グーパン

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グーパン

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 見知らぬ女にグーパンで殴られた。何で!?


 黒髪ストレートで清楚系、うちの高校の制服を着た美少女だ。しかし見覚えが無い。


「え? だ、誰!?」


 俺が殴られた頬を押さえながら尋ねると、


「ふふ」


 と悲しげな目をしながらそれだけ吐き捨てて、走り去っていったのだ。


 ☆ ☆ ☆


「何だそりゃ?」


「お前夢でも見てたんじゃないのか?」


 友人の日比野と湯田が、頬に青あざを作っている俺に向かって、そんな無慈悲な事を言ってくる。まるで同情していない。


「黒髪ストレートの清楚系美少女ねえ。そんな目立つ美少女がいたら、学校で噂になっていない訳ないだろ」


「ホントだよ、そんな娘が殴ってくるなんて、甲斐村、お前何したんだ?」


「何もしてねえよ。言っただろ、知らない女子だって」


 などとやんややんや盛り上がっていると、


「何してるんだお前ら、ホームルーム始めるぞ」


 と担任の柴川先生が教室に入ってきた。


「ええ、ホームルームを始める前に、転校生を紹介する」


 柴川先生の一言でざわつく教室。


「先生、それって女子?」


 湯田が臆面なく尋ねると、柴川先生は口角を上げた。


「喜べ男子。女子だ」


 それを聞いて歓声を上げる男子たち。ノリ良いよなあ、うちのクラス。


「じゃあ、入ってきて」


 柴川先生が促すと、「失礼します」と澄んだ声がドア越しに聴こえ、それからドアが開かれて入ってきた女子を見て、


「ああ!!!!」


 と俺は大声を上げて立ち上がり、教室に入ってきたその女子を指差していた。


「朝俺を殴った女!!」


 この指摘に、一気にざわつく教室。


「ほら静かにしろ!」


 先生の一喝で少し落ち着くが、それでもまだざわざわしている。


「本当かい? 彩沢さん」


 柴川先生の問い掛けに、ブンブンと顔を横に振る彩沢と呼ばれた女子。


「甲斐村くん、彩沢さんは違うと言っているが?」


「いやいや、先生見てくださいよ、俺の頬の青あざ! これが動かぬ証拠ですって!」


「そんな、酷い」


 俺が青あざを見せるも、今度は彩沢が泣き出してしまい、そちらに同情が移り、まるで俺が悪者であるかのように皆が見てくる。


「本当なんだって!」


 しかし誰にも信じて貰えなかった。


 ☆ ☆ ☆


「ああ、もう!」


 学校の屋上で、これでもかってくらい晴れている青空を眺めながら黄昏ていると、


「全く、とんだ転校初日になってしまったわ」


 と彩沢が現れた。嘘だろ!? 俺は驚いて後退るも、後ろはフェンスになっていて、それ以上下がれなかった。


「あら、そんなに警戒しなくても良いのよ?」


 警戒するさ。この屋上は立ち入り禁止で、普段から鍵が閉められているんだから。


「鍵の掛かっていたドアを、どうやって開けて屋上に来たのか、気にしているのかしら? でもそれって、お互い様じゃない?」


 にこりと笑う彩沢。しかしそれに対して俺の背中を冷や汗が伝う。


「お前『も』超能力者って事か?」


「あなた『も』ね」


 歯軋りする。世の中には二種類の超能力者がいる。俺と俺以外などと言う冗談ではなく、追う者である『チェイサー』と、追われる者の『フュージティブ』だ。俺は両親がフュージティブなので、生まれついての追われる者なのだ。やべえ。親からチェイサーの話は聞いていたけど、まさか本当に出くわすとは思っていなかった。


「それで、お前は俺を処分する為に現れたって訳か?」


「ふふ。それは勘違いよ」


「勘違い?」


 問い返す俺に首肯で返す彩沢。


「チェイサーの方針よ。フュージティブの中にも、超能力を悪用せずに生活している者がいる。そんな人たちまで処分するのは、人材をドブに捨てるようなもの。だからそんな人たちは保護して、私たちの協力者になって貰おうって、上層部で方針転換があったのよ」


「要するに、飼い殺しにしようって話だろ?」


「あら、酷い言われようね」


 とまたも泣き真似をする彩沢。


「酷いのはどっちだよ。俺の事をいきなり殴りやがって」


「あら、それは本当に私じゃないわよ。って、信じてないわね?」


 彩沢はけろっとして否定する。全く信じられない女だ。


「んー、本当に『今』の私はあなたと初対面なんだけどなあ」


「『今』のねえ」


 引っかかる言い方に、ちゃんと俺が反応したからだろう。彩沢はにこりと笑って返す。はあ。この件に関して、彩沢からこれ以上情報を引き出す事は無理だろう。


「親父とお袋はどうなった?」


「ご両親は既に確保済みよ。確保に向かった仲間からの連絡では、進んで我々の協力者になってくれたそうよ」


 両親は確保済みってか。そんなの、俺に抵抗する余地ないだろ。いや、俺が彩沢と接触した事で、両親が確保されたのかも知れない。何にしろ、後手に回らされたのは間違いない。


「分かったよ。協力者になれば良いんだろ?」


 俺が降参を表すように両手を上げると、彩沢は更ににこにこしながら近付いてきた。その笑顔が怖いのだが、俺に逃げ場は無い。そして彩沢は俺の青あざに触れると、


「ごめんなさい、『未来』の私が」


 と言って、少し悲しそうにその手をすぐに離した。触られた青あざに触れると、もう痛くなくなっていた。超能力で治療したのだろう。


「とりあえず甲斐村くんには、私の仕事のサポートに付いて貰うから」


「サポート、ねえ」


 不服が声に表れる俺に対して、彩沢はにっこり笑顔で俺の目を見詰め、


「もしも勝手に死んだりしたら、本当に殴るからね」


 と物騒な事を口にするのだった。

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