12 / 39
12.根回し(※sideアーネスト)
しおりを挟む
「エレナ!いるんだな!」
「……いたら何なの?アーネスト。レディの部屋にノックもなしに入るなんて、失礼極まりないわね」
「すまない、つい」
もはや実の妹と言っても過言ではないほどに気心の知れた同い年の従姉妹の部屋の扉を開け、私はすぐさま本題に入った。
「エレナ、同窓会を開くんだ。来月」
「……え?何の同窓会?」
「決まっているだろう。王立学園の同窓会だ。すぐに招待状の準備を始めよう」
「………………え?」
エレナがポカンと口を開け、私の顔をまじまじと見つめる。
「何言ってるの?アーネスト。私たちほんの数ヶ月前に卒業したばかりよ。もう同窓会…?普通同窓会って1年とか2年とか、…数年経ってからするものでしょう?早過ぎない?」
「いいんだよ、細かいことは。お前好きだろう?そういう、人が集まる会を開くのが。……そうそう、ウィルコックス伯爵令息夫妻にも、忘れずに招待状を送ってくれよ」
「……っ?!……ア……アーネスト……ッ」
私が“ウィルコックス伯爵令息夫妻”と名を出した途端、エレナの顔が引き攣った。
「ち、ちょっと……嘘でしょう?アーネスト…。……あなた……、まだ好きなの?!まだクラウディアさんのことを想っているの?!未練たらしく?え、気持ち悪い。もう既婚者なのよ、向こうは」
「うるさい。分かっている。さらっと気持ち悪いとか言うな」
分かっている。エレナの言うとおりだ。私はあまりにも未練がましい。
こっちだって、もういい加減に忘れなくてはと必死だったのに。
先日のあの再会がいけなかったんだ。
住宅街付近を巡回中に、路地からすばしっこい動きで駆け寄ってきた痩せた少年が私たちに言った。
『ねぇ!あっちの路地の奥ですっごい綺麗な人が男らに絡まれてるよ!助けてやってよ騎士さん!』
『…そうか、分かった。教えてくれてありがとう』
私たちはすぐさま路地奥へ向かった。そこには先ほどの少年が言っていたとおり、何人もの柄の悪い男たちがたむろしており、その中心部から悲鳴のような声が聞こえた。
『ひやぁっ!!だっ!だっ!誰かぁーっ!!』
私は咄嗟に駆け寄り、連中を追い払った。よからぬことをしようとしていたらしいが、未然に防ぎご令嬢方を守ることができたようだった。私に背を向けて侍女と思われる女性とひしと抱き合っている人に声をかけると、彼女はくるりと振り返ったのだ。
あの輝くような満面の笑みで。
『アーネスト様!』
『………………。』
……………………え?
一瞬頭が真っ白になり、その後、ついに私は自分がおかしくなってしまったのだと思った。クラウディア・マクラウド伯爵令嬢への恋慕の情を募らせすぎて、ついに白昼夢を見るようになってしまったのだと。
駄目だ。いい加減にしろ、アーネスト・グレアム。お前の恋はとうに砕け散っているのだ。彼女はもう結婚した。予定通りに、あのダミアン・ウィルコックス伯爵令息と。誠意の欠片もないクズのくせに、あの健気で愛らしい人を手に入れてしまった、あの妬ましくも世界一羨ましい男と。
白昼夢のクラウディアはいつまでも消えることなく、私の顔を困ったような表情で覗き込みながら何やら喋っている。……可愛い。そんな表情さえとてつもなく愛らしい。ああ、もういい、夢でも何でも。願わくば、このままずっと…………
しかし、
ガスッ!!
「っ?!」
その時突然背中に強烈な痛みが走り、私は我に返った。……振り返ると、責めるような目線を私に送る同僚たちの姿がそこにあった。それでようやく気付いたのだ。そうか。これは現実か……!本当に今、目の前にクラウディアがいるのだ……!
その後どうにか平静を装いつつ、私はクラウディアの護衛をし、彼女の目的を済ませた。馬車まで送りながら必死で頭を回す。何か、いい理由はないだろうか……。もう一度クラウディアと会うための、ちょうどいい理由は…………。
結果として、彼女が挨拶をして馬車に乗り込む直前に、私はどうにか捻り出した苦しい理由で再会の誘いをかけたのだ。同窓会をしようとしていると。……エレナが。私ではおかしいと思ったのだ。そんなものを企画するようなタイプではない。
『もちろんですわ。喜んで伺います。ありがとうございます、アーネスト様』
私の言葉にクラウディアはそう答え、微笑んでくれた。あの世界一可愛い笑顔で。
ああ……
私にこれ以上まだ、叶わぬ恋に苦しみ続けろと仰るのか。
神はなんと残酷なのだろうか。
「……いたら何なの?アーネスト。レディの部屋にノックもなしに入るなんて、失礼極まりないわね」
「すまない、つい」
もはや実の妹と言っても過言ではないほどに気心の知れた同い年の従姉妹の部屋の扉を開け、私はすぐさま本題に入った。
「エレナ、同窓会を開くんだ。来月」
「……え?何の同窓会?」
「決まっているだろう。王立学園の同窓会だ。すぐに招待状の準備を始めよう」
「………………え?」
エレナがポカンと口を開け、私の顔をまじまじと見つめる。
「何言ってるの?アーネスト。私たちほんの数ヶ月前に卒業したばかりよ。もう同窓会…?普通同窓会って1年とか2年とか、…数年経ってからするものでしょう?早過ぎない?」
「いいんだよ、細かいことは。お前好きだろう?そういう、人が集まる会を開くのが。……そうそう、ウィルコックス伯爵令息夫妻にも、忘れずに招待状を送ってくれよ」
「……っ?!……ア……アーネスト……ッ」
私が“ウィルコックス伯爵令息夫妻”と名を出した途端、エレナの顔が引き攣った。
「ち、ちょっと……嘘でしょう?アーネスト…。……あなた……、まだ好きなの?!まだクラウディアさんのことを想っているの?!未練たらしく?え、気持ち悪い。もう既婚者なのよ、向こうは」
「うるさい。分かっている。さらっと気持ち悪いとか言うな」
分かっている。エレナの言うとおりだ。私はあまりにも未練がましい。
こっちだって、もういい加減に忘れなくてはと必死だったのに。
先日のあの再会がいけなかったんだ。
住宅街付近を巡回中に、路地からすばしっこい動きで駆け寄ってきた痩せた少年が私たちに言った。
『ねぇ!あっちの路地の奥ですっごい綺麗な人が男らに絡まれてるよ!助けてやってよ騎士さん!』
『…そうか、分かった。教えてくれてありがとう』
私たちはすぐさま路地奥へ向かった。そこには先ほどの少年が言っていたとおり、何人もの柄の悪い男たちがたむろしており、その中心部から悲鳴のような声が聞こえた。
『ひやぁっ!!だっ!だっ!誰かぁーっ!!』
私は咄嗟に駆け寄り、連中を追い払った。よからぬことをしようとしていたらしいが、未然に防ぎご令嬢方を守ることができたようだった。私に背を向けて侍女と思われる女性とひしと抱き合っている人に声をかけると、彼女はくるりと振り返ったのだ。
あの輝くような満面の笑みで。
『アーネスト様!』
『………………。』
……………………え?
一瞬頭が真っ白になり、その後、ついに私は自分がおかしくなってしまったのだと思った。クラウディア・マクラウド伯爵令嬢への恋慕の情を募らせすぎて、ついに白昼夢を見るようになってしまったのだと。
駄目だ。いい加減にしろ、アーネスト・グレアム。お前の恋はとうに砕け散っているのだ。彼女はもう結婚した。予定通りに、あのダミアン・ウィルコックス伯爵令息と。誠意の欠片もないクズのくせに、あの健気で愛らしい人を手に入れてしまった、あの妬ましくも世界一羨ましい男と。
白昼夢のクラウディアはいつまでも消えることなく、私の顔を困ったような表情で覗き込みながら何やら喋っている。……可愛い。そんな表情さえとてつもなく愛らしい。ああ、もういい、夢でも何でも。願わくば、このままずっと…………
しかし、
ガスッ!!
「っ?!」
その時突然背中に強烈な痛みが走り、私は我に返った。……振り返ると、責めるような目線を私に送る同僚たちの姿がそこにあった。それでようやく気付いたのだ。そうか。これは現実か……!本当に今、目の前にクラウディアがいるのだ……!
その後どうにか平静を装いつつ、私はクラウディアの護衛をし、彼女の目的を済ませた。馬車まで送りながら必死で頭を回す。何か、いい理由はないだろうか……。もう一度クラウディアと会うための、ちょうどいい理由は…………。
結果として、彼女が挨拶をして馬車に乗り込む直前に、私はどうにか捻り出した苦しい理由で再会の誘いをかけたのだ。同窓会をしようとしていると。……エレナが。私ではおかしいと思ったのだ。そんなものを企画するようなタイプではない。
『もちろんですわ。喜んで伺います。ありがとうございます、アーネスト様』
私の言葉にクラウディアはそう答え、微笑んでくれた。あの世界一可愛い笑顔で。
ああ……
私にこれ以上まだ、叶わぬ恋に苦しみ続けろと仰るのか。
神はなんと残酷なのだろうか。
73
お気に入りに追加
2,994
あなたにおすすめの小説
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる