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21.打ち明けた夫婦生活
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「……そうなのよ。とにかく全て自分の思い通りにならないと気が済まない男だったわけ!」
「まぁ……それは……大変でしたわね…」
「ええ。こんな男と生涯夫婦として生きていくなんて耐えられないって、学園に入学した頃は毎日屋敷で泣いていたものよ」
「そうだったんですね……。まさかそんな悩みを抱えていらっしゃったなんて……」
翌週、私はエレナ様のお屋敷に伺って約束したとおり互いにお薦めの小説を貸しあいっこした。それからしばらくは読書の話題で盛り上がり、その後互いの家族の話や趣味の話、学園時代の思い出話にまで至り、ついにはエレナ様の過去の男性の話にまでなった。学園に入学した頃、エレナ様にはほぼこの方で決まりという婚約寸前の方がいらっしゃったそうだが、その方があまりにも酷い男性で当時はとても苦しんでいたという。
「私の行動の一つ一つに口を出し、友達でさえ自分の許可した相手としか会わせない、自分がいないところでは他の男性と挨拶さえ交わしては駄目、終いには髪型もドレスの色も全て指定してくるようになったのよ!酷いでしょ?!」
「……ひ……酷すぎますわ……」
「私の行動や態度が少しでも気に入らないとすぐに頬を叩くの。こんな男と夫婦になったらきっと気が狂ってしまうと思ったわ。家のためには最善の相手であることは分かっていたから、我慢しなきゃ我慢しなきゃと自分に言い聞かせ続けていたんだけど……ある時思ったの。ああ、これもう無理だって。それで両親に訴えたわけ。あの人と婚約させないでほしいって」
「そっ、それで……?」
「両親は最初聞く耳持たなかったわ。あなたもラザフォード侯爵家の娘なのだから覚悟を決めてちょうだいって。腹が立って泣き喚いたわ。それならば私はラザフォード侯爵家を出ますって。娼婦にでも物乞いにでもなって一人で生きていくって言ったの」
「……っ!」
「さすがにそれはマズいと思ったんでしょうね。その後も何度か衝突したけれど、結局両親は私の気持ちを尊重する決断をしてくれたわ」
「よ……よかったです……!」
私はいつの間にか食い入るようにエレナ様を見つめ、息を呑み話に聞き入っていた。よかった……エレナ様がそんな人と一緒にならずに済んで……。
「ふふ、ありがとう。結局別の人と婚約したけれど、優しくていい人なのよ。あの時自分の意志を貫いて良かったと思っているわ」
「ええ……、本当に……!」
エレナ様はにっこり微笑むと紅茶を一口飲んで、私を見つめた。
「……それで、あなたの方はどうなの?クラウディアさん」
「えっ…?」
「結婚生活よ、彼との。…心穏やかに暮らせている?」
「……っ、……、」
突然私の話になって息が止まる。……ど、どうしよう……。何て答えたらいいのだろう……。当たり障りなく、はい、つつがなく暮らしておりますわ、でいいかしら……。…………でも……、
「……。」
「…………。ん?」
「……っ、」
ついさっきまでエレナ様が包み隠さずご自分の辛かった頃のお話をしてくださったことを思うと、なんだか自分だけ本心を隠し通すのも気が引ける。エレナ様は私が口を開くのをこっちを見つめながらじっと待っている。
「…………あ…………あまり……心穏やか、では、……ない、です…………」
…………言ってしまった。
「…そうなの?何か悩んでいることがあるなら、私でよければ話ぐらい聞かせて。話したからってどうにかできるとも限らないけれど、吐き出すことで気持ちが楽になることってあるでしょ?」
エレナ様はそう言って優しく微笑んだ。
「………………。」
私はおそるおそる口を開いた。
「……そ、……そう、ですね。…………その、…………じ、実は…………」
「さ…………最っっ低……!!最っっ低な男じゃないのあいつ!!あのクズ!!」
結婚してからこの数ヶ月の私たちの生活やダミアン様の女性関係、そして先日メラニー嬢に言っていた私の陰口……結局何もかも話してしまった。エレナ様が私から話を引き出すのがお上手過ぎたのもある。
「そんなこと、いくら何でも有り得ないわよ!!何?!屋敷に好き放題女性を連れ込んで……あ、あろうことか……夜を共に……?!妻を軽んじるにも程があるわよ!!」
エレナ様はついに立ち上がって両手をわなわなと震わせ始めた。
「…エ……エレナ様……」
「誰が地味で根暗よ!!見る目がないわねぇあの馬鹿男は!!クラウディアさんはねぇ、控えめで品があるのよ!素材が良いからどんなシンプルなドレスを着ても美しいのよ!目立とう目立とうとケバくてどぎついドレスばかり着てる女よりよっぽど素敵じゃないの!!あぁ……許せないわ……!!」
「……あ、…ありがとう、ございます……」
褒めてくださっているようだったので小さくお礼の言葉を口にすると、エレナ様は勢いよく私の方を向いて興奮冷めやらぬ顔で言った。
「クラウディアさん!!そんなの黙って見ていちゃダメよ!!もっとはっきり言っていいの!屋敷に女性を連れ込むなって!たとえこっちから手伝うと言ったにせよ、仕事を全部押し付けるな!あなたもちゃんと働きなさいって!」
「……は……はい……。…でも、あの冷たい目で睨まれたり溜息をつかれると……これ以上嫌われたくないと思って躊躇してしまうんです。わ、……私は…………愛のある家庭を築きたい……。夫婦として、もっと歩み寄って、互いを想い合いながら共に生きていきたいんです……」
「……。」
「…その夢が、捨てきれなくて……。…おかしいでしょうか?夫の愛を求め、期待するのは…。……もう、……本当に、どうにもならないのでしょうか……。…………っ、」
「……。」
堪えきれず、言葉が震える。数々の暴言や裏切りに心はとうに折れてしまっているのに、私はまだ彼を思い切れずにいるのだ。
「……ねぇ、クラウディアさん。愛のある家庭を築く相手って、どうしてもあいつじゃなきゃダメなの?」
「……。…………え?」
「まぁ……それは……大変でしたわね…」
「ええ。こんな男と生涯夫婦として生きていくなんて耐えられないって、学園に入学した頃は毎日屋敷で泣いていたものよ」
「そうだったんですね……。まさかそんな悩みを抱えていらっしゃったなんて……」
翌週、私はエレナ様のお屋敷に伺って約束したとおり互いにお薦めの小説を貸しあいっこした。それからしばらくは読書の話題で盛り上がり、その後互いの家族の話や趣味の話、学園時代の思い出話にまで至り、ついにはエレナ様の過去の男性の話にまでなった。学園に入学した頃、エレナ様にはほぼこの方で決まりという婚約寸前の方がいらっしゃったそうだが、その方があまりにも酷い男性で当時はとても苦しんでいたという。
「私の行動の一つ一つに口を出し、友達でさえ自分の許可した相手としか会わせない、自分がいないところでは他の男性と挨拶さえ交わしては駄目、終いには髪型もドレスの色も全て指定してくるようになったのよ!酷いでしょ?!」
「……ひ……酷すぎますわ……」
「私の行動や態度が少しでも気に入らないとすぐに頬を叩くの。こんな男と夫婦になったらきっと気が狂ってしまうと思ったわ。家のためには最善の相手であることは分かっていたから、我慢しなきゃ我慢しなきゃと自分に言い聞かせ続けていたんだけど……ある時思ったの。ああ、これもう無理だって。それで両親に訴えたわけ。あの人と婚約させないでほしいって」
「そっ、それで……?」
「両親は最初聞く耳持たなかったわ。あなたもラザフォード侯爵家の娘なのだから覚悟を決めてちょうだいって。腹が立って泣き喚いたわ。それならば私はラザフォード侯爵家を出ますって。娼婦にでも物乞いにでもなって一人で生きていくって言ったの」
「……っ!」
「さすがにそれはマズいと思ったんでしょうね。その後も何度か衝突したけれど、結局両親は私の気持ちを尊重する決断をしてくれたわ」
「よ……よかったです……!」
私はいつの間にか食い入るようにエレナ様を見つめ、息を呑み話に聞き入っていた。よかった……エレナ様がそんな人と一緒にならずに済んで……。
「ふふ、ありがとう。結局別の人と婚約したけれど、優しくていい人なのよ。あの時自分の意志を貫いて良かったと思っているわ」
「ええ……、本当に……!」
エレナ様はにっこり微笑むと紅茶を一口飲んで、私を見つめた。
「……それで、あなたの方はどうなの?クラウディアさん」
「えっ…?」
「結婚生活よ、彼との。…心穏やかに暮らせている?」
「……っ、……、」
突然私の話になって息が止まる。……ど、どうしよう……。何て答えたらいいのだろう……。当たり障りなく、はい、つつがなく暮らしておりますわ、でいいかしら……。…………でも……、
「……。」
「…………。ん?」
「……っ、」
ついさっきまでエレナ様が包み隠さずご自分の辛かった頃のお話をしてくださったことを思うと、なんだか自分だけ本心を隠し通すのも気が引ける。エレナ様は私が口を開くのをこっちを見つめながらじっと待っている。
「…………あ…………あまり……心穏やか、では、……ない、です…………」
…………言ってしまった。
「…そうなの?何か悩んでいることがあるなら、私でよければ話ぐらい聞かせて。話したからってどうにかできるとも限らないけれど、吐き出すことで気持ちが楽になることってあるでしょ?」
エレナ様はそう言って優しく微笑んだ。
「………………。」
私はおそるおそる口を開いた。
「……そ、……そう、ですね。…………その、…………じ、実は…………」
「さ…………最っっ低……!!最っっ低な男じゃないのあいつ!!あのクズ!!」
結婚してからこの数ヶ月の私たちの生活やダミアン様の女性関係、そして先日メラニー嬢に言っていた私の陰口……結局何もかも話してしまった。エレナ様が私から話を引き出すのがお上手過ぎたのもある。
「そんなこと、いくら何でも有り得ないわよ!!何?!屋敷に好き放題女性を連れ込んで……あ、あろうことか……夜を共に……?!妻を軽んじるにも程があるわよ!!」
エレナ様はついに立ち上がって両手をわなわなと震わせ始めた。
「…エ……エレナ様……」
「誰が地味で根暗よ!!見る目がないわねぇあの馬鹿男は!!クラウディアさんはねぇ、控えめで品があるのよ!素材が良いからどんなシンプルなドレスを着ても美しいのよ!目立とう目立とうとケバくてどぎついドレスばかり着てる女よりよっぽど素敵じゃないの!!あぁ……許せないわ……!!」
「……あ、…ありがとう、ございます……」
褒めてくださっているようだったので小さくお礼の言葉を口にすると、エレナ様は勢いよく私の方を向いて興奮冷めやらぬ顔で言った。
「クラウディアさん!!そんなの黙って見ていちゃダメよ!!もっとはっきり言っていいの!屋敷に女性を連れ込むなって!たとえこっちから手伝うと言ったにせよ、仕事を全部押し付けるな!あなたもちゃんと働きなさいって!」
「……は……はい……。…でも、あの冷たい目で睨まれたり溜息をつかれると……これ以上嫌われたくないと思って躊躇してしまうんです。わ、……私は…………愛のある家庭を築きたい……。夫婦として、もっと歩み寄って、互いを想い合いながら共に生きていきたいんです……」
「……。」
「…その夢が、捨てきれなくて……。…おかしいでしょうか?夫の愛を求め、期待するのは…。……もう、……本当に、どうにもならないのでしょうか……。…………っ、」
「……。」
堪えきれず、言葉が震える。数々の暴言や裏切りに心はとうに折れてしまっているのに、私はまだ彼を思い切れずにいるのだ。
「……ねぇ、クラウディアさん。愛のある家庭を築く相手って、どうしてもあいつじゃなきゃダメなの?」
「……。…………え?」
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