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7.心を抉る言葉
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ようやく今日の来客が帰られてすぐ、私は拳を握りしめありったけの勇気を持って彼の部屋のドアをノックした。
「……失礼いたしますわ、ダミアン様」
「……あ?何だ?クラウディア。疲れているんだが」
私が部屋に入ると途端にダミアン様の眉間に皺が寄る。……ううん。駄目。ここで怯んでちゃいけない。このままじゃ私たちの距離はずっと縮まらないもの。
私はゴクリと喉を鳴らすと一歩前へ出た。
「……お、お話が、したいのです」
「……話?」
はぁ、とダミアン様が溜息をつく。
「…一体何の話だ?書類のことなら執事に聞いてくれよ」
「そっ、そうではありません。……その、……わ、私たち、……二人きりで会話をする時間が、とても少ないと思うのです」
「………………。」
ダミアン様は私から目を逸らして座ったまま返事もしない。仕方なく、私は言葉を続けた。
「最近…、よく女性の方がお部屋にいらっしゃってますが……、……み、皆さん、お友達なのですよね……?」
「……。」
「う、羨ましく思うのです…。妻の私は、あなたとほとんど、会話さえできていなくて……、……結婚以来会話といえば、ほとんど仕事の書類のことだけ……。あ、あなたのことを、私は何も知らないままです…」
「……。」
「昔のように、…子どもの頃のように、またあなたと、仲良くできたらと……いつも、思っております…。その……、あの頃、とても楽しかったから……。あなたは、いつも私に優しくて……」
「…………。」
「少しずつでも、あの頃のように、あなたと近づきたいのです。…そして、いつかは、誰よりも仲睦まじい夫婦になれたら、と…」
「もう止めろ、クラウディア」
(……っ!!)
ようやく口を開いた夫はそう言って、凍り付くような眼差しで私を見た。その視線はあまりにも鋭く、私の言葉は喉元で止まってしまった。
「俺の自由を奪いたくて仕方がないらしいな、お前。そんなに俺が疑わしいか。友人に女性が多いからと言って、そんなにネチネチと責め立ててくるような陰湿な女だったのか、お前は」
「…………っ!!……そ……」
「子どもの頃のことなんか持ち出してきて、そんな大昔のことなどとっくに忘れたに決まっているだろう。そんな手を使っても無駄だぞ、クラウディア。ますますお前に嫌気が差すだけだ。俺はな、自由でいたいんだよ、自由で。妻がどうの仲睦まじい夫婦がどうのと言うのならば、まずは俺が居心地が良いと思う家をお前が作ったらどうだ?それができないなら、いっそ離婚するか?」
「─────っ!!」
……り…………離婚…………?
あまりのショックに目まいがした。離婚……?そんな、そんな言葉が……簡単に出るなんて……。
「…………ごめん、なさい……」
無意識に私の口から言葉が漏れた。
「……ごめんなさい、ダミアン様……。わ、私はただ……」
ショックで涙が込み上げる。視界が揺らぎ、これ以上言葉を発したら零れてしまいそうだった。追い打ちをかけるようにまたダミアン様の深い溜息が聞こえた。
「……あぁ、もういいから。止めてくれそういう辛気臭いのは。なぁ、クラウディア。俺のことばかり考えず、お前ももっと一人の時間を楽しんだらどうだ?最初に言っただろう。割り切って互いに自由に生きようと。夫婦でゆっくり会話を楽しんでどうのこうの、…そんなのもっと歳をとってからいくらでもできるだろう。妻としての愛を示したいとでも言うのなら、俺の自由を尊重することと俺の仕事をしっかりサポートすることで示してくれ。そうすれば俺の気持ちだってもっと変わるかもしれないさ」
「……っ、」
「そうだろう?」
「…………はい…」
「分かったなら出て行ってくれ。今はお前の顔を見たくない」
「…………。ごめんなさい…」
重い足を必死に動かしてどうにかその場を離れると、私はダミアン様の部屋のドアを閉めて廊下の奥にある自分の部屋へ戻った。
パタン。
「………………ふ……、う……う゛ぅっ……」
そして部屋に入り鍵をかけると、私は声を押し殺して涙を流した。
「……失礼いたしますわ、ダミアン様」
「……あ?何だ?クラウディア。疲れているんだが」
私が部屋に入ると途端にダミアン様の眉間に皺が寄る。……ううん。駄目。ここで怯んでちゃいけない。このままじゃ私たちの距離はずっと縮まらないもの。
私はゴクリと喉を鳴らすと一歩前へ出た。
「……お、お話が、したいのです」
「……話?」
はぁ、とダミアン様が溜息をつく。
「…一体何の話だ?書類のことなら執事に聞いてくれよ」
「そっ、そうではありません。……その、……わ、私たち、……二人きりで会話をする時間が、とても少ないと思うのです」
「………………。」
ダミアン様は私から目を逸らして座ったまま返事もしない。仕方なく、私は言葉を続けた。
「最近…、よく女性の方がお部屋にいらっしゃってますが……、……み、皆さん、お友達なのですよね……?」
「……。」
「う、羨ましく思うのです…。妻の私は、あなたとほとんど、会話さえできていなくて……、……結婚以来会話といえば、ほとんど仕事の書類のことだけ……。あ、あなたのことを、私は何も知らないままです…」
「……。」
「昔のように、…子どもの頃のように、またあなたと、仲良くできたらと……いつも、思っております…。その……、あの頃、とても楽しかったから……。あなたは、いつも私に優しくて……」
「…………。」
「少しずつでも、あの頃のように、あなたと近づきたいのです。…そして、いつかは、誰よりも仲睦まじい夫婦になれたら、と…」
「もう止めろ、クラウディア」
(……っ!!)
ようやく口を開いた夫はそう言って、凍り付くような眼差しで私を見た。その視線はあまりにも鋭く、私の言葉は喉元で止まってしまった。
「俺の自由を奪いたくて仕方がないらしいな、お前。そんなに俺が疑わしいか。友人に女性が多いからと言って、そんなにネチネチと責め立ててくるような陰湿な女だったのか、お前は」
「…………っ!!……そ……」
「子どもの頃のことなんか持ち出してきて、そんな大昔のことなどとっくに忘れたに決まっているだろう。そんな手を使っても無駄だぞ、クラウディア。ますますお前に嫌気が差すだけだ。俺はな、自由でいたいんだよ、自由で。妻がどうの仲睦まじい夫婦がどうのと言うのならば、まずは俺が居心地が良いと思う家をお前が作ったらどうだ?それができないなら、いっそ離婚するか?」
「─────っ!!」
……り…………離婚…………?
あまりのショックに目まいがした。離婚……?そんな、そんな言葉が……簡単に出るなんて……。
「…………ごめん、なさい……」
無意識に私の口から言葉が漏れた。
「……ごめんなさい、ダミアン様……。わ、私はただ……」
ショックで涙が込み上げる。視界が揺らぎ、これ以上言葉を発したら零れてしまいそうだった。追い打ちをかけるようにまたダミアン様の深い溜息が聞こえた。
「……あぁ、もういいから。止めてくれそういう辛気臭いのは。なぁ、クラウディア。俺のことばかり考えず、お前ももっと一人の時間を楽しんだらどうだ?最初に言っただろう。割り切って互いに自由に生きようと。夫婦でゆっくり会話を楽しんでどうのこうの、…そんなのもっと歳をとってからいくらでもできるだろう。妻としての愛を示したいとでも言うのなら、俺の自由を尊重することと俺の仕事をしっかりサポートすることで示してくれ。そうすれば俺の気持ちだってもっと変わるかもしれないさ」
「……っ、」
「そうだろう?」
「…………はい…」
「分かったなら出て行ってくれ。今はお前の顔を見たくない」
「…………。ごめんなさい…」
重い足を必死に動かしてどうにかその場を離れると、私はダミアン様の部屋のドアを閉めて廊下の奥にある自分の部屋へ戻った。
パタン。
「………………ふ……、う……う゛ぅっ……」
そして部屋に入り鍵をかけると、私は声を押し殺して涙を流した。
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