世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
49 / 639

ゲル

しおりを挟む
 山道をテヤンとジールが全力疾走している。何故なら、狼の集団に追われているからだ。


 狼の数は五頭。茶と灰の毛皮に包まれた奴らは、鋭い牙を剥き出しにしてこちらへ迫ってきている。俺は全力疾走のテヤンとジールに振り落とされないように、馬車にしがみついていた。


 ダァン! ダァン!


 馬車の屋根から銃声が響く。バヨネッタさんだ。狼たちを察知した俺は直ぐ様バヨネッタさんに報告。その指示の下、現状に至っている。


 ダァン! ダァン!


 あと一頭。俺のいる御者台からはひさしがあって見られないが、バヨネッタさんが銃弾を外すとは考えられない。しかし苦境は続く。


「バヨネッタさん! 左右から狼の援軍! 挟み撃ちです! 数はともに五!」


「了解」


 ダァン!


 バヨネッタさんは俺が慌てて報告したにも拘らず、動じずにまず後方の残る一頭を仕留めた。


 ダァンダァン!


 そして仕掛けてくる左右の狼の群れに、早撃ちをかましていく。



 戦闘はバヨネッタさんの圧勝で終わった。全ての狼は撃ち倒され、死骸は山野に放置された。


「あのまま放置で良かったんですかね?」


 馬車内に戻ってきたバヨネッタさんに、小窓越しに尋ねる。


「良いのよ。放っておけば、他の魔物や野生動物たちが処理してくれるわ。なに? 毛皮でも欲しかったの?」


 そんなつもりはなかったが。そう聞こえてしまったかも知れない。


「いえ、そういう訳では。ただ、こっちの流儀がわからなかっただけで。魔石とか回収しなくて良かったのかな? って」


「あれは野生動物よ。魔石なんてないわ」


 え? マジで?


「それにしても、一日に二度も襲われるなんて、運がないですね」


 とオルさん。そうなのか? ヌーサンス島では日々戦っていたから、数の多い少ないは分からない。今日は二度襲われた。一度目は鳥で二度目がさっきの狼だ。


「魔王の影響が出ているのかしら? でも鳥も狼も野生動物だし『狂乱』の影響は受けないはず」


「それ、俺がいるせいかも知れません」


「は?」と三人から声が上がった。横でテヤンとジールを操るアンリさんの顔は不思議そうだ。


「何でか分からないんですけど、俺はヌーサンス島、ベルム島にいた時から、良く魔物や野生動物に襲われていましたから。もしかしたら、そういうマイナスのギフト? 隠しステータスがあるのかも知れません」


 アンリさん、ちょっと顔に出過ぎじゃないですかね?


「マイナスの隠しステータスねえ。聞いた事はないけど、可能性としてあるかも知れないわね。でもまあ、今は良いわ。日も傾いてきたし、今日はもう野営の準備をしましょう」


 バヨネッタさんはあまり気にしていない様子で、俺たちに指示を下した。



 山道を少し外れた山林に、広めのスペースを見つけたので、日が暮れる前にそこにテントを張ることになった。テントと言ってもお気楽キャンプで使う簡易テントではなく、モンゴル民族が生活に使うようなゲルである。


 まずは見つけたスペースに俺が『聖結界』を張り、テヤンとジールを馬車と繋いでいるハーネスから外してやる。手綱を手近な木に括り付けると、バケツに魔法で水を入れて与える。


 その間にバヨネッタさんがスペースの凸凹している地面を魔法でならすと、『宝物庫』からゲル作りに必要な建材をどんどん出してきた。テントと言うには結構な大荷物である。


 まず斜め格子の壁板を建てていく。これは蛇腹状に折り畳める仕様で、マジックハンドみたいに伸縮するのだ。これを六枚、伸ばして円形に取り囲み、扉を付ければ完成だ。壁材一枚で一人分のスペースらしいので、四人で使うにはちょっと大きめだ。


 次に円形の中央に二本の柱を建てる。その上には丸い天窓が取り付けられていて、そこに屋根棒と言う梁を天窓と壁材の間を渡すように取り付けていく。


「って言うか、バヨネッタさんも見てないで手伝ってくださいよ」


「嫌よ。私は建材を提供したでしょ」


 わがまま魔女め。しかしもたもたしていたら日が暮れてしまう。どうしたものか? と俺が思案していたら、オルさんが思わぬ提案をしてくれた。


「アニンくんは確か様々なものに変化出来るんだよね?」


「? はい」


「なら、腕なんかには変化出来ないのかな?」


 腕に? そんなの考えた事もなかった。アニン、そんな事出来るの?


『うむ。出来るぞ』


 出来るんかい! ならもっと早くに教えて貰いたかったよ。


『ただし魔力はかなり消費するがな』


 成程、それで今まで教えてくれなかったのね。なんか事情も知らずに罵ってごめん。


 だがまあ、今なら俺の『聖結界』がなくなったところで、バヨネッタさんの結界があるから大丈夫だろ。アニン、腕になってくれ。


『分かった』


 俺の願いに応えるように、アニンが一対の黒い腕に変化する。俺の肩から生える一対の腕に柱を支えて貰っているうちに、俺とオルさん、アンリさんで屋根棒をどんどん取り付けていった。これでゲルの骨組みは完成。


 この骨組みの上に、まず幾何学模様の入ったシーツを覆い被せる。これがゲルに入った時に、壁や天井の柄になるのだ。次に断熱材でゲルを覆っていく。素材は分厚いフェルト地でとても暖かい。その上から更に木綿のカバーを被せ、それらを壁をぐるりと回す長いベルトで縛る。


「ふええ、出来た」


 何とか日暮れ前にゲルが完成させられた。


「まだ終わりじゃないわよ」


 え? バヨネッタさんの言葉にどっと疲れを感じる。まだあるのか? 俺は何をすれば良いのか? と様子を窺っていると、天窓部分を覆うカバーを取り付けたり、ゲルの中央、柱部分にキッチンストーブを設置していったり、地面に絨毯を敷いていったり、やる事は結構あった。最後に簡易ベッドや椅子、テーブルを設置して、やっと完成である。


「ああ、疲れた~」


 俺はゲル内で自ら組み立てた椅子に、どっかりと身体を預ける。意外とゲル内は広く、天窓が吹き抜けているのもあってリラックス出来た。


「お疲れ様」


 そう言って、アンリさんがキッチンストーブで作ったお茶を差し出してくれた。何のお茶か知らないが、苦くて身体に染み入る味だった。


 その日の夕飯は昼間襲ってきた鳥の串焼きに豆の煮物、副菜として酢漬けの野菜、デザートとしてビヨが供された。疲れてはいたが腹ペコだったのでガツガツ食べれました。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

処理中です...