短編集・異世界恋愛

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「君を愛することはない」

4.

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 それから数週間後。再び私の前に現れたダリアスは、ひどく思いつめたような顔をしていた。

「……あの女は魔力を持っている。おそらくは、魅了の魔法を使ったんだろう」
「え……っ?!」

 予想もしなかった言葉に、私は絶句した。だって、魅了の魔法だなんて……。現代ではきっともう誰も使える人はいない、潰えた魔法の一つだと思っていたのに……。

「しかもあの女は平民らしい。その上、女の家系には他に大した魔法が使える者もいないようだ。つまりあの女は特異体質を持って生まれてきたんだろうね。何かの機会にアーヴィンと出会って、魅了の魔法を使って誑かしたんだろう」
「そ……、そんな……」

 悔しくて悲しくて、また新たな涙が零れる。ひどい。ひどい……。どうしてアーヴィン様にそんなことを……。

「調べてみたら、これまでもさんざんいろんな平民の男を誑かしてきたみたいだ。おそらく、女はアーヴィンの家の爵位や金が目的なんだろう。魅了の魔法をかけながら、洗脳したんだろうね。アーヴィンから昔の思い出話でも聞いて、その幼い日に出会ったローザは自分だと。自分たちはずっと想い合っていたんだと。ちなみに、ローザという名前も偽名らしい。女の本当の名はベアトリスだ」
「……っ!……ダリアス、どうにかならない……?アーヴィン様の魅了の魔法を解いてほしい。あなたならそれができるんじゃなくて……?」

 私は懇願した。ダリアスは困りきった顔で目を逸らす。そしてしばらく黙り込んで、何かを考えているようだった。

「……。……できるよ、ローザ。僕は魅了の魔法を解く薬も調合できるから」
「っ!!ほ、本当?ダリアス……!」
「だけどね、ローザ、聞いて」

 喜んで彼の手を取ろうとした私の頬を、ダリアスは両手でそっと包み込んだ。そしてとても切ない眼差しで私を見つめながら、静かに言う。

「僕はアーヴィンの魅了を解くことで、君が幸せになれるとは思えない」
「え……?ど、どうして……?」
「……君を傷つけてしまうかもしれないけれど、言うね。……女の魔力は、決して強いものではなかった。微弱なものだ。つまり、強い意志をもってきっぱりと拒めば、大抵の人間はあの女の魔法にかかることはない、と思う。……つまり……、」
「……私への想いが、もうなかったということ……?」
「……君への想いというよりも……」

 困ったように視線を逸らし、まだ何かを言おうとするダリアスの言葉を遮り、私は頼み込んだ。

「ダリアス、お願いよ。私、自分の目で確かめたい。ちゃんと正気に戻ったアーヴィン様の口から、私のことをどう思っているのか聞きたいの。このままじゃ嫌。このまま彼と結婚しても地獄だし、両親に事情を話して婚約を解消してもらったとしても、アーヴィン様のことは私の心にずっと残り続けるわ。このままじゃ私、前に進めない……!」

 そう言って涙を零す私のことを、ダリアスはしばらく黙って見つめていた。そしてふうっと息を吐く。

「……そうだね。分かったよ、ローザ。確かめておいで、自分の目で。魔法作用を解く薬は、調合して持ってくるよ。紅茶か何かに混ぜて飲ませれば、効果は出る。……使うかどうかは、君の判断に任せるよ、ローザ。……正直僕は、解いてやる必要はないと思うけどね」

(……?)

 どうしてダリアスはこんなことを言うのだろう。
 アーヴィン様の、私への想いが浅かったから……?

 数日後、ダリアスが持ってきてくれた小瓶に入った薬を持って、私は一人アーヴィン様の元へ向かった。

 



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