布団が吹っ飛んだ

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布団が吹っ飛んだ

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 布団が吹っ飛んだ。笑えない駄洒落の代名詞だが、これは駄洒落じゃない。本当に吹っ飛んだのだ。


 私はお日様の光を浴びてふかふかになった布団が大好きなのだが、ベランダに掛け布団を干したら、見事に風に飛ばされていったのだ。


 それは最新技術で作られたとても軽い掛け布団で、その掛け布団を掛けて寝ると、夢を見る事も無くぐっすり眠れると言う代物で、これを掛けて眠れば快適快眠で寝覚めもバッチリ。起きてからバリバリ働ける良い布団だった。


 今や日本人の九割が使っていると言われているこの布団。そんな布団が突然の強風を受けて吹っ飛んだのだ。いや~、あの布団は軽いからね~。なんて言っている場合じゃない。追い掛けないと!


 私はマンションの三階にある自室からサンダルで飛び出すと、階段を下りて道路に出た。どこに飛ばされたかと周囲の家々の屋根を見遣るが見当たらない。まさかと思ってさらに上を見れば、私の布団はまだ空を飛んでいる。嘘でしょ!?


 だが事実だ。仕方がないので私は空飛ぶ布団を追い掛けた。私のお気に入りの水色の布団は、まるで私から逃げるようにふわふわと空を飛んでいて、サンダルの私では追い付けない。それでも追い掛けなければと走る私。逃げる水色の布団……いや、あれ水色じゃないな。薄緑だ。


 どうなっているのか? と空全体を見回せば、白にピンクに黒にグレーと、色とりどりの布団たちが空を飛んでいる。そしてその布団を追う人々。


 布団を追い掛けている人々も訳が分からない状態だが、ともかく自分の布団は確保しなければならないので、私も布団を追い掛けた。


 空飛ぶ布団はどこまでもどこまでも飛んでいき、しかも段々と上空へと昇っていく。どうやら布団たちの行き先は同じようで、上空の一ヶ所に集まろうとしているようだ。


 集まったところでどうするのか? と思っていると、ぐるぐるぐるぐるその場所で回り始める布団たち。まるで何かの儀式かと思っていたら、それは本当に儀式だった。


 ピカッと布団のある空が光ったかと思ったら、そこには巨大な魔法陣が描かれている。なんだあれは? と私を含めて布団に逃げられた人々が訳も分からず事態を見守っていると、魔法陣から角と羽根を生やしたスーツの男が現れた。


 男は見上げる我々に恭しく一礼すると、このように自己紹介したのだ。


「私は夢魔。名をエファアルティスと申します。この度は我が社の製品のご利用、誠にありがとうございます」


 エファアルティスの話からすると、どうやら我々は、この夢魔の会社が作っている布団を使用していたらしい。そんな馬鹿な。と言いたいが、この状況を見せられては納得せざるを得ない。


「誠に恐縮ながら、今回皆様にお知らせしなければならない事案が発生していた事を、お伝えしなければなりません。我が社の製品に不備が見付かったのです」


 不備? これまであの布団を使っていて、そんなものを感じた事がないのだが?


「この布団、実は人間の皆様に幸福な夢を見て頂く為に開発したのですが、どうやら悪魔と人間では夢を見る構造が違っていたらしく、この布団で夢を見られない方が続出しているとか」


 確かにあの布団を使うようになってから、寝て夢を見なくなった。


「ですので、ここにお集まりの皆様には、無料にて幸福な夢の見られる布団と交換させて頂きたく存じます」


 おお! 快適な布団が、更に幸福な夢が見られるようにバージョンアップして帰ってくるのか。それは嬉しい。周囲の人々もこれには大喜びで、皆が我先にと手を上げる。


 これを了承と受け取ったエファアルティスは、同じく角と羽根の生えたスーツの女性陣を召喚し、バージョンアップ版の布団を集まった人々に配っていったのだ。


 とんだハプニングではあったが、これは素直に喜ばしい事だ。と受け取った布団を持ってマンションの自室に帰った私は、その布団でぐっすり眠った。それはそれは幸福な夢を見た。


 しかしと言うべきか、やはりと言うべきか、この布団によって、私はバリバリ働けなくなってしまったのだ。私だけではない。この布団を使っていた人間が全て駄目人間になってしまったのだ。だって考えてみて欲しい。眠れば幸福を謳歌出来ていたと言うのに、起きたらつまらない日常に戻ってしまうのだ。


 心の弱い者はこの布団から抜け出せなくなり、普通の人間もつまらない日常に嫌気が差して、この布団に引きこもるようになり、現実で頑張って夢を追っていた者も、この布団で寝れば簡単に夢を叶えられるので頑張らなくなり、誰も彼もが布団から抜けられなくなっていった。


 しかしこの布団のいやらしいところは、それだけじゃなかった。効果に持続時間があったのだ。約三ヶ月もすると、何の夢も見ない普通の布団となってしまうのだ。普通と言っても今までの夢を見ない布団である。十分な代物だが、一度幸福を覚えた人間は、そのランクを下げる事が出来なくなるものだ。


 エファアルティスの会社に、改めてこの幸福の布団の購入を打診したら、その値段、150万円と言われてしまった。いやらしい。頑張れば手が届く値段なのがなんとも悪魔的でいやらしい。しかし私は、この幸福の布団改め悪魔の布団を購入する為に、今日もバリバリ働くのだ。

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