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ダイブ
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24分37秒━━。息止めの世界記録だ。そんなものを提示されても、何の事やら分からないだろう。
順を追って説明すると、私、ダイバーは暗殺者である。いきなりそんな事を言われても。と思うかも知れないが、暗殺を生業としている者は少なくない。そうでなければ毎日のように電車に飛び込む人間はおらず、行方不明者ももっと少なくなるだろう。
何でもプロ、アマチュアを問わなければ、1000人に1人が暗殺者をしているそうだ。そんな中で私はプロの暗殺者をしている。それは私に特別な能力があるからだ。
その特別な能力と言うのが、先述の息止めと関係してくるのだ。それは……、おっと仕事の電話のようだ。
★ ★ ★
『ダイバー、お前に指名依頼だ』
スマホ越しに電話を掛けてきたのは、私の所属する組織のオフィサーだ。コードネームはイーグルアイ。当然私のダイバーもコードネームだ。
『今回のターゲットは、柴田商事の会長、柴田吾郎だ。柴田商事は表では健全な商社を装っているが、裏では違法薬物に人身売買など、かなり悪どい事をしている』
「こんな時代だ。後ろ暗い事に手を出していない会社なんてないだろう。それに会長1人殺して、柴田商事の裏仕事が止まるとは思えないが?」
『だからお前に指名依頼が来たんだ』
成程。柴田吾郎の暗殺以外に仕事しろって訳か。
★ ★ ★
俺はイーグルアイが入手した柴田邸の見取り図をスマホで見ながら、潜入ルートを選出していた。しかし凄い豪邸だな。都内の24区内で、150坪を超える土地を所有するとか、どれだけ裏で悪どい事をしてきたのか窺える。
柴田吾郎の部屋は3階の奥か。イーグルアイの情報によると、この部屋に柴田商事の裏帳簿も隠されているらしく、柴田吾郎の殺害だけでなく、その入手も今回の依頼に入っている。ふう。優秀だといらぬ仕事までさせられて面倒な事だ。しかし柴田商事を見過ごす事は出来ない。さてやるか。
そうして柴田邸の前で呼吸を調えた私は、最後に大きく息を止めて、そのまま柴田邸に走っていく。しかし当然柴田邸の門は閉じられており、このまま走っていけばぶつかるのは必然。が、スルリと柴田邸の門を通り抜ける私の身体。これが私の特別な能力、『存在希釈』だ。
私は息を止めている間だけ自分と言う存在を限りなく薄める事が可能で、私は世界から認識され難くなる。するとどうなるかと言えば、今のように門を通り抜ける事も容易くなるのだ。
しかし息を止めている間と言う時間制限があるので、悠々と柴田邸の庭園を眺めながらと言う訳にもいかない。早く柴田吾郎の下へ行かないと、俺の息が持たない。それにしても私兵が多く配置されているな? どこかから情報が漏れたのか?
★ ★ ★
「うっ!?」
私室で愛人を抱いていた柴田吾郎に後ろから迫り、柴田の胃に直接心臓発作を起こさせる薬を投与し、柴田はそのまま腹上死した。
「え? ええ?」
抱かれていた女が柴田の頬を叩き、心臓の音を確認する。
「死んでる? 嘘でしょ? 私まだ何もやっていないわよ!?」
ふむ。「まだ」と言う事は、殺る気だった訳か。同業者だったのか。まあ、どうでも良い。私はこのまま柴田の裏帳簿を入手するのみだ。そう思って裏帳簿の隠されている金庫を調べるももぬけの殻。PCの中に隠したか? とも思ったが、それならイーグルアイが別のエージェントに仕事を回しているはず。イーグルアイが情報を間違えた? そんな事はいままで無かったが。
しかしそろそろ息が続かない。ここは一旦撤退して、態勢を立て直すか。と部屋から退室しようとした所で、ドタドタと足音が聴こえてきて、複数人が部屋に入ってきた。
「父さん!」
入ってきたのは情報にあった柴田吾郎の息子、柴田隆二と私兵たちだ。
「隆二!」
柴田隆二の登場に破顔する女だったが、私兵たちがすぐにその身柄を取り押さえる。
「何するのよ!」
「とうとう尻尾を出したな女狐め!」
言って柴田隆二が女のバッグを探ると、その中から裏帳簿が出てきた。
「父さんを殺し、これを売り払う事で大金をせしめようなどと、腹黒女狐が考えそうな事だ!」
「どう言う事? 私は隆二に言われた通りに……」
「私がお前に命じて、こんな事をさせたとでも言いたいのか?」
はあ、何たる茶番。くだらない。ようするに柴田隆二は、父である柴田吾郎が邪魔になったから、己の愛人を使って殺させて、その罪を全てその愛人になすりつけた訳だ。親子揃って救えない悪党だな。
「女狐が、欲張るからこんな事になるのさ。この帳簿は……、あれ? 帳簿、帳簿はどこにいった?」
それなら俺の手の内だ。と1人心の中で呟きながら、俺は柴田吾郎の私室からスッと退室したのだった。
★ ★ ★
「ぷはーーー! はあ、はあ、はあ……」
柴田邸から出て、物陰に隠れた所で時計を見ると、柴田邸に突入してからここに戻ってくるまでに、22分14秒経過している。危なかった。と言うか、いつか息止めの世界記録が狙えそうだ。そこに掛かってくる1本の電話。通知を見ればイーグルアイからだ。
『ご苦労さまです。その裏帳簿に関しては、ポストマンに運ばせますので、そのつもりで』
それだけ言って電話を切るイーグルアイ。全く、こっちは酸欠で死にかけたんだ。もう少し労ってくれても……いや、あいつに労われてもむず痒くなるだけか。
まあ、これで柴田商事はお終い。俺の仕事もポストマンに裏帳簿を渡せば終わりだ。って事でラーメン食って帰るかな。
順を追って説明すると、私、ダイバーは暗殺者である。いきなりそんな事を言われても。と思うかも知れないが、暗殺を生業としている者は少なくない。そうでなければ毎日のように電車に飛び込む人間はおらず、行方不明者ももっと少なくなるだろう。
何でもプロ、アマチュアを問わなければ、1000人に1人が暗殺者をしているそうだ。そんな中で私はプロの暗殺者をしている。それは私に特別な能力があるからだ。
その特別な能力と言うのが、先述の息止めと関係してくるのだ。それは……、おっと仕事の電話のようだ。
★ ★ ★
『ダイバー、お前に指名依頼だ』
スマホ越しに電話を掛けてきたのは、私の所属する組織のオフィサーだ。コードネームはイーグルアイ。当然私のダイバーもコードネームだ。
『今回のターゲットは、柴田商事の会長、柴田吾郎だ。柴田商事は表では健全な商社を装っているが、裏では違法薬物に人身売買など、かなり悪どい事をしている』
「こんな時代だ。後ろ暗い事に手を出していない会社なんてないだろう。それに会長1人殺して、柴田商事の裏仕事が止まるとは思えないが?」
『だからお前に指名依頼が来たんだ』
成程。柴田吾郎の暗殺以外に仕事しろって訳か。
★ ★ ★
俺はイーグルアイが入手した柴田邸の見取り図をスマホで見ながら、潜入ルートを選出していた。しかし凄い豪邸だな。都内の24区内で、150坪を超える土地を所有するとか、どれだけ裏で悪どい事をしてきたのか窺える。
柴田吾郎の部屋は3階の奥か。イーグルアイの情報によると、この部屋に柴田商事の裏帳簿も隠されているらしく、柴田吾郎の殺害だけでなく、その入手も今回の依頼に入っている。ふう。優秀だといらぬ仕事までさせられて面倒な事だ。しかし柴田商事を見過ごす事は出来ない。さてやるか。
そうして柴田邸の前で呼吸を調えた私は、最後に大きく息を止めて、そのまま柴田邸に走っていく。しかし当然柴田邸の門は閉じられており、このまま走っていけばぶつかるのは必然。が、スルリと柴田邸の門を通り抜ける私の身体。これが私の特別な能力、『存在希釈』だ。
私は息を止めている間だけ自分と言う存在を限りなく薄める事が可能で、私は世界から認識され難くなる。するとどうなるかと言えば、今のように門を通り抜ける事も容易くなるのだ。
しかし息を止めている間と言う時間制限があるので、悠々と柴田邸の庭園を眺めながらと言う訳にもいかない。早く柴田吾郎の下へ行かないと、俺の息が持たない。それにしても私兵が多く配置されているな? どこかから情報が漏れたのか?
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「うっ!?」
私室で愛人を抱いていた柴田吾郎に後ろから迫り、柴田の胃に直接心臓発作を起こさせる薬を投与し、柴田はそのまま腹上死した。
「え? ええ?」
抱かれていた女が柴田の頬を叩き、心臓の音を確認する。
「死んでる? 嘘でしょ? 私まだ何もやっていないわよ!?」
ふむ。「まだ」と言う事は、殺る気だった訳か。同業者だったのか。まあ、どうでも良い。私はこのまま柴田の裏帳簿を入手するのみだ。そう思って裏帳簿の隠されている金庫を調べるももぬけの殻。PCの中に隠したか? とも思ったが、それならイーグルアイが別のエージェントに仕事を回しているはず。イーグルアイが情報を間違えた? そんな事はいままで無かったが。
しかしそろそろ息が続かない。ここは一旦撤退して、態勢を立て直すか。と部屋から退室しようとした所で、ドタドタと足音が聴こえてきて、複数人が部屋に入ってきた。
「父さん!」
入ってきたのは情報にあった柴田吾郎の息子、柴田隆二と私兵たちだ。
「隆二!」
柴田隆二の登場に破顔する女だったが、私兵たちがすぐにその身柄を取り押さえる。
「何するのよ!」
「とうとう尻尾を出したな女狐め!」
言って柴田隆二が女のバッグを探ると、その中から裏帳簿が出てきた。
「父さんを殺し、これを売り払う事で大金をせしめようなどと、腹黒女狐が考えそうな事だ!」
「どう言う事? 私は隆二に言われた通りに……」
「私がお前に命じて、こんな事をさせたとでも言いたいのか?」
はあ、何たる茶番。くだらない。ようするに柴田隆二は、父である柴田吾郎が邪魔になったから、己の愛人を使って殺させて、その罪を全てその愛人になすりつけた訳だ。親子揃って救えない悪党だな。
「女狐が、欲張るからこんな事になるのさ。この帳簿は……、あれ? 帳簿、帳簿はどこにいった?」
それなら俺の手の内だ。と1人心の中で呟きながら、俺は柴田吾郎の私室からスッと退室したのだった。
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「ぷはーーー! はあ、はあ、はあ……」
柴田邸から出て、物陰に隠れた所で時計を見ると、柴田邸に突入してからここに戻ってくるまでに、22分14秒経過している。危なかった。と言うか、いつか息止めの世界記録が狙えそうだ。そこに掛かってくる1本の電話。通知を見ればイーグルアイからだ。
『ご苦労さまです。その裏帳簿に関しては、ポストマンに運ばせますので、そのつもりで』
それだけ言って電話を切るイーグルアイ。全く、こっちは酸欠で死にかけたんだ。もう少し労ってくれても……いや、あいつに労われてもむず痒くなるだけか。
まあ、これで柴田商事はお終い。俺の仕事もポストマンに裏帳簿を渡せば終わりだ。って事でラーメン食って帰るかな。
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