45 / 635
焼きそば
しおりを挟む
ベッドにて微睡む。やはり家のベッドは寝心地が良い。船のベッドも船室のグレードが高かったから、寝心地は悪くなかったが、慣れたベッドの方が何とも言えない安心感があって、ぐっすり眠れると言うものだ。
「お兄ちゃん! もうお昼だよ! いつまで寝てるつもり!」
だと言うのに。はあ。
得てして現実の妹と言うのはうるさい生き物である。それが死にかけた船旅から、やっとの思いで地球に帰還した俺に対する態度だろうか?
まあ恐らくはリビングでスマホをいじっていたところを、母に言われて嫌々俺を起こしにきたのだろう。
「聞いてるの!?」
「……うるさい」
「はあ!? こっちだってお母さんに言われてなきゃ呼びになんて来ないよ!」
どうやら俺の推測は当たったらしい。しかし今日のカナは虫の居所が悪そうだ。
「何だよ、随分不機嫌だな?」
俺はのそのそとベッドから這い上がりながらカナに尋ねる。
「お兄ちゃんには関係ない!」
「男にでも振られたか?」
「はあ?」
うわっ、すっげえ冷たい目をされた。バヨネッタさんにだってそんな冷たい目をされた事ないぞ。
「…………私じゃなくてアオイだよ。振られたの」
説明してくれるんだ。自分の中でモヤモヤを抱えきれなくなってたのかな?
「ああ、アオイちゃんか」
アオイちゃんはカナの一番の親友だ。小学校高学年から仲良くしていて、うちにも良く遊びにきている。
「アオイの彼氏だった奴が、アオイと付き合ってるのに私にちょっかい掛けてきたの」
何だと!? 命知らずな。
「それをアオイに言ったらケンカになって、しかもアオイ、彼氏にそれが原因で振られたみたいで、…………私のせいだって」
それは中々キツいシチュエーションだな。軽率にからかってはいけなかった。
「でも、カナはアオイちゃんと仲直りしたいんだろ?」
頷くカナ。
「なら直ぐ様DMなり電話するなり、直接会うなりしろ。もしかしたら、俺みたいにもう会えなくなるかも知れないんだから」
俺の言葉にカナは泣きそうになりながら頷き、すぐにスマホをいじり始めた。タカシとは今でも会えているが、他の四人とはあの事故以来だ。人間、いつ身近な人と会えなくなるか分からない。人間関係に後悔は少ない方が良いだろう。
「アオイ、もう怒ってないって」
アオイちゃんとDMのやり取りを終えたカナは、スッキリした顔をしていた。
「お昼ご飯食べ終わったら、会いに行ってくるね」
にっこり笑うカナ。まあ、こんな日もあるだろう。
「二人とも何してるの? ご飯冷めるわよ」
俺を呼びに行ったカナが戻ってこなかった為に、結局母が俺たちを呼びにきた。
昼は焼きそばだった。焼きそばは良い。シンプルながらソースがきいてていくらでも食べられる味だ。塩味もまた良い。
焼きそばには色々流派がある。
例えば中に入れる具材。肉や野菜、海鮮など。入れる物に料理人の拘りが出る。母は豚こまで野菜は全て短冊切り。これが父になると、肉はベーコンで野菜は大きめのザク切りになる。ちなみに俺が作る時は、豚こまでピーマンが多めになる。焼きそばのピーマン美味しいよね?
例えば上に載せるトッピング。紅生姜と青のりは定番だが、焼きうどんのように鰹節を載せる者や、マヨネーズやケチャップをかける者もいるだろう。ちなみに我が家は全員青のり派で、皆麺が見えなくなるくらい青のりを掛けて食べる。美味いは正義だ。
「全く、春休みだからって遊び過ぎじゃないの?」
母に釘を刺された。まあ、そうだろう。母からしたら、友達の家に十日もゲーム合宿なんて馬鹿な事して帰ってきたら、昼まで寝ていたのだ。将来が不安になるってものだろう。
「四月から二年生になるのよ? ちょっとは勉強してるの?」
「まあ、それなりに」
それなりだ。俺は家から近いと言う理由で今の学校を選んだのだ。うちの学校はそれ程偏差値は高くない。それなりに勉強していれば、それなりの成績が取れて、将来はそれなりの大学に進学する事になるのだろう。
「はあ。それなり、ねえ」
母は納得していなさそうだ。
「春秋、将来何になるつもり?」
心配になるのは分からんでもないが、高二で将来なりたいものを決めているやつの方が少ないだろう。
「そうだなあ。異世界調査隊にでも入ろうかなあ」
二人に大笑いされてしまった。そこまで笑われる事か?
「お兄ちゃん、今や異世界調査隊は、世界トップの学者さんなんかが参加しているプロジェクトなんだよ? お兄ちゃんが入れる訳ないじゃん」
うん。でも俺、その調査隊のトップの桂木翔真から直接スカウトされたんだけどね。まあ、断った話だ。ここで蒸し返す事もないか。
「そう言えばお兄ちゃんって、何のゲームやってるの?」
うむ。一気に話が変わったな妹よ。
「この春休みはずーっと船の上にいたよ。流行り病に罹ったり、海賊に襲われたり、先輩の女性プレイヤーにしごかれたりな」
嗚呼、大変な十日間だった。
「その女性プレイヤーってバヨネッタさん?」
「うぐっ、何故分かった?」
食べていた焼きそばが喉に詰まり、むせそうになってしまった。
「何となく? 女の勘ってやつ?」
何だその曖昧なの。カナも母もニヤニヤしやがって。
「じゃああのコスプレってそのゲームのやつなんだ?」
ぐいぐいくるな妹よ。
「まあそうな。そのコスプレだよ。剣と魔法のファンタジー世界を旅するってコンセプトのゲーム」
「へえ」
興味があるんだかないんだか、適当な相槌打ちやがって。
「何て名前のゲームなの?」
「海外のゲームだから、カナに言っても分かんねえよ」
「じゃあいいや」
やっぱり興味ないなコイツ。
「バヨネッタさんは良いわよねえ。美人だし、どこか気品があるわ。またいつでも遊びに来て良いわよ。って言っておいて」
とニコニコの母である。息子が女性を連れてきたのがそんなに嬉しかったのだろうか? でもなあ、バヨネッタさんかあ、何しでかすか分からないからあんまり連れてきたくないんだよなあ。でもニコニコ顔の母にそれは言い難い。
「まあ、そうね。機会があったらね」
そうやって曖昧に濁す俺がいた。
「お兄ちゃん! もうお昼だよ! いつまで寝てるつもり!」
だと言うのに。はあ。
得てして現実の妹と言うのはうるさい生き物である。それが死にかけた船旅から、やっとの思いで地球に帰還した俺に対する態度だろうか?
まあ恐らくはリビングでスマホをいじっていたところを、母に言われて嫌々俺を起こしにきたのだろう。
「聞いてるの!?」
「……うるさい」
「はあ!? こっちだってお母さんに言われてなきゃ呼びになんて来ないよ!」
どうやら俺の推測は当たったらしい。しかし今日のカナは虫の居所が悪そうだ。
「何だよ、随分不機嫌だな?」
俺はのそのそとベッドから這い上がりながらカナに尋ねる。
「お兄ちゃんには関係ない!」
「男にでも振られたか?」
「はあ?」
うわっ、すっげえ冷たい目をされた。バヨネッタさんにだってそんな冷たい目をされた事ないぞ。
「…………私じゃなくてアオイだよ。振られたの」
説明してくれるんだ。自分の中でモヤモヤを抱えきれなくなってたのかな?
「ああ、アオイちゃんか」
アオイちゃんはカナの一番の親友だ。小学校高学年から仲良くしていて、うちにも良く遊びにきている。
「アオイの彼氏だった奴が、アオイと付き合ってるのに私にちょっかい掛けてきたの」
何だと!? 命知らずな。
「それをアオイに言ったらケンカになって、しかもアオイ、彼氏にそれが原因で振られたみたいで、…………私のせいだって」
それは中々キツいシチュエーションだな。軽率にからかってはいけなかった。
「でも、カナはアオイちゃんと仲直りしたいんだろ?」
頷くカナ。
「なら直ぐ様DMなり電話するなり、直接会うなりしろ。もしかしたら、俺みたいにもう会えなくなるかも知れないんだから」
俺の言葉にカナは泣きそうになりながら頷き、すぐにスマホをいじり始めた。タカシとは今でも会えているが、他の四人とはあの事故以来だ。人間、いつ身近な人と会えなくなるか分からない。人間関係に後悔は少ない方が良いだろう。
「アオイ、もう怒ってないって」
アオイちゃんとDMのやり取りを終えたカナは、スッキリした顔をしていた。
「お昼ご飯食べ終わったら、会いに行ってくるね」
にっこり笑うカナ。まあ、こんな日もあるだろう。
「二人とも何してるの? ご飯冷めるわよ」
俺を呼びに行ったカナが戻ってこなかった為に、結局母が俺たちを呼びにきた。
昼は焼きそばだった。焼きそばは良い。シンプルながらソースがきいてていくらでも食べられる味だ。塩味もまた良い。
焼きそばには色々流派がある。
例えば中に入れる具材。肉や野菜、海鮮など。入れる物に料理人の拘りが出る。母は豚こまで野菜は全て短冊切り。これが父になると、肉はベーコンで野菜は大きめのザク切りになる。ちなみに俺が作る時は、豚こまでピーマンが多めになる。焼きそばのピーマン美味しいよね?
例えば上に載せるトッピング。紅生姜と青のりは定番だが、焼きうどんのように鰹節を載せる者や、マヨネーズやケチャップをかける者もいるだろう。ちなみに我が家は全員青のり派で、皆麺が見えなくなるくらい青のりを掛けて食べる。美味いは正義だ。
「全く、春休みだからって遊び過ぎじゃないの?」
母に釘を刺された。まあ、そうだろう。母からしたら、友達の家に十日もゲーム合宿なんて馬鹿な事して帰ってきたら、昼まで寝ていたのだ。将来が不安になるってものだろう。
「四月から二年生になるのよ? ちょっとは勉強してるの?」
「まあ、それなりに」
それなりだ。俺は家から近いと言う理由で今の学校を選んだのだ。うちの学校はそれ程偏差値は高くない。それなりに勉強していれば、それなりの成績が取れて、将来はそれなりの大学に進学する事になるのだろう。
「はあ。それなり、ねえ」
母は納得していなさそうだ。
「春秋、将来何になるつもり?」
心配になるのは分からんでもないが、高二で将来なりたいものを決めているやつの方が少ないだろう。
「そうだなあ。異世界調査隊にでも入ろうかなあ」
二人に大笑いされてしまった。そこまで笑われる事か?
「お兄ちゃん、今や異世界調査隊は、世界トップの学者さんなんかが参加しているプロジェクトなんだよ? お兄ちゃんが入れる訳ないじゃん」
うん。でも俺、その調査隊のトップの桂木翔真から直接スカウトされたんだけどね。まあ、断った話だ。ここで蒸し返す事もないか。
「そう言えばお兄ちゃんって、何のゲームやってるの?」
うむ。一気に話が変わったな妹よ。
「この春休みはずーっと船の上にいたよ。流行り病に罹ったり、海賊に襲われたり、先輩の女性プレイヤーにしごかれたりな」
嗚呼、大変な十日間だった。
「その女性プレイヤーってバヨネッタさん?」
「うぐっ、何故分かった?」
食べていた焼きそばが喉に詰まり、むせそうになってしまった。
「何となく? 女の勘ってやつ?」
何だその曖昧なの。カナも母もニヤニヤしやがって。
「じゃああのコスプレってそのゲームのやつなんだ?」
ぐいぐいくるな妹よ。
「まあそうな。そのコスプレだよ。剣と魔法のファンタジー世界を旅するってコンセプトのゲーム」
「へえ」
興味があるんだかないんだか、適当な相槌打ちやがって。
「何て名前のゲームなの?」
「海外のゲームだから、カナに言っても分かんねえよ」
「じゃあいいや」
やっぱり興味ないなコイツ。
「バヨネッタさんは良いわよねえ。美人だし、どこか気品があるわ。またいつでも遊びに来て良いわよ。って言っておいて」
とニコニコの母である。息子が女性を連れてきたのがそんなに嬉しかったのだろうか? でもなあ、バヨネッタさんかあ、何しでかすか分からないからあんまり連れてきたくないんだよなあ。でもニコニコ顔の母にそれは言い難い。
「まあ、そうね。機会があったらね」
そうやって曖昧に濁す俺がいた。
2
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
2回目チート人生、まじですか
ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆
ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで!
わっは!!!テンプレ!!!!
じゃない!!!!なんで〝また!?〟
実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。
その時はしっかり魔王退治?
しましたよ!!
でもね
辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!!
ということで2回目のチート人生。
勇者じゃなく自由に生きます?
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる