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39. 父の目論見(※sideエルシー)
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さすがの私も呆れるくらい、王太子殿下は簡単に落ちた。こんなに簡単でいいの?と驚くくらい。
「……ごめんなさい、王太子殿下……。こんなこと打ち明けていいものか、本当に悩んだんです。だけど、やっぱり頼れる方はあなた様しかいなくて……っ!」
「エ、エルシー嬢……。いいんだ、僕を頼ってくれて嬉しいよ。……ぼ、僕のことは、アンドリューと呼んでおくれ。まさかメレディアからそんな酷い目に遭わされていただなんて……。辛かったね」
アンドリュー様は馬鹿だから、私の作り話を全部信じた。私は精一杯の演技力で、か弱くいじらしい娘を演じ続けた。
そのうちアンドリュー様は私に恋をして、私との真実の愛を貫きたいと言い出した。一度王宮での晩餐会の夜、彼の手引きによって庭園に入り抱き合っていたところをヘイディ公爵令嬢に見られた。真っ青になって怯えるアンドリュー様を、私は鼓舞した。
「大丈夫ですわ、アンドリュー様。私がついております。決してあなた様のおそばを離れませんわ」
「……エルシー……。ああ、君と夫婦になれたらどんなにいいだろう……」
この言葉に、私の心臓は大きく跳ねた。今だ。揺さぶればこの人の心は一気に固まるはず。
「……あなた様の婚約者になれるのならば、私死にもの狂いで勉学に勤しみますのに……。王太子の妃として恥ずかしくない女性になるためなら、寝食を二の次にしてでも一生懸命学びますわ」
「…………。本当かい?エルシー。王太子妃教育は想像を絶する大変さだよ。その他にも、マナーや教養の勉強……。朝から晩まで必死に学ばなければならないはずだ」
「構いませんわ!だって、メレディア様にはそれができたのでしょう?あなた様への愛がより強い私にできないはずがございませんわ!」
「……エルシー……!」
その後も逢瀬を重ねるたびに何度も何度も私はそう言って、彼を洗脳していった。王太子殿下を籠絡できそうだと両親に打ち明けると、二人は歓喜した。
「さすがは我が娘だ、エルシー……!」
「ああ、信じられない……すごいわ!私の自慢の娘エルシー!頑張るのよ!あなたに全てがかかっているの!」
「でもお父様、お母様……、ここからどうすればいいの?どうしたらアンドリュー様とヘイディ公爵令嬢との婚約を破棄させられる?」
父は熟考し、作戦を練った。私はアンドリュー様を父に引き合わせ、二人で話をする機会を作った。
「────娘には高位貴族の方々のような高度な教育を受ける機会はたしかにございませんでしたが、地頭はものすごく良い子です。殿下のご婚約者に我が娘をお選びいただけるのでしたら、娘は必ずや殿下のために心血を注ぎ、その実力を遺憾なく発揮することでしょう」
「だ、だが……、ヘイディ公爵令嬢との婚約を解消するなど……、そう簡単にできることではないんだ……」
尻込みするアンドリュー様に、父は様々な助言をした。両陛下不在の折を見て、きっぱりと皆の前でヘイディ公爵令嬢との婚約解消を公言すること。そして私をすぐさま王太子宮に住まわせ、既成事実を作ってしまうこと。その行動力により、両陛下にアンドリュー様の意志の強さを知らしめることができること。
「あとは王族の血縁にでもあたる家筋に、娘の後見人になってもらえれば……」
「アンドリュー様、その後は私にお任せくださいませ。私お勉強は大好きですのよ。良い先生をつけてくださるのなら、何も怖いものなしですわ!私が……、ずっとアンドリュー様のおそばにおります。ですからアンドリュー様も、私のことを守ってくださる……?」
「……エルシー……」
かなり強引ではあったけれど、事は概ね父の目論見通りに進んだ。父はアンドリュー様に我が家への金銭的援助と、自分を王宮の大臣に登用することを強請った。アンドリュー様は困った顔で頷いていた。我が家はお祭り騒ぎとなった。
「よくやったぞエルシー!」
「ああ、やっとお金の心配のない暮らしができるんだわ!信じられる?一生安泰なのよ!うふふふふふ……、……そうだ、買い物に行きましょうよエルシー、あなた。大通りの高級ブティックでドレスをたくさん新調しなくっちゃ!これからは上流階級のお茶会やパーティーに参加する機会がどんどん増えるわよ!」
「っ!そうねお母様!アクセサリーも……靴もよ!あ、学園に持っていっている鞄も新調したいわ。皆次々に新しいものを持ってくるのに、私だけいつも同じ鞄で恥ずかしかったのよね」
「ふふ、いくらでも買いなさいエルシー。あなたの手柄なんですもの!」
めいっぱいはしゃぎながらも、私は心の片隅で思っていた。トラヴィス殿下はどう思っているかしら。あのアンドリュー様の誕生日パーティーではヘイディ公爵令嬢のこと庇っていたけど、自分が冷たく振った女は結局、兄上である王太子殿下の婚約者になったわよ。驚いたでしょう?自分の見る目がなかったと、後悔しているんじゃなくて?ざまぁみろ。残念ながら私はもうあなたのものにはなれないのよ。あなたはこれから先の人生、私の姿を見るたびに指を咥えて悔しがるしかないの。
(……だけどもし、もしも、トラヴィス殿下がやっぱり私が欲しいと言ってきたら……?その時ってどうなるのかしら。王太子との婚約を解消して、第二王子と婚約することってできるのかしら……)
そんなことを思いながら、少しだけ期待して胸を高鳴らせた。
「……ごめんなさい、王太子殿下……。こんなこと打ち明けていいものか、本当に悩んだんです。だけど、やっぱり頼れる方はあなた様しかいなくて……っ!」
「エ、エルシー嬢……。いいんだ、僕を頼ってくれて嬉しいよ。……ぼ、僕のことは、アンドリューと呼んでおくれ。まさかメレディアからそんな酷い目に遭わされていただなんて……。辛かったね」
アンドリュー様は馬鹿だから、私の作り話を全部信じた。私は精一杯の演技力で、か弱くいじらしい娘を演じ続けた。
そのうちアンドリュー様は私に恋をして、私との真実の愛を貫きたいと言い出した。一度王宮での晩餐会の夜、彼の手引きによって庭園に入り抱き合っていたところをヘイディ公爵令嬢に見られた。真っ青になって怯えるアンドリュー様を、私は鼓舞した。
「大丈夫ですわ、アンドリュー様。私がついております。決してあなた様のおそばを離れませんわ」
「……エルシー……。ああ、君と夫婦になれたらどんなにいいだろう……」
この言葉に、私の心臓は大きく跳ねた。今だ。揺さぶればこの人の心は一気に固まるはず。
「……あなた様の婚約者になれるのならば、私死にもの狂いで勉学に勤しみますのに……。王太子の妃として恥ずかしくない女性になるためなら、寝食を二の次にしてでも一生懸命学びますわ」
「…………。本当かい?エルシー。王太子妃教育は想像を絶する大変さだよ。その他にも、マナーや教養の勉強……。朝から晩まで必死に学ばなければならないはずだ」
「構いませんわ!だって、メレディア様にはそれができたのでしょう?あなた様への愛がより強い私にできないはずがございませんわ!」
「……エルシー……!」
その後も逢瀬を重ねるたびに何度も何度も私はそう言って、彼を洗脳していった。王太子殿下を籠絡できそうだと両親に打ち明けると、二人は歓喜した。
「さすがは我が娘だ、エルシー……!」
「ああ、信じられない……すごいわ!私の自慢の娘エルシー!頑張るのよ!あなたに全てがかかっているの!」
「でもお父様、お母様……、ここからどうすればいいの?どうしたらアンドリュー様とヘイディ公爵令嬢との婚約を破棄させられる?」
父は熟考し、作戦を練った。私はアンドリュー様を父に引き合わせ、二人で話をする機会を作った。
「────娘には高位貴族の方々のような高度な教育を受ける機会はたしかにございませんでしたが、地頭はものすごく良い子です。殿下のご婚約者に我が娘をお選びいただけるのでしたら、娘は必ずや殿下のために心血を注ぎ、その実力を遺憾なく発揮することでしょう」
「だ、だが……、ヘイディ公爵令嬢との婚約を解消するなど……、そう簡単にできることではないんだ……」
尻込みするアンドリュー様に、父は様々な助言をした。両陛下不在の折を見て、きっぱりと皆の前でヘイディ公爵令嬢との婚約解消を公言すること。そして私をすぐさま王太子宮に住まわせ、既成事実を作ってしまうこと。その行動力により、両陛下にアンドリュー様の意志の強さを知らしめることができること。
「あとは王族の血縁にでもあたる家筋に、娘の後見人になってもらえれば……」
「アンドリュー様、その後は私にお任せくださいませ。私お勉強は大好きですのよ。良い先生をつけてくださるのなら、何も怖いものなしですわ!私が……、ずっとアンドリュー様のおそばにおります。ですからアンドリュー様も、私のことを守ってくださる……?」
「……エルシー……」
かなり強引ではあったけれど、事は概ね父の目論見通りに進んだ。父はアンドリュー様に我が家への金銭的援助と、自分を王宮の大臣に登用することを強請った。アンドリュー様は困った顔で頷いていた。我が家はお祭り騒ぎとなった。
「よくやったぞエルシー!」
「ああ、やっとお金の心配のない暮らしができるんだわ!信じられる?一生安泰なのよ!うふふふふふ……、……そうだ、買い物に行きましょうよエルシー、あなた。大通りの高級ブティックでドレスをたくさん新調しなくっちゃ!これからは上流階級のお茶会やパーティーに参加する機会がどんどん増えるわよ!」
「っ!そうねお母様!アクセサリーも……靴もよ!あ、学園に持っていっている鞄も新調したいわ。皆次々に新しいものを持ってくるのに、私だけいつも同じ鞄で恥ずかしかったのよね」
「ふふ、いくらでも買いなさいエルシー。あなたの手柄なんですもの!」
めいっぱいはしゃぎながらも、私は心の片隅で思っていた。トラヴィス殿下はどう思っているかしら。あのアンドリュー様の誕生日パーティーではヘイディ公爵令嬢のこと庇っていたけど、自分が冷たく振った女は結局、兄上である王太子殿下の婚約者になったわよ。驚いたでしょう?自分の見る目がなかったと、後悔しているんじゃなくて?ざまぁみろ。残念ながら私はもうあなたのものにはなれないのよ。あなたはこれから先の人生、私の姿を見るたびに指を咥えて悔しがるしかないの。
(……だけどもし、もしも、トラヴィス殿下がやっぱり私が欲しいと言ってきたら……?その時ってどうなるのかしら。王太子との婚約を解消して、第二王子と婚約することってできるのかしら……)
そんなことを思いながら、少しだけ期待して胸を高鳴らせた。
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