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金平糖

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もしも、あなたが煉瓦町に来ることがあるなら、電車にしろ車にしろすぐ分かるでしょう。

コンクリートから赤い煉瓦の道や高いビルはなく、煉瓦や石造りの建物が建ち並ぶ歴史地区だからです。
美しい町並みは19世紀のヨーロッパのようで、朝には輝く光が窓ガラスを輝かせ、夕方には街灯が煌く、いつ来ても美しい場所です。

町の真ん中には噴水公園という素晴らしい公園があり、名前の通りに華やかな美しい噴水があります。
バラ園や池もあり、みんなが過ごす場所になっています。

そんな公園に面した道を挟んだ向かい側に建つ青い屋根と白い壁のサンルームがついた美しい家が見えるでしょう。
前庭には薔薇やラベンダー、スミレ、チュベローズなど香りのするお花が植えられています。

少し風変わりなのは立派な扉の下に
小さな小さな扉が付いているのです。
そして前庭にも小さなテーブルや椅子があります。

そんなに不思議なことではありません。
ここには小さな小さなうさぎさんがお嬢さんと住んでいるのですから。



ある日、うさぎさんは前庭のたんぽぽを日よけにしてのんびりと過ごしていました。
昨日までの寒い空気は消え失せて、春のような暖かい空気に変わっていくようです。

「もうすぐ春一番が吹きそうだから、お家に戻ろう」

うさぎさんはそういうとお家に戻りました。

お家に入るやいなや、外の風は強くなっていきます。

びゅーびゅー、びゅーびゅー

力強い風の音が家の中からも聞こえてきます。

小さなうさぎさんは窓の外を眺めてみました。



風に枝が揺れています。雲は草原の羊のように空を群れて駆けていきます。

そんな中で小さな雲は、はぐれてゆっくりと降りてくるようにみえました。
次第に雲が下がるにつれて雲に見覚えのある人の姿がはっきりと小さなうさぎさんの目に入ってきました。

雲はとうとう公園の前に風によって運ばれると、雲に座っていた人は雲と何もない空間、まさに風に何か話しかけているような素振りをしています。
そうして座っていた人は雲から降りて立ち上がると、強い風に持ち上げられて空に戻っていきました。

座っていた人は小さなうさぎさんの家に静かに入りました。

「おかえりなさいお嬢さん」

「ただいま小さなうさぎさん」

お嬢さんと呼ばれた人はほんの少し笑みを浮かべて小さなうさぎに言いました。

「今日はお茶菓子にジンジャーブレッドを買ってきましたから、それでお茶にしましょう」

「楽しみだな」

小さなうさぎさんはワクワクしながら
お嬢さんがお茶の支度をするのを眺めました。
それは見ていて気持ちのよいものでした。
火にかけたやかんはすぐに沸騰して
ティーポットやカップを温めます。
その間に選ぶ紅茶の一つ一つは良い香りがします。
ティーポットのお湯を捨てると、茶葉をポットに入れて沸かしたての熱いお湯を勢いよく注ぎました。

しばらく蓋をして待っているあいだ、砂糖壷やミルクの用意を素早く済ませて、お皿にジンジャーブレッド、木苺のジャム、ビスケット、金平糖を盛り付けてテーブルに運びました。

お嬢さんはティーカップのお湯を捨て、ティートレイにポットと共に乗せてテーブルに運びこみます。
そして小さなティーカップにお茶と砂糖とミルクを入れ、自分のティーカップには砂糖だけを入れて、優雅に座りました。

「さぁ、準備ができました、お茶にしましょう」

お嬢さんは小さなうさぎさんにそういうとティーナプキンを広げてからお茶を飲みました。
うさぎさんもお行儀よくお茶とジンジャーブレッドを楽しみます。
コクのある黒蜜と蜂蜜の甘さに爽やかな生姜と隠し味のシナモンが紅茶によく合います。

「今日のも美味しいわ、昔を思い出すの、これによく似たパーキンをフォークスさんと食べたものよ、もちろんあんなことする前にだけど」

お嬢さんはそういうと金平糖を一粒食べました。
この金平糖はそれは見事で白色に金箔がついていたりしてキラキラしています。
紅茶にいれてみても美味しそうです。

二人はジンジャーブレッドと木苺のジャムとビスケットはすべて平らげ、後片付けをしました。
やがて日が暮れて、夜になると風は急に止みました。

小さなうさぎさんがベッドに入るころには
静かになり、部屋ではうさぎさんの寝息が聞こえるだけでした。
ふと、うさぎさんは夜中に玄関の扉が閉まる音がして目が覚めました。

ベッドから出て窓から外を見てみるとお嬢さんが袋いっぱいの金平糖を持っています。

「夜中にあんないっぱい金平糖を持って行ってどうするんだろう?食べたら虫歯になるよ」

小さなうさぎは不思議に思いました。

すると、お嬢さんはキラキラ輝く金平糖を手に持つと投げ始めました。
しかしその投げた金平糖は高く高く高く飛ぶと落ちることなく、夜空にくっついてキラキラ輝いています。
それからしばらく満遍なく投げつけて、袋が空になると、これで良しというような満足そうな表情を浮かべ、お嬢さんが帰ってきました。

うさぎさんは急いでベッドに戻り、眠りにつきました。
空にはキラキラと星が輝いています。

翌朝、うさぎさんは起きて朝食を食べに朝食室に向かいました。

「お嬢さん、おはよう」

「おはよう小さなうさぎさん」

うさぎさんは椅子に座って挨拶して、しばらく考えたのちにお嬢さんに聞きました。

「お嬢さん、お星さまは金平糖なの?それとも金平糖はお星さまなの?」

お嬢さんはオレンジジュースを注ぎながら
しばらく考え、答えました。

「よりけりです」

うさぎさんの前に小さなバターつきパンを
置きながら続けました。

「私には、少なくとも私の分別ではどちらも変わりないでしょう」

小さなうさぎさんはよくわからないまま
バターつきパンを食べました。

ふとキャビネットの上を見ると、そこには昨日の金平糖の袋が置いてあり、一粒だけ外に溢れてキラキラと輝いていました。
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