【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました

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24.もう一つの花束を

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(……楽しかった……。まるで夢のような一日だったわ……)

 花束を抱えて屋敷の中にボーッと戻ってきた私を見て、侍女たちは少し驚いたような顔をしながらも「お帰りなさいませ奥様」と笑顔で言ってくれた。

「まぁっ!奥様にとてもよくお似合いですわ、その花束……!素敵ですね」
「……そっ、……そう?」
「ええ!花瓶をお持ちいたしますわ」

 ジョアンナが何故だかとても嬉しそうに早足で行ってしまった。





「……………………。」

 まさか……こんなにも楽しい一日になるなんて……。

 部屋に入ると灯りもつけずに、私は花束を抱えたまま窓の外を見つめる。もうそこにアーネスト様のお姿はないけれど、馬車が帰っていったはずの道を見つめながら私は余韻に浸っていた。

 素敵な一日だった。
 侍女たちが目いっぱいお洒落をしてくれた恰好を見るなり、アーネスト様はすぐに美しいと褒めてくださった。
 とても素敵なレストランで楽しくお喋りしながら食事をして、そのどれもがすごく美味しかった。きっと高価なお料理だったのだろう。最後にシェフが持ってきてくれたデザートのケーキは見たこともないほど繊細に美しく飾られていて食べるのがもったいないほどで、思わず見とれてしまった。

 一緒に過ごす時間があまりにも楽しくて、帰りたくないな、なんて思っていたら、アーネスト様がお散歩に誘ってくださった。もしかしたら同じように感じてくださっているのだろうかと嬉しくなった。
 ベンチに並んで座っている時には、まるで雲の上にいるような気持ちだった。何故だかとてもドキドキして、アーネスト様の優しく穏やかな話し声が耳に心地良かった。


『また食事に誘っても大丈夫だろうか。君と一緒に過ごす時間はとても楽しい』


「………………はぁ……」

 私の方こそ、本当に楽しかったです、アーネスト様…。

 こんな気持ち、生まれて初めてかもしれない。あんなに素敵な男性が美しいと褒めてくださって、優しく会話をリードして、私が喜ぶことを考えてくださって。
 穏やかな温かい目で見つめられて、私と一緒に過ごす時間を心から楽しんでくれているのが伝わってきて、私も安心して、満ち足りた気持ちになった。

(……ダミアン様といる時とは、全然違う……)

 こんなにも違うものだなんて。

 こんなことを言ったら嫌がられるんじゃないか、鬱陶しいと思われるんじゃないかとビクビクすることなんて一度もなかった。何故だかアーネスト様と一緒にいると、すごく自然体でいられた。

(……エレナ様の言ったとおりだわ。本当にすごくいい気分転換になっちゃった)

 結婚以来ずっと辛いことばかりが続いている中で、こんなにも一日中楽しく過ごせたのなんて本当に久しぶりだったのだ。私はエレナ様とアーネスト様に心から感謝した。

「…………。」

 何故だかさっきからアーネスト様のあの優しい笑顔ばかりが何度も頭の中に浮かんでくる。そしてすごく、胸がドキドキするのだ。ダミアン様に抱いている感情とは、全然違う……。

(……一体何なのかしら、これは。……まだ気分が高揚しているせいなのかな……)

 窓の外を見つめながらぼんやりと考えていると、ドアの向こうから声がかかった。

「失礼いたします奥様。ちょうど良さげな大きさの花瓶がありましたわ。…飾りましょうか?」
「ありがとうジョアンナ。……ううん、いいわ。…自分で飾りたいの。…いい?」
「ええっ、もちろんですわ!では、私は失礼いたしますわね」

 ジョアンナはまた嬉しそうな顔をしてニコニコと部屋を出て行った。

 一人になった私は、ジョアンナが持ってきてくれた美しいガラス細工の花瓶の横に一度花束をそっと置いた。

 その時。

「……?あら?」

 テーブルの上に置いた花束の中から、小さな箱がコロンと転がってきた。

(えっ…?箱が入っていたなんて、全然気付かなかったわ。何かしら、これ……。どうしよう、アーネスト様の大事なものだったら……)

 戸惑ったけれど、中身を確認した方がいいと思った私はおそるおそるその白い小箱をそっと開けてみた。すると、

「……?…………ま…、まぁっ……!」

 中には数本の花を束ねたようにあしらわれたデザインの、細く繊細な銀の髪飾りが入っていたのだった。一つ一つの花の部分中央にはきらめく宝石が一粒ずつ埋め込まれている。

「アーネスト様…………っ、……これは……」

 中から一緒に出てきた小さく折り畳まれた紙。小箱を置いて少し震える手でその紙をそっと開いてみた。心臓がうるさいほどに高鳴っている。


『美しい君の髪に、もう一つの花束を。きっと似合うよ』


「……………………っ!!」


 そのメッセージを見た途端、体が燃えるように熱くなった。思わず叫びだしたくなるほどの喜びが込み上げ、私は慌てて口元を押さえた。

 心臓が壊れてしまうのではないかと思った。




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