アルキオネウスの地より

社畜

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プロローグ

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早くに両親を亡くし、難病を患う妹の医療費を捻出する為、俺はスペースコロニー公社へと入社した。
何故なら、γ線バーストやスペースデブリ等、宇宙空間での作業は常に危険が付きまとう、オマケに宇宙服の中はオムツ着用と過去の言葉で言い表すなら3K、キツイ、汚い、危険と三拍子、なので非常に実入りが良い、それに衣食住は会社持ちと21歳、嫁無し彼女無しの俺にとっては非常に好都合なのだ。

何時もの様に鼻歌交じりにコロニー外壁増設作業中ヘルメットのマイクからホットラインコールが流れる。

「竹下君、大変だ!妹さんの容態が急変して……」

「今しがた…………息を引き取ったそうだ。」


「えっ、、……」

突然の言葉に理解が追い付かず溶接トーチを握り締めたまま呆然と固まってしまう。

何処までも広がる漆黒の静寂、音の無い世界、蒼いトーチの光だけがヘルメットフェイスに反射していた。



あれから俺は会社の同僚に支えられ、コロニーに帰還した後シャトルで地上へと戻ってきた。
しかし、連絡を受けて1ヶ月が過ぎており、妹は既に荼毘に伏され冷たい墓の下だった。

「結愛……」

「寂しい想いさせてゴメンな…駄目な兄貴で本当にゴメン……」

頬を熱い物が伝っては零れ落ち地面を濡らす

「俺には何も無い何も……」



虚無感にうちひしがれた7日の休みを経て辞表を握りしめ公社の廊下を歩く、その時ふと壁の広報ポスターに目を引かれる。

「第3次フロンティア惑星探査計画…」
「ケンタウルス座アルファ星系資源探査及び居住可能惑星探査、航海士募集…」


「4,4光年、タキオン粒子航法で片道4年ちょいって所か?探査も合わせて往復すると32歳迄には帰ってこれそうだな」

生きる目的の無い人生

「まっ、いいか?」

辞表を廊下のダストボックスに捩じ込み、気が付けば、そのまま総務課の人事部に足を向けて歩いていた。






……3年後…地球から1,5光年離れた宙域

居住区画のカプセルルーム、低温で細胞活動を低下させ老化を遅延させる宇宙航海時代ならではの装置、誰も動いていない部屋で冷気の排出音が鳴る

<プシュー>

低温カプセルのキャノピーが開き、重い瞼が開き徐々に意識が覚醒する。

「んん、……」

「冷た!!」

重い体に鞭を打ちカプセルから起き上がり床に足を着いた瞬間余りの冷たさに強制的にボケた頭がシャッキリする。

寒さに震えながら制服に着替え、艦内エレベーターでホストコンピュータルームに向かう。

惑星探査移民船フロンティア3、地球の衛星軌道上で建造された惑星探査移民船の3番艦で母艦を取り巻くファーム、ファクトリー両プラント4基から成る、沖縄本島ほどの大きさを誇る巨大艦である。


そしてこの艦の頭脳フロンティア3のホストコンピューター  【桜】
船の自動航行、艦内アンドロイド5000体の管理、乗員300人のメンタルケア等も担う自立思考、量子コンピューターである。

「桜!現在の状況報告とコールドスリーブ中の状況報告」

『ただ今、地球から約1,5光年の宙域を航行中、19682,5時間33秒で目標宙域に到着予定です。』

優しい女性の声が響く

航海士がローテーションで、一週間艦内チェックを行う決まりで是といって余りすることは無いが一応社内規則だからしょうがない。

「桜これから、一週間頼むよ」

『はい! Mr大樹、安全な航海をお約束いたします』

「さて、テキパキとお仕事やっちゃいますか」

何時ものルーティン変わりのない時間のはずだった。今のこの時まで。

ズッシィーーーン

突然、艦が大きく揺れ船体が軋む
けたたましく鳴り響くレッドアラート音

「桜!! 状況報告!!」

『突然2光秒前方に巨大重力磁場発生、艦ジェネレータ最大出力、回避中…』

『駄目です!!重力に引っ張られます!』

「桜!現在の状況打開案採択!」

『メインジェネレータのある居住区画のみ本船よりパージ、サブブースター2基の点火による最大出力の脱出しかありません』

『脱出可能時間残り180秒』

「つまり、コンピュータールームに居る俺は脱出不可能……」

『はい……残念ながらMr大樹は、本艦と共に重力磁場に引き込まれます』

『Mr大樹……』



「いいね…いいじゃん!」

こんな、俺にも俺の命にも、こんな使い道が有るなんて乗員299名の命と等価交換、最高じゃないか。

「桜!!」

「救難信号発信!居住区画強制パージの後メインジェネレータ最大出力、サブブースター点火」

『Mr大樹……』

『了解、命令を遂行します』

ズッウウン、居住区画をパージした振動が伝わる。

「桜…本艦消失迄の時間は、」

『メインジェネレータを失いサブジェネレータ2基の推力では、後10時間程です。』

「桜、取り敢えずレッドアラート止めてくれる」

けたたましく鳴り響くレッドアラート音と赤い光の点滅が止まり艦内に静寂が戻る。
シートを倒し大きく息を吐く。

「桜、ありがとう」

これ迄の人生を振り返り、脳裏を想い出が走馬灯の様に移り過ぎて行く

何故だろう、急に睡魔に襲われ意識が遠退く、薄れ行く意識の中で呟く。

「父さん母さん結愛、俺頑張ったよ。俺もそっちに行ってもいいかな…」

コンピュータールームに充満する対テロ麻酔ガス、量子コンピューター桜のせめてもの気遣いだった。

『ゆっくりお休みになって下さい。Mr大樹、貴方と最期までお供いたします』





そして、何処までも蒼く目映いチェレンコフ光のひかりに艦内が包まれるのであった。



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