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24.困り果てる(※sideレイモンド)
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(……中途半端が一番良くないんだ、こういう時は。言うなら言うで堂々と。隠すなら隠すで完璧に。半端に罪悪感を醸し出すような言い方をするから、ややこしいことになるんだ……。そういうことも、全部しっかりと学んできたはずなのに……)
ついさっき、振り向きざまに俺の心に永久に残る可愛い笑顔を見せてくれたはずのグレースは、今はもう俺の存在を全否定するかのように一人でズンズンと進んでいく。
姿勢の美しいグレースの華奢な背中に、見えない鋼鉄の壁の存在を感じる。何度名を呼んでも少しも歩調を緩めず俺から離れていこうとするグレースの拒絶に、心が折れそうだ。
(困った……。やってしまった。俺は間違ったんだ)
どう答えるのが正解だったんだろう。何が一番問題かって、何故グレースがこんなに機嫌を損ねてしまったのかを俺が分かっていないことが一番の問題なんだ。謝りようがない。ここで中途半端にごまかしたような謝罪をすれば、女はますます心を閉ざす。
(このタイミングでこんなことになるのは、普通は嫉妬心からだ。だけどグレースが惚れているのはオリバー殿下だ……。俺じゃない。だからその線は、絶対にない)
……俺の素行が良くないからと、愛想をつかされたのだろうか……。
泣きたい気分だった。せっかくこうして、愛する女と初めてのデートにこぎつけたというのに。
今どう声をかけるのが一番マシな対応になるのか、正解が分からないまま必死に頭を回転させながら、グレースの背中を追いかける。が、人並みに揉まれたりぶつかったりしているうちに、小柄で意外にもすばしっこいグレースがどんどん先に進んでいく。時折人の波に姿が隠れるようになった時、俺の焦りはピークに達した。
もしこのまま見失ってしまったら──────
「……っ、……グレース!!」
俺は人波を強引にかき分けて追いつき、彼女の手を強く握った。
そこでようやくグレースは、ハッと気が付いたように俺の顔を見上げた。視線が合って少し安心する。
「……どうしたんだ……!そんなに急いで行くことないだろう。この人混みだぞ。はぐれたらどうするんだ。……もしもはぐれた隙に、誰かがお前に悪さしたら……」
そこから先は言葉にならず、俺はもう片方の手で彼女の腰を強く引き寄せた。グレースの動揺が伝わってくる。
俺は懇願するような思いで言った。
「……ずっとこうして俺の手を握っていろ。ここにいる間は。……分かったな」
「……わ、……分かったわ。……ちょっと、考え事してたの。ごめんなさい…」
「……。もう一人で行くな」
何するのよ!とか怒られるかと思ったが、意外にもグレースは突然大人しくなった。俺の言葉に素直に頷いて顔を背ける。その耳が少し赤い。
まるで叱られた子どものように急に物静かになったグレースの手を引き、俺はゆっくりと歩きながら、安堵しつつも首を捻った。
(……??……何故急にこんなに大人しくなったんだ……?)
音楽を聴くともなしに聴きながらマーケットを散策していると、やたらとカップルたちで人だかりの出来ている店があった。グレースはその店を覗き込むと、途端に瞳をキラキラと輝かせる。そこでは男性用のピンブローチと女性用のネックレスを、同じデザインの宝石でペアにして販売していた。
「……。」
あえて黙って観察していると、グレースの視線がある一つの商品に止まっていることが分かった。……サファイアの小ぶりなものだ。今日のグレースの装いにはピッタリだろう。
「欲しいのか?」
俺は思わずそう口にしていた。買ってやりたくなったからだ。こういう時の定番の、「今日の幸せな初デートの記念に……」とかいう甘い言葉と共に。
「い、いいえ、別に。珍しいから、つい」
「そうか」
……あっさり断られてしまった。
そこからまた俺の葛藤が始まる。
(これくらいの小ぶりなものなら、別に遠慮するほどのものではないだろう。本気でいらないのか?……まさか、俺とペアで着けるのが、嫌だからか……?だが、一応婚約者だぞ。た、たまにはいいだろ?親しくしてこなかったから、今まで一度たりとも贈り物なんてしたことがないのに……)
……もしかしてグレースは、オリバー殿下とペアで着けて微笑み合っている妄想でもしていたのだろうか。
他の男からのものならいらないと。
「…………。」
だけど、こっちだって後悔はしたくない。
やっぱり贈っておけばよかった、少しは自分の気持ちを素直に伝えていればよかったと、後からウダウダ思い悩むのはごめんだ。
しばらくその辺を歩いてから、俺は飲み物を買ってくるからとグレースをベンチに座らせ、急いでさっきの店に戻った。
そして目的のものを購入すると、ポケットの中にひそかに忍ばせたのだった。
ついさっき、振り向きざまに俺の心に永久に残る可愛い笑顔を見せてくれたはずのグレースは、今はもう俺の存在を全否定するかのように一人でズンズンと進んでいく。
姿勢の美しいグレースの華奢な背中に、見えない鋼鉄の壁の存在を感じる。何度名を呼んでも少しも歩調を緩めず俺から離れていこうとするグレースの拒絶に、心が折れそうだ。
(困った……。やってしまった。俺は間違ったんだ)
どう答えるのが正解だったんだろう。何が一番問題かって、何故グレースがこんなに機嫌を損ねてしまったのかを俺が分かっていないことが一番の問題なんだ。謝りようがない。ここで中途半端にごまかしたような謝罪をすれば、女はますます心を閉ざす。
(このタイミングでこんなことになるのは、普通は嫉妬心からだ。だけどグレースが惚れているのはオリバー殿下だ……。俺じゃない。だからその線は、絶対にない)
……俺の素行が良くないからと、愛想をつかされたのだろうか……。
泣きたい気分だった。せっかくこうして、愛する女と初めてのデートにこぎつけたというのに。
今どう声をかけるのが一番マシな対応になるのか、正解が分からないまま必死に頭を回転させながら、グレースの背中を追いかける。が、人並みに揉まれたりぶつかったりしているうちに、小柄で意外にもすばしっこいグレースがどんどん先に進んでいく。時折人の波に姿が隠れるようになった時、俺の焦りはピークに達した。
もしこのまま見失ってしまったら──────
「……っ、……グレース!!」
俺は人波を強引にかき分けて追いつき、彼女の手を強く握った。
そこでようやくグレースは、ハッと気が付いたように俺の顔を見上げた。視線が合って少し安心する。
「……どうしたんだ……!そんなに急いで行くことないだろう。この人混みだぞ。はぐれたらどうするんだ。……もしもはぐれた隙に、誰かがお前に悪さしたら……」
そこから先は言葉にならず、俺はもう片方の手で彼女の腰を強く引き寄せた。グレースの動揺が伝わってくる。
俺は懇願するような思いで言った。
「……ずっとこうして俺の手を握っていろ。ここにいる間は。……分かったな」
「……わ、……分かったわ。……ちょっと、考え事してたの。ごめんなさい…」
「……。もう一人で行くな」
何するのよ!とか怒られるかと思ったが、意外にもグレースは突然大人しくなった。俺の言葉に素直に頷いて顔を背ける。その耳が少し赤い。
まるで叱られた子どものように急に物静かになったグレースの手を引き、俺はゆっくりと歩きながら、安堵しつつも首を捻った。
(……??……何故急にこんなに大人しくなったんだ……?)
音楽を聴くともなしに聴きながらマーケットを散策していると、やたらとカップルたちで人だかりの出来ている店があった。グレースはその店を覗き込むと、途端に瞳をキラキラと輝かせる。そこでは男性用のピンブローチと女性用のネックレスを、同じデザインの宝石でペアにして販売していた。
「……。」
あえて黙って観察していると、グレースの視線がある一つの商品に止まっていることが分かった。……サファイアの小ぶりなものだ。今日のグレースの装いにはピッタリだろう。
「欲しいのか?」
俺は思わずそう口にしていた。買ってやりたくなったからだ。こういう時の定番の、「今日の幸せな初デートの記念に……」とかいう甘い言葉と共に。
「い、いいえ、別に。珍しいから、つい」
「そうか」
……あっさり断られてしまった。
そこからまた俺の葛藤が始まる。
(これくらいの小ぶりなものなら、別に遠慮するほどのものではないだろう。本気でいらないのか?……まさか、俺とペアで着けるのが、嫌だからか……?だが、一応婚約者だぞ。た、たまにはいいだろ?親しくしてこなかったから、今まで一度たりとも贈り物なんてしたことがないのに……)
……もしかしてグレースは、オリバー殿下とペアで着けて微笑み合っている妄想でもしていたのだろうか。
他の男からのものならいらないと。
「…………。」
だけど、こっちだって後悔はしたくない。
やっぱり贈っておけばよかった、少しは自分の気持ちを素直に伝えていればよかったと、後からウダウダ思い悩むのはごめんだ。
しばらくその辺を歩いてから、俺は飲み物を買ってくるからとグレースをベンチに座らせ、急いでさっきの店に戻った。
そして目的のものを購入すると、ポケットの中にひそかに忍ばせたのだった。
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