上 下
16 / 27

16.(※ミッチェルside)

しおりを挟む
(……うーん……。疲れた……。なんだかもう、どうでもよくなってきた気が……)

 先日のエイダンとアミカの熱愛発覚計画が失敗してしまって以来、僕は心底疲れきってしまっていた。

 全てはアミカのせいにして、多額の慰謝料をこちら側が請求されることなく離婚し、その後真実の愛で結ばれたポーラと円満に結婚するための僕らの計画だったんだ。

(だけど……、なんかもう、そこまでする必要あるのかなぁ……)


 ポーラの真剣さに押された僕は、幼なじみのエイダンに協力を頼み込み、アミカを誘惑してもらった。
 僕が泊まりがけの視察に出かけ留守にすることにして、その隙にエイダンを屋敷に送り込んだ。
 ポーラの計画では、二人が熱烈な愛を交わしている瞬間をたまたま屋敷に戻ってきた僕が見つけてしまって、そのままアミカ有責での離婚に持ち込む、というはずだったのだが。

(……まさか、あんなタイミングでマキシミリアーノ・バーンズ侯爵令息が我が屋敷を訪れているとはなぁ……。あれには本当に参った……)

 僕はさほど会話を交わしたこともないのだが、アミカは貴族学園時代に彼とわりと親しくしていた。成績の良い者同士で気が合ったようだ。そんな彼が、僕たちの結婚祝いを届けようと屋敷を訪れ、エイダンが不埒な行為に及ぼうとしていたところを見つけてしまったのだ。なんて最悪なタイミングなんだ。

 おかげでエイダンはバーンズ侯爵令息からボコボコに殴られ、ものすごく怒っていた。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!と後日会った時に怒鳴り散らかされ、結局成功報酬として渡すはずだった金額の半分以上も持って行かれてしまった。

 僕らの結婚以来すっかり疑り深くなってカリカリしていたポーラは、この失敗でますますヒステリックになってきた。


『どうするつもりなの?!』
『どっ……、どうする、って言われても…………うーん……』
『……何よそれ。あなた、本当に真剣に考えてくれてるの?!まさか、離婚する気がなくなったなんて言うんじゃないでしょうねぇ?!』
『い、いや、まさか…』
『私はあなたに全てを捧げたのよ?!乙女の純潔を!純愛を!あなたを信じたから!!』
『わっ!分かってるってばポーラ!ちゃんと……ちゃんと考えるから……。つ、次の計画を……』
『……………………。』
『ほ、本当だよポーラ』
『……まさかあなた……、アミカと本当はもう寝室を共にしてるんじゃないでしょうね?!許さないわよ!!』
『してないってば!!』



「…………はーぁ…………」

 最初は新鮮で可愛いと思ったんだけどなぁ……。

 上目遣いで色っぽく声をかけてきた時にはドキドキしたし、二人きりの時間はいつも情熱的で翻弄されるほどだ。たしかにポーラはすごく魅力的だった。あれに逆らえる男なんていない。禁断の関係であると思うとますます燃え上がったし。

 だけど最近はもう……。

「…………。」

 情熱的なポーラに比べると、アミカは物足りない女だと思ったけど、……よく考えると、アミカはやっぱりいい女だよなぁ。

 結婚以来数ヶ月。僕が何かと理由をつけて夜を拒み続けても、決して僕のことをヒステリックに責めてきたりしない。いつも大人しく「分かりましたわ」と言ってそっとしておいてくれる。

(……しとやかで慎み深くて、いい子だよなぁ)

 これがポーラだったら絶対にこうはいかない。私に飽きたんでしょ?!だのなんだのと責め立てて泣き喚くだろう。

 それに比べて、アミカは賢くて品がある。やはり僕の両親が気に入ってるだけのことはあるよなぁ。

(……なんか…………やっぱりアミカの方がいい、かも……)

……いやいやいやいや、今さら何を考えているんだ。ここでやっぱり離婚はしない、もう終わりにしよう、なんて言おうものならポーラがどう出るか。考えただけでも恐ろしい。

 ……だけど……


「…………面倒くさいなぁ……」



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自分勝手な側妃を見習えとおっしゃったのですから、わたくしの望む未来を手にすると決めました。

Mayoi
恋愛
国王キングズリーの寵愛を受ける側妃メラニー。 二人から見下される正妃クローディア。 正妃として国王に苦言を呈すれば嫉妬だと言われ、逆に側妃を見習うように言わる始末。 国王であるキングズリーがそう言ったのだからクローディアも決心する。 クローディアは自らの望む未来を手にすべく、密かに手を回す。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

離婚したらどうなるのか理解していない夫に、笑顔で離婚を告げました。

Mayoi
恋愛
実家の財政事情が悪化したことでマティルダは夫のクレイグに相談を持ち掛けた。 ところがクレイグは過剰に反応し、利用価値がなくなったからと離婚すると言い出した。 なぜ財政事情が悪化していたのか、マティルダの実家を失うことが何を意味するのか、クレイグは何も知らなかった。

嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい

風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」 顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。 裏表のあるの妹のお世話はもううんざり! 側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ! そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて―― それって側妃がやることじゃないでしょう!? ※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。

身勝手な婚約者のために頑張ることはやめました!

風見ゆうみ
恋愛
ロイロン王国の第二王女だった私、セリスティーナが政略結婚することになったのはワガママな第二王子。 彼には前々から愛する人、フェイアンナ様がいて、仕事もせずに彼女と遊んでばかり。 あまりの酷さに怒りをぶつけた次の日のパーティーで、私は彼とフェイアンナ様に殺された……はずなのに、パーティー当日の朝に戻っていました。 政略結婚ではあるけれど、立場は私の国のほうが立場は強いので、お父様とお母様はいつでも戻って来て良いと言ってくれていました。 どうして、あんな人のために私が死ななくちゃならないの? そう思った私は、王子を野放しにしている両陛下にパーティー会場で失礼な発言をしても良いという承諾を得てから聞いてみた。 「婚約破棄させていただこうと思います」 私の発言に、騒がしかったパーティー会場は一瞬にして静まり返った。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

「婚約の約束を取り消しませんか」と言われ、涙が零れてしまったら

古堂すいう
恋愛
今日は待ちに待った婚約発表の日。 アベリア王国の公爵令嬢─ルルは、心を躍らせ王城のパーティーへと向かった。 けれど、パーティーで見たのは想い人である第二王子─ユシスと、その横に立つ妖艶で美人な隣国の王女。 王女がユシスにべったりとして離れないその様子を見て、ルルは切ない想いに胸を焦がして──。

処理中です...