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 玄関を出て二人きりになったところで、私はマキシミリアーノ様を見つめて心からの感謝を述べた。

「……本当に、ありがとうございました、マキシミリアーノ様。一生感謝いたしますわ。助けてくださったこと……」

 感極まって思わず涙が込み上げる。だって本当に怖かったのだ。あんな男に踏みにじられてしまったら、もう人生を終わらせる以外になかった。

 マキシミリアーノ様は切なげに私を見つめ返し、ほんの一瞬だけ、私の頬に手を添えた。

「っ?!」
「……このまま君を私の屋敷に連れて帰ってしまいたい」
「…………っ、」

(え…………、え、えぇっ?!)

「…それぐらい、心配でたまらないけど、」

(あ、ああ……、なんだ……)

 熱烈な愛の告白なのかと勘違いしてしまった。すっかり舞い上がってしまっている自分が恥ずかしくて頬が熱を帯びる。

「だが今ここで私たちが妙な動きをして、ミッチェルに隙を見せることになってしまってはいけない。あらぬ疑いをかけられては君の経歴に傷をつけられかねないからね」
「……マキシミリアーノ様……」

 どこまでお優しい方なのかしら……。

 マキシミリアーノ様は声を抑えて囁くように言った。

「エイダンが今日ここにやって来たのも、ミッチェルが帰ってきたのも、偶然ではないはずだ。おそらく、君とエイダンの言い逃れできない場面を押さえようとしたのだろう。こんな騒ぎになった以上、同じ手は使わないはずだが……、くれぐれも、油断しないで」
「ええ、大丈夫です、マキシミリアーノ様。重々承知しておりますわ」

 ミッチェルが視察に同行するというのはおそらく最初から嘘だったのだ。自分の留守の間に仲間を差し向けて、後から入室した自分がその現場を見る。そうして私を陥れるつもりだったに違いない。

「……また会おう。近いうちに」
「はい。ありがとうございます」





「……。」

 マキシミリアーノ様の馬車を見送った後、私ははらわたを煮えくり返らせながら2階に上がり、二人がいる部屋のドアを開けた。二人は同時に私を振り返る。エイダンの顔はさっきのマキシミリアーノ様の攻撃ですっかり腫れ上がってボコボコだ。ざまあみろだわ。

「…アミカ。今エイダンと話したんだが、もう君のことはきっぱり諦めるそうだ。絶対にこんなことは二度としないと誓ったよ。……どうか、俺の顔に免じて、ここは許してやってくれないか」
「…………。」

 ……何を白々しい……。きっぱり諦めるも何も、最初から私のことなど何とも思っていないのでしょう?その男は。それにあなたは一体何なの?自分の妻が辱めを受けるところだったのよ。許してやってくれ、ではなくて、そこは率先して牢獄にぶち込むべきでしょう?!鞭打ち、手足の切断……、何かしら厳罰を与えたいと思うはずではないの?!妻を愛している普通の夫ならね!

「…………あなたにお任せしますわ」

 私は全ての言葉をグッと抑え込み、部屋を後にした。

 不貞腐れた顔でそっぽを向いていたエイダンは少しも反省などしていない様子だった。




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