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チェックイン
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昼を超えて山道をしばらく進んでいると、石柱が二本、道の両端にドーンと立っているのが見えてきた。あれには見覚えがある。ムシタの町を出る時にも見かけている。何でも魔物除けの石柱だそうで、あの石柱で人間の生活圏をぐるりと囲っているのだそうだ。
「おお~! 建物が見えてきた!」
石柱を超えて更にしばらく進むと、右手には山の斜面に作られた段々畑。それが左手のアロッパ海まで続いている場所に出た。その間に家々が点在し、ここが人間たちの生活圏である村だと教えてくれている。
早朝からラバを歩かせ、途中に二回の戦闘と二回の休憩を挟み、日が落ちる前にようやく村にたどり着いた。
「やっと着いたあ~」
村には中央に集会所になるような広場があり、そこは宿屋通りのようで、十軒程の宿屋が広場を挟んで建ち並んでいた。
アンリさんは広場に到着するや、その宿屋通りでもグレードの高そうなお宿の前まで直行すると、直ぐ様馬車を降りて宿の主人と交渉しに行った。旅慣れている。
「客室は十分空いているそうです」
交渉を終えて戻ってきたアンリさんに促され、俺たち三人は馬車を降りる。アンリさんはと言えば、馬車を宿の裏手へと置いてくる為に、馬車に乗ったまま宿の小間使いについて行ってしまった。
「ん~」
俺は馬車から降りると、馬車の振動で強張った身体を、伸ばすようにして解していく。
「何しているの? 行くわよ」
バヨネッタさんに促され、宿の玄関を潜る。ロビーはエントランスホールもあるような吹き抜けになっていて、全開にされた戸の向こうに、日暮れのアロッパ海が一望出来た。まあ、東を向いているので夕暮れは見れないが、きっと朝日は美しいのだろう。
「ハルアキ! さっさとチェックインしなさい!」
俺が暮れゆくシービューに見惚れていると、バヨネッタさんに叱られてしまった。
「え? 俺がチェックインするんですか?」
「そうよ。アンリがこの場にいないんだから、あなたしかいないでしょ」
まるでさも当然のように言われても。俺十六歳だよ? チェックインなんてした事ないよ。それをいきなり、しかも異世界でやる事になるとは。だがそんな事言っていられない。何故ならバヨネッタさんがイライラしているからだ。なので俺は素直に従って宿のフロントに進み出る。
「チェックインお願いします」
フロントには中肉中背の宿のご主人が穏やかな顔でこちらを見ていた。
「女性二名、男性二名。ともにツインのお部屋ですね」
とご主人。どうやらアンリさんがある程度の情報を宿に伝えてくれていたようだ。
「はい、それで」
「ではこちらの宿帳にお名前をご記入ください」
宿帳に名前? 俺の名前を書けば良いのか? 宿のご主人を見るがニコニコしているだけだ。と、スッとオルさんが俺の背後にやってきて、耳打ちしてくれた。
「バヨネッタ一行って書けば良いんだよ」
成程! 俺は『バヨネッタ』とまで書いて後ろを振り返る。
「一行のスペルが分かりません」
「あらら」
眉尻を下げるオルさんに、クスッと笑う宿のご主人。うう、情けないが、一行なんて文字、オルドランド語で書けないよ。困った俺の代わりに、オルさんが『一行』と書いてくれた。ほ~ん、そう言うスペルなのね。
「では前金でお一人様二千エラン頂きます」
おう、前金を払うタイプのお宿なのか。多分チェックアウトの時にも払うから、相当な額になりそうだな。などと考えている間に、オルさんが緑のカードで支払ってくれた。
「ご入金ありがとうございます。ではお部屋へご案内いたします」
カードでの入金を確認したご主人が、宿の使用人に、俺たちを部屋に連れて行くように指示を出す。
「全く、こんな事も一人で出来ないなんて、情けないわね」
部屋に着くまでの廊下で、バヨネッタさんに文句を言われてしまったが、返す言葉もない。
着いた部屋は意外とシンプルな造りだった。部屋はそれなりに広く、のびのび出来そうだが、調度品も凝った造りをしていないものばかりで、高級宿だが、最上級の部屋と言う訳でもなさそうだ。
まあ、俺は自分の部屋に帰るので関係ないが。いや、それなのに俺の分の宿代を払って貰うのだから、かなり迷惑をかけているか。申し訳ない。と心の中で謝っておく。
「じゃあ俺、帰りますね」
一回ベッドに横になった俺は、旅疲れで寝落ちしそうになるのをグッと堪えて起き上がると、窓から海を眺めていたオルさんに一言断りを入れる。
「ああ、もう帰るのかい? ならバヨネッタ様にも言ってから帰った方が良いよ」
「そうですね」
と返した俺は、部屋から出ると、すぐ横の部屋の扉をノックする。出てきたのはアンリさんだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、家に帰ろうかと思いまして、ごあいさつに」
「ああ。バヨネッタ様。ハルアキくんが家にお帰りになるそうです」
事情を把握したアンリさんが、部屋でお茶を飲みながら寛いでいたバヨネッタさんに伝えてくれた。
「そう、分かったわ」
それを聞いたバヨネッタさんは素っ気ない態度だ。まあ、情けない姿見せちゃったしな。バヨネッタさんとはアイコンタクトで少しあいさつを交わし、自分の部屋に戻ると、もう一度オルさんにお別れのあいさつをして転移門から地球に戻った。日本は既に夜だった。
「おお~! 建物が見えてきた!」
石柱を超えて更にしばらく進むと、右手には山の斜面に作られた段々畑。それが左手のアロッパ海まで続いている場所に出た。その間に家々が点在し、ここが人間たちの生活圏である村だと教えてくれている。
早朝からラバを歩かせ、途中に二回の戦闘と二回の休憩を挟み、日が落ちる前にようやく村にたどり着いた。
「やっと着いたあ~」
村には中央に集会所になるような広場があり、そこは宿屋通りのようで、十軒程の宿屋が広場を挟んで建ち並んでいた。
アンリさんは広場に到着するや、その宿屋通りでもグレードの高そうなお宿の前まで直行すると、直ぐ様馬車を降りて宿の主人と交渉しに行った。旅慣れている。
「客室は十分空いているそうです」
交渉を終えて戻ってきたアンリさんに促され、俺たち三人は馬車を降りる。アンリさんはと言えば、馬車を宿の裏手へと置いてくる為に、馬車に乗ったまま宿の小間使いについて行ってしまった。
「ん~」
俺は馬車から降りると、馬車の振動で強張った身体を、伸ばすようにして解していく。
「何しているの? 行くわよ」
バヨネッタさんに促され、宿の玄関を潜る。ロビーはエントランスホールもあるような吹き抜けになっていて、全開にされた戸の向こうに、日暮れのアロッパ海が一望出来た。まあ、東を向いているので夕暮れは見れないが、きっと朝日は美しいのだろう。
「ハルアキ! さっさとチェックインしなさい!」
俺が暮れゆくシービューに見惚れていると、バヨネッタさんに叱られてしまった。
「え? 俺がチェックインするんですか?」
「そうよ。アンリがこの場にいないんだから、あなたしかいないでしょ」
まるでさも当然のように言われても。俺十六歳だよ? チェックインなんてした事ないよ。それをいきなり、しかも異世界でやる事になるとは。だがそんな事言っていられない。何故ならバヨネッタさんがイライラしているからだ。なので俺は素直に従って宿のフロントに進み出る。
「チェックインお願いします」
フロントには中肉中背の宿のご主人が穏やかな顔でこちらを見ていた。
「女性二名、男性二名。ともにツインのお部屋ですね」
とご主人。どうやらアンリさんがある程度の情報を宿に伝えてくれていたようだ。
「はい、それで」
「ではこちらの宿帳にお名前をご記入ください」
宿帳に名前? 俺の名前を書けば良いのか? 宿のご主人を見るがニコニコしているだけだ。と、スッとオルさんが俺の背後にやってきて、耳打ちしてくれた。
「バヨネッタ一行って書けば良いんだよ」
成程! 俺は『バヨネッタ』とまで書いて後ろを振り返る。
「一行のスペルが分かりません」
「あらら」
眉尻を下げるオルさんに、クスッと笑う宿のご主人。うう、情けないが、一行なんて文字、オルドランド語で書けないよ。困った俺の代わりに、オルさんが『一行』と書いてくれた。ほ~ん、そう言うスペルなのね。
「では前金でお一人様二千エラン頂きます」
おう、前金を払うタイプのお宿なのか。多分チェックアウトの時にも払うから、相当な額になりそうだな。などと考えている間に、オルさんが緑のカードで支払ってくれた。
「ご入金ありがとうございます。ではお部屋へご案内いたします」
カードでの入金を確認したご主人が、宿の使用人に、俺たちを部屋に連れて行くように指示を出す。
「全く、こんな事も一人で出来ないなんて、情けないわね」
部屋に着くまでの廊下で、バヨネッタさんに文句を言われてしまったが、返す言葉もない。
着いた部屋は意外とシンプルな造りだった。部屋はそれなりに広く、のびのび出来そうだが、調度品も凝った造りをしていないものばかりで、高級宿だが、最上級の部屋と言う訳でもなさそうだ。
まあ、俺は自分の部屋に帰るので関係ないが。いや、それなのに俺の分の宿代を払って貰うのだから、かなり迷惑をかけているか。申し訳ない。と心の中で謝っておく。
「じゃあ俺、帰りますね」
一回ベッドに横になった俺は、旅疲れで寝落ちしそうになるのをグッと堪えて起き上がると、窓から海を眺めていたオルさんに一言断りを入れる。
「ああ、もう帰るのかい? ならバヨネッタ様にも言ってから帰った方が良いよ」
「そうですね」
と返した俺は、部屋から出ると、すぐ横の部屋の扉をノックする。出てきたのはアンリさんだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、家に帰ろうかと思いまして、ごあいさつに」
「ああ。バヨネッタ様。ハルアキくんが家にお帰りになるそうです」
事情を把握したアンリさんが、部屋でお茶を飲みながら寛いでいたバヨネッタさんに伝えてくれた。
「そう、分かったわ」
それを聞いたバヨネッタさんは素っ気ない態度だ。まあ、情けない姿見せちゃったしな。バヨネッタさんとはアイコンタクトで少しあいさつを交わし、自分の部屋に戻ると、もう一度オルさんにお別れのあいさつをして転移門から地球に戻った。日本は既に夜だった。
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