世界⇔異世界 THERE AND BACK!!

西順

文字の大きさ
上 下
14 / 635

硬い岩盤を抜けるとそこは……

しおりを挟む
 俺の前には壁がある。異世界の崖下を掘り進めた先にぶち当たった岩壁だ。俺は今日それをぶち破る。


 俺の手には大型文房具店で入手したA0サイズの巨大な紙。そこには一筆書きで、円の中に五芒星、その中に逆五芒星がデカデカと描かれている。


 A0サイズと言えば、A4サイズの十六倍の大きさだ。それだけ大きければ一筆書きでもっと細かな文様を描く事も可能だと思われるが、そうはいかない。


 何故なら、インクがそれ程長持ちしないからだ。つけペンに含ませられるインクの量が少ない為に、複雑な文様を一筆書きで描こうとすると、途中でかすれてしまうのだ。


 なので、描く大きさは大きく出来たが、魔法陣自体は凡庸なものになってしまった。ここら辺は今後要改良だな。


 だがまずは目の前の壁だ。こいつを突破させて貰う。


 俺は眼前の岩壁にA0の魔法陣を貼ると、その魔法陣に両手を添えて意識を岩壁に集中させる。


「岩壁よ! 砂となれ!」


 集中力が極限まで高まったところで、魔法陣を通して岩壁に命令する。


 するとどうだろう。魔法陣が淡く光りだしたかと思うと、あれほど硬く、ツルハシさえ通じなかった岩壁が、さらさらと砂になっていく。


「おおっ、やった!」


 俺は思わず歓喜の声を漏らしていた。しかし喜びもすぐに落胆に変わった。魔法陣の描かれたA0の紙までもが、砂となって消えてしまったからだ。


「マジか~……」


 まあ、これは予想出来ていた事だけどね。自室でノートに魔法陣を描いてみた結果、魔法発動後二つの現象が見られた。


 魔法陣は残るが、魔法が発動しなくなるか、魔法陣が描かれたノートの紙が、今回同様砂となって使い物にならなくなるかだ。


 前者は小さな魔法の時によく現れる現象で、後者は大きな魔法の時によく現れたが、必ずしもそうと決まっている訳じゃない。小さな魔法の時にも魔法陣が砂になる事があれば、大きな魔法でも魔法陣が残る事があった。


 前者であれば、再度魔法を行使する事が可能だが、後者の場合は当然それっきりだ。


 何度か描いて試した結果、これはインクの性能が不安定である為に起こる事が分かった。どうやらインクに魔石の粉が均一に混ざってない為に起こっている現象であるらしい。


 まあ、素人仕事だからなあ。


 なのでインク内の魔石粉の均一性を上げる為に、インクに入れる魔石粉の量を徐々に増やしていき、均一性を上げていったのだが、魔石粉の量を増やしていくと、インクの粘性や粉っぽさが上がっていき、つけペンでは描けなくなってしまうのだ。


 ならば筆で、と思うが、それだと均一に線を引く事が難しく、やはり粘性が高く粉っぽいインクでは線を引いてる途中でかすれてしまう。


 今回A0の紙に魔法陣を描いたインクは、ここ最近で一番のインクで描いたものだったのだが、やはり岩盤を壊しきるには至らなかったようだ。



 俺は砂になった岩盤をスコップと一輪車トンネルの外まで運び出す。結果、どうやら一メートル程掘り進められたようだ。


 また同じようにA0の魔法陣を貼って掘り進めるべきだろうか? まあ、普通はこれの繰り返しだろう。俺も魔法陣のストックをあと四枚持ち合わせており、トンネルの入口に置いてある。


 が、俺としては別案を試してみたい。それが、改良版ツルハシだ。


 改良版ツルハシは、持ち手に魔石インクで魔法陣を描いてツルハシ自体の強化を施したものだ。更に桂木翔真がしていたように、俺も手袋の手のひらに魔法陣を描かせて貰った。この魔法によるダブル強化で硬い岩盤を力任せに掘り進むのが別案だ。


 ここまでツルハシで掘り進めてきたのだ。やはりツルハシ掘削は捨て難い。


 俺は岩盤の前まで来ると、魔法陣の描かれた手袋をピチッと両手に填め、ツルハシを握る。


「よし! 強化!」


 そう口にしただけで、なんだか身体の奥底から力が湧いてくる気がする。ツルハシと手袋の魔法陣は、まだ砂になっていない。


「よっしゃあ!」


 俺は気合いを入れてツルハシを振り上げると、岩盤に思いっきり叩きつける。


 ギイインッ! と甲高い音がトンネル内にこだまする。そして手に跳ね返ってくる強烈な衝撃。それで岩盤はどうなったかと言うと、痺れる程の衝撃を返してきた部分が、ボコッと剥がれ落ちた。


「痛ってええ! でも掘り進められそうだ」


 俺は手をぷるぷる振りながら何とか岩盤を剥がす事に成功した部分を起点に、トンネルを掘り進めていく。


 しかしやっぱり硬い。少し掘り進めては休憩をとり、少し掘り進めては休憩をとる。トンネル掘削の進捗は大幅に遅れ、穴掘り作業は年を越したが、まだまだ先は見えてこなかった。


 と、俺は思っていたのだが……。



 二月の頭の事だった。ボコッと硬い岩盤が崩れ落ちる。とその先が空洞になっていた。まさか!? とうとう外に出たのか!? と必死になって人ひとり通れる程の穴を開けて、トンネルを突破する。


 崖下やトンネル内と同じように真っ暗闇の出口で、俺はガシャンと何かを踏んだ。なんだろう? とヘッドライトとともに頭を下に向ける。


 俺が踏んだのは、人骨だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...