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私は心臓がえぐられるくらい痛くて、息ができなくて四十度近い熱があり、一人きりで部屋のベッドで横たわっていました。

そう、著名人も亡くなったあの病気です。
当時はワクチンも薬も治療法もなく、塔の中のブランシュ・ド・ブルボンのように世界から隔離されていました。
そして、19世紀の小説のヒロインみたいに最愛の人の腕の中で痩せ細り天に召されるようなことはなく、次第に回復していったのよ。
少しぐらい痩せても良かったのに胸以外は。

でも私は部屋から出れなかったのでネットを見ていたら爵位が買えるってことを知ったの。
学生時代にも職場でもみんなからあだ名で「お嬢」やら「プリンセス」と呼ばれていたから名実共に貴族になるべきだと理性が働いたの三八度の熱の中ね。

幸いというべきか、外出できないからオペラもバレエもお茶もお芝居もスパにもカルティエにも行けなかったものだからお金に余裕があったわけ。
だから片っ端から買える爵位を買ったのよ。
まずはシーランド公国のカウンテスつまり女伯爵の称号ね。
次にスコットランドのレディの称号、ポメラニア・リヴォニア大公国のプリンセスの称号も得て名実ともにプリンセスになったわけ。
そのおかげかどうかはわからないけど体調はみるみる回復して病から立ち直ったってわけ。
でも、現実は厳しくて訳わからない病にかかって長く休んだことを理由に私は退職せざる負えなくなったの。
もちろん屋敷自体が閉鎖されていた訳だから復帰しても働きようがなかったわけだけど。
辞めるに当たっては色々と「話し合い」はした訳だけど、
省くわ、そして私はしばらくはゆっくり休もうと思って昔の映画なんかを見たり、立体刺繍、そうこのブローチがそうなのよ素敵でしょ、きちんとイタリアで染色した絹糸で、やだわ、話しを戻さないといつまでも始まらないわね。
そんな中で風と共に去りぬの映像特典のドキュメンタリーを見ていたら原作者が入院中に本を書いたというところから閃いてあの本を書いたって訳。

そんな中、施設が再開されるに辺り、休館にあちらこちら直したい記念パーティーを……あらやだ、私洋館で働いていたって話してなかった?
うっかりしてたわ、そうなのよ、で、私に貴婦人役としてドレスで来て欲しいと館長から電話で依頼があったの。
辞めてからもみんなと仲良かったし、暇だったこともあり仕事を受けることにしたの。
ドレスは昔、舞台に立っていた時にもらったものもあるし、何一つ問題がなかったわ。
きちんと着替え用の控え室も屋敷の中に割り振ってもらえたし。
ということであの日、屋敷に朝から行くことになったの。
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