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うろこ雲
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朝、夏だと言うのに、秋の季語となっているうろこ雲が真っ青な空を覆っている。うろこ雲が空に出ると、三日以内に雨が降るそうだ。明日は雨の予報が出ていたから、それが理由だろう。
それにしても奇麗なうろこ雲である。いわし雲ともさば雲とも言われているそうだが、私が見ているのは明らかにうろこだ。小さくくの字で奇麗な列をなしている。
もう一週間以上雨が降っていないので、雨が降ってくれるのはありがたいが、私は明日出掛ける予定があるので、少し複雑な気分だ。最近の夏雨は土砂降りになる事も多く、そのうえ風も強いから、傘をさしても服も身体も濡れて仕方ない。
まあ良い。今日の作業を終わらせよう。と言っても庭の草むしりだが。いや、庭とは言えないな。家庭菜園になっている。初めは普通に花を育てていたのだが、いつの間にやら食べられるものを育てるようになっていた。
「はあ」
仕方なしと嘆息をこぼし、畝の間を通りながら、苗の横で雄々しく天に向かって伸びている雑草たちを抜いていく。
「ふう」
二時間と経過しただろうか。腰に手を当てて空を見上げたところで、件のうろこ雲がまた目に飛び込んできた。
「美しいものだ」
奇麗に整列したうろこ雲は、まるでコンピュータが作り出したかのように美しく並んでいる。これを自然が作り出したと言うのだから、仰天にして驚天である。
「さて、もう一息だ」
麦茶で喉を潤し、気合を入れ直して、また草むしりに戻る。それにしても二時間草むしりをしても終わらないとは、家庭菜園を広げすぎたか。まだ半分だ。これでは家庭菜園とは言えないな。ちょっとした農家だ。一人暮らしで消費するには多いから、出来た野菜は子供たちのところへ送っているが、それも多々文句を言われている。孫は美味しいと言っていると言うのに。それも気を使わせているのかも知れない。
明日は妻の月命日だと言うのに、腰をいわせて墓参りに行けない。なんて顛末はごめんだな。しかし明日の雨の後では、雑草がぼうぼうになってしまう。いや、地面が柔らかくなるから、その方が草むしりがし易いかも知れない。
などと色々考えているうちに、草むしりも四分の三まで来ていた。これは一気に草むしりを終えるのが良いだろう。そう思って速度を上げて一気に草むしりを終えると、やはりと言うか、当然と言うか、腰と膝がとんでもない事になって、一歩動く毎に身体をピキピキ言わせながら、よろよろと縁側に腰を下ろす。
「はあ」
一息吐いて空を見上げれば、うろこ雲はいつの間にやら霧散していた。儚いものだ。と眼前の家庭菜園に目を落とす。そこに一瞬花を愛でる妻の幻影を見ながら、熱にやられたかな。と麦茶をがぶ飲みして心を落ち着けたら、縁側を後にして風呂場でシャワーを浴びたなら、昼飯に素麺を茹で、ビールで喉の渇きを癒やす。
「くう」
昼からビールを飲めるのは、これまで頑張ってきた自分への見返りだな。と思いながら、麺つゆにみょうがとワサビを混ぜながら、素麺をすするのだった。
それにしても奇麗なうろこ雲である。いわし雲ともさば雲とも言われているそうだが、私が見ているのは明らかにうろこだ。小さくくの字で奇麗な列をなしている。
もう一週間以上雨が降っていないので、雨が降ってくれるのはありがたいが、私は明日出掛ける予定があるので、少し複雑な気分だ。最近の夏雨は土砂降りになる事も多く、そのうえ風も強いから、傘をさしても服も身体も濡れて仕方ない。
まあ良い。今日の作業を終わらせよう。と言っても庭の草むしりだが。いや、庭とは言えないな。家庭菜園になっている。初めは普通に花を育てていたのだが、いつの間にやら食べられるものを育てるようになっていた。
「はあ」
仕方なしと嘆息をこぼし、畝の間を通りながら、苗の横で雄々しく天に向かって伸びている雑草たちを抜いていく。
「ふう」
二時間と経過しただろうか。腰に手を当てて空を見上げたところで、件のうろこ雲がまた目に飛び込んできた。
「美しいものだ」
奇麗に整列したうろこ雲は、まるでコンピュータが作り出したかのように美しく並んでいる。これを自然が作り出したと言うのだから、仰天にして驚天である。
「さて、もう一息だ」
麦茶で喉を潤し、気合を入れ直して、また草むしりに戻る。それにしても二時間草むしりをしても終わらないとは、家庭菜園を広げすぎたか。まだ半分だ。これでは家庭菜園とは言えないな。ちょっとした農家だ。一人暮らしで消費するには多いから、出来た野菜は子供たちのところへ送っているが、それも多々文句を言われている。孫は美味しいと言っていると言うのに。それも気を使わせているのかも知れない。
明日は妻の月命日だと言うのに、腰をいわせて墓参りに行けない。なんて顛末はごめんだな。しかし明日の雨の後では、雑草がぼうぼうになってしまう。いや、地面が柔らかくなるから、その方が草むしりがし易いかも知れない。
などと色々考えているうちに、草むしりも四分の三まで来ていた。これは一気に草むしりを終えるのが良いだろう。そう思って速度を上げて一気に草むしりを終えると、やはりと言うか、当然と言うか、腰と膝がとんでもない事になって、一歩動く毎に身体をピキピキ言わせながら、よろよろと縁側に腰を下ろす。
「はあ」
一息吐いて空を見上げれば、うろこ雲はいつの間にやら霧散していた。儚いものだ。と眼前の家庭菜園に目を落とす。そこに一瞬花を愛でる妻の幻影を見ながら、熱にやられたかな。と麦茶をがぶ飲みして心を落ち着けたら、縁側を後にして風呂場でシャワーを浴びたなら、昼飯に素麺を茹で、ビールで喉の渇きを癒やす。
「くう」
昼からビールを飲めるのは、これまで頑張ってきた自分への見返りだな。と思いながら、麺つゆにみょうがとワサビを混ぜながら、素麺をすするのだった。
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