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あの事件以降も私とマキシミリアーノ様は連携を取りながら、着実に二人の不貞の証拠を集めつつあった。
「やはり定期的に密会を続けているね。特にこの数週間は、数時間単位で宿で会っている回数がかなりある。これは有力な証拠だよ。たっぷり金を握らせてあるから、宿屋の主人からの証言も取れる」
「っ!そ、そこまでしていただいて……、なんとお礼を申し上げたらいいのか……」
マキシミリアーノ様が親切すぎる。さすがに恐縮する私に、彼は優しく微笑みかけて言った。
「いいんだよ、私がしたくてしていることだ。無事に全てが片付いたら、二人で祝杯を挙げようね」
「はい……っ」
屋敷での生活も、しばらくは何も変化はなかった。ミッチェルは相変わらず別室で寝る生活だったし、もうこっちも当然その気はさらさらない。むしろ何かと必死で理由を捻り出して言い訳してくる彼の無様な様子を楽しむ余裕まであった。
「あ、あいたたたたたた!……う、……うーん……、せ、背中が痛い……背中が……。な、何か悪い病気だろうか……。医者に診せるべきかなぁ。どう思う?アミカ」
「アミカ、すまないが、なんだか妙な胸騒ぎがするんだ……。昨夜、母が倒れた夢を見たからかもしれない…。ちょっと様子を見てくるから、君は先に眠っていてくれないか…?」
「あぁ……今日は疲れたなぁ……。実は丸二日間父の仕事を手伝っていたからね……昨夜もほとんど寝ていないんだよ…」
彼は見事に毎日毎日全部違う言い訳を考えついたのだ。それに感心しながら、逆に私は毎日毎日「そう。分かったわ」と同じ言葉を繰り返すだけだった。
ところがある夜、突然この白い結婚生活に恐ろしい変化が起きそうになった。
「……ねぇ、アミカ。……そろそろ寝室を共にするべきだよね?散々待たせてしまって悪かったね。今夜から一緒に寝ようか」
「そう。分かっ…………えっ?!」
一体何を言い出すのか。ミッチェルはニヤニヤと不気味に笑いながら(もう私にはそうとしか見えない)、私に近付いてきてそう言ったのだ。
「なっ!な、……何故ですの?!だ、だって昨日までは……!」
何かと言い訳をつけて別室で寝ていたじゃないの……っ!!
ミッチェルは不思議そうな顔で、
「…だって、僕たちは夫婦だろう?一緒に寝るのは当たり前じゃないか。もう僕の体調も万全だし、用事も入っていないし、大丈夫だよ。……え?どうしたんだい?そんなに慌てて。ふふ……可愛いなぁ、アミカは」
「~~~~~~っ?!」
一体どういう心境の変化があったのか、…それとも、ポーラとの間に何かあったのか。ミッチェルは突然夫婦として夜を過ごそうとしてきたのだ。冗談じゃない。こうなると今度は私が言い訳を捻り出す番だった。背中にダラダラと冷や汗をかきながら、私は咄嗟に腰を折って手で口元を押さえた。
「…………う゛っ!!う、……うぅぅ……っ」
「ア、アミカ?どうしたんだい?」
「ど……どうしたの、かしら、わ、私ったら…………。なんだか、ものすごく……き、気持ちが悪くて…………、うぷっ」
「アミカ!!」
「……はぁはぁ、……ごっ、ごめんなさいね、ミッチェル……、わ、私、今夜は…」
「あ、ああ、分かったよ、大丈夫だから……!」
後になってマキシミリアーノ様のツテで調査を頼んでいた人に聞いて分かったのだが、どうやらこの頃からミッチェルとポーラの仲は拗れ始めていたらしい。向こうの女とうまくいかなくなったら、今度は私。本当に最低な男だ。今まで見抜けなかったことが心底悔やまれる。
そろそろ潮時だわ。
「やはり定期的に密会を続けているね。特にこの数週間は、数時間単位で宿で会っている回数がかなりある。これは有力な証拠だよ。たっぷり金を握らせてあるから、宿屋の主人からの証言も取れる」
「っ!そ、そこまでしていただいて……、なんとお礼を申し上げたらいいのか……」
マキシミリアーノ様が親切すぎる。さすがに恐縮する私に、彼は優しく微笑みかけて言った。
「いいんだよ、私がしたくてしていることだ。無事に全てが片付いたら、二人で祝杯を挙げようね」
「はい……っ」
屋敷での生活も、しばらくは何も変化はなかった。ミッチェルは相変わらず別室で寝る生活だったし、もうこっちも当然その気はさらさらない。むしろ何かと必死で理由を捻り出して言い訳してくる彼の無様な様子を楽しむ余裕まであった。
「あ、あいたたたたたた!……う、……うーん……、せ、背中が痛い……背中が……。な、何か悪い病気だろうか……。医者に診せるべきかなぁ。どう思う?アミカ」
「アミカ、すまないが、なんだか妙な胸騒ぎがするんだ……。昨夜、母が倒れた夢を見たからかもしれない…。ちょっと様子を見てくるから、君は先に眠っていてくれないか…?」
「あぁ……今日は疲れたなぁ……。実は丸二日間父の仕事を手伝っていたからね……昨夜もほとんど寝ていないんだよ…」
彼は見事に毎日毎日全部違う言い訳を考えついたのだ。それに感心しながら、逆に私は毎日毎日「そう。分かったわ」と同じ言葉を繰り返すだけだった。
ところがある夜、突然この白い結婚生活に恐ろしい変化が起きそうになった。
「……ねぇ、アミカ。……そろそろ寝室を共にするべきだよね?散々待たせてしまって悪かったね。今夜から一緒に寝ようか」
「そう。分かっ…………えっ?!」
一体何を言い出すのか。ミッチェルはニヤニヤと不気味に笑いながら(もう私にはそうとしか見えない)、私に近付いてきてそう言ったのだ。
「なっ!な、……何故ですの?!だ、だって昨日までは……!」
何かと言い訳をつけて別室で寝ていたじゃないの……っ!!
ミッチェルは不思議そうな顔で、
「…だって、僕たちは夫婦だろう?一緒に寝るのは当たり前じゃないか。もう僕の体調も万全だし、用事も入っていないし、大丈夫だよ。……え?どうしたんだい?そんなに慌てて。ふふ……可愛いなぁ、アミカは」
「~~~~~~っ?!」
一体どういう心境の変化があったのか、…それとも、ポーラとの間に何かあったのか。ミッチェルは突然夫婦として夜を過ごそうとしてきたのだ。冗談じゃない。こうなると今度は私が言い訳を捻り出す番だった。背中にダラダラと冷や汗をかきながら、私は咄嗟に腰を折って手で口元を押さえた。
「…………う゛っ!!う、……うぅぅ……っ」
「ア、アミカ?どうしたんだい?」
「ど……どうしたの、かしら、わ、私ったら…………。なんだか、ものすごく……き、気持ちが悪くて…………、うぷっ」
「アミカ!!」
「……はぁはぁ、……ごっ、ごめんなさいね、ミッチェル……、わ、私、今夜は…」
「あ、ああ、分かったよ、大丈夫だから……!」
後になってマキシミリアーノ様のツテで調査を頼んでいた人に聞いて分かったのだが、どうやらこの頃からミッチェルとポーラの仲は拗れ始めていたらしい。向こうの女とうまくいかなくなったら、今度は私。本当に最低な男だ。今まで見抜けなかったことが心底悔やまれる。
そろそろ潮時だわ。
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