うろこ雲

西順

文字の大きさ
上 下
1 / 1

うろこ雲

しおりを挟む
 朝、夏だと言うのに、秋の季語となっているうろこ雲が真っ青な空を覆っている。うろこ雲が空に出ると、三日以内に雨が降るそうだ。明日は雨の予報が出ていたから、それが理由だろう。


 それにしても奇麗なうろこ雲である。いわし雲ともさば雲とも言われているそうだが、私が見ているのは明らかにうろこだ。小さくくの字で奇麗な列をなしている。


 もう一週間以上雨が降っていないので、雨が降ってくれるのはありがたいが、私は明日出掛ける予定があるので、少し複雑な気分だ。最近の夏雨は土砂降りになる事も多く、そのうえ風も強いから、傘をさしても服も身体も濡れて仕方ない。


 まあ良い。今日の作業を終わらせよう。と言っても庭の草むしりだが。いや、庭とは言えないな。家庭菜園になっている。初めは普通に花を育てていたのだが、いつの間にやら食べられるものを育てるようになっていた。


「はあ」


 仕方なしと嘆息をこぼし、畝の間を通りながら、苗の横で雄々しく天に向かって伸びている雑草たちを抜いていく。


「ふう」


 二時間と経過しただろうか。腰に手を当てて空を見上げたところで、件のうろこ雲がまた目に飛び込んできた。


「美しいものだ」


 奇麗に整列したうろこ雲は、まるでコンピュータが作り出したかのように美しく並んでいる。これを自然が作り出したと言うのだから、仰天にして驚天である。


「さて、もう一息だ」


 麦茶で喉を潤し、気合を入れ直して、また草むしりに戻る。それにしても二時間草むしりをしても終わらないとは、家庭菜園を広げすぎたか。まだ半分だ。これでは家庭菜園とは言えないな。ちょっとした農家だ。一人暮らしで消費するには多いから、出来た野菜は子供たちのところへ送っているが、それも多々文句を言われている。孫は美味しいと言っていると言うのに。それも気を使わせているのかも知れない。


 明日は妻の月命日だと言うのに、腰をいわせて墓参りに行けない。なんて顛末はごめんだな。しかし明日の雨の後では、雑草がぼうぼうになってしまう。いや、地面が柔らかくなるから、その方が草むしりがし易いかも知れない。


 などと色々考えているうちに、草むしりも四分の三まで来ていた。これは一気に草むしりを終えるのが良いだろう。そう思って速度を上げて一気に草むしりを終えると、やはりと言うか、当然と言うか、腰と膝がとんでもない事になって、一歩動く毎に身体をピキピキ言わせながら、よろよろと縁側に腰を下ろす。


「はあ」


 一息吐いて空を見上げれば、うろこ雲はいつの間にやら霧散していた。儚いものだ。と眼前の家庭菜園に目を落とす。そこに一瞬花を愛でる妻の幻影を見ながら、熱にやられたかな。と麦茶をがぶ飲みして心を落ち着けたら、縁側を後にして風呂場でシャワーを浴びたなら、昼飯に素麺を茹で、ビールで喉の渇きを癒やす。


「くう」


 昼からビールを飲めるのは、これまで頑張ってきた自分への見返りだな。と思いながら、麺つゆにみょうがとワサビを混ぜながら、素麺をすするのだった。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

僕たちはその歪みに気付くべきだった。

AT限定
ライト文芸
日々繰り返される、クラスメイトからの嫌がらせに辟易しながらも、天ケ瀬 燈輝(あまがせ とうき)は今日も溜息交じりに登校する。 だが、その日友人から受け取った一枚のプリントが、彼の日常を一変させる。 吸い寄せられるように立ち入った教室で、彼が見たものとは……。

僕の目の前の魔法少女がつかまえられません!

兵藤晴佳
ライト文芸
「ああ、君、魔法使いだったんだっけ?」というのが結構当たり前になっている日本で、その割合が他所より多い所に引っ越してきた佐々四十三(さっさ しとみ)17歳。  ところ変われば品も水も変わるもので、魔法使いたちとの付き合い方もちょっと違う。  不思議な力を持っているけど、デリケートにできていて、しかも妙にプライドが高い人々は、独自の文化と学校生活を持っていた。  魔法高校と普通高校の間には、見えない溝がある。それを埋めようと努力する人々もいるというのに、表に出てこない人々の心ない行動は、危機のレベルをどんどん上げていく……。 (『小説家になろう』様『魔法少女が学園探偵の相棒になります!』、『カクヨム』様の同名小説との重複掲載です)

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...