【完結済】結婚式の翌日、私はこの結婚が白い結婚であることを知りました。

鳴宮野々花@書籍2冊発売中

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 翌日の夜は「戸棚の上に上げてある小物入れを自分で取ろうとして椅子の上に乗ってみたら落ちて腰を強打した」の苦しい言い訳で夜を乗り切り、そしてついに決戦の当日がやって来た。

 この日のために全ての準備は整えていた。


「じゃあ、行ってくるよアミカ」
「ええ、いってらっしゃい。楽しんでいらしてね」

 せいぜいね。

 私はニコニコと笑顔で出かけていくろくでなしの夫を優しく見送った。

(……さぁ、こちらも出かけましょう)

 私は準備を整えてマキシミリアーノ様の屋敷に向かったのだった。





「予想通りだったら、もうすぐ彼から連絡が来るはずだ」
「ええ、そうですわね」

 マキシミリアーノ様のところで緊張しながら待っていると、ほどなくして一人の若い男性が飛び込んできた。

「マキシミリアーノ様!確認しました。今二人はいつもの宿で会ったところです。普段通りなら数刻は出てこないかと」
「分かった。ありがとうエリック」
「本当に助かりましたわエリックさん!ありがとうございます!」

 私は初めて顔を合わせる密偵役を務めてくれていたその男性に感謝の言葉を述べた。マキシミリアーノ様には頼りになるお知り合いがいるものだ。

「…本当に一人で大丈夫かい?」
「ええ、心配なさらないで。乗り込む時には一人ではありませんから。…マキシミリアーノ様、ここまで本当にありがとうございました。後日報告にまいりますわね」
「ああ、待っているよ」
「……。」
「……。」

 なぜだかほんの少しの間、無言で見つめ合う私たち。私はハッとして慌てて目を逸らし、マキシミリアーノ様のお屋敷を出ようとした。

 その時、

「っ?!」

 後ろから手首を掴まれ、私は驚いて振り返った。真剣な表情のマキシミリアーノ様が私を見つめていた。

「……アミカ嬢、」
「……っ、……は、はい…?」
「…………待っているからね。気を付けて」
「え、ええ。ありがとうございます」

 なぜか同じ言葉をかけられ、私は今度こそお屋敷を出た。
 




 まずはミッチェルの実家であるベルナップ邸に立ち寄る。今日お義父様が在宅していることは事前に確認してあった。

「こんにちは、お義父様」
「おや、アミカ。来たんだね。……?…一人かい?ミッチェルはどうした?」
「ええ、出かけておりますの。お忙しいところすみません、お義父様。大切な用件がありますの。申し訳ないのですが、今から私と一緒に出かけていただけますか?」
「…………今から?」


 怪訝な顔をして渋りながらも私についてきてくださったベルナップ伯爵を馬車に乗せ、私は実家へ向かった。
 ベルナップ伯爵夫人もいらっしゃったが、さすがに気が引けてお声はかけなかった。見たくもないだろう。見たら気絶してしまわれるかもしれない。


 父には事前に全てを打ち明けていた。二人の婚前からの不貞のことも、今から私がやろうとしていることも。私の話を聞いた時父は激昂していたが、今日は大人しくついてきてくれた。

 ベルナップ伯爵は一体何が起こるのかと不思議でならないのだろう。強張った不機嫌な顔で並んで座る私と父の顔を馬車の中で何度も見比べていた。



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