんだったんだな、リットーさん。まあ、闘技場の外壁に飛竜とともに舞い降りて、高笑いをしている時点で只者じゃないが。しかし何しにここに現れたのだろう?
「天呼ぶ、地呼ぶ、人が呼ぶ! 何でも御座れと皆が呼ぶ! 天下に泰平をもたらす為、世界の悪を裁く為! 竜騎士リットー! ここに見参!」
どっと沸き上がる闘技場。きっとこれがリットーさんの定番の惹句なのだろう。闘技場の満員の観客たちは、スタンディングオベーションで喜んでいた。俺とジェイリスくんの決闘なんてそっちのけだ。
これで良いのかなあ? とジェイリスくんの方を見遣れば、彼も目を輝かせてリットーさんを見詰めていた。どうやらジェイリスくんから見ても、竜騎士リットーと言うのは憧れの存在であるらしい。
「かーっはっはっはっ!! 闘技場の熱気に当てられて、やって来てみたが、どうやら大一番が始まる前のようだな!」
どうやらリットーさんがやって来たのは、普通に物見遊山だったようだ。まあ、各地を旅して回っているらしいし、そりゃあそうか。
そしてリットーさんの発言で、観客たちの熱視線が俺とジェイリスくんに向けられた。
「ほう? 今宵の大一番は、若人たちの真剣勝負か?」
「はい! 私と彼の決闘です!」
リットーさんの問い掛けに、ジェイリスくんが元気良く返事をする。
「ふむ? 決闘とは穏やかじゃないな! 君たちはまだ若いだろう?」
「若くても、心の根幹に譲れないものがあるのです!」
とジェイリスくん。俺は譲ってこの場から退席しても良いんだけど。
「かーっはっはっはっ!! 確かに! 男とは信念の中に生き、信念を貫いて死ぬ生き物だ! 互いの信念! 大いにぶつけ合うが良い!」
「はい!」
なんだろう、このノリ。体育会系? いや、熱血系マンガのノリの方が合致している気がする。
「さあ! 互いの信念を懸けて、決闘を始めようではないか!」
ジェイリスくん。すっかりリットーさんに影響されて、熱くなってるなあ。キャラ変わってない? いや、心根が熱かったのは元からか。はあ。
「あのう」
「何だ?」
俺の冷静な対応の為か、熱くたぎる気持ちに水を差されたようで、ジェイリスくんが不機嫌になる。
「あのリットーさんって竜騎士さ、当然のように空から現れて、闘技場の上から観戦する気満々って感じたけど、観戦料払ってないよね?」
「…………」
「…………」
「かーっはっはっはっ!! 確かにな少年! これは一本取られたな!」
そう言ってリットーさんは愛竜に飛び乗ると、入場口の方へ降りていった。
十分後、彼はバヨネッタさんやオルさん、ベフメ伯爵のいる貴賓席に姿を現した。どうやらベフメ伯爵がリットーさんを貴賓席に招待したらしい。愛竜のゼストルスはまた外壁の上だ。流石に貴賓席には入れなかったようである。
「どうやら待たせてしまったかな? すまなかった少年たちよ! さあ、存分にその信念、ぶつけ合ってくれたまえ!」
リットーさんの言葉を皮切りに、俺とジェイリスくんの決闘が始まった。
「さあ、掛かって来い!」
剣を正眼に構えたジェイリスくんが、俺に先手を取らせてやると声を張る。侯爵子息としては、平民相手に先に攻めるのは恥ずべき行為と思っているのかも知れない。
「じゃあ、遠慮なく」
俺は素早く間合いを詰めると、槍のように構えた鉄の棒を突き出す。胸を目掛けて出された棒だったが、ジェイリスくんは軽やかなステップでそれを横に躱すと、上段から俺の腕目掛けて剣を振り下ろしてくる。
ギイィンッ!
俺はそれを棒で受け止める。その事に少し驚くジェイリスくん。どうやらこの一撃で腕を斬り落とし完勝する気だったようだ。
その一撃を防がれ、歯ぎしりするジェイリスくんは、深く呼吸を整えると、息を止めて連撃を打ち込んてきた。
上段、下段、横薙ぎ、袈裟斬り、逆袈裟、斬り上げ、あらゆる方向から剣が生き物のようにこちらを攻撃してくる。その一つ一つを受け止め、受け流し、いなし、躱し、バックステップ、ダッキングにジャンプと、出来うる限りの防御手段で防いでいく。
「くっ」
いくら攻撃をしても俺に一撃も与えられず、ジェイリスくんの顔が焦りと苛立ちで歪む。確かにジェイリスくんの攻撃は鋭いし、日頃の修練の成果も現れている。が、俺にはゆっくりな攻撃だった。それはそうだろう。バヨネッタさんの音速を超える銃弾に比べれば、どの攻撃もゆっくりである。だが、それが俺の慢心に繋がった。
「はあっ!」
気合いとともに上段から一閃された剣撃は、燃える炎をまとっていたのだ。思わずそれを棒で受け止めた俺だったが、一瞬にして熱が鉄の棒を伝って手が焼ける。
「ぐわっ、熱っちい!」
俺はジェイリスくんを蹴り飛ばし、距離を取る。そして手を確認するが、薄っすらヤケドしていた。一瞬でこれとは、あの炎、結構な高温のようだ。鉄の棒は魔法で強化してあったので大丈夫だったが。
蹴り飛ばしたジェイリスくんは、体勢を崩したものの、すぐに立て直し、また俺に襲い掛かってきた。
炎をまとった剣による連続攻撃。だが今までのようにそれを受け止める事は出来ない。躱すにしても炎の熱を避ける為に、大きくステップを取らなければならなくなった。
こうなるとジェイリスくんが優勢になってくる。剣を舞うように振り回し、俺を闘技場の壁際まで追い込んだジェイリスくんは、これでお終いだ! とでも言わんばかりに、気合いとともに袈裟懸けにてその炎の剣を振り下ろしてきた。
「ぐわっ!?」
悲鳴を上げたのはジェイリスくんだった。そして体勢を立て直す為にせっかく追い詰めた壁際から離れる。その隙に俺は壁際を脱出、舞台中央まで戻る事に成功した。
「電撃か」
とジェイリスくんが俺を睨む。そう。避けきれないと判断した俺は、ジェイリスくんの一撃をわざと鉄の棒で受け、そこに魔法で電撃を流したのだ。
「ずるいなんて言うなよ? そっちだって炎の剣なんだ」
そう言いながら俺は攻勢に出た。鉄の棒に電撃を流し、それを上段から振り下ろす。
ギイィンッ!
これを炎の剣で受け止めるジェイリスくん。向こうに流れる電撃。こちらに伝わる炎の熱。顔が歪むジェイリスくんに対して、こちらもきっと苦痛で顔をしかめているのだろう。
そして剣と棒の打ち合いが始まった。互いにダメージ上等の殴り合いだ。肉を切らせて骨を断つ覚悟で、剣と棒がぶつかり合う。
それは確かにリットーさんの言う信念だったのかも知れないし、違う別の何かだったのかも知れない。しかし一歩も引かないと覚悟を決めた俺とジェイリスくんは、舞台中央で互いに傷付きながら、互いの武器を振るっていく。
それは気が遠くなる程長い時間だった気もするし、一瞬で終わった出来事だった気もする。早く終われ! 早く倒れろ! そう念じながら棒を振るい、剣を受け止めた時間。
ギイィンッ!
互いの武器は熱と電撃で持っていられなくなり、打ち合って手からすっぽ抜けた。
「くっ!」
「はあ!」
それでも決闘は終わらない。互いに拳を握り合い、殴り合う。もうここまでくるとなんで戦っていたのか訳が分からなくなっていた。そして、
「ぐえ!?」
最後は俺の運がちょっとだけ勝っていた。運良く俺の拳がジェイリスくんの顎にヒットしたのだ。これによって脳が揺さぶられ、意識が断たれるジェイリスくん。糸が切れた操り人形のように、バサッとその場に倒れ伏し、勝負は決着したのだった。
いつの間にか雨が降り始めていた。
呵々大笑するその男の印象は、豪放磊落だった。
曇天でも夜でも、その禿頭がピカリと光るその男。足から火を吹き空を飛ぶ、暗緑色の飛竜に乗って現れたその男。銀の全身鎧に銀の大盾、銀の突撃槍を身に着けたその男。一体何者なのか誰も知らない。
「リットー様」
とぽつり呟くジェイリスくん。
「リットーだ!」
「リットー様だわ!」
「遍歴竜騎士のリットーだ!」
前言撤回。闘技場にいる俺以外の全員が彼を知っていた。どうやら相当な有名人であるらしい。リットー? そう言えばダプニカ夫人との会話で、その名前が出てきていた気がする。
「有名人なんですか?」
「知らないのか!?」
ジェイリスくんに凄え驚かれた。
「愛竜のゼストルスとともに数々の戦場を飛び回った歴戦の傭兵であり、彼を迎え入れられれば、その戦に勝利すると言われている程だ。あの方こそまさに一騎当千の戦士。今は傭兵業から足を洗い、世界を旅しながら、各地で人助けなどをしていると聞き及んでいる」
へえ、そうなのか。凄いおっさんだったんだな、リットーさん。まあ、闘技場の外壁に飛竜とともに舞い降りて、高笑いをしている時点で只者じゃないが。しかし何しにここに現れたのだろう?
「天呼ぶ、地呼ぶ、人が呼ぶ! 何でも御座れと皆が呼ぶ! 天下に泰平をもたらす為、世界の悪を裁く為! 竜騎士リットー! ここに見参!」
どっと沸き上がる闘技場。きっとこれがリットーさんの定番の惹句なのだろう。闘技場の満員の観客たちは、スタンディングオベーションで喜んでいた。俺とジェイリスくんの決闘なんてそっちのけだ。
これで良いのかなあ? とジェイリスくんの方を見遣れば、彼も目を輝かせてリットーさんを見詰めていた。どうやらジェイリスくんから見ても、竜騎士リットーと言うのは憧れの存在であるらしい。
「かーっはっはっはっ!! 闘技場の熱気に当てられて、やって来てみたが、どうやら大一番が始まる前のようだな!」
どうやらリットーさんがやって来たのは、普通に物見遊山だったようだ。まあ、各地を旅して回っているらしいし、そりゃあそうか。
そしてリットーさんの発言で、観客たちの熱視線が俺とジェイリスくんに向けられた。
「ほう? 今宵の大一番は、若人たちの真剣勝負か?」
「はい! 私と彼の決闘です!」
リットーさんの問い掛けに、ジェイリスくんが元気良く返事をする。
「ふむ? 決闘とは穏やかじゃないな! 君たちはまだ若いだろう?」
「若くても、心の根幹に譲れないものがあるのです!」
とジェイリスくん。俺は譲ってこの場から退席しても良いんだけど。
「かーっはっはっはっ!! 確かに! 男とは信念の中に生き、信念を貫いて死ぬ生き物だ! 互いの信念! 大いにぶつけ合うが良い!」
「はい!」
なんだろう、このノリ。体育会系? いや、熱血系マンガのノリの方が合致している気がする。
「さあ! 互いの信念を懸けて、決闘を始めようではないか!」
ジェイリスくん。すっかりリットーさんに影響されて、熱くなってるなあ。キャラ変わってない? いや、心根が熱かったのは元からか。はあ。
「あのう」
「何だ?」
俺の冷静な対応の為か、熱くたぎる気持ちに水を差されたようで、ジェイリスくんが不機嫌になる。
「あのリットーさんって竜騎士さ、当然のように空から現れて、闘技場の上から観戦する気満々って感じたけど、観戦料払ってないよね?」
「…………」
「…………」
「かーっはっはっはっ!! 確かにな少年! これは一本取られたな!」
そう言ってリットーさんは愛竜に飛び乗ると、入場口の方へ降りていった。
十分後、彼はバヨネッタさんやオルさん、ベフメ伯爵のいる貴賓席に姿を現した。どうやらベフメ伯爵がリットーさんを貴賓席に招待したらしい。愛竜のゼストルスはまた外壁の上だ。流石に貴賓席には入れなかったようである。
「どうやら待たせてしまったかな? すまなかった少年たちよ! さあ、存分にその信念、ぶつけ合ってくれたまえ!」
リットーさんの言葉を皮切りに、俺とジェイリスくんの決闘が始まった。
「さあ、掛かって来い!」
剣を正眼に構えたジェイリスくんが、俺に先手を取らせてやると声を張る。侯爵子息としては、平民相手に先に攻めるのは恥ずべき行為と思っているのかも知れない。
「じゃあ、遠慮なく」
俺は素早く間合いを詰めると、槍のように構えた鉄の棒を突き出す。胸を目掛けて出された棒だったが、ジェイリスくんは軽やかなステップでそれを横に躱すと、上段から俺の腕目掛けて剣を振り下ろしてくる。
ギイィンッ!
俺はそれを棒で受け止める。その事に少し驚くジェイリスくん。どうやらこの一撃で腕を斬り落とし完勝する気だったようだ。
その一撃を防がれ、歯ぎしりするジェイリスくんは、深く呼吸を整えると、息を止めて連撃を打ち込んてきた。
上段、下段、横薙ぎ、袈裟斬り、逆袈裟、斬り上げ、あらゆる方向から剣が生き物のようにこちらを攻撃してくる。その一つ一つを受け止め、受け流し、いなし、躱し、バックステップ、ダッキングにジャンプと、出来うる限りの防御手段で防いでいく。
「くっ」
いくら攻撃をしても俺に一撃も与えられず、ジェイリスくんの顔が焦りと苛立ちで歪む。確かにジェイリスくんの攻撃は鋭いし、日頃の修練の成果も現れている。が、俺にはゆっくりな攻撃だった。それはそうだろう。バヨネッタさんの音速を超える銃弾に比べれば、どの攻撃もゆっくりである。だが、それが俺の慢心に繋がった。
「はあっ!」
気合いとともに上段から一閃された剣撃は、燃える炎をまとっていたのだ。思わずそれを棒で受け止めた俺だったが、一瞬にして熱が鉄の棒を伝って手が焼ける。
「ぐわっ、熱っちい!」
俺はジェイリスくんを蹴り飛ばし、距離を取る。そして手を確認するが、薄っすらヤケドしていた。一瞬でこれとは、あの炎、結構な高温のようだ。鉄の棒は魔法で強化してあったので大丈夫だったが。
蹴り飛ばしたジェイリスくんは、体勢を崩したものの、すぐに立て直し、また俺に襲い掛かってきた。
炎をまとった剣による連続攻撃。だが今までのようにそれを受け止める事は出来ない。躱すにしても炎の熱を避ける為に、大きくステップを取らなければならなくなった。
こうなるとジェイリスくんが優勢になってくる。剣を舞うように振り回し、俺を闘技場の壁際まで追い込んだジェイリスくんは、これでお終いだ! とでも言わんばかりに、気合いとともに袈裟懸けにてその炎の剣を振り下ろしてきた。
「ぐわっ!?」
悲鳴を上げたのはジェイリスくんだった。そして体勢を立て直す為にせっかく追い詰めた壁際から離れる。その隙に俺は壁際を脱出、舞台中央まで戻る事に成功した。
「電撃か」
とジェイリスくんが俺を睨む。そう。避けきれないと判断した俺は、ジェイリスくんの一撃をわざと鉄の棒で受け、そこに魔法で電撃を流したのだ。
「ずるいなんて言うなよ? そっちだって炎の剣なんだ」
そう言いながら俺は攻勢に出た。鉄の棒に電撃を流し、それを上段から振り下ろす。
ギイィンッ!
これを炎の剣で受け止めるジェイリスくん。向こうに流れる電撃。こちらに伝わる炎の熱。顔が歪むジェイリスくんに対して、こちらもきっと苦痛で顔をしかめているのだろう。
そして剣と棒の打ち合いが始まった。互いにダメージ上等の殴り合いだ。肉を切らせて骨を断つ覚悟で、剣と棒がぶつかり合う。
それは確かにリットーさんの言う信念だったのかも知れないし、違う別の何かだったのかも知れない。しかし一歩も引かないと覚悟を決めた俺とジェイリスくんは、舞台中央で互いに傷付きながら、互いの武器を振るっていく。
それは気が遠くなる程長い時間だった気もするし、一瞬で終わった出来事だった気もする。早く終われ! 早く倒れろ! そう念じながら棒を振るい、剣を受け止めた時間。
ギイィンッ!
互いの武器は熱と電撃で持っていられなくなり、打ち合って手からすっぽ抜けた。
「くっ!」
「はあ!」
それでも決闘は終わらない。互いに拳を握り合い、殴り合う。もうここまでくるとなんで戦っていたのか訳が分からなくなっていた。そして、
「ぐえ!?」
最後は俺の運がちょっとだけ勝っていた。運良く俺の拳がジェイリスくんの顎にヒットしたのだ。これによって脳が揺さぶられ、意識が断たれるジェイリスくん。糸が切れた操り人形のように、バサッとその場に倒れ伏し、勝負は決着したのだった。
いつの間にか雨が降り始めていた。
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応援ありがとうございます。】
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