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45.ケイン様の救いの手
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「……え?……も、もう来なくていい、とは……どういう、ことでしょうか」
それはロゼルア王国に滞在して、ちょうど二週間が経つ頃。休暇が終わり、学園が始まる前にそろそろ帰国しなくてはと思っていた矢先のことだった。
ライオネル殿下から呼び出された私は、その突然の宣告に頭が真っ白になる。来なくていいって、何……?どういう意味なの?
殿下は眉間に皺を寄せ、不貞腐れたような顔で言った。
「……まぁ、俺としては非常に不本意ではあるのだが……、ケインの提示してきた条件が、あまりにも我が国にとって魅力的でな、渋々お前を諦めてやるといったところだ」
「…………え??」
ケイン様……?
ますます意味が分からない。諦めてやるって何?え?
私……、嫁いでこなくていいの……?
殿下はそれから、事の経緯について教えてくださった。話を聞くうちに私の心臓は、大きく高鳴りはじめる。
(……ケイン様……、そんなすごい薬を作ったというのに、その手柄をロゼルアに渡してしまったというの……?私とレイの結婚を守るために……?)
ウイルスの特効薬を作るなんて、すごいことだ。いくらロゼルアの研究所で作ったとはいえ、せめて開発者としてケイン様の名前で発表してもらえば、一生の誉れであったはずなのに。
(……ケイン様……)
「俺の妻はオールダー公爵家の次女になるだろう。ケインの婚約者の妹だ。あちらもすでに婚約者はいるが、特に未練はないらしい。ロゼルアの第二王子の妃となる方がよほど名誉なことと、本人も乗り気だそうだ。今の婚約者の家には事情を話し、円満に白紙に戻す、と。……そういうわけだから、グレース。お前は婚約者の元に戻るがいい」
「……っ、……殿下……。……あ、ありがとうございます……」
信じられない。嘘みたいだ。
私……レイのところに戻れるの……?戻ってもいいの……?
感激に震え涙ぐむ私の顔を見た殿下は、苦笑する。
「そこまで喜ばれると、俺としてはなかなか切ないがな」
「っ!い、いえっ、これは……、……も、申し訳ございません……」
「よい。分かっている。全てケインから聞いた。恋仲だったらしいな、お前とベイツ公爵家の次男は。むしろ悪いことをした」
「……。」
ん?……恋仲?え、違うけど……。ただ私が心の中で、彼のことを想っていたというだけで。
……もしかして、ケイン様には全て見抜かれていたのかしら。……いや、まさかね。だってあの方とは、そんな頻繁に顔を合わせていたわけでもないし。
(……でも、不思議な方……)
そして、本当に優しい方だ。次にお会いした時には、心からのお礼を言わなくては。
ご自分の栄誉を一つ捨ててまで、私を救ってくださったのだから。
婚約者と幸せになれ、と優しい言葉で私を送り出してくださったライオネル殿下に改めてお礼を述べ、私は再びフィアベリー王国に帰ることとなった。
いそいそと浮き足立って荷物をまとめ、馬車に乗り込む。早く戻りたくて仕方がなかった。
この辛すぎる数週間で、自分がいかにレイのことを深く想っていたのかということを、嫌というほど思い知らされた。
(国に帰ったら、真っ先に会いに行こう。そして今度こそ、私の素直な気持ちをレイに伝えなくちゃ……)
もう同じ後悔は繰り返さない。こんな奇跡みたいなチャンスは、もう二度と巡ってはこない。恥ずかしがったり、遠慮したり、意地を張ったりしている場合じゃないんだわ。
(……きっと、レイはビックリするだろうな。私が好きだなんて言ったら)
重い女だと思われるかしら。でも、もうそれでもいいの。私は結婚まで他の人と恋愛を楽しんだりするつもりはないんだもの。
自由にしていればいいと言われた私の心が選んだ相手は、あなた一人だったのよ、レイ。
そのことを素直に伝えなくては。
それはロゼルア王国に滞在して、ちょうど二週間が経つ頃。休暇が終わり、学園が始まる前にそろそろ帰国しなくてはと思っていた矢先のことだった。
ライオネル殿下から呼び出された私は、その突然の宣告に頭が真っ白になる。来なくていいって、何……?どういう意味なの?
殿下は眉間に皺を寄せ、不貞腐れたような顔で言った。
「……まぁ、俺としては非常に不本意ではあるのだが……、ケインの提示してきた条件が、あまりにも我が国にとって魅力的でな、渋々お前を諦めてやるといったところだ」
「…………え??」
ケイン様……?
ますます意味が分からない。諦めてやるって何?え?
私……、嫁いでこなくていいの……?
殿下はそれから、事の経緯について教えてくださった。話を聞くうちに私の心臓は、大きく高鳴りはじめる。
(……ケイン様……、そんなすごい薬を作ったというのに、その手柄をロゼルアに渡してしまったというの……?私とレイの結婚を守るために……?)
ウイルスの特効薬を作るなんて、すごいことだ。いくらロゼルアの研究所で作ったとはいえ、せめて開発者としてケイン様の名前で発表してもらえば、一生の誉れであったはずなのに。
(……ケイン様……)
「俺の妻はオールダー公爵家の次女になるだろう。ケインの婚約者の妹だ。あちらもすでに婚約者はいるが、特に未練はないらしい。ロゼルアの第二王子の妃となる方がよほど名誉なことと、本人も乗り気だそうだ。今の婚約者の家には事情を話し、円満に白紙に戻す、と。……そういうわけだから、グレース。お前は婚約者の元に戻るがいい」
「……っ、……殿下……。……あ、ありがとうございます……」
信じられない。嘘みたいだ。
私……レイのところに戻れるの……?戻ってもいいの……?
感激に震え涙ぐむ私の顔を見た殿下は、苦笑する。
「そこまで喜ばれると、俺としてはなかなか切ないがな」
「っ!い、いえっ、これは……、……も、申し訳ございません……」
「よい。分かっている。全てケインから聞いた。恋仲だったらしいな、お前とベイツ公爵家の次男は。むしろ悪いことをした」
「……。」
ん?……恋仲?え、違うけど……。ただ私が心の中で、彼のことを想っていたというだけで。
……もしかして、ケイン様には全て見抜かれていたのかしら。……いや、まさかね。だってあの方とは、そんな頻繁に顔を合わせていたわけでもないし。
(……でも、不思議な方……)
そして、本当に優しい方だ。次にお会いした時には、心からのお礼を言わなくては。
ご自分の栄誉を一つ捨ててまで、私を救ってくださったのだから。
婚約者と幸せになれ、と優しい言葉で私を送り出してくださったライオネル殿下に改めてお礼を述べ、私は再びフィアベリー王国に帰ることとなった。
いそいそと浮き足立って荷物をまとめ、馬車に乗り込む。早く戻りたくて仕方がなかった。
この辛すぎる数週間で、自分がいかにレイのことを深く想っていたのかということを、嫌というほど思い知らされた。
(国に帰ったら、真っ先に会いに行こう。そして今度こそ、私の素直な気持ちをレイに伝えなくちゃ……)
もう同じ後悔は繰り返さない。こんな奇跡みたいなチャンスは、もう二度と巡ってはこない。恥ずかしがったり、遠慮したり、意地を張ったりしている場合じゃないんだわ。
(……きっと、レイはビックリするだろうな。私が好きだなんて言ったら)
重い女だと思われるかしら。でも、もうそれでもいいの。私は結婚まで他の人と恋愛を楽しんだりするつもりはないんだもの。
自由にしていればいいと言われた私の心が選んだ相手は、あなた一人だったのよ、レイ。
そのことを素直に伝えなくては。
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