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「愛してるよアミカ…!」

 顔を背けたことで私の耳がエイダン様の唇の前に来る恰好になってしまい、その耳に気絶しそうになるほど薄気味悪い声が囁かれた。

「~~~~~~っ!!」

 ああ……、私の純潔は……こんな男の手によって散らされてしまうのね……。こんな不気味な、愛の欠片も感じられない相手のために……。

「…………ひ……っ……!だ、誰か……っ!誰かぁぁぁっ!!いやぁぁぁぁぁっ!!」

 はぁはぁと首筋にかかる怖気をふるう生温かい息。恐怖と屈辱で涙が溢れた。



 その時。



「ぐあぁっ!!」

(……、……っ?!)

 強く引っ張られていた腕が急に解放され、私はふわりと投げ出されるように床に倒れ込んだ。

「…………っ!マ……」

 何が起こったのかと顔を上げると、そこに立っていたのは─────

「マキシミリアーノ様……っ!」
「……大丈夫か?アミカ嬢」

 チラリと私を見たマキシミリアーノ様だが、這いつくばるようにして部屋から逃げ出そうとするエイダン様に気付き、その肩をガシッと掴むと強引に引っ張り起こしてその頬を殴りつけた。

「ごふっ!」
「……っ!!」

 すでに血まみれだったエイダン様の顔に強烈な一発がお見舞いされる。どうやら殴られたのは二発目らしい。

「……卑劣な男め……!お前のような下劣な人間が、アミカ嬢に触れることは許されない。そのことを今からたっぷりと思い知らせてやろう」
「っ!!ひ……、ち、ちが……」

 た、助かった……。
 助かったんだわ、私……!

 窮地を救ってくださったマキシミリアーノ様の姿に、私は呆然と見惚れた。

 マキシミリアーノ様……!
 な、なんて頼もしくて、格好いい方なの……!

 安心したのと急激に高鳴るこの胸のときめきで、私は目まいを覚えた。

「う、うわぁっ!!な、何だこの騒ぎは……っ!!」

(…………え……?)

 そこへ、お父様と視察に出かけたはずのミッチェルが突然飛び込んできた。

 な、何故……?

「…ミッチェル……?なぜ、今、あなたがここにいるの……?」





 私とマキシミリアーノ様、ミッチェル、エイダン様の4人は、その後話し合いの場を設けることとなった。

 エイダン様は、ミッチェルの留守の間に私に愛の告白をしたくて屋敷までやって来たとのこと。階下にいた使用人たちには、「すでにアミカ嬢の許可はとってある」と嘘をついて上がってきたらしい。使用人たちもミッチェルの幼なじみだから私とも懇意なのだろうと彼を信用してしまったようだった。

 マキシミリアーノ様は、近くまで来る用事があったので結婚のお祝いを言おうと屋敷に立ち寄ってくれたそうだ。
 ……と、ミッチェルたちの前ではそう言ってくださったが、実際は私が一人でいることを心配して念のためにと様子を見に来てくれたようだ。そしたら2階から私の絶叫が聞こえ、慌てて階段を駆け上がってきたと。このことは後日聞かされた。

 ミッチェルは、お父様と視察に出かけるはずだったが、ふと屋敷に戻ってみようと思ったそうだ。深い意味はないが、


「……ほぉ……それはすごいなぁ。君はやけに勘が冴え渡っているんだね、ミッチェル殿。たまたま戻ってみたら、奥方がこの野蛮な男に無理矢理ひどいことをされそうになっていたわけだから」

 マキシミリアーノ様は冷めた目でそう言ったが、ミッチェルはそれを受けてへらへらと媚びへつらうように笑った。

「い、いやぁ、そうなんですよね……。僕は昔からこういうところがあって……。しかし、バーンズ侯爵令息がたまたま立ち寄ってくださったことが本当によかったです。こいつとは古い仲なので、……あ、後のことは我々三人でしっかり話し合いたいと思います」

 こいつ、と言ってチラリとエイダン様の方を見たミッチェルは、暗にマキシミリアーノ様に帰るよう促していた。私は立ち上がると、

「私、マキシミリアーノ様を玄関先まで送ってきますわ」

と言って連れ立って階下へ降りていった。




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