9 / 39
9.嬉しい再会
しおりを挟む
「ひっ」
「んげっ……!」
私にぐいぐいと距離を縮めていた男たちが私の後ろを見ると、一気にザッと離れた。皆一様に顔が強張っている。
(…………?)
私は涙目のまま振り返った。そこに立っていたのは王国騎士団の制服を着た数名の男性たちだった。
(……あらっ?……この人……)
その一番先頭にいた黒髪黒目の男性を見た瞬間、私の胸にふわりと懐かしさがよぎる。
「何をしているのかと聞いている!!事と次第によっては厳罰を与えるぞ!!」
その男性はそう叫ぶとこちらを見ずに男たちを睨みつけながら私の横を通り過ぎ、前に立ち塞がった。まるで私を守るように。
「ひっ?!いっ、いえっ?!お、俺たちはただ…………なぁ?」
「えっ?!……そっ、そうそう。ただ……なんだ……あれだ……」
「…み、道案内をしようとしてただけでさぁ!」
「そっ、そうそう!こちらの高貴なお方が困ってらっしゃってあそばして、た、ようなので、…なぁ?!」
柄の悪い男たちは目配せしあいながらしどろもどろでそう答える。
「……ならばもう道案内は不要だ。我々が目的地までお連れする。この方々に二度と近付くんじゃない。次見つけたらただでは済まさないぞ」
目の前の騎士はそう言いながら剣の柄に手をかける。
「はっ、はい!」
「ええ、そりゃ、もう……!」
「ん、じ、じゃあっ、はい……」
それを見た男たちはへこへこしながら一斉に立ち去ったのだった。
(た…………助かったんだわ……)
信じられない。なんて素晴らしいタイミングで駆けつけてくださったんだろうこの方たちは。
「おっ!奥様ぁぁっ!」
「大丈夫よジョアンナ……、こ、怖かったわね……」
振り返って震えるジョアンナとひしと抱き合っていると、黒髪の騎士が声をかけてきた。
「ご無事でよかったが、このような治安のよくない路地に女性だけで来るのは危険です。今後はお止めください」
(っ!!)
落ち着いたその声を聞いて確信した私は、その騎士の方を振り向き思わず声を上げた。
「アーネスト様!」
「……。……………………。」
あ、あれ……?
その騎士、アーネスト・グレアム侯爵令息はそこでようやく私の顔を真正面から見た。…のだが、……おかしいな、確かに目が合っているのに何も反応がない。
「あ、あの、アーネスト・グレアム様ですわよね……?お、覚えていらっしゃいませんか?私です……、クラウディア・マクラウドですわ。マ、マクラウド伯爵家の……」
「………………。」
「……?」
(え……ええ…………?)
アーネスト様はまだ私の顔を見つめたまま銅像のように固まっている。周りにいた数人の騎士の方々が私を気遣ってかそわそわし始めた。
「あ、あの、……王立学園で、一緒でした……。あ、あれ?」
一緒にお勉強したことも何度もあるんだけどな……。……え?わ、忘れられてる……?まだ卒業してたった数ヶ月なのだけれど……。
「おい、……おい!」
「アーネスト!」
「……。……っ!!」
騎士の方の一人がアーネスト様の背中を肘でガスッ!と突いた途端、ようやく彼はビクッと肩を上げ反応を見せた。
「…あ……ああ、……ゴホン。……失礼。もちろん覚えているよ、クラウディア嬢。……すまない、まさかこんなところで再会するとは思わず……驚いてしまった」
「あ、よかったですわ!お久しぶりですアーネスト様!」
「ああ……。久しぶりだ。…元気そうでよかった」
忘れられていたわけではないようだ。私はホッとして改めてご挨拶をしたのだった。
アーネスト様はグレアム侯爵家のご令息で、私とは王立学園で共に学んだ仲だった。
黒髪黒目の長身な美丈夫で、とても成績優秀な上に武術にも長けていた。いつもたくさんの人からの羨望の眼差しを浴びていたものだ。
懐かしい方との突然の再会に、あんな目にあったばかりだというのに少し心が浮き立つ。
「王国騎士団の騎士様になられたのは聞いていましたが、まさかこんなところで再会するなんて…。助けてくださって本当にありがとうございました。感謝しますわ」
「いや、当然のことをしたまでさ。しかし何故君がこんなところに一人で…?」
「あ、それが…夫からこの近くに住んでいる方に渡す書簡を預かっておりまして……。それを届けに行っていたのです。まさかこんな入り込んだ場所にあるとも思わなくて…」
私がそう答えると、アーネスト様は少し表情を曇らせた。
「……そうか。では私が責任持って君を連れて行こう。帰りは馬車まで送っていくから安心してくれたまえ」
「あっ、ありがとうございますアーネスト様…」
背後からジョアンナのホッと息をつく音が聞こえた。
「んげっ……!」
私にぐいぐいと距離を縮めていた男たちが私の後ろを見ると、一気にザッと離れた。皆一様に顔が強張っている。
(…………?)
私は涙目のまま振り返った。そこに立っていたのは王国騎士団の制服を着た数名の男性たちだった。
(……あらっ?……この人……)
その一番先頭にいた黒髪黒目の男性を見た瞬間、私の胸にふわりと懐かしさがよぎる。
「何をしているのかと聞いている!!事と次第によっては厳罰を与えるぞ!!」
その男性はそう叫ぶとこちらを見ずに男たちを睨みつけながら私の横を通り過ぎ、前に立ち塞がった。まるで私を守るように。
「ひっ?!いっ、いえっ?!お、俺たちはただ…………なぁ?」
「えっ?!……そっ、そうそう。ただ……なんだ……あれだ……」
「…み、道案内をしようとしてただけでさぁ!」
「そっ、そうそう!こちらの高貴なお方が困ってらっしゃってあそばして、た、ようなので、…なぁ?!」
柄の悪い男たちは目配せしあいながらしどろもどろでそう答える。
「……ならばもう道案内は不要だ。我々が目的地までお連れする。この方々に二度と近付くんじゃない。次見つけたらただでは済まさないぞ」
目の前の騎士はそう言いながら剣の柄に手をかける。
「はっ、はい!」
「ええ、そりゃ、もう……!」
「ん、じ、じゃあっ、はい……」
それを見た男たちはへこへこしながら一斉に立ち去ったのだった。
(た…………助かったんだわ……)
信じられない。なんて素晴らしいタイミングで駆けつけてくださったんだろうこの方たちは。
「おっ!奥様ぁぁっ!」
「大丈夫よジョアンナ……、こ、怖かったわね……」
振り返って震えるジョアンナとひしと抱き合っていると、黒髪の騎士が声をかけてきた。
「ご無事でよかったが、このような治安のよくない路地に女性だけで来るのは危険です。今後はお止めください」
(っ!!)
落ち着いたその声を聞いて確信した私は、その騎士の方を振り向き思わず声を上げた。
「アーネスト様!」
「……。……………………。」
あ、あれ……?
その騎士、アーネスト・グレアム侯爵令息はそこでようやく私の顔を真正面から見た。…のだが、……おかしいな、確かに目が合っているのに何も反応がない。
「あ、あの、アーネスト・グレアム様ですわよね……?お、覚えていらっしゃいませんか?私です……、クラウディア・マクラウドですわ。マ、マクラウド伯爵家の……」
「………………。」
「……?」
(え……ええ…………?)
アーネスト様はまだ私の顔を見つめたまま銅像のように固まっている。周りにいた数人の騎士の方々が私を気遣ってかそわそわし始めた。
「あ、あの、……王立学園で、一緒でした……。あ、あれ?」
一緒にお勉強したことも何度もあるんだけどな……。……え?わ、忘れられてる……?まだ卒業してたった数ヶ月なのだけれど……。
「おい、……おい!」
「アーネスト!」
「……。……っ!!」
騎士の方の一人がアーネスト様の背中を肘でガスッ!と突いた途端、ようやく彼はビクッと肩を上げ反応を見せた。
「…あ……ああ、……ゴホン。……失礼。もちろん覚えているよ、クラウディア嬢。……すまない、まさかこんなところで再会するとは思わず……驚いてしまった」
「あ、よかったですわ!お久しぶりですアーネスト様!」
「ああ……。久しぶりだ。…元気そうでよかった」
忘れられていたわけではないようだ。私はホッとして改めてご挨拶をしたのだった。
アーネスト様はグレアム侯爵家のご令息で、私とは王立学園で共に学んだ仲だった。
黒髪黒目の長身な美丈夫で、とても成績優秀な上に武術にも長けていた。いつもたくさんの人からの羨望の眼差しを浴びていたものだ。
懐かしい方との突然の再会に、あんな目にあったばかりだというのに少し心が浮き立つ。
「王国騎士団の騎士様になられたのは聞いていましたが、まさかこんなところで再会するなんて…。助けてくださって本当にありがとうございました。感謝しますわ」
「いや、当然のことをしたまでさ。しかし何故君がこんなところに一人で…?」
「あ、それが…夫からこの近くに住んでいる方に渡す書簡を預かっておりまして……。それを届けに行っていたのです。まさかこんな入り込んだ場所にあるとも思わなくて…」
私がそう答えると、アーネスト様は少し表情を曇らせた。
「……そうか。では私が責任持って君を連れて行こう。帰りは馬車まで送っていくから安心してくれたまえ」
「あっ、ありがとうございますアーネスト様…」
背後からジョアンナのホッと息をつく音が聞こえた。
72
お気に入りに追加
3,053
あなたにおすすめの小説
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

平凡なる側室は陛下の愛は求めていない
かぐや
恋愛
小国の王女と帝国の主上との結婚式は恙なく終わり、王女は側室として後宮に住まうことになった。
そこで帝は言う。「俺に愛を求めるな」と。
だが側室は自他共に認める平凡で、はなからそんなものは求めていない。
側室が求めているのは、自由と安然のみであった。
そんな側室が周囲を巻き込んで自分の自由を求め、その過程でうっかり陛下にも溺愛されるお話。

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる