『⑵龍じぃちゃんの口癖〜言霊シリーズ〜』

天月乃綾

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『龍じいちゃんの口癖』

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長生きをした龍弘たつひろじいちゃんには、
"ありがたや・・・・・ありがたや・・・・・"という口癖がある。



ほんとうに、いつも。
朝起きてから夜寝るまで、
そう、言い続けていた。

「爺ちゃん、どうしてそんなに『ありがたや、ありがたや』って言うの?」
孫の陽介ようすけが聞くと、龍弘じぃちゃんはにっこり笑って答えた。

「それは、わたくしの人生を支えてくれた言葉でありまして。ほーれ、今から話してあげますかいのー」

龍弘じぃちゃんは、
庭に出てから手招きをして、ひ孫の陽介を呼んだ。
(なんだか、それは猫がをしているかのようにも見えた。)

木々の緑が、心地よい日陰になってくれた...。 

「あれを! 見てみいな。
この青空とお日様。
わたくしが生まれてから、
今に至るまで。ずっと、こうして見守ってくれている。
わけじゃな。」
爺ちゃんは、
さらに目を細めながら、
大自然に感謝の気持ちを捧げた。
『ありがたや、ありがたや』

爺ちゃんは、
その言葉を何度も、
何度も口にする。
やがて...語り始めた。

人は、やっぱり人に関わり、人と、助け合い、分かち合い、喜び合う。

そして、
人には、一人一人に、歴史があると言う。
それは、前も後ろも。
右も左も。

龍じぃちゃんの時代は、
今とは違う、、、つらいことが、多かったのだろう。

時代背景や環境が違うから、辛さが違うのか?
人が違うから、
それぞれの価値観の違いなのか?



じぃちゃんは、
生まれてからすぐに捨てられた、、、らしい。
一人ぽっち。

親も、だーれもいなかった。

そんな中にも、ある親切な女性がいて、育ててもらう事ができた。
そのお陰で、
今...
じぃちゃんは、生きている。

やがて、物心つくようになった時、その人は、天国に行ってしまった。

そして、また一人ぽっち。
孤児となった。

疎開先でもまた、飢えに耐える日々もあった。

ふと、、、今度は、
子供のいない夫婦に拾われて、養子として育ててもらった。

「でもその度に、自然のありがたさに気付かされたんじゃよ。日の光を浴びて、風を感じ、畑で野菜を作りながら、育ててくれた。
そうして、人に生まれたからには、人にもたくさんお世話になったで。
そうでないとわたくしは、生きていけんかったろうなぁ」  

龍弘じぃちゃんは、感謝の気持ちでいっぱいになった。
そして、安心するように、優しく微笑んでいる。
たくさんの物やたくさんの仲間にも、そして全てに感謝した。

学校にも行けた。
そのお陰で、仕事ができて、お金もたくさん入ってきた。
そのお陰で、好きな事が出来て、夢も叶ったのだった。
そのお陰で、
「ばぁさんと知り合って...
お前の父ちゃんが産まれてから...ますます、
"ありがたやぁ"と言う機会が増えたなやぁ(笑)」



家族にも恵まれ、素晴らしい人生の喜びを実感することができた。

「わたくしは...
もう歳じゃからな、いつあの世に行くかも? わからないわけでもありまして...。
じゃが、
ばぁさんがおるでぇ、なんも心配はない。
本当に心から、『ありがたい』と、思えるのじゃよ」

龍弘じぃちゃんは、たとえ辛いことがあっても、
その全てに意味があって
それに感謝をすることができたのだという...。

そんな日暮れ時、
夕日が差し込む庭園で、そう語った。

「陽介よ、お前もこの言葉を忘れるでないぞ。
心を込めて『ありがたや』と言えば、人生は必ず輝きを放つはずじゃよ!」

そうやって龍弘じぃちゃんは、毎日"ありがたや"と呟きながら、過ごしていったのだ。

ふと、人生の歩みを振り返り、全てに感謝する。
それが彼の生き方だった。  

それから、数年が過ぎた。
じぃちゃんは天国へと旅立った。

陽介は...
そんなじぃちゃんの言葉を、
今でも覚えている。

「ありがたや。
ありがたや...。」

それは、まるで...。



呪文のようにも思えるが。
じぃちゃんの人生は、
日々、感謝に満ちたものだったのだろう。

これからも、
じぃちゃんの言葉を胸に刻み、感謝・・の気持ちを忘れずにいたい。
陽介は、そう願った...。

    
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