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「ミッチェル様の不貞の証拠を揃えております。ベルナップ伯爵、こちらをご確認くださいませ」
「…………な……」
マキシミリアーノ様のおかげで手にすることができたその調査書類を渡しながら、いまだ呆然としているベルナップ伯爵に全てを話す。
「私たちの結婚式の翌日、私は街で偶然ミッチェル様とここにいるポーラ・リヴィングストン子爵令嬢が一緒にいるところを目撃しました。そこで二人の会話を聞いてしまったのです。二人は言っていました。この結婚は白い結婚だ、愛しているのは君だけだポーラ、離婚するから待っていてくれ、信じていいのね?、離婚してくれるのね?、するに決まってる!などなど、と」
「な…………!」
「ぁ……ア…………アミカ……」
一気に顔が引き攣るベルナップ伯爵と、素っ裸のまま呆然と私の名を呼ぶミッチェル。ポーラも愕然とした表情で口を開けたまま私を見つめている。私は二人に向かってゆっくりと言った。
「…事実に違いないわよね?ミッチェル、ポーラ」
「ちっ!…違うよアミカ!!違うんだ!!」
突然ミッチェルが裏返った声で叫ぶとベッドから飛び降り、私の足元までズルズルと擦り寄ってきた。裸のままで。夫の体を初めて直視したというのに何の感慨も湧かない。むしろ気持ちが悪い。
「きっ…………、気の迷い……そう……!気の迷いだったんだアミカ!!オルブライト伯爵!!信じてください!!違います!!僕が愛しているのはアミカだけです!!」
「はぁっ?!」
みっともなく私に縋りついて苦しすぎる言い訳を始めたミッチェルの姿を見て、ポーラが怒りをあらわにした。
「今さら何言ってるのよあんた!!じゃあ私たちのこの長い時間は何だったのよ!!あんた私が学園で声をかけた時からずっと私に夢中だったじゃないの!!何が気の迷いよ!!ふざけないで!!」
ヒステリックなポーラは自ら私たちに二人の不貞の期間を暴露してくれた。ミッチェルはそんなポーラを無視して私のドレスの裾に手を添える。
「ア……アミカ……アミカ……!違うんだよ!僕が馬鹿だったよ!どうか許しておくれ……。ポーラとはもう別れようと思っていたところだったんだよ……!君と結婚して、僕はあらためて君の素晴らしさ、愛らしさに気付いたんだ……本当だよ!」
「ちょっと!!何なのよそれ!!何言ってるのミッチェル!!ねぇ!!」
「や、やり直したい……!今後の人生の全てを君に捧げるよアミカ……!だから、ど、どうか、見捨てないでくれ……!僕を許すと言ってくれ!い……今ここで君に捨てられてしまったら…………もう、僕は終わりだ……」
最後の台詞だけが本音でしょうね。
醜態をさらし続ける息子を、ベルナップ伯爵はこめかみに青筋を立てながら見下ろしている。父も同様だ。ポーラなどもはや普段の姿とは別人のように目をつり上げ、歯をぎしぎしと食いしばりながら本性をさらけ出している。
「……手を離してくださいませ、お気に入りのドレスが汚れますわ」
「ア……アミカ……」
「そんな都合のいい話はございませんわよ、ミッチェル。私たちの結婚は最初からあなた方二人によって穢されていたのですもの。人生に大きな傷を付けられ、時間を無駄にしましたわ。私があなた方を許す日など来ません。……お二人とも、ご自分たちの行いに対してきちんと責任を果たしてくださいね」
「……そ……そんな…………助けてくれよ、アミカ……。ぼ、僕は本当に君を…」
「もう止めろ」
その時、ベルナップ伯爵が低い声でミッチェルを制した。
「……今アミカ嬢が言ったとおりだ。言い逃れなどできるはずがないだろう。……お前には失望した」
「ちっ!父上……っ!」
「オルブライト伯爵、アミカ嬢……、どう謝っても許されることではないが、…本当に申し訳ない。愚息には必ず償いをさせます」
魂が抜けたような顔で父親を見上げるミッチェルとは対照的に、ベルナップ伯爵は私たちに素直に謝罪の言葉を述べ、息子の非を認めたのだった。
まぁ、認めるしかない状況なのだけれど。
「…………な……」
マキシミリアーノ様のおかげで手にすることができたその調査書類を渡しながら、いまだ呆然としているベルナップ伯爵に全てを話す。
「私たちの結婚式の翌日、私は街で偶然ミッチェル様とここにいるポーラ・リヴィングストン子爵令嬢が一緒にいるところを目撃しました。そこで二人の会話を聞いてしまったのです。二人は言っていました。この結婚は白い結婚だ、愛しているのは君だけだポーラ、離婚するから待っていてくれ、信じていいのね?、離婚してくれるのね?、するに決まってる!などなど、と」
「な…………!」
「ぁ……ア…………アミカ……」
一気に顔が引き攣るベルナップ伯爵と、素っ裸のまま呆然と私の名を呼ぶミッチェル。ポーラも愕然とした表情で口を開けたまま私を見つめている。私は二人に向かってゆっくりと言った。
「…事実に違いないわよね?ミッチェル、ポーラ」
「ちっ!…違うよアミカ!!違うんだ!!」
突然ミッチェルが裏返った声で叫ぶとベッドから飛び降り、私の足元までズルズルと擦り寄ってきた。裸のままで。夫の体を初めて直視したというのに何の感慨も湧かない。むしろ気持ちが悪い。
「きっ…………、気の迷い……そう……!気の迷いだったんだアミカ!!オルブライト伯爵!!信じてください!!違います!!僕が愛しているのはアミカだけです!!」
「はぁっ?!」
みっともなく私に縋りついて苦しすぎる言い訳を始めたミッチェルの姿を見て、ポーラが怒りをあらわにした。
「今さら何言ってるのよあんた!!じゃあ私たちのこの長い時間は何だったのよ!!あんた私が学園で声をかけた時からずっと私に夢中だったじゃないの!!何が気の迷いよ!!ふざけないで!!」
ヒステリックなポーラは自ら私たちに二人の不貞の期間を暴露してくれた。ミッチェルはそんなポーラを無視して私のドレスの裾に手を添える。
「ア……アミカ……アミカ……!違うんだよ!僕が馬鹿だったよ!どうか許しておくれ……。ポーラとはもう別れようと思っていたところだったんだよ……!君と結婚して、僕はあらためて君の素晴らしさ、愛らしさに気付いたんだ……本当だよ!」
「ちょっと!!何なのよそれ!!何言ってるのミッチェル!!ねぇ!!」
「や、やり直したい……!今後の人生の全てを君に捧げるよアミカ……!だから、ど、どうか、見捨てないでくれ……!僕を許すと言ってくれ!い……今ここで君に捨てられてしまったら…………もう、僕は終わりだ……」
最後の台詞だけが本音でしょうね。
醜態をさらし続ける息子を、ベルナップ伯爵はこめかみに青筋を立てながら見下ろしている。父も同様だ。ポーラなどもはや普段の姿とは別人のように目をつり上げ、歯をぎしぎしと食いしばりながら本性をさらけ出している。
「……手を離してくださいませ、お気に入りのドレスが汚れますわ」
「ア……アミカ……」
「そんな都合のいい話はございませんわよ、ミッチェル。私たちの結婚は最初からあなた方二人によって穢されていたのですもの。人生に大きな傷を付けられ、時間を無駄にしましたわ。私があなた方を許す日など来ません。……お二人とも、ご自分たちの行いに対してきちんと責任を果たしてくださいね」
「……そ……そんな…………助けてくれよ、アミカ……。ぼ、僕は本当に君を…」
「もう止めろ」
その時、ベルナップ伯爵が低い声でミッチェルを制した。
「……今アミカ嬢が言ったとおりだ。言い逃れなどできるはずがないだろう。……お前には失望した」
「ちっ!父上……っ!」
「オルブライト伯爵、アミカ嬢……、どう謝っても許されることではないが、…本当に申し訳ない。愚息には必ず償いをさせます」
魂が抜けたような顔で父親を見上げるミッチェルとは対照的に、ベルナップ伯爵は私たちに素直に謝罪の言葉を述べ、息子の非を認めたのだった。
まぁ、認めるしかない状況なのだけれど。
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