1 / 1
クラシカル
しおりを挟む「お姉さんたちの前で悪いけど、正直言ってアメリアが嫌い。お金が戻ってきたとは言っても、婚約者を人質に取られ、1年間嫌がらせを受けてきた」
「改めて、妹に代わって謝罪します」
「最初から「太陽の指輪」のリスクを話してくれたら、流れが違っていたかも知れないのに。なんで嫌われることを選んだんだ・・」
「それは400年前の魔王討伐の真実を知る、妹の思い込みが、そうさせたのです」
「400年前の魔王戦といえば、勇者アンだな」
「システィーナみたいな普通の街娘が勇者の祝福を受けて始まる、成長物語だよね」
「仲間も私達みたいに同じ年の女ばかりで、若い冒険者との恋物語あり、友情物語ありの人気ナンバーワン勇者だ」
「しかし、魔王討伐後の物語はご存知でしょうか?」
「・・そういえば、ないね。他の勇者みたいに国を興したとか、故郷で再び活躍したとか」
「ウエス家だけに残された真実があり、アメリアは幼少時代から何度も読んで、恐れておりました」
◇◆勇者アンと聖女アイーシャ◆◇
400年前、勇者にアンという東方に住む17歳の街娘が選ばれた。拳聖ティナ、賢者ルカ、聖女アイーシャも17歳。
出身地、身分はバラバラでも、たちまち四人は仲良くなった。
しかしこのオール女子パーティーには、隠された懸念材料があった。
聖女のアイーシャが当時、聖痕を持つウエス家の女性四人の中で一番魔力量が少なかった。
恐らくアメリアよりも。
神器に「光のオーロラを放つ虹の指輪」、「魔王の闇を阻害する聖結界の指輪」を授かっていれば、また話は違っていたであろう。
しかし、よりによってアイーシャに不向きな「勇者が必殺技を撃つ魔力を聖女から搾り取る、太陽の指輪」を女神から渡された。
聖女アイーシャは、仲間に真実と嘘を織り混ぜて話した。
◇太陽の指輪は勇者アンに必殺技を使わせるための道具である。
◇太陽の指輪を使うには、自分の魔力量がほんの少し足りない。
◇使えば魔力回路が破損して、二度と魔法が使えなくなる可能性がある。
嘘である。
魔力量はまったく足りない。
使えば、高い確率で死が待っていた。
光明はあった。物語にあるように、勇者アンだけでなく拳聖、賢者も神器に高い適正があった。
勇者アンは、すでに親友となったアイーシャに神器を使わせないため、努力した。
わずか半年で神器カッティーナを覚醒させた。
さらに半年、アイーシャも魔力量を増やす訓練を重ね、勇者らもグングン力を付けていった。
しかし、ダメだった。
決戦の日、魔王に勇者アン、拳聖ティナ、賢者ルカは神器を解放し、聖女アイーシャも聖痕で闇の結界を弱めた。
アイーシャは、神器「太陽の指輪」を使わずに生き残れるかと期待した。
だが決め手がなく、戦いが長引いた。
動きが悪くなった拳聖が魔王の爪で左腕を切り裂かれた。
助けに入った賢者は魔王の火炎で左足にやけどを負った。
3人の親友を守るため、聖女アイーシャ覚悟を決めた。
そして、限りなく軽い口調でアンに向かってつぶやいた。
「アン、あなた達3人にデンスの丘を見せたかったわ」
「太陽の指輪」を発動させた。
聖女アイーシャから飛び出した光の龍が勇者アンの中に入った。
アンの体が輝き「ライトニングダスト」を魔王に撃ち込むと、たまちまち魔王は崩れた。
アンは急いでアイーシャの元に駆けようとして、背筋が冷たくなった。
遠目に見えるアイーシャが別人に見えるのだ。
まるでデンスで会ったアイーシャの母親、いやそれ以上に老けたように感じる。
ティナとルカもやってきたが、言葉をなくした。
アイーシャからアンに送られた光の残滓がまだアンに向かって飛んでいた。
アンは慌ててアイーシャの「太陽の指輪」を外した。
だか指輪は中空に浮いたまま、アイーシャから最後の命の光を搾り取り、アンに貢いだ。
アンは吐いた。
◆◆
魔王討伐後、出迎えた騎士隊の前には事切れた老婆を背負った勇者が現れた。
老婆の背中や腕さすりながら拳聖、賢者もゆっくりと近付いてきた。
異様な凱旋だった。
聖女と恋仲だった若い騎士が、涙をこぼしながら老婆を受け取った。
老婆の首には彼が贈ったネックレスがかけられていた。
「改めて、妹に代わって謝罪します」
「最初から「太陽の指輪」のリスクを話してくれたら、流れが違っていたかも知れないのに。なんで嫌われることを選んだんだ・・」
「それは400年前の魔王討伐の真実を知る、妹の思い込みが、そうさせたのです」
「400年前の魔王戦といえば、勇者アンだな」
「システィーナみたいな普通の街娘が勇者の祝福を受けて始まる、成長物語だよね」
「仲間も私達みたいに同じ年の女ばかりで、若い冒険者との恋物語あり、友情物語ありの人気ナンバーワン勇者だ」
「しかし、魔王討伐後の物語はご存知でしょうか?」
「・・そういえば、ないね。他の勇者みたいに国を興したとか、故郷で再び活躍したとか」
「ウエス家だけに残された真実があり、アメリアは幼少時代から何度も読んで、恐れておりました」
◇◆勇者アンと聖女アイーシャ◆◇
400年前、勇者にアンという東方に住む17歳の街娘が選ばれた。拳聖ティナ、賢者ルカ、聖女アイーシャも17歳。
出身地、身分はバラバラでも、たちまち四人は仲良くなった。
しかしこのオール女子パーティーには、隠された懸念材料があった。
聖女のアイーシャが当時、聖痕を持つウエス家の女性四人の中で一番魔力量が少なかった。
恐らくアメリアよりも。
神器に「光のオーロラを放つ虹の指輪」、「魔王の闇を阻害する聖結界の指輪」を授かっていれば、また話は違っていたであろう。
しかし、よりによってアイーシャに不向きな「勇者が必殺技を撃つ魔力を聖女から搾り取る、太陽の指輪」を女神から渡された。
聖女アイーシャは、仲間に真実と嘘を織り混ぜて話した。
◇太陽の指輪は勇者アンに必殺技を使わせるための道具である。
◇太陽の指輪を使うには、自分の魔力量がほんの少し足りない。
◇使えば魔力回路が破損して、二度と魔法が使えなくなる可能性がある。
嘘である。
魔力量はまったく足りない。
使えば、高い確率で死が待っていた。
光明はあった。物語にあるように、勇者アンだけでなく拳聖、賢者も神器に高い適正があった。
勇者アンは、すでに親友となったアイーシャに神器を使わせないため、努力した。
わずか半年で神器カッティーナを覚醒させた。
さらに半年、アイーシャも魔力量を増やす訓練を重ね、勇者らもグングン力を付けていった。
しかし、ダメだった。
決戦の日、魔王に勇者アン、拳聖ティナ、賢者ルカは神器を解放し、聖女アイーシャも聖痕で闇の結界を弱めた。
アイーシャは、神器「太陽の指輪」を使わずに生き残れるかと期待した。
だが決め手がなく、戦いが長引いた。
動きが悪くなった拳聖が魔王の爪で左腕を切り裂かれた。
助けに入った賢者は魔王の火炎で左足にやけどを負った。
3人の親友を守るため、聖女アイーシャ覚悟を決めた。
そして、限りなく軽い口調でアンに向かってつぶやいた。
「アン、あなた達3人にデンスの丘を見せたかったわ」
「太陽の指輪」を発動させた。
聖女アイーシャから飛び出した光の龍が勇者アンの中に入った。
アンの体が輝き「ライトニングダスト」を魔王に撃ち込むと、たまちまち魔王は崩れた。
アンは急いでアイーシャの元に駆けようとして、背筋が冷たくなった。
遠目に見えるアイーシャが別人に見えるのだ。
まるでデンスで会ったアイーシャの母親、いやそれ以上に老けたように感じる。
ティナとルカもやってきたが、言葉をなくした。
アイーシャからアンに送られた光の残滓がまだアンに向かって飛んでいた。
アンは慌ててアイーシャの「太陽の指輪」を外した。
だか指輪は中空に浮いたまま、アイーシャから最後の命の光を搾り取り、アンに貢いだ。
アンは吐いた。
◆◆
魔王討伐後、出迎えた騎士隊の前には事切れた老婆を背負った勇者が現れた。
老婆の背中や腕さすりながら拳聖、賢者もゆっくりと近付いてきた。
異様な凱旋だった。
聖女と恋仲だった若い騎士が、涙をこぼしながら老婆を受け取った。
老婆の首には彼が贈ったネックレスがかけられていた。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

【完結】雨上がり、後悔を抱く
私雨
ライト文芸
夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。
雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。
雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。
『信じる』彼と『信じない』彼女――
果たして、誰が正しいのだろうか……?
これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

実家を追い出されホームレスになったヒキニート俺、偶然再会した幼馴染の家に転がり込む。
高野たけし
ライト文芸
引きこもり歴五年のニート――杉野和哉は食べて遊んで寝るだけの日々を過ごしていた。この生活がずっと続くと思っていたのだが、痺れを切らした両親に家を追い出されてしまう。今更働く気力も体力もない和哉は、誰かに養ってもらおうと画策するが上手くいかず、路上生活が目の前にまで迫っていた。ある日、和哉がインターネットカフェで寝泊まりをしていると綺麗な女の人を見つけた。週末の夜に一人でいるのならワンチャンスあると踏んだ和哉は、勇気を出して声をかける。すると彼女は高校生の時に交際していた幼馴染の松下紗絢だった。またとないチャンスを手に入れた和哉は、紗絢を言葉巧みに欺き、彼女の家に住み着くことに成功する。これはクズでどうしようもない主人公と、お人好しな幼馴染が繰り広げる物語。
ハナサクカフェ
あまくに みか
ライト文芸
第2回ライト文芸大賞 家族愛賞いただきました。
カクヨムの方に若干修正したものを載せています
https://kakuyomu.jp/works/16818093077419700039
ハナサクカフェは、赤ちゃん&乳児専用のカフェ。
おばあちゃん店長の櫻子さん、微笑みのハナさん、ちょっと口の悪い田辺のおばちゃんが、お迎えします。
目次
ノイローゼの女
イクメンの男
SNSの女
シングルの女
逃げた女
閑話:死ぬまでに、やりたいこと
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる