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19.企む(※sideアーネスト)

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「な……何なの?それ。許せないわ、ダミアン・ウィルコックス伯爵令息……!」

 後日、再度ラザフォード侯爵邸を訪れた私は同窓会のバルコニーでの出来事をエレナに話した。すると彼女は目を吊り上げてわなわなと震えはじめた。

「だろう?最低な男だ。彼女に全く釣り合っていない」
「女の敵よ!!生きている価値もないわ!!」
「あんな男にクラウディアはもったいない…」
「なんて可哀相なの、クラウディアさん…!どうにかして彼女を解放してあげたいわ…!」

 しばらく二人して散々あの男の悪口を言った後、私は気になってエレナに尋ねた。

「…ところで、何故急にクラウディアと二人で茶会などしようと思ったんだ。君らが二人きりで過ごしたことなど過去に一度もなかったはずだが」
「ああ……それは別に……。ただ私なりに探ってみようと思っただけよ。クラウディアさんは今の結婚生活に満足しているのか。だって夫婦で呼ばれた先で主催者に挨拶もせずに妻をほったらかしにしてしまう男なのよ?普段から酷い扱いを受けているんじゃないかと気になるじゃないの。……そしたら……案の定ね……!何よ、自由な結婚生活って!!反吐が出るわ!!ただ自分が学生の時と同じように遊び回りたいだけじゃないの……!ああ、腹が立つわ……!!」
「…クラウディアは純粋で一途な子だ。あの男のそんな姿を見て日々心を痛めていることだろう……。…………離婚させたい」
「ええ!本当に……っ………………え?」

 私が思わず呟いた言葉にエレナがギョッとしてこちらを見つめてくる。

「な……何言ってるのよ……アーネスト…。…冗談やめてよ……」
「お前だって今解放してあげたいと言っていただろう」
「や、そりゃ言ったけど……そこまでは考えてなかったわよ。り、離婚させたいって…………無理に決まってるじゃない」
「いや……そうとも限らないさ」
「え……?」

 あの同窓会でのウィルコックスの態度を見てからずっと考えていた。クラウディアはあんな男の傍にいるよりも、彼女を心から大切に思っている男に守られて生きていく方が幸せに決まっているんだ。
 そう、例えば……私など……。



 そもそも何故マクラウド伯爵家とウィルコックス伯爵家が二人を婚約させたのか。
 ウィルコックス家は代々いくつかの農園を経営しており、それが領地の主たる収入源だ。
 マクラウド伯爵家の領地にも数は少ないが農園はあり、それに加えて多くの加工品を生産する工場を複数所有し、近年では評判の良い特産品を次々と作っている。ウィルコックス伯爵領で採れる豊富な果実類をまわしてもらえるのはマクラウド伯爵家にとってたしかにありがたいことだろうが、それくらいなら我が家の広大な領地にもいくらでもある。むしろウィルコックス領のものよりも質も収穫量も上だ。
 また歴史の古いマクラウド伯爵家は昔から教会との関係が深く、特に教会との太いパイプを持っていない我がグレアム侯爵家にとっても決してメリットの少ない関係ではない。
 つまり、ウィルコックス伯爵家との関係を解消し我がグレアム侯爵家と婚姻を結び関係を深めることはどちらの家にとっても実りの多いことなのだ。両親に反対されることもない。

 まあ、そのようなメリットが一つもなかったとしても、クラウディアを得られるのならば私自身はそれだけで充分なのだが。



「……まぁ、言ってることは分かるわ。マクラウド家からすればグレアム侯爵家と関係を持つ方がいいに決まってるわよね。最近ウィルコックス領もそんなに景気が良いわけでもないし」
「しかもあんな不実な男よりも私の方が絶対にクラウディアを幸せにできる」
「…………まぁ……だけどそこはもう彼女の気持ち次第というか…」
「協力してくれ、エレナ」
「……えぇ……?」
「真面目なクラウディアはあんな男に気遣って私の誘いに応じる様子もない。同性のお前からも助言してあげてほしいんだ。他の男に目を向けるべきだと。幸せになれる道は他にあるのだと導いてあげてほしい」
「……あなたとか?」
「そうだ。私とか」

 うーん、とエレナは眉間に皺を寄せて思案を始める。

「…………確かに一途さでは誰にも負けないかもね、あなたは。相手が既婚者になっても尚ひたすらに想い続けて、もはや不気味なくらいよ」
「私ならクラウディアにあんな不安そうな顔はさせない。彼女がいつも幸せに笑っていられるように全力を注ぐ」
「……とにかく、今度二人でじっくりと話して彼女の様子を見てみるわ。どこまで私に本心を打ち明けてくれるかは分からないけどね」

 エレナは安易な返事をしなかったが、前向きに協力を考えてくれているであろうことは伝わってきた。





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