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ツルハシ
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ツルハシ。持ち手の先に鶴の嘴のような金具が付いた工具。
懲りずに異世界の崖下にやって来た俺は、手にツルハシを持って岩壁の前に立っていた。
異世界を満喫するには、この崖下から抜け出さなければならない。だがこの高い岩壁を登るのは俺には無理そうだった。ならばどうするか。
良し。穴を掘ろう。
俺一人通れる程度のトンネルを掘れば、外に出られるんじゃないかと俺の思考はたどり着いた訳である。
まず、穴を掘るならスコップだろう、とスコップを買ってきて岩壁に突き立てて見たのだが、見事に弾き返されてしまった。岩壁が硬すぎたのだ。
う~ん、どうしよう? 後日、ホームセンターで何かないだろうか、と物色していて見付けたのがこのツルハシだった。
俺はツルハシを振り上げて岩壁に突き立てる。ガギィンッと硬い音を響かせて弾き返されるツルハシ。
これでも駄目なのか? と岩壁の方を確認してみると、岩が少しだけ欠けていた。
はあ~、ちょっとだけど、これなら時間を掛ければどうにかなるかも知れない。
俺はその日、時間いっぱいガギィンガギィンと岩壁を掘り進めた。
(い、痛い。ここまでの筋肉痛は久し振りだ。小学校の球技大会の練習で、放課後までクラスメイトにサッカーを付き合わされて以来かも)
翌日。朝起きたら、全身筋肉痛でぷるぷるしていて、ちょっとずつしか歩けなかった。そして両手はマメが潰れて皮が剥けている。
はあ~、でもこれだけ苦労しても、ツルハシで岩壁を砕きながらのトンネル掘りは、三十センチ程しか進まなかった。
これ、どれだけ時間が掛かるんだ? 一年二年どころか、五年十年、もしかしたらそれ以上掛かるんじゃないか? マンパワーが俺一人だからな。キツい。
タカシが退院したら応援を頼むか。いや、あいつは女の子と遊ぶのに忙しくてそれどころじゃないか。どこかで仲間を増やして引き入れるのが現実的なんだろうけど。俺は積極的に友達作りとか出来るタイプじゃないからなあ。
仕方ない。地道にコツコツやっていくか。今日は都合良く休日だし、一日やればもっと進められるだろう。
ガギィンガギィンと今日も今日とて穴を掘る。ツルハシを両手でギュッと握って穴を掘る。が、それを許さない奴がいる。カエルだ。
湖に背を向けて横穴を掘っていると、ばしゃんと湖の方から音がして振り返る。と丁度カエルが湖岸に姿を現したところだった。
対応しなければ! と俺は自然とツルハシを構えていた。あ、そうか! ツルハシなら包丁なんかより攻撃力が高いのか!
包丁よりリーチもあるし、これなら気を付けていれば、カエルの攻撃を食らわずに対処出来るかも知れない。
そんな事を頭の片隅で考えていたら、ざぱんと更にもう一匹カエルが湖から顔を出した。
二匹かよ! ズルくない!? と思ったところで一匹に減ってくれる訳じゃない。やるしかない!
先手必勝! と俺は先に岸に上がったカエルに向かって走っていくと、ツルハシを大きく振りかぶってカエルに向かって振り下ろす。がそんな大振りが当たる訳もなく、カエルに余裕で避けられてしまった。
くっ! 体勢を立て直すうちに、俺は二匹のカエルに挟まれていた。カエルは一気に俺を仕留めようと、二匹で一斉に襲い掛かってくる。それを紙一重で横に飛んで躱すと、振り返りざまにツルハシを横に振るう。
「ぐえッ!?」
カエルの一匹の脇腹にツルハシが突き刺さった。がその隙にもう一匹にのし掛かられて倒されてしまった。
俺は素早く腰の包丁を引き抜くと、カエルの脇腹に突き刺す。
「ぐえッ!」
胃液を吐き出すカエルを、鉄板入りの安全靴で蹴飛ばすと、仰向けにひっくり返るカエル。そのカエルの頭を狙って俺はツルハシを振り下ろした。声なく絶命するカエル。
あと一匹。ともう一匹のカエルの姿を探すと、上方に気配。上を向くとカエルが俺に襲い掛かってきていた。
上方からのカエルの攻撃を、ツルハシの持ち手でガードすると、力任せに押し返す。吹っ飛ばされたカエルは仰向けに。俺はその頭を狙って素早くツルハシを振り下ろした。
「はあ~」
俺は一息吐きながら、周辺の確認をする。どうやら他にカエルは見当たらないようだ。
しかしカエルの攻撃はしのげたが、泥やカエルの胃液や俺の汗でつなぎがかなり汚れてしまった。一旦家に戻ってシャワー浴びて着替えよう。
「う~ん」
シャワーと着替えを済ませた俺は、異世界に戻ってくると、岩の一つに腰を下ろして考える。
手を見れば綺麗な手がそこにはあった。シャワーを浴びたのだから、それは綺麗だろうと思うかも知れないが、シャワーを浴びたからって、マメが潰れて皮がめくれた手のひらが、綺麗に、マメがなくなっている状態にはならないだろう。
どう言う事だろうか? そう言えば前にもこんな事があった。初めてカエルと戦った時の事だ。あの時も傷を負ったはずなのに、家に戻ってきたら傷はなくなっていた。
不思議である。自室に戻ると異世界で出来た傷が癒えると言うのなら、手のマメも一度家に戻ってきた時点で消えてなくなっていないとおかしい。
考えられるのはカエルとの戦闘だ。カエルを倒したから傷が癒えた。何だそれ? って感じだが、RPGなんかのゲームだと、モンスターを倒してレベルが上がると、ステータスが全快するものがある。もしかして、この現象はそれなんじゃないだろうか。
俺はカエルを倒してレベルが上がった? じゃあやはりこの異世界は、ステータスやらスキルがある世界と言う事だろうか?
「ステータスオープン」
う~ん、やっぱりステータスは見られないなあ。まあ、ラノベやマンガだと、ステータスを見るのに鑑定の魔法やスキルが必要なものなんかもあるしな。俺にそれ系の才能がないだけかも知れない。
とりあえず、レベルが上がったのか分からないが、傷が癒えたのは僥倖だった。だからと言って死ぬ可能性があるのであまり戦いたくはないが。
さて、この後も穴掘り頑張ろう。
懲りずに異世界の崖下にやって来た俺は、手にツルハシを持って岩壁の前に立っていた。
異世界を満喫するには、この崖下から抜け出さなければならない。だがこの高い岩壁を登るのは俺には無理そうだった。ならばどうするか。
良し。穴を掘ろう。
俺一人通れる程度のトンネルを掘れば、外に出られるんじゃないかと俺の思考はたどり着いた訳である。
まず、穴を掘るならスコップだろう、とスコップを買ってきて岩壁に突き立てて見たのだが、見事に弾き返されてしまった。岩壁が硬すぎたのだ。
う~ん、どうしよう? 後日、ホームセンターで何かないだろうか、と物色していて見付けたのがこのツルハシだった。
俺はツルハシを振り上げて岩壁に突き立てる。ガギィンッと硬い音を響かせて弾き返されるツルハシ。
これでも駄目なのか? と岩壁の方を確認してみると、岩が少しだけ欠けていた。
はあ~、ちょっとだけど、これなら時間を掛ければどうにかなるかも知れない。
俺はその日、時間いっぱいガギィンガギィンと岩壁を掘り進めた。
(い、痛い。ここまでの筋肉痛は久し振りだ。小学校の球技大会の練習で、放課後までクラスメイトにサッカーを付き合わされて以来かも)
翌日。朝起きたら、全身筋肉痛でぷるぷるしていて、ちょっとずつしか歩けなかった。そして両手はマメが潰れて皮が剥けている。
はあ~、でもこれだけ苦労しても、ツルハシで岩壁を砕きながらのトンネル掘りは、三十センチ程しか進まなかった。
これ、どれだけ時間が掛かるんだ? 一年二年どころか、五年十年、もしかしたらそれ以上掛かるんじゃないか? マンパワーが俺一人だからな。キツい。
タカシが退院したら応援を頼むか。いや、あいつは女の子と遊ぶのに忙しくてそれどころじゃないか。どこかで仲間を増やして引き入れるのが現実的なんだろうけど。俺は積極的に友達作りとか出来るタイプじゃないからなあ。
仕方ない。地道にコツコツやっていくか。今日は都合良く休日だし、一日やればもっと進められるだろう。
ガギィンガギィンと今日も今日とて穴を掘る。ツルハシを両手でギュッと握って穴を掘る。が、それを許さない奴がいる。カエルだ。
湖に背を向けて横穴を掘っていると、ばしゃんと湖の方から音がして振り返る。と丁度カエルが湖岸に姿を現したところだった。
対応しなければ! と俺は自然とツルハシを構えていた。あ、そうか! ツルハシなら包丁なんかより攻撃力が高いのか!
包丁よりリーチもあるし、これなら気を付けていれば、カエルの攻撃を食らわずに対処出来るかも知れない。
そんな事を頭の片隅で考えていたら、ざぱんと更にもう一匹カエルが湖から顔を出した。
二匹かよ! ズルくない!? と思ったところで一匹に減ってくれる訳じゃない。やるしかない!
先手必勝! と俺は先に岸に上がったカエルに向かって走っていくと、ツルハシを大きく振りかぶってカエルに向かって振り下ろす。がそんな大振りが当たる訳もなく、カエルに余裕で避けられてしまった。
くっ! 体勢を立て直すうちに、俺は二匹のカエルに挟まれていた。カエルは一気に俺を仕留めようと、二匹で一斉に襲い掛かってくる。それを紙一重で横に飛んで躱すと、振り返りざまにツルハシを横に振るう。
「ぐえッ!?」
カエルの一匹の脇腹にツルハシが突き刺さった。がその隙にもう一匹にのし掛かられて倒されてしまった。
俺は素早く腰の包丁を引き抜くと、カエルの脇腹に突き刺す。
「ぐえッ!」
胃液を吐き出すカエルを、鉄板入りの安全靴で蹴飛ばすと、仰向けにひっくり返るカエル。そのカエルの頭を狙って俺はツルハシを振り下ろした。声なく絶命するカエル。
あと一匹。ともう一匹のカエルの姿を探すと、上方に気配。上を向くとカエルが俺に襲い掛かってきていた。
上方からのカエルの攻撃を、ツルハシの持ち手でガードすると、力任せに押し返す。吹っ飛ばされたカエルは仰向けに。俺はその頭を狙って素早くツルハシを振り下ろした。
「はあ~」
俺は一息吐きながら、周辺の確認をする。どうやら他にカエルは見当たらないようだ。
しかしカエルの攻撃はしのげたが、泥やカエルの胃液や俺の汗でつなぎがかなり汚れてしまった。一旦家に戻ってシャワー浴びて着替えよう。
「う~ん」
シャワーと着替えを済ませた俺は、異世界に戻ってくると、岩の一つに腰を下ろして考える。
手を見れば綺麗な手がそこにはあった。シャワーを浴びたのだから、それは綺麗だろうと思うかも知れないが、シャワーを浴びたからって、マメが潰れて皮がめくれた手のひらが、綺麗に、マメがなくなっている状態にはならないだろう。
どう言う事だろうか? そう言えば前にもこんな事があった。初めてカエルと戦った時の事だ。あの時も傷を負ったはずなのに、家に戻ってきたら傷はなくなっていた。
不思議である。自室に戻ると異世界で出来た傷が癒えると言うのなら、手のマメも一度家に戻ってきた時点で消えてなくなっていないとおかしい。
考えられるのはカエルとの戦闘だ。カエルを倒したから傷が癒えた。何だそれ? って感じだが、RPGなんかのゲームだと、モンスターを倒してレベルが上がると、ステータスが全快するものがある。もしかして、この現象はそれなんじゃないだろうか。
俺はカエルを倒してレベルが上がった? じゃあやはりこの異世界は、ステータスやらスキルがある世界と言う事だろうか?
「ステータスオープン」
う~ん、やっぱりステータスは見られないなあ。まあ、ラノベやマンガだと、ステータスを見るのに鑑定の魔法やスキルが必要なものなんかもあるしな。俺にそれ系の才能がないだけかも知れない。
とりあえず、レベルが上がったのか分からないが、傷が癒えたのは僥倖だった。だからと言って死ぬ可能性があるのであまり戦いたくはないが。
さて、この後も穴掘り頑張ろう。
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