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優雅な眠りの中で、聴こえてくる音。
布が擦れる音、ドアが閉まる音。
私は目を閉じたまま、眠りについたふりをする。

「シシィはまだ寝てるみたいなので……」

ルドヴィカお母さんが鳩みたいにオドオドしながら小声で話す声が聞こえる。

「まるで天使のようだ」

皇帝の間の抜けた声がする。

「フランツ、天使はみんな男ですよ、シシィは可愛らしいけれど、あなた、まだ若いという点や、自由に育った子を規則ばかりの宮廷に閉じ込めて不幸にするかもしれないということは考えていないのですか?」

げっ、ゾフィー皇太后までいるわけね。
なおさら寝たふりをつづけないと、あぁ面倒くさいわね。

「それでもシシィがいいんです、じゃなきゃダメなんです」

「フランツがそこまで言うのであれば、私は反対しませんよ」

ゾフィー皇太后!もっと粘ってネネーを推して!
あなたの推しはネネーのはずよ。

「母上!!」

皇帝は嬉しそうに声を上げた。

「シッ……シシィが寝てるんですから騒がないの、私は反対はしないですよ、シシィもバイエルン王家の娘な訳ですから姉から妹に変わっただけのこと、ただ心配なのはシシィに皇后が務まるかということです、世の中は美しいだけでうまく行くようには出来てないんですよ、フランツ、私は可哀想な気がするですよ、シシィは野生の鳥のように可愛らしく美しい、それを籠に閉じ込めて人々に見せびらかすようなことをするのは彼女が不幸になるんじゃないか気がかりだわ、その点、ネネーなら、忍耐があるようだから中傷や大きな課題に耐えて進めると思うの」

ゾフィー皇太后はそう言うとため息をついた。

「カフェでシシィと母上が話されたのを聞いて、皇后に相応しい知性があると私は思いましたし、彼女の提案した方法は悪くないと母上も言っていたではありませんか」

「ええ、でもまだ経験不足で現実を知らない若い娘です、皇后の勤めは政治に口出すのではなく、まずは威厳と品格を持ち合わせた象徴となるべきです」

と、ごもっともな意見を述べている。

「どうしたらいいんでしょう……」

ルドヴィカお母さんは心配そうに言うと扇をパタパタ仰いでいる。

「ヘレーネには可哀想だけど、シシィに求婚したいと言うならそうするのが良いのではないかしらね」

「でも、私達の時には希望なんて聞かれなかったじゃない?好きかどうかなんて」

「ルドヴィカ、時代はシシィがいうように変わるものです、フランツはこれから帝国を担う責苦があるわけです、そこから少しでも安らげるなら好きになった相手と結婚することは大切なことですよ」

「母上、ありがとうございます」

「フランツ、まだ早いわ、シシィが何というか…ルドヴィカどう思う?」

「どこに皇帝の望みを断るものがいるでしょうか」

そう言うとルドヴィカお母さんは深々とお辞儀をしている。
私が寝ているうちに勝手に決めないでよ。
牛の競売じゃあるまいし、皇帝は好きになってくれたかも知れないけど、私の気持ちはどうなるのよ?一介の庶民な私が皇后なんて無理よ、なれないわよ大人しい皇后だなんて。
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