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4.帰ってこない夫
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「えっと……ご、ごめんなさい、メラニー様って……、どなたでしたでしょうか。ダミアン様の、お友達…」
ガタッ。
「っ!」
ダミアン様は急に立ち上がると話はこれで終いだとばかりに食堂を出ようとする。
「あ、あの…」
「友人だよ俺の。いちいち予定をほじくり返すように聞かれるのは好きじゃないんだ。こちらのことは気にせず放っておいてくれるか」
「……っ!……ご、ごめんなさい……」
「そのうちここにも連れてくるから、君も会うことになるよ。じゃあな」
「…………っ、」
結局ダミアン様は食事を始めてから出て行くまで、一度も私の方を見なかった。
(……本当に私に興味がないんだわ……。それに……)
夫婦なのに、日々の予定も聞いてはいけないなんて。
あからさまに私との会話を終わらせたくて食事を切り上げてしまったダミアン様の冷たい態度にまた私の心は深く傷付いたのだった。
(……子どもの頃は、あんなに仲良しだったのに……)
昔のことを思い出すたびに溜息が出てしまう。……だけど今のダミアン様にとって私の態度は厚かまし過ぎるのだろう。
ダミアン様が帰ってこられたら、もう一度ちゃんと謝ろう。ただでさえ無関心な様子なのに、さらに印象を悪くしたくない。
私たちは夫婦になったのだから。この先の人生を共に歩んでいくのだから。
ところがその日から数日間、ダミアン様は屋敷に帰って来なかったのだ。
最初の晩、私は心配で心配で何度も玄関の扉を開けて外の様子を確認した。
「……誰も何も聞いていないわよね…?」
侍女たちに問いかけても、皆チラチラと目を合わせては「聞いておりません」と答える。
「そう……」
夜中になっても帰宅しない夫のことが心配でたまらず、どうしたものかと思案していると、
「あの……奥様。……おそらく大丈夫だと思いますので……。どうぞもうお部屋に上がられてお休みくださいませ」
「……え?」
ウィルコックス伯爵家から私たちの新居に移って来てくれたメイドの一人がおずおずとそう声をかけてきた。
「大丈夫って……、……ど、どうして?だってこんな夜中まで…」
「ダミアン様はご実家にいらっしゃった頃からこのようなことがよくございました。特別お珍しいことではありませんので…」
メイドは私から目を逸らさず、覗き込むようにじっと見つめながらそう言った。何か察して欲しいとでも言わんばかりに。
「……そう?」
…私がこんなに気にかけすぎるのがよくないと言いたいのだろうか。よく分からない。
だけど昔からダミアン様の生活を見てきているメイドがはっきりとこう言っているのだから、きっと本当に大丈夫なのだろう。
(……一体どこで何をなさっているのかしら…)
領地のお仕事が忙しいのだろうか。それともお仕事が終わった後にご友人と会ったり、何か独りでゆっくりと楽しみたい趣味などがあるのだろうか。
(……いえ、駄目だわ。気になるからと言ってこうやっていろいろ詮索しないようにしなきゃ。またダミアン様に鬱陶しがられてしまうわ)
無事に帰ってこられますように。
日記を書いて気を紛らわしながら、私はそう祈り、ベッドに入ったのだった。
数日後にようやく帰宅なさったダミアン様は留守の間のことについて特に触れてくることもなく、かといって気まずそうに何かを隠し通そうとしているような様子もない。ある朝私と顔を合わせるとごく普通に、
「おお、クラウディア」
とだけ言って朝食もとらずに出かけてしまったのだった。
ガタッ。
「っ!」
ダミアン様は急に立ち上がると話はこれで終いだとばかりに食堂を出ようとする。
「あ、あの…」
「友人だよ俺の。いちいち予定をほじくり返すように聞かれるのは好きじゃないんだ。こちらのことは気にせず放っておいてくれるか」
「……っ!……ご、ごめんなさい……」
「そのうちここにも連れてくるから、君も会うことになるよ。じゃあな」
「…………っ、」
結局ダミアン様は食事を始めてから出て行くまで、一度も私の方を見なかった。
(……本当に私に興味がないんだわ……。それに……)
夫婦なのに、日々の予定も聞いてはいけないなんて。
あからさまに私との会話を終わらせたくて食事を切り上げてしまったダミアン様の冷たい態度にまた私の心は深く傷付いたのだった。
(……子どもの頃は、あんなに仲良しだったのに……)
昔のことを思い出すたびに溜息が出てしまう。……だけど今のダミアン様にとって私の態度は厚かまし過ぎるのだろう。
ダミアン様が帰ってこられたら、もう一度ちゃんと謝ろう。ただでさえ無関心な様子なのに、さらに印象を悪くしたくない。
私たちは夫婦になったのだから。この先の人生を共に歩んでいくのだから。
ところがその日から数日間、ダミアン様は屋敷に帰って来なかったのだ。
最初の晩、私は心配で心配で何度も玄関の扉を開けて外の様子を確認した。
「……誰も何も聞いていないわよね…?」
侍女たちに問いかけても、皆チラチラと目を合わせては「聞いておりません」と答える。
「そう……」
夜中になっても帰宅しない夫のことが心配でたまらず、どうしたものかと思案していると、
「あの……奥様。……おそらく大丈夫だと思いますので……。どうぞもうお部屋に上がられてお休みくださいませ」
「……え?」
ウィルコックス伯爵家から私たちの新居に移って来てくれたメイドの一人がおずおずとそう声をかけてきた。
「大丈夫って……、……ど、どうして?だってこんな夜中まで…」
「ダミアン様はご実家にいらっしゃった頃からこのようなことがよくございました。特別お珍しいことではありませんので…」
メイドは私から目を逸らさず、覗き込むようにじっと見つめながらそう言った。何か察して欲しいとでも言わんばかりに。
「……そう?」
…私がこんなに気にかけすぎるのがよくないと言いたいのだろうか。よく分からない。
だけど昔からダミアン様の生活を見てきているメイドがはっきりとこう言っているのだから、きっと本当に大丈夫なのだろう。
(……一体どこで何をなさっているのかしら…)
領地のお仕事が忙しいのだろうか。それともお仕事が終わった後にご友人と会ったり、何か独りでゆっくりと楽しみたい趣味などがあるのだろうか。
(……いえ、駄目だわ。気になるからと言ってこうやっていろいろ詮索しないようにしなきゃ。またダミアン様に鬱陶しがられてしまうわ)
無事に帰ってこられますように。
日記を書いて気を紛らわしながら、私はそう祈り、ベッドに入ったのだった。
数日後にようやく帰宅なさったダミアン様は留守の間のことについて特に触れてくることもなく、かといって気まずそうに何かを隠し通そうとしているような様子もない。ある朝私と顔を合わせるとごく普通に、
「おお、クラウディア」
とだけ言って朝食もとらずに出かけてしまったのだった。
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