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「おお~」
思わず声が出てしまった。俺のナイフが眼前で研がれ、火花を散らしているからだ。
俺は今、村の鍛冶屋に来ている。先日ウサギやネズミなどを捌いたナイフに、刃欠けが出来てしまったからだ。
村外れの鍛冶屋は、鍛冶に使う炉の火が良く見えるように、窓が閉じられ暗かった。俺が刃の研ぎをお願いすると、鍛冶屋のおじさんは無愛想ながら引き受けてくれた。
刃を研ぐのに使われた研ぎ器は、円盤状の研ぎ石をろくろのように足踏みで回転させて、そこに刃を当てて研いでいくタイプの物だった。水に濡らしたりしないので、研ぐ時にがっつり火花が飛び散る。
「出来たぞ」
窓を開けて日の光に刃を晒し、鍛冶屋のおじさんは研ぎ終わったナイフを返してくれた。俺はお礼に銀貨を差し出す。二百エランは研ぎ代として高いのか低いのか分からない。ただ、二千円なら安いナイフが買えたな。とは思った。
「ここって、刃物の売買とかやってたりします?」
村外れまで足を伸ばしたついでに尋ねてみた。もう一度ここに来るのも面倒臭い。と言う考えがあったからだ。
「何が欲しい?」
売っていそうである。
「もう少し大型のナイフか鉈が欲しいんです。このナイフだと、獣を捌くのに難儀して」
おじさんは少し黙考した後、「ちょっと待っていろ」と言い残し、奥へと引っ込んでいった。
待っている間、手持ち無沙汰で鍛冶屋の中を見ても、どれが何だか良く分からない。鍛冶道具であろう金槌ややっとこ、金床くらいなら分かったが。店内に見本となるような刃物などは置かれていなかった。防犯上当然だな。
ちょっとして鍛冶屋のおじさんが、手に何やら持って戻って来た。
「それは?」
「坊主ご希望の鉈だ」
「見てみても良いですか?」
首肯するおじさん。おじさんの手から鞘ごと鉈を受け取る。三十センチ程の鞘から鉈を引き抜くと、反りのある厚い刃で、切っ先は丸みがあるが尖っている。そして木のグリップが手に良く馴染んだ。
「悪くないですね」
「切れ味と頑丈さは保証する。多少雑に扱っても壊れない。反りがあって切っ先も丸いから、獣の解体にも向いている」
おお。良いねそれ。
「ちょっと試し斬りとか出来ます?」
俺がそう尋ねると、おじさんは壁際に積んであった薪を差し出してくれた。
俺はその場にしゃがむと、薪に鉈で一撃与える。ザクッと一気に薪の中程まで食い込む鉈。おお。良いね。更に二度、トントンとしただけで薪は真っ二つになった。その後何度か薪を叩き斬り、細くなった薪を更に鉈でこそぐように削っていく。うん。良く切れる。これは買いかもな。
「これください」
「四千五百エランだ」
流石に良い物だとそれなりのお値段だな。まあでもメンテナンスをしながら使っていけば、長持ちしそうだ。
「分かりました」
俺は四千五百エラン払って鉈を買い、鍛冶屋を出た。すると外でバヨネッタさんが待っていた。
「あれ? 何でここに? 何かあったんですか?」
俺が首を傾げて尋ねると、
「あったと言えばあったわね」
と曖昧な反応だ。
「熊、ですか?」
俺はアニンを翼に変化させて空を飛びながら、バヨネットに乗って俺の先を飛ぶバヨネッタさんに尋ねる。
「ええ、それもただの熊じゃなくて魔物よ」
魔熊か。何でも最近になって村の南西にこの魔熊か出没するようになって、村人たちは困っていたのだそうだ。
そこで村人たちは冒険者ギルドに依頼を出し、やって来た冒険者たちが村周辺の見回りをしていたらしい。そして魔熊の痕跡を見付けたその冒険者たちは、今日、朝早くから村の南西へと向かい、退治してくる手筈になっていたのだが……、
「もう、夕暮れですね」
俺は学校から帰宅してからこっちに来た、なのでもう夕暮れだ。この村は山脈の東側にあるので日が沈むのは早い。朝から熊狩りに出たと言うのに、この時間になっても戻ってこないとなると、村人が心配するのも分かるな。
「それでバヨネッタさんまで、助けを求める声が上がってきた訳ですか」
「まあ、そう言う事ね」
バヨネッタさんは魔女と貴族をミックスしたような格好しているからな。強そうに見えたのだろう。
「無視しても良かったのでは?」
バヨネッタさんならその選択もあったはずだ。
「そうね。ハルアキがいなければそうしていたわね」
「俺かいなければ、ですか?」
バヨネッタさんは口をつぐんで、それ以上は語らなかった。なんだろう? 俺、またバヨネッタさんたちに迷惑掛けてるのかな?
そう思っていると、俺たちが目指す先で火柱が上がった。
「なんだ!?」
「魔熊ね。どうやら火属性の魔熊のようね」
マジか!? ヌーサンス島の大トカゲみたいな感じか! 見れば山のあちこちで煙が上がり、それはこちらへ近付いてきていた。
「冒険者たち、生き残りがいるみたいですね」
「そうね」
俺たちは現場へと急いだ。
魔熊は大きかった。五メートルはある。その魔熊から背を向けて、冒険者たちがほうほうのていで逃げている。ある者は腕を押さえ、ある者は足を引き摺り、ある者は仲間を背負っている。これで逃げ切れるはずもない。
そしてそんな冒険者たちに照準を定めた魔熊が大口を開ける。背がグンと大きくなったかと思うと、口腔に炎がちらつく。火炎を吐き出そうというのだ。
ボォッと辺りの空気を燃焼させながら、魔熊から吐き出された火炎が冒険者を襲う。
「『聖結界』!!」
俺はとっさに魔熊と冒険者たちの間に入ると、『聖結界』を展開した。火炎は『聖結界』に阻まれ、俺や冒険者たちの元まで届く事はなかった。
「大丈夫ですか!?」
結界内の冒険者たちを振り返るが、誰一人大丈夫そうには見えなかった。俺は『空間庫』からポーションを取り出すと、怪我を負ってもう一歩も動けそうにない冒険者たちの元に置き、自分は『聖結界』から外に出た。
空を見上げると、バヨネッタさんが飛んでいる。事前に言われている。「私は手出ししない。ハルアキ一人で倒しなさい」と。これは俺への試練なのだろうか? それとも信頼なのだろうか?
「ふう」
俺は覚悟を決めて魔熊と対峙する。アニンは使い慣れた黒剣バージョンだ。
「グワアアアアッ!!」
吠える魔熊が、四つ足で一気に距離を詰めてきたかと思うと、そのまま右前足の爪を振り抜いてきた。
俺は冷静にそれをバックステップで避けると、避けざまに黒剣を横に薙ぐ。黒い刃の波動が迸り、魔熊の毛皮を傷付けた。どうやら黒剣で十分ダメージを与えられそうだ。
「グワアアアアッ!!」
自身が傷を負った事に激昂する魔熊。激情のままに前足の鋭い爪を振り回してくるが、バヨネッタさんの魔弾に比べればなんて事はない。すいすい避けられる。俺は魔熊の攻撃を躱しながら、その前足に刃傷を刻んでいく。
「グワアアアアッ!!」
更に吠える魔熊は、二足で立ち上がったかと思うと大きく開口する。火炎がくる。と思った次の瞬間には魔熊の口から俺目掛けて、真っ赤な火炎が吐き出されていた。
俺はそれをアニンを大盾に変化させて防いだ。盾越しに熱が伝わってきて手が熱くなったが、耐えられない程ではなかった。
が、ドンッ!! と、魔熊は俺の動きが止まったのを見計らい、更に突進してきたのだ。その攻撃に吹っ飛ばされる俺。近くの木まで吹っ飛ばされ、木に当たって止まったが、攻撃の衝撃で身体が硬直する。
それを見逃す魔熊ではなく、追い討ちを掛ける為に猛スピードでこちらに突進してきた。
「……アニン」
しかしそれが魔熊の油断に繋がった。俺はアニンを黒い槍に変化させると、それを手腕に変化させたアニンに持たせ、魔熊目掛けて伸張させた。
猛スピードで動く物体と言うものは、急に止まったり方向転換したり出来ないものだ。黒槍は魔熊の喉元に突き刺さり、魔熊は自身の突進力によって、その槍を深く自身の喉奥まで突き刺し、貫通させてしまった。
「グオオ……ッ」
喉を槍が貫通した事で、その痛みでその場から動けなくなる魔熊。対してやっと身体が動くようになった俺。俺はそれでも周囲への敵意を崩さない魔熊へ、慎重に歩み寄ると、最後の足掻きと爪を振るう魔熊の横に回って、その突き破られた魔熊の喉目掛けてトドメの一撃を見舞った。
黒槍の一撃に大量に血を流した魔熊は、流石に逃げ出そうと試みるが時既に遅く、喉からの出血多量で倒れ伏すと、数分後には動かなくなり息を引き取ったのだった。
「はあ。なんとか勝てた」
空を見上げてバヨネッタさんの姿を探すと、何処かへ飛んでいくところだった。
思わず声が出てしまった。俺のナイフが眼前で研がれ、火花を散らしているからだ。
俺は今、村の鍛冶屋に来ている。先日ウサギやネズミなどを捌いたナイフに、刃欠けが出来てしまったからだ。
村外れの鍛冶屋は、鍛冶に使う炉の火が良く見えるように、窓が閉じられ暗かった。俺が刃の研ぎをお願いすると、鍛冶屋のおじさんは無愛想ながら引き受けてくれた。
刃を研ぐのに使われた研ぎ器は、円盤状の研ぎ石をろくろのように足踏みで回転させて、そこに刃を当てて研いでいくタイプの物だった。水に濡らしたりしないので、研ぐ時にがっつり火花が飛び散る。
「出来たぞ」
窓を開けて日の光に刃を晒し、鍛冶屋のおじさんは研ぎ終わったナイフを返してくれた。俺はお礼に銀貨を差し出す。二百エランは研ぎ代として高いのか低いのか分からない。ただ、二千円なら安いナイフが買えたな。とは思った。
「ここって、刃物の売買とかやってたりします?」
村外れまで足を伸ばしたついでに尋ねてみた。もう一度ここに来るのも面倒臭い。と言う考えがあったからだ。
「何が欲しい?」
売っていそうである。
「もう少し大型のナイフか鉈が欲しいんです。このナイフだと、獣を捌くのに難儀して」
おじさんは少し黙考した後、「ちょっと待っていろ」と言い残し、奥へと引っ込んでいった。
待っている間、手持ち無沙汰で鍛冶屋の中を見ても、どれが何だか良く分からない。鍛冶道具であろう金槌ややっとこ、金床くらいなら分かったが。店内に見本となるような刃物などは置かれていなかった。防犯上当然だな。
ちょっとして鍛冶屋のおじさんが、手に何やら持って戻って来た。
「それは?」
「坊主ご希望の鉈だ」
「見てみても良いですか?」
首肯するおじさん。おじさんの手から鞘ごと鉈を受け取る。三十センチ程の鞘から鉈を引き抜くと、反りのある厚い刃で、切っ先は丸みがあるが尖っている。そして木のグリップが手に良く馴染んだ。
「悪くないですね」
「切れ味と頑丈さは保証する。多少雑に扱っても壊れない。反りがあって切っ先も丸いから、獣の解体にも向いている」
おお。良いねそれ。
「ちょっと試し斬りとか出来ます?」
俺がそう尋ねると、おじさんは壁際に積んであった薪を差し出してくれた。
俺はその場にしゃがむと、薪に鉈で一撃与える。ザクッと一気に薪の中程まで食い込む鉈。おお。良いね。更に二度、トントンとしただけで薪は真っ二つになった。その後何度か薪を叩き斬り、細くなった薪を更に鉈でこそぐように削っていく。うん。良く切れる。これは買いかもな。
「これください」
「四千五百エランだ」
流石に良い物だとそれなりのお値段だな。まあでもメンテナンスをしながら使っていけば、長持ちしそうだ。
「分かりました」
俺は四千五百エラン払って鉈を買い、鍛冶屋を出た。すると外でバヨネッタさんが待っていた。
「あれ? 何でここに? 何かあったんですか?」
俺が首を傾げて尋ねると、
「あったと言えばあったわね」
と曖昧な反応だ。
「熊、ですか?」
俺はアニンを翼に変化させて空を飛びながら、バヨネットに乗って俺の先を飛ぶバヨネッタさんに尋ねる。
「ええ、それもただの熊じゃなくて魔物よ」
魔熊か。何でも最近になって村の南西にこの魔熊か出没するようになって、村人たちは困っていたのだそうだ。
そこで村人たちは冒険者ギルドに依頼を出し、やって来た冒険者たちが村周辺の見回りをしていたらしい。そして魔熊の痕跡を見付けたその冒険者たちは、今日、朝早くから村の南西へと向かい、退治してくる手筈になっていたのだが……、
「もう、夕暮れですね」
俺は学校から帰宅してからこっちに来た、なのでもう夕暮れだ。この村は山脈の東側にあるので日が沈むのは早い。朝から熊狩りに出たと言うのに、この時間になっても戻ってこないとなると、村人が心配するのも分かるな。
「それでバヨネッタさんまで、助けを求める声が上がってきた訳ですか」
「まあ、そう言う事ね」
バヨネッタさんは魔女と貴族をミックスしたような格好しているからな。強そうに見えたのだろう。
「無視しても良かったのでは?」
バヨネッタさんならその選択もあったはずだ。
「そうね。ハルアキがいなければそうしていたわね」
「俺かいなければ、ですか?」
バヨネッタさんは口をつぐんで、それ以上は語らなかった。なんだろう? 俺、またバヨネッタさんたちに迷惑掛けてるのかな?
そう思っていると、俺たちが目指す先で火柱が上がった。
「なんだ!?」
「魔熊ね。どうやら火属性の魔熊のようね」
マジか!? ヌーサンス島の大トカゲみたいな感じか! 見れば山のあちこちで煙が上がり、それはこちらへ近付いてきていた。
「冒険者たち、生き残りがいるみたいですね」
「そうね」
俺たちは現場へと急いだ。
魔熊は大きかった。五メートルはある。その魔熊から背を向けて、冒険者たちがほうほうのていで逃げている。ある者は腕を押さえ、ある者は足を引き摺り、ある者は仲間を背負っている。これで逃げ切れるはずもない。
そしてそんな冒険者たちに照準を定めた魔熊が大口を開ける。背がグンと大きくなったかと思うと、口腔に炎がちらつく。火炎を吐き出そうというのだ。
ボォッと辺りの空気を燃焼させながら、魔熊から吐き出された火炎が冒険者を襲う。
「『聖結界』!!」
俺はとっさに魔熊と冒険者たちの間に入ると、『聖結界』を展開した。火炎は『聖結界』に阻まれ、俺や冒険者たちの元まで届く事はなかった。
「大丈夫ですか!?」
結界内の冒険者たちを振り返るが、誰一人大丈夫そうには見えなかった。俺は『空間庫』からポーションを取り出すと、怪我を負ってもう一歩も動けそうにない冒険者たちの元に置き、自分は『聖結界』から外に出た。
空を見上げると、バヨネッタさんが飛んでいる。事前に言われている。「私は手出ししない。ハルアキ一人で倒しなさい」と。これは俺への試練なのだろうか? それとも信頼なのだろうか?
「ふう」
俺は覚悟を決めて魔熊と対峙する。アニンは使い慣れた黒剣バージョンだ。
「グワアアアアッ!!」
吠える魔熊が、四つ足で一気に距離を詰めてきたかと思うと、そのまま右前足の爪を振り抜いてきた。
俺は冷静にそれをバックステップで避けると、避けざまに黒剣を横に薙ぐ。黒い刃の波動が迸り、魔熊の毛皮を傷付けた。どうやら黒剣で十分ダメージを与えられそうだ。
「グワアアアアッ!!」
自身が傷を負った事に激昂する魔熊。激情のままに前足の鋭い爪を振り回してくるが、バヨネッタさんの魔弾に比べればなんて事はない。すいすい避けられる。俺は魔熊の攻撃を躱しながら、その前足に刃傷を刻んでいく。
「グワアアアアッ!!」
更に吠える魔熊は、二足で立ち上がったかと思うと大きく開口する。火炎がくる。と思った次の瞬間には魔熊の口から俺目掛けて、真っ赤な火炎が吐き出されていた。
俺はそれをアニンを大盾に変化させて防いだ。盾越しに熱が伝わってきて手が熱くなったが、耐えられない程ではなかった。
が、ドンッ!! と、魔熊は俺の動きが止まったのを見計らい、更に突進してきたのだ。その攻撃に吹っ飛ばされる俺。近くの木まで吹っ飛ばされ、木に当たって止まったが、攻撃の衝撃で身体が硬直する。
それを見逃す魔熊ではなく、追い討ちを掛ける為に猛スピードでこちらに突進してきた。
「……アニン」
しかしそれが魔熊の油断に繋がった。俺はアニンを黒い槍に変化させると、それを手腕に変化させたアニンに持たせ、魔熊目掛けて伸張させた。
猛スピードで動く物体と言うものは、急に止まったり方向転換したり出来ないものだ。黒槍は魔熊の喉元に突き刺さり、魔熊は自身の突進力によって、その槍を深く自身の喉奥まで突き刺し、貫通させてしまった。
「グオオ……ッ」
喉を槍が貫通した事で、その痛みでその場から動けなくなる魔熊。対してやっと身体が動くようになった俺。俺はそれでも周囲への敵意を崩さない魔熊へ、慎重に歩み寄ると、最後の足掻きと爪を振るう魔熊の横に回って、その突き破られた魔熊の喉目掛けてトドメの一撃を見舞った。
黒槍の一撃に大量に血を流した魔熊は、流石に逃げ出そうと試みるが時既に遅く、喉からの出血多量で倒れ伏すと、数分後には動かなくなり息を引き取ったのだった。
「はあ。なんとか勝てた」
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