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 週が明けて、ミッチェルは聞いていた予定通りお父上のベルナップ伯爵の領地視察同行のために出かけていった。

「行ってくるよアミカ」
「ええ、いってらっしゃい」

 私の見送りももはや完全に形式上といったかんじだ。あなた、気を付けてね、なんて、口が裂けても言いたくはない。





 上辺だけの夫がいない屋敷の空気は美味しかった。私は数日間のびのびと過ごすつもりでいた。


 だけど、ミッチェルが出かけていったその翌日、私は予期せぬ来訪者を迎えた。


 その日私は朝ゆっくりと起きると、朝食を一人で美味しく食べ、メイドが掃除をしてくれた自室でゆっくりと読書をしていた。誰もいない静かな空間で小説の世界に浸りきっていると、ふいに聞き慣れない低い声で名を呼ばれ、心臓が口から飛び出しそうになった。

「…………アミカ嬢」
「きゃぁっ!!」

 咄嗟に本を落として立ち上がると、なんと先日パーティーで会ったあのエイダン様が私の部屋の中に入り、後ろ手にそっとドアを閉めているではないか。無音でこっそりと開けたのだろうか。全く気付かなかった。

「な……っ!!な、何ですの?!エイダン様……!ど、どうして、ここへ……?!」
「ああ、驚かせてしまったね、失礼。ミッチェルが仕事で留守にすると言う話を聞いてね……、今がチャンスだと思ったんだ。どうしても君と話がしたくて、我慢できずにここまで来てしまったんだよ」
「…………っ?!」

 そう言った彼の瞳の奥にある不気味な熱に気付いた瞬間、背筋がぞくっとし、体中に震えが走る。

(こっ…………この人、普通じゃないわ……!!)

「……部屋から、出て行ってください……」

 恐怖で掠れる声を必死で喉奥から絞り出すが、エイダン様は構わず一歩、二歩と私に近付いてくる。私はその分徐々に後ろに下がっていく。

「そんなつれないことを言わないでくれよ、アミカ……!俺は本当に、心から君を恋い慕っているんだぜ……?冷たいじゃないか……。君に振られたら、もう俺は生きてはいけないんだよ。どうか、頼むよアミカ。君に焦がれるこの憐れな男に、女神の慈悲をかけてはくれないか……」
「い、いや……っ!…こっ、……来ないで……っ!」

 もはや私はパニック状態だった。何故この男は屋敷に入り込んで私の部屋まで辿り着けたのか。階下には誰もいないの……?!誰も取り次ぎには来なかった。これもミッチェルの差し金なんだろうか……私は今からこの男に何をされるの……?!

「アミカ……ッ!」

 エイダン様はギラついた欲望を、もはや隠そうともしていない。だんだん早足で私の方に近付いてくる。私は後ろ足で壁際まで下がりながら、恐怖のあまり声さえ出せない。その時、震える足がもつれ、私はガクリと尻もちをつく恰好で倒れてしまった。

「ひ…………っ!」
「ああ、……俺のアミカ…!俺は、本気なんだよアミカ…!俺のこの愛を、どうか……受け止めておくれ……!」
「…………っ!!……い……」

 血走った目でエイダン様が私に覆い被さるように近付き、私の手首を強い力でギュッと掴んだ。だけど痛みを感じる余裕なんかない。顔の前まで近付いてきた生温かい息と気持ちの悪い唇から必死で顔を背け、私は全身全霊で声を振り絞って叫んだ。

「い……っ、いやぁぁぁぁぁっ!!」




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