「名建築で殺人を」アカンサス邸の殺人〜執筆者カトリーヌの事件簿

カトリーヌ・ドゥ・ウェルウッド

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弦楽四重奏が始まるとあたりは高貴な雰囲気に包まれた。
白亜の洋館のベランダに響くハチャトゥリアンの仮面舞踏会のワルツ。
ロマンチックな音楽は華やかな時代に私達を連れて行ってくれる。
私は演奏者から目を離し、建物全体を見ようとした。
美しいベランダ、コリント式の柱、棘のようなピナクル、
そして象徴的な塔屋……。
私は違和感を感じて塔屋の窓を見つめた。
人影が見えるのだ。
あいにく晴天ではないからか黒い影でしかないが
奇妙な感じだ、そう、動いているのだが歩くというより揺れている。
他にも気づいた人がいるのかざわめき出した。

「カトリーヌ、塔屋に……」

「ええ、でも変よ、まるで首吊りみたいに揺れて……」

私がそう言いかけると前の方から

「きゃあああああああああああ」

演奏を止める悲鳴が聞こえる、悲鳴をあげた女性が指差したのはやはり塔屋だった。
しかし、また塔屋をみるとそこには人影などなかった……。
演奏は一時中断し、小泉さん達は念の為塔屋に行くというので私とももちゃんもついて行くことにしたの。

「カトリーヌ、狭い階段だけど大丈夫?」

「ドレスに慣れてるから平気よ」

「カトリーヌさんのドレスしか見えない……」

ももちゃんはそう言いながらも無事に登り切り、息をきらしている。

「だれもいないわね」

小泉さんはそう言うとため息をついた。

「あなた、諦めが早すぎるわ」

私はそう言いながら部屋を良く見てみると気づいたの。

「まず、この窓だけど鍵が開けっぱなしね」

私は塔屋四面にある右の窓に目を向けた。

「あなた達、掃除してないのね、でもお手柄よ」

私は窓を開けて窓枠の下の部分を指差した。
そこには埃が溜まっているが紐を通したような線がついている。

「紐の後みたいね」

ももちゃんはそう言うと天井の梁を見た。

「梁に紐通したとしても首吊りは無理そうじゃないですか?だって、椅子もないのにどうやって吊るんですか?」

「確かにそうね、誰が補助しなきゃ無理よね」

私がそう言うとみんなここにいても仕方ないから降りてセンター長と警備員に何もなかったと伝えた。
それで園遊会は再開されて館内の見学も本格的に始まった。
私も修復された部屋が気になってももちゃんと廻ることにしたのよ。

「少しツヤが出るように拭いたりしたんだろうけど、どこを改装したのかしら?」

「あらカトリーヌさん聞いてないんですか?地下室ですよ」

「あの汚い地下室を綺麗にしたのね」

「だから地下室のガイドツアーも……」

ももちゃんがそう言い終わらないうちに絹を割くような悲鳴が聞こえた。

「竈馬かゴキブリでも出たのかしら?」

「展示のトイレにうんちした人がいたのかもしれないですよ」

「やだわももちゃん、どちらにしても今日は悲鳴を良く聞くこと」

私はレティキュールから扇を出して二階に向かって階段を登る。
この階段は鹿鳴館と同じデザインの階段で三つ折れになっている。
そして見事なアカンサスのモチーフが随所に見られ、見どころのひとつだ。
二階に着くと警備さんが蒼い顔で急いで降りていく。

「何事かしら?」

私は気になり進んでいくと屋根裏に続く小部屋の前でセンター長と日富姐さんが他の人が入らないよ立ち尽くしていた。
腰が抜けて座り込んでいるのは……

「のりちゃんじゃないの、どうしたの?」

私は演奏を見に来てくれていた同級生であるのりちゃんに
声をかけた。

「あ、あれよ……」

のりちゃんが指差した先にあったのは揺れるカーテンと温かみのある木目の壁が目を惹く気品ある部屋の真ん中で倒れている男性、首には紐が巻かれているのが見える。
そして白いシャツは赤黒く染まっているのも見えた。

「脈は?」

私の問いに日富姐さんが答えた。

「ない、あらへん」
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